ブルーアーカイブ 〜ハーメルンの狼〜   作:Su-57 アクーラ機

1 / 8
プロローグ

 2年前。キヴォトス僻地(へきち)某所(ぼうしょ)

 

 息も絶え絶えに走り続けたが、それももう限界だった。このまま後ろへ下がろうものなら、俺達は崖から真っ逆さま。前に進めば、数え切れないほどのPMC兵どもが待ち構えている。

 万事休すとは、まさにこのことらしい。

 

「ゲホッゲホッ! ぐ、ぅ……!」

 

「隊長っ!」

 

 うめき声を上げて膝から崩れた隊長の元に駆け寄る。右脇腹を押さえるその手からは、すでに大量の血が流れていた。

 

「へへ……。キヴォトス中のレディーが悲しむな……」

 

「何言ってんです! あんたモテるどころか彼女ができたためしもないでしょう!」

 

「後輩のくせに言いやがる……。そこはもうちょっとオブラートに包めよ……」

 

「そんだけ軽口叩けるなら、まだまだくたばりませんね!」

 

 軽口に軽口を返しながら、俺はファストエイド・キットから止血剤と包帯を取り出す。が、しかし――

 

「よせ、もう間に合わん。……流しすぎた」

 

 白くなっていく唇を必死に震わせながら、隊長は弱々しく首を振った。

 雑草の生えまくった地面は染み込んだ血で赤くなっている。その言葉の通り、誰がどう見ても手遅れだった。

 

「ここもじきに包囲される。マモル、お前は逃げろ……!」

 

「なっ、何を言って――」

 

「いいから聞けっ……!」

 

 両手で顔を掴まれ、引き寄せられたことで俺の言葉は無理やり中断させられた。

 

「っ……」

 

「お前は俺が見てきた中で一番優秀な奴だ。才能も腕っぷしも俺が保証してやる。だから頼む。こんなところで無駄死になんてするなっ……」

 

「おい! こっちだ!」

「逃がすな! 囲め!」

 

 そう遠くない距離から聞こえたPMC兵の怒号に隊長は「もう来やがったか……」と忌々しげに舌を打つ。

 

「野郎が揃いも揃ってゾロゾロと……。来るなら可愛い女の子にしろってんだ……」

 

 力が抜けて、もうまともに体も動かせないのだろう。()わすように、隊長は(みずか)らの左肩に腕を伸ばす。

 

 バリッ、バリリッ……!

 

 そんな音を立てて(めん)ファスナーからむしり取った何かを右手に握らされた。

 

「失くすなよ」

 

 落とした視線の先にあったのは、分厚い刺繍(ししゅう)がされたワッペン。ところどころ血に()れたそれは、俺達の部隊章。俺達の誇りの(あかし)だった。

 

「……なあ、覚えてるか? お前が入学してきたあの日、俺は『なぜこの学校を選んだ?』って訊いたよな……」

 

 ふと、昔を(なつ)かしむように隊長は空を見上げながら、ポツリと口を開いた。

 

「そしたらお前、『守りたいもののために戦える、そんな戦士になるため』って即答してきてよ……」

 

「覚えてます、覚えてますから! だから無理にしゃべらないでください!」

 

「忘れてないなら、いい……」

 

「クソッ、血が止まらないっ……!」

 

「――これからも、決してその意志を忘れるなよ」

 

 いきなり、胸ぐらを掴まれる。

 衝撃に気づいた時にはもう遅く、俺は力ずくですぐ後ろの崖へと突き飛ばされていた。

 

「たいちょ――!?」

 

 視界の上下が反転し、轟々と音を立てて流れる川へ頭から落ちていく。ついさっきまでいた崖がもうあんなに遠い。

 伸ばした右手は、ただ虚空を掴むだけで。

 

「達者でな」

 

 最後に俺が見たのは、満身創痍(まんしんそうい)になりながら、それでも力強く笑っていた隊長の顔だった。

 

 ……

 ………

 …………

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。