廃人ハンターのテイワット生活 作:バルファルクの襲撃に怯えるゴリラ
【今、なん、と、言った……!?】
「ありゃ、兄ちゃん知らねぇのか。岩王帝君がお隠れなさったんだよ」
帰離原の街道沿いの屋台で、チ虎魚焼きを食べていた”狩人”がそんな店主の言葉に驚く。
「確か今日が送仙儀式の日だったはずだぜ。俺は家内に俺の分まで頼んだが……やっぱり行きたかったもんだぜ」
【そうか、今日、か……なる、ほど……教えて、くれ、感謝、する】
残っていたチ虎魚焼き3本を一口に食した”狩人”は古ぼけたモラを店主に渡して屋台の席を立つ。
「毎度あり! にしても兄ちゃん、その鎧……冒険者か?」
【ああ、似た、ような、もの、だ】
「そうかい。なら、あんたの冒険に岩王帝君のご加護を祈っとくよ」
店主の言葉を背で受けて、軽く手を振って答えた”狩人”は少しばかり体を伸ばし――空へと駆け上がる。
翔蟲の糸で空を飛んだかと思えば壁を走り、金属のクローを射出して壁から壁へと飛び移る。いつの間にやら手にしていた操虫棍を振り回してさらに空を跳ぶ。
『帝君が……マジかよ』
そんな事をボヤきながら、”狩人”は璃月港へと向かうのだった。
「それで、
倚岩殿で行われている送仙儀式を遠目に見ながら、鍾離と名乗る
「神の心とか、色々と聞きたいことはあるけど……”狩人”について、まずは聞こうかな」
「ふむ、”狩人”についてか……良いだろう」
どこか嬉しそうに自称凡人な元神は語り出――
「とはいえ、何から話せばいいものか……」
「うぇええ!?」
――語り出せなかった。
「いや、語ることは沢山ある。沢山ありすぎるんだ……正直、私には何から話せばいいか解らない……」
「そ、そっちの方向で悩むことがあるのか……」
「じゃあ私が聞いたことに答えてくれる?」
「うん、そちらの方が私も語りやすい」
「それじゃあ、まずは”狩人”が誰かを教えて」
蛍の質問に鍾離が答える。
「”狩人”は魔神戦争時代に璃月で活動していた人間であり、降臨者だ」
「降臨者って言うのは何?」
「お前やお前の兄弟のように別の世界から来た存在を降臨者と言う。最も、”狩人は”お前と違いただの人間だったがな」
私やお兄ちゃんと同じ降臨者。それならもしかして”狩人”がお兄ちゃんについて何か知っているかもしれないと蛍は思う。
「”狩人”は私の部下だった……命令を聞いたことはないがな」
「命令を聞かないって……それ、部下って言えるのか……?」
「本人の自称だったからな……だが、私もそう思って居た」
どこか懐かしむような喋り口の鍾離は、笑顔で続け――ることなく、一瞬驚いたような表情になったかと思えば何やら深く考え込み始める。
「……今の今まで気にも留めなかったが、どうしてただの人間だというのに”狩人”は私達と1000年近く共に在れた……?」
「それ、本当に人間なの?」
「ああ。”狩人”がただの人間だというのは七神とその眷属ほぼ全員があらゆる手段をもって検証した事実だ……だがよく考えてみれば、1000年近く生きる人間がただの人間と言えるのか……?」
あまりにも至極当然な疑問。冷静に考えてただの人間は1000年近い時間生きない。
「1000年も生きたのか!? ご長寿なんだな……」
「パイモン、ただの人間にとってのご長寿は多くても100歳とかだよ」
若干混乱してきた3人。とりあえず一旦1000年生きた事は置いておいて話を続けることにしたようだ。
「それで、”狩人”はどうして魔神を倒すことが出来たの?」
「単純に強いからだな。”狩人”の強さは魔神に匹敵する」
「魔神に匹敵する強さだって!?」
「ああ。実際に、”狩人”は数多の魔神とその眷属を討伐――”狩人”らしく言うのなら狩猟している」
金の魔神に毒の魔神。獣の魔神に竜の魔神……指折り数えながら鍾離は”狩人”が狩猟した魔神の名前を挙げて行く。
さらに続けていくつかの魔神の名前を挙げ終えた鍾離は話を続ける。
「この辺りは”狩人”が単独で狩猟した魔神だ。誰かと協力して狩猟した魔神まで広げると……恐らく私ですら全ては把握できていない」
「……もしかして、昔の人間って魔神をそんなにポンポンと倒せたの?」
「そんな事は無い」
即座に否定した鍾離の様子を見て、なるほど、つまり”狩人”が異常なだけかと蛍は納得する。
とりあえず、”狩人”がどういう存在かは解った。ならば次の質問をしようと蛍は口を開く。
「なら次は――」
「うわぁ!? ”狩人”!?!?」
男の叫び声が玉京台に響き渡り、続いてザワザワと喧騒が広がる。
「どうやら一旦中断した方が良さそうだ」
「そうみたいだね、行ってみようパイモン」
「おう!」
話を一旦切り上げた3人は急いで喧騒の中心へと向かう。迎仙儀式の時とは違い、スッと真ん中まで入り込めた蛍は、その中心で跪いている”狩人”を見つけた。
「あれが、”狩人”……」
群玉閣で見た時とは服装が違った。モンドで見るような鎧に少しばかり装飾を足したような装いのその男は、その圧倒的存在感から顔が見えていないというのに自身が”狩人”だと見た者に直感させる。
周囲の千岩軍は軽く限界化している。一般人はと言えば本当にあの伝説の”狩人”なのかと自身の直感を疑う者や、涙を流す者、限界化してぶっ倒れた者まで多種多様だ。
【嗚呼】
そんな喧騒のド中心な”狩人”は我関せずと言った具合で喋り始める。
【真に、お隠れ、なさった、の、か……帝君、よ……!】
なるほど、確かに”狩人”は鍾離――岩王帝君の部下であったのだろうと思った。跪くその姿には深い忠誠と敬愛が見て取れる。
【弔い、に、舞う、雰囲気、でも無い……故に、弔いの、品、を――】
”狩人”の視線が一点に注がれる。蛍がその視線を追ってみれば、鍾離に突き当たった。
もしかしなくても気付いたのかと蛍が思った時には、目にも止まらない速度で”狩人”は鍾離の前に着地していた。遠くから見た者曰く、この時”狩人”は飛び上がったかと思えば空中で加速し、鍾離の目の前に着地したらしい。
【貴様、胡殿、の弔い人、で、相違、ないな?】
「ああ、私は往生堂で客卿を務めている」
【そうか、では、これ、を、帝君、の弔い、の、品に】
そう言って”狩人”は鍾離に背中に背負っていた操虫棍を渡す。
【任せ、た、ぞ……■■■、よ】
そして、なにやら鍾離に耳打ちしたかと思えばそのまま玉京台の端の方へと走り出す。
我に返った璃月七星と千岩軍。中心まで来たのは良かったが中心から出るのに苦労した蛍達が”狩人”を引き留めようとした時にはすでに手遅れ。翔蟲とクローを駆使しながら”狩人”はどこかへと消えて行った。
「ハハハ! やはり”狩人”は変わらない」
無茶苦茶をして去って行った”
「それにしても……そうか、私にああも中途半端に気付くとはな」
手渡された棍を眺めながら鍾離は笑う。くるりと回してみればなるほどよく手に馴染む。少しばかり日に当てて見れば、なるほどあの時の素材を使ったのかと鍾離はさらに笑う。
「や、やっと抜け出せたぞ……」
「パイモンは上から抜け出してたでしょ……って鍾離先生、どうして笑ってるの?」
ひーこら言いながら群衆から抜け出した蛍とパイモンは、心底楽しそうに笑う鍾離に気付いた2人は普段の鍾離からは想像もできないその姿は2人には奇妙に見えたのだろう。
「そういえば、”狩人”が鍾離先生に何か言ってなかった?」
「む、ああ。そうだな……【任せたぞ、ご息女よ】と言われた。まさかそう解釈するとはな……ハハッ!」
心底愉快そうに笑う鍾離を見て、パイモンと蛍は首を傾げた。
私は、あの日見た真っ直ぐな矢を忘れる事は無いだろう。
4つの山と3つの谷を越え、魔神の頭を正確に撃ち抜いたあの矢は、確かに私の目の前で番えられた。
「何をしているんですか?」
まだ仙人としても人としても子供だったあの頃。なにか作業をしている”狩人”の近くを通りがかった。子供が故の好奇心であんなことを訪ねたのだったか。
「ああ、甘雨ちゃんか」
顔は見えないけれど、きっと満面の笑みで言ったのだろうと分かる優しい声だった。
「これは弓の手入れを……どうせだし、試し打ちを見るか?」
「はい! 見たいです!!」
「よォし来た!」
パッと弓の手入れを終わらせた”狩人”は、私の手を引いて外へと連れ出た。
季節は冬、少し肌寒かったけれど空気が澄んでいて星が降って来そうな夜だった。
「んじゃ、見とけよ見とけよ」
私の手を離した”狩人”は巨大な弓を構え、巨大な矢を弓へと番える。今思い返しても何らかの型というものに合った構えでは無かったけど、美しい構えだったのを覚えている。
弓を引き絞り、数秒間の静止の後に矢が放たれる。
「わぁああーー!!」
星空の中心を真っ直ぐに飛んでいく矢をみて、歓声を上げたのを覚えている。間違いなく、あの瞬間私は弓を使おうと決めたのだ。
その数日後に、山4つ先の魔神が突如死亡し、その余波で国が滅びたことを私は知った。
「あの時も、後始末が大変そうでしたね……」
思考を今に戻す。静かに現れ、騒がしく去って行った”狩人”によって生み出されたこの騒ぎ。
「ああ、仕事が増えちゃいました……」
”狩人”:バカ。忠誠心も敬愛もある。でもバカ。
鍾離:女。この世界線の持ち武器は今回”狩人”から受け取った操虫棍。なお武器種はしっかり槍。
蛍&パイモン:”狩人”ってなんなんだ……(混乱)。
甘雨:現実逃避に過去の事を思い出したら過去の”狩人”のやらかしを思い出して逃避出来なかった。
千岩軍:「俺”狩人”様と目が合っちゃった……」「良いなお前……良いなァお前!!」