廃人ハンターのテイワット生活 作:バルファルクの襲撃に怯えるゴリラ
手の中のガラス金属細工を転がす。暗い夜空に浮かぶ星を僅かに反射し光ったかと思えば、一際輝く月を映して強く輝く。
『なんなんだろーな、これ』
不思議なもんで、これを拾ってから妙に変な気分だ。悪い気分では無いんだが……それにしたって違和感は拭えない。粉塵キメた後とか狂竜症を克服した後とかと似たような高揚感?
行動を強制されてはいるが悪い気分じゃない。半ば行動を強制されてはいるけどまぁ、良いだろうって感じの気分。いやぁ、これに関してはマジで俺の言語化が下手。
『っと、良い感じの時間だな』
月が天頂を過ぎた。今日は満月、つまり今は深夜0時付近。ガキ1人を攫うには良い時間帯だろう。
情報収集は済んでる。マハールッカデヴァータ様が瞑想する時に使ってたスラサタンナ聖処にあのガキが捕まっているのはいくつかの資料で確認した。あれは確かど真ん中に引き篭もりバリアが張られる構造だったはずだから……
『ここがちょうどいいか』
てなわけでスラサタンナ聖処のど真ん中から少し外れた屋根の上に、これでもかと大樽爆弾を置く。通常とGを合わせてとりあえず4個置く。前はGを1個でぶっ壊れたって書いてたから対策されてると考えてもこんだけ置いてれば壊れるだろう。
『……ヨシ!』
最後の確認をして小樽爆弾を置く。そして全力で距離を取る。
昼になったのかと錯覚するほどの爆発。続いて爆音と衝撃。夜遅くまで酒を飲んでいた者、トイレに起きた者、論文とにらめっこをしていた者、爆音で跳び起きた者……彼らは一様に炎を噴き上げるスラサタンナ聖処を見上げただろう。
「スラサタンナ聖処で爆発です!!」
「全員叩き起こせ!」
「大賢者様に許可を貰わないんですか!?」
「それでは手遅れになる! 1人許可を取りに行け! だが行動はする!! 責任は私が取る!」
教令院の兵士達はすぐに対応を開始する。一国の正規軍である彼らの対応は素早い。あっという間に数を揃え、スラサタンナ聖処の唯一の出入り口の付近を包囲する。
『クソッタレ、思ったよりも早いな』
実に的確な対応である。”狩人”でさえ想定外だと頭を抱えたい気分になっている。しかし今頭を抱えては抱える頭すら無くなる可能性があると手を止める事は無い。
相対するはテイワット随一の知恵を持つ神が作りし障壁。”狩人”が握るは悉くを滅ぼす龍から作りし
人間の頭蓋を、その脳髄に傷を付けず粉砕するかのごとき神業が求められる訳だ。
『ったく、スヤスヤと気持ちよさそうに寝てやがる』
障壁の内部で胎児の様に浮かぶ少女を見て”狩人”はボヤく。下手をすればこのままお陀仏だというのにそれに気付いているのかいないのか……と言いたいようだ。
『ま、変に動かれるよりはマシだな』
太刀の鞘を持ち、腰に置く。腰を深く落として鞘を持つ手とは逆の手で柄を握り込む。
『……シッ!!』
一閃。数瞬の後に真ん中から解ける様に障壁のみが消えてゆく。
すると中から少女が零れる様に落ちて来る。太刀を宙に消しながら駆けだした”狩人”が、ギリギリところで少女をキャッチする。
『ラピュタじゃねぇんだぞ……』
自分と少女の様子にかつての人生で見た名作を重ねながらも少女の脈と呼吸を確認し、生存していることを確信した”狩人”は消した太刀の代わりに少女を背負ってベルトで固定する。
「んぅ……」
『おねむかよクソガキが……まぁ、良いさ』
既にこの施設の外には兵士が待機している。万能とすら思える装衣ですらも少女まで隠すことは難しい。どう足掻いたって脱出の瞬間にバレるだろう。
だがそれは”狩人”とて想定している。だから彼は調合してさらに追加の大樽爆弾を設置しなかったのだ。
『よっこらせと』
その場で調合して作った大樽爆弾を正面出入口の目の前に置く。そうしたら右手にモドリ玉を握り込みながら小樽爆弾を設置し、クローと翔蟲を利用して先程爆破して開けた巨大な穴を目がけて跳ぶ。
「きゃんっ!?」
爆音と衝撃が”狩人”の背中を叩いた。それを合図にモドリ玉を投げつつ穴から飛び出た”狩人”は、どこからか飛んできた翼竜の足にクローを引っ掛けて空へと舞い上がる。
『これでバレてないと良いが……』
”狩人”はセルフ陽動作戦の効果を心配しつつも翼竜を操りスメールシティからほど近い場所へと着地する。あまり飛んでは目立つからというのもあるが、それ以上に――
【起きて、いる、だろう?】
「あら、バレてたのね」
【先の、爆発の、ときに、悲鳴を、あげた、だろう?】
背中でニコニコと笑っているのであろう少女の声に、今度こそ”狩人”は頭を抱えた。
【という、訳だ】
「なにやってるんですか!?!?!?!?」
甘雨は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の”狩人”を除かなければならぬと決意した。甘雨には”狩人”の考えがわからぬ。甘雨は、璃月の役人である。弓を引き、書類を処理して暮らした。けれども”狩人”のやらかしに対しては、人一倍に敏感であった。
「えぇ!? ということは、つまり……」
「そうよ、私が草神ブエル。ナヒーダと呼んで頂戴」
「本当になにやってるんですか!?!?!?!?」
朝一番に拉致されたと思ったらこれである。甘雨は泣きたくなった。岩王帝君の送仙儀式が終わり、あれやこれやとまだまだやる事がある現状でまた仕事が増えかねない大問題が発覚。
ブラックもブラックである。
【いや、な。面白そう、だった、もので、な】
「面白そうで他国のトップを誘拐して来ないでください!!」
「誘拐じゃないわよ? 私が依頼したんだもの」
「えっ!? そうなんですか……?」
【ほら、な、俺は、悪くない。正当な、契約、だろう? 報酬も、発生、する】
「それは……うぅ~~~~!!」
悪びれもせずにそんな事を言う”狩人”。一瞬、甘雨の拳が握られたのは仕方がの無い事だろう。正直殴りたくなっても仕方がない。
「だとしても……だとしてもどうして私を巻き込んだんですか!?」
心からの叫びである。ただでさえ渦の魔神の後始末や仕事が増えているのである。社畜半仙である甘雨でさえ流石にこの巻き込み事故には文句も言いたくなるだろう。そんな甘雨の心労に気付いてか気付かずか、平然とした様子で”狩人”が口を開く。
【お前、が、信用出来る、からだ、な】
「うぐ……うぐぐぐぐぐ……!!」
昔からそうだ。私はこの人の誉め言葉に弱い。甘雨は緩む頬肉を抑えて蹲る。
【それ、で、相談、なんだ、が】
「……なんですか」
【我、は、これから、どうすれば、良いの、だろう】
「知らないです!!」
甘雨は激怒した(略)。
”狩人”:誘拐したは良いけどどうすっかなこれ。
ナヒーダ:ずっとニコニコ。待ち焦がれていた想い人が来た少女のようにニコニコである。
甘雨:泣きそう。キレそう。どうしよう。
教令院:ヤッベェぞおい。
アザール:これどないすっべ(震え声)。
博士:これどないすっべ。