廃人ハンターのテイワット生活 作:バルファルクの襲撃に怯えるゴリラ
【弥怒、攫って、来た、草神、の服を、依頼、したい】
「今なんと?」
【あと、我の、も、頼む】
「ん~~~~~~????」
「ふふっ! 凄いわ凄いわ! 見たことが無い物が沢山!」
【あまり、はしゃぐ、な、よ】
「はぁ……」
璃月港を歩く青黒緑の3人組。順に甘雨、”狩人”、ナヒーダである。作者的にはこの色の組み合わせに凄く苦い思い出があるが、別に墓地から8コストが飛び出してくる訳ではないので安心している。
【甘雨、よ。付き、合わせ、て、悪い、な】
「あぁいえ、どうせすることもない休日でしたし大丈夫です……ただこう、胃袋が……」
当の本神は全く気にしていなさそうだが一応これ、スメールのトップを璃月の役人がもてなしている構図なのである。岩王帝君を相手にしていた時とは別種の緊張が甘雨の胃袋をぶち破ろうと襲って来ている訳である。
今朝から何一つとして良い事が無い。かわいそうな甘雨。
「ねぇ、あれは何かしら」
【あれは、米まんじゅう、の、屋台、だな】
「食べてみたいわ」
【買って、やろ、う。店主】
「はいはい、300モラね」
店主から米まんじゅうを受け取り、早速頬張るナヒーダとそれを見て笑顔を浮かべながら懐を探る”狩人”。まるで親子のようだと甘雨は思った。
【……おっと、モラが、無い。すまないが、店主、この、金塊で――】
「ちょ、私が払います!!」
「毎度!」
【む、俺が、払うと――】
「ちょっとこっちに来てください!!」
屋台から無理矢理”狩人”を引き剥がした甘雨はそのままコソコソと耳打ちする。
「金の魔神の金は使わないという契約だったではないですか!!」
【……? ああ、帝君と、の、契約、だな】
「だったらなんで――」
【だが、帝君は、死んだ、だろう? もう、居ない……違う、か?】
言葉を失う。この慣用句が当てはまる情景というのはいつぶりであったか。この男がこの理論で今後も動くのならば、下手をしなくてもテイワットは滅びるのではないかと甘雨は思った。
パッと思い出せるだけでも帝君に言われて使うのをやめた道具や戦法が”狩人”にはごまんとある。
「だ、だとしてもです……! 少なくともその金は金の相場が崩れる可能性があるのでやめてください!」
【むぅ……了解、した】
物分かりが良いのか悪いのか、大人しく”狩人”が引き下がる。深い溜息を吐く甘雨の前に米まんじゅうが差し出される。
「食べるかしら?」
「うぅ……頂きます……あっ、美味しい……」
「はい、貴方も」
【感謝する】
3人そろって米まんじゅうを食べる。傍から見れば親子のような絵面だが、全員種族が違うのである。
【それにしても、弥怒には、感謝、だ、な。まさか、5分と、かからずに、服を、用意してくれる、とは】
「貴方のはともかく、草――ナヒーダさんのは納得いってなかったようでしたけどね」
【アイツ、の、こだわり、は、強いから、な。良い、職人だ】
数千年振りの再会でとんでもない問題を引っ提げて現れた”狩人”相手に超絶複雑な感情になりながらも、結局笑顔で「おかえり」と声をかけた弥怒のあの顔を思い出した甘雨はその複雑な感情に共感した。
その直後に無茶な頼みをされてそれに答えたのだから弥怒はやはり良い職人だと”狩人”は再確認した。これからも無茶な依頼しようとも考えているのでコイツはやはりロクでもない。
「今度はあれも気になるわ!」
【落ち着きが、ないな】
目を輝かせながらトテトテと歩くナヒーダは、見た目相応の年齢のように見える。実際”狩人”と甘雨にとって、ナヒーダは稚児にも等しい年齢に感じられるので実年齢に目をつむれば実に正しい光景だ。
「これは……」
「チ虎魚焼きです。食べたいですか?」
「えぇ、
璃月の海に近い立地が故の
まぁ、モラが無いから”狩人”は買えないのだが。アホほど余ってる純金を使えないとなるとどこかしらで働き口を見つけるべきか、というかそもそもこのガキからの報酬は何なんだと”狩人”は考えつつ、笑顔でチ虎魚焼きを食べるナヒーダを見て笑う。
【そういえ、ば、甘雨、は、食べぬのか?】
「えぇ、まぁ……」
【珍し、い。お前、は、食べるの、が、好き、だと、思っていた、が】
「い、色々あるんです!」
体重とか体重とか体重とか……あと体重とか。”狩人”にはデリカシーが無くて困る。まぁ、少しは懐かしい気分になったけれど……と、甘雨がそんな事を考えた時だった。
「あれ、甘雨じゃないか! おーい!!」
「……ああ、旅人さん達――」
瞬間、甘雨は直感する。旅人に”狩人”の存在がバレるのはマズい気がすると。何故かは解らない、何故かは解らないがマズい気がするのだと。
一応今の”狩人”は璃月の伝統衣装を着ている。あの異様な圧とインパクトがある鎧姿しか見たことが無いであろう旅人であれば、この童顔で優男な雰囲気の”狩人”を見ても気付かないはずだ。それでも”狩人”の事だから何かやらかす可能性がある。
「どうしたんだ甘雨? 急に動きがピタッ! と止まったけど」
「い、いえ。なんでもありません……こんにちは、旅人さん、パイモンさん」
とりあえずいつも通り普段通りを意識して挨拶をする。不審な動きをすれば何かしらでバレるかもしれないから。これでも3000年は生きた半仙、ちょっとした腹芸くらいなんのそのだ。
どうせダメだろうが甘雨はチラリと”狩人”の方に視線を送る。
【んんっ……!!】
そんな甘雨の表情を見た”狩人”が何やら咳払いする。そしてニコリとした表情を作り、口を開く。
「おや、甘雨さんのご知り合いですか」
ナヒーダと甘雨が凄まじい勢いで”狩人”の方を見る。なにせ普段は威厳や威圧たっぷりの低音ボイスかつ古臭い口調だというのに、今の声は何ともさわやかな声だった。ニッコリと笑う今の表情とはピッタリ合うが、”狩人”にはあまりにも合わない声である。
「おっと、自己紹介がまだでしたね。私はスメールの教令院で生論派の賢者を務めているナフィスと申します」
「はじめまして」
「は、はじめましてだぞ」
表情一つ変えずに口からでまかせを吐き続ける。
「今は甘雨さんに璃月の案内をしてもらっているところでしてね。なにか彼女に御用でしょうか? だとすればご迷惑にならぬよう我々は宿に戻りますが……」
「いや、そういう訳じゃないぞ! 甘雨を見かけたから声をかけただけなんだ!」
パイモンの後ろからやっほと蛍が手を振る。
「そうでしたか、良い関係のご友人をお持ちなのですね甘雨さん」
「……あ、はい! 旅人さんとパイモンさんは良い友人です」
あまりにも平然と”狩人”は噓を吐き続ける。もしかしたら本人すらも嘘だと思って居ないのかもしれない。
「ナフィスさん、ちょっと良い?」
「はい。ええっと……旅人さん、ですね。はじめまして、なんでしょうか?」
「”狩人”って、知ってる?」
再びナヒーダと甘雨が”狩人”の方を見る。”狩人”はなんとも胡散臭い笑顔を少しばかり歓喜に歪めて声高らかに嘘を吐き出す。
「もちろんです! 我々生論派にとって”狩人”とマハールッカデヴァータ様の遺した未知の生物のついての記述は魂に刻む物!」
「……そっか、ごめんね変なこと聞いて」
「いえいえ、お気になさらず」
「甘雨もごめんね、お邪魔しちゃって」
「い、いえ! お気になさらず」
それじゃあねと蛍はパイモンを連れ、去っていく。蛍とパイモンを見送った後に無事に危機()を乗り越えた甘雨はほっと息を吐きだす。
【その様子、だと、合っていたようだな。我の対応、は】
「そうみたいね……それにしても、貴方はいつの間にナフィスの事を知ったのかしら?」
【なぁ、に、ちょっと(教令院に潜入していた時)な】
ちょっと何故か警備員も部屋の主も居ない偉い奴が使ってそうな部屋があったから、その中の様々な情報を盗んだだけである。得られた情報を最大限使うのがハンターとして当然の嗜みとは”狩人”の言葉である。
「口調も全然違って……さっきの方が不自然さは無いですよ?」
【あの口調、は、気に食わ、ん】
「私はそっちの口調も良いと思うのだけれど……」
「まぁ、声は断然こっちね」
「間違いないです」
自分の地声が何故かちょっと不評なのに傷付いたのか、しょんぼりとした顔になった”狩人”の口に、小さな手によって食べかけのチ虎魚焼きが放り込まれた。
”狩人”:獲物の声真似が得意。ギルドナイトに追われた経験から変装や演技も得意。顔を隠しているのは若干童顔で声とのギャップがあるから。
ナヒーダ:ずっとニコニコしてる。教令院に”狩人”が何をやらかしたのか若干心配になって来た。スラサタンナ聖処を爆破されてる時点で心配に思って欲しい。
甘雨:振り回されてるけど悪い気はしていない。なんとなく旅人と”狩人”を引き合わせたらまずい気がした。
旅人:”狩人”に色々聞いてみようと思ってる。今の段階で聞いた場合”狩人”が十中八九失言して惨事が起きる。
パイモン:かわいさいっパイモン。