廃人ハンターのテイワット生活 作:バルファルクの襲撃に怯えるゴリラ
「これ、面白いわね」
誰かがゲーム機を握りながら笑う。懐かしい、3DSだ。やっているゲームはXX、ちょっと懐かしいが過ぎるな?
「……え? これ、2人で遊べるの? ええ、なら貴方とやりたいわ!」
ニッコリ笑顔の少女。俺の手にはswitchが握られている。
「……? いいえ、大丈夫よ。私の体は小さいから、小さい方を使うのは道理でしょう?」
少女にゲーム機の交換を断られる。
「やっぱり優しいのね……ほら、一緒にやりましょう?」
一晩を森で明かした。そんで今朝方に弥怒が作った服を猫に取りに行かせ、それをナヒーダに着せてみたが……
「この服、とっても可愛いわ!」
【それ、は、良かった】
どうやら大層気に入ってくれたようだ。やはり弥怒はいい仕事をする。これぞ弥怒が一晩でやってくれましたってやつだな。
ナヒーダの服装は緑と白を基調とした浴衣……着物? あれ街着だっけ? まぁ、そんな感じの奴だ。なんか知らんがスッゲェ可愛い。
んで、まぁ……こんな可愛らしい和服のお嬢様を隣に置くわけだから俺も何か合わせた服装にしなきゃ違和感が出ていけない……こういう時、重ね着って便利よな。ありがとうカムラの里、ありがとうハモン。
「……前にも思ったけれど、気付いたら服が変わるのね」
【シャイだか、らな。着替え、は、見られたく、ない】
システムの説明とか面倒だからテキトー言って誤魔化すことにする。転生とか転移とか説明が面倒って理由だけで誰にも言ってない転生者って多分俺くらいだよな。
まぁ、それはともかくだ。これで俺らは2人して一般的稲妻人の服装だ。街を歩いても稲妻人……は無理でも帰化した現稲妻人くらいには思ってくれるだろう。もし外国人だってバレたら……記憶操作できる古龍って居るっけなァ? クソ、一般モンスターの力も使えたら睡眠で眠らせて夢だと思わせる手段もあったんだが。
「ねぇ、貴方。私、早く稲妻を見て回りたいわ!」
【む、確かに、もう良い、時間、だ、な……そうだな、適当に、見て回るか】
「そう来なくっちゃ!」
てなわけで、よっこらせとナヒーダを抱き上げる。和の装いだからかどう抱き上げたもんかと一瞬悩むが、結局いつも通り抱き上げる。たった数日間だというのにナヒーダが俺の腕の中に納まってる状況に謎の安心感がある。
俺を待ってた発言と言い、そういう感覚の正体ってのは……いつかは依頼料共々引き出さなきゃ……なんだが……
まぁ……
『また、いつかで良いだろ』
「?」
俺は帝君と違って契約にさほどうるさいワケじゃないからな。
……スマン嘘だわ。正しくは気に入った奴にはうるさくない、だな。嫌いな奴には滅茶苦茶うるさい自覚はあるわ俺。
「こんな山の上に神社……こういうモノを”雰囲気がある”って言うのよね?」
【そうだ、な】
異様な圧が在った。
神櫻の枝が風で鳴く、しかし蟲や鳥の一匹すら音を出さない。そこで働く巫女すらも、何か声を出してはいけないのではないか……という漠然とした感覚すら感じ、少し緊張した面持ちだ。
コツリコツリと木が石を叩く音。数多の鳥居が続く階段を上がり切り、最後の大鳥居をくぐりぬけ、境内へと足を進めるのは自分とは似つかぬ少女を抱きかかえた男。20は越えれど30には行かないだろうという顔。
服装こそ稲妻風であるが、所々に璃月特有の意匠があしらわれているのを見るに稲妻の人間ではないのだろう。
境内を進み、神櫻の存在する神社の最奥へと男は向かう。2人分の体重に木製の床が軋む音、風に吹かれて水面が揺れる。
【……】
男に抱え上げられた少女が目を輝かせて周囲をキョロキョロと見まわしているのに対して、男はただ巨大な桜を見上げる。
【なる、ほどな……】
何か合点が行ったという風に男は1人頷き、少女を下ろす。
「ねぇ、あのおみくじというものをやってみたいわ」
【御籤、か、分かった】
トテトテと少女がおみくじを売っている巫女の元へと走る。その後ろを、年上の家族の様に歩幅を合わせて男が歩く。光景だけで言えば微笑ましいのだが、実際その場に居るとまるで臓腑を舐め回されているかのような悪寒が常に襲ってくる。たまったものではないとはだれが呟いた言葉だろうか。
「おみくじを1つ引かせてちょうだい!」
「は、はい! 只今!」
圧を感じながらも巫女はおみくじ筒を少女に手渡す。そして願わくば、彼らの機嫌を損ねない結果であってくれと祈った。
「あら? 紙だと思っていたけれど、棒なのね」
【その棒、を、彼女、に、交換して貰う……ほら、渡すん、だ】
「なるほど……それじゃあ、おみくじに交換をお願いできるかしら?」
「喜んで!!」
いつもの数倍は素早く巫女は動いた。そもそもがファデュイの回し者なのもあって普段から無気力であったが、流石に今日この時だけはちゃんと働いた。不真面目な態度を見せようものなら、次の瞬間には首と体がサヨナラしててもおかしくないと彼女は直感していた。
ジッサイの所、その直感は半分くらいしか当たってはいないのだが。
「それで、この紙を開けば良いのね?」
【そう、だ】
「えいっ……やったわ! 大吉よ!」
【良かった、な】
嬉々として内容を読み上げる少女を、絹織物でも扱うかの様に優しく撫でながらも、男は僅かに鼻を動かす。
そして僅かに表情を綻ばせる。
【ふむ、懐かしい、匂い、だ】
男の見上げる視線の先には神櫻と呼ばれる巨大な桜。筆と紙があれば、ハイクの一句でも詠んでみようかとすら思えるソレ。
【しか、し、不愉快、だ】
キャッキャとはしゃぐ少女とは対照的に、周囲を押し潰すようにより強い圧が男から放たれる。
【獣の、匂い、だ。妖怪変化、の、匂いが混じ、る】
雷神の眷属か、或いは――
【狡猾に、も、紛れ込、んだ、害獣、か……】
「ヒッ!?」
どこからか漏れ聞こえた、息を殺してなお滲み出てしまう生物としてどうしようもない悲鳴。無論、それを聞き逃す男ではないが――
「それで、このおみくじを結ぶと良いのよね?」
【いや、それは違う。御籤、は、悪い結果、の時、に、結ぶの、だ】
「なるほど……また見識が深まったわね」
――今の男は、既に契約に縛られることのない流浪の狩人。更に言えば、今の男は少女の同行人。故に、人に害を成している所を目撃するか、機嫌が悪いか、それとも狩りをしたいと思わない限りは獲物を見逃してやるくらいはする。
【クハハッ】
とはいえ、脅かして遊ぶくらいはするのだが。
男:今の俺はオフ。
少女:大吉! やったわ!
狐の大妖怪:ひぇ()