ブルーアーカイブ 〜ハーメルンの狼〜   作:Su-57 アクーラ機

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1話 ようこそ、砂塵(さじん)舞う学校へ

「………あ〜っづ………」

 

 ジリジリと照りつける陽光、時折吹きつける砂混じりの風。歩けども歩けども変わらない街並み。

 (ほほ)から(あご)へ伝う汗を腕で雑に(ぬぐ)いながら、俺は手に持つ地図へと視線を落とした。

 

「んー……。ん〜〜?」

 

 気のせいだろうか。どうにもさっきから同じ所をグルグル回っているだけのような気がする。ってか街だけでどんな面積してんだよ。

 

「(さすがはアビドスだな。市街地の規模が段違いだぜ……)」

 

 しかしまあ、かつて最大勢力を誇っていたという学校も今ではこの(すた)れ具合いだ。

 数十年前に突如発生した砂嵐。度重(たびかさ)なりアビドスを襲ったそれは環境を変動させ、オアシスを枯らし、人々の(いとな)みまでもを飲み込んだ。

 先人達の努力も(むな)しく生徒や住民の流出を防げず、現在在校生はたった5人とのことらしい。

 

「ふぅ……」

 

 水分補給と小休憩を()ねて立ち寄った日陰に腰を下ろす。

 武器弾薬を満載したバッグパックの肩ヒモを緩め、水筒を(あお)りながら、俺はふと数日前の記憶を巡らせた。

『アビドス高等学校が武装組織から度々(たびたび)襲撃を受けているらしい』

 偶然耳にしただけの(うわさ)話でしかなかったが、俺にとってそれは有り金をほとんど溶かして武器弾薬に換え、この広大な砂漠までやって来るに十分すぎる理由だった。

 状況が似ていたのだ。2年前の『俺達』に。

 

「……こんな所でモタモタしてはいられんな」

 

 とにかく一度高所に登って現在地を確認しようと、歩みを再開したその時、強烈な砂混じりの突風に襲われる。

 

「――ブッ!? ペッペッ! チクショー、砂食っちまった……!」

 

 小さな砂でも思い切り顔に吹きつけられたらそれなりに痛いものだ。おまけに口の中がジャリジャリしてしょうがない。まったく、今日だけでこれを何回くらったことか。

 そもそも、こんな場所を徒歩で彷徨(さまよ)っているのだってこの風と砂のせいだ。本来なら乗ってきたトラックでもう到着しているはずだってのに、まずいパーツに砂塵(さじん)が入ったのか、うんともすんとも言わなくなっちまった。まったくツイてない。

 

「……って、ありゃ?」

 

 ふと、左手に持っていた地図が手の平サイズ(・・・・・・)になっていることに気づく。しまった、さっきの風で大半が千切れて持ってかれたか。

 土地勘などもちろんなく、地図はもはや紙切れ同然。今の俺は完全に遭難者だった。……なに? その前から半分遭難してたようなもの? うるせえ、ケツ蹴り上げんぞ。

 

「ッ〜〜〜〜〜!」

 

 ワナワナと、地図だったものを握りしめる。手の中からクシャリと潰れた音がする。

 

んっとにサイコウ(・・・・)の気分だよコンチクショーー!!

 

 放った渾身(こんしん)の叫びは、澄んだ青空へと消えていくのだった。

 

 ▽

 

 硝煙(しょうえん)の臭いが鼻を刺し、連続する火薬の破裂音が鼓膜(こまく)を揺らす。

 アビドス高等学校、その校庭で銃撃戦は繰り広げられていた。

 

「あーもうっ! ほんっと毎度毎度しつこいんだから!」

 

 躍動的(やくどうてき)なツインテールとネコ耳が特徴の少女――黒見セリカが、悪態をつきながらアサルトライフルをぶっ放す。その銃口の先にいるのは、今まさに校庭へと侵入してきた襲撃者達だ。

 ――カタカタヘルメット団。黒いフルフェイス・ヘルメットが特徴のこの不良達は統率こそ甘いものの、持ち前の人海戦術を駆使して敷地へとなだれ込んできていた。

 

「セリカ、あまり突出しすぎないで! ホシノ、セリカのカバーに入れる?」

 

「はいはーい。任せてよ先生〜」

 

 のんびりした声音とは裏腹にすばやくシールドと愛用ショットガンを構える少女――小鳥遊(たかなし)ホシノ。その金と青のオッドアイに捉えられた敵は、またたく間に無力化されていく。

 広い校庭を流れる一陣の風が、美しい桃色の長髪をなびかせた。

 

「倒しても倒してもキリがありませんね……!」

 

「ん。先生、私はノノミのカバーに入るね」

 

 およそ学生とは思えない豊満なバストが魅力的な少女――十六夜ノノミが持ち前の膂力(りょりょく)でガトリングガンを操り、その大柄な銃器(ゆえ)の取り回しの悪さを、銀髪と同色をした犬耳の少女――砂狼(すなおおかみ)シロコが的確な射撃でカバーする。

 統率と連携の取れた防衛戦。しかし、数的な優位性ではヘルメット団の方が圧倒的であり、消耗戦を繰り広げるほかない状況だった。

 

 ――そこへきて、状況はさらに悪化する。

 

「先生! ヘルメット団の増援です! ――っ、これは……!」

 

 赤縁メガネにエルフのように尖った耳をした少女――奥空アヤネが、ドローンを通して発見した敵の増援と、それに追随(ついずい)してやって来たデカブツの存在に顔をしかめた。

 

「増援の中に戦車1両を確認! T-34です!」

 

「戦車だって……!?」

 

 アヤネからの報告に『先生』は思わずオウム返しをしてしまう。

 銃弾こそいくらでも補給できるものの、爆発物――それも対戦車用の物までは用意できていない。

 とにもかくにも生徒達を戦車砲の餌食(えじき)にはさせまいと、後退を指示しようとした瞬間、深緑色をした鉄の塊が正門を破壊して侵入してきた。

 

「ヒャッハハハーッ! 邪魔する奴はまとめて木っ端微塵だーっ!」

 

 リーダー格と思われる赤いヘルメットをかぶった不良生徒が車長ハッチから身を乗り出して高笑いを上げる。

 キュラキュラと金属履帯(りたい)のきしみ音を上げながら校庭への侵入を果たしたそれは、ゆっくりと砲塔を旋回(せんかい)させる。狙いは――

 

榴弾(りゅうだん)装填! まずは一番厄介なあのピンク髪からだ!」

 

「ホシノ!」

「「「「ホシノ先輩!」」」」

 

「あちゃー、これはまずいねー……!」

 

 歩兵による銃撃で退路を潰し、攻撃範囲の広い榴弾で確実にダメージを与える。あとは態勢の崩れた所から突いていく。……なるほど、考えたものだと思いながら、ホシノの背中を冷たい何かが伝う。

 

「よーし! うて――」

 

 勝利を確信したリーダーがヘルメットの中で凶悪な笑みを浮かべた、その時だった。

 

 パァンッ!

 

 軽い炸裂音とともに弾けた白い煙がT-34の車体を丸ごと包み込む。

 

「は? おいバカ! 誰がスモークをまけなんて言った!」

 

「わ、私じゃないですよ!? そもそも発煙弾なんて装備してきてないじゃないですか!」

 

 辺りを白一色に(おお)われた車内はたちまち混乱し、周りの歩兵も困惑から射撃の手を止めて棒立ちになる。

 (ゆえ)に彼女らは気づけなかった。真横から突撃してくる乱入者の存在に。

 

「あれは……」

 

 だだっ広い校庭の奥。陽炎(かげろう)を背にしてやって来る人影にホシノは目を()らす。

 そいつはヘルメット団の構成員を有効射程に収めるや大口径アサルトライフル(バトルライフル)を構え、走りながら(・・・・・)のセミオート射撃を開始した。

 

「ぐぁっ!?」

 

「クソっ! あいつら用心棒なんて雇ってたのか!?」

 

「撃て! 撃ち返せ――っ!?」

 

「ちょっ! めっちゃ頭狙ってくる――あ痛ぁ!?」

 

 頭に7.62ミリ(フルサイズ)弾の精密射撃を食らった構成員が次々と倒れていく。頭部に1〜2発食らった程度でキヴォトス人が死ぬことはないが、意識は完全に()り取られているらしい。

 一方、進路上の敵を粗方(あらかた)始末し終えた乱入者はライフルを左手に持ち替えて手榴弾を取り出し、障害物競走の要領で戦車へ飛び乗った。

 

「そら、プレゼントだ。受け取れ」

 

 ピンを抜かれた手榴弾が開けっ放しの車長ハッチから投げ込まれる。ゴトンッと、戦闘室に転がり込んだそれを見た瞬間、乗員達は一斉に悟った。

 

「あっ……」

「おっとぉ?」

「ウソぉ……」

「終わった……」

 

 ボンッ! と、くぐもった音がして、ハッチから白煙が噴き上がる。

 動かなくなった戦車から気絶したリーダーを(かつ)いで()い出てきた乗員達は我先にと逃走を決め込み、自分達の虎の子があっさり撃破されたことを遅れて理解した周囲も慌てて撤退を始めた。

 

「こ、この借りは高くつくぞっ!」

 

「鉛玉ならいくらでも支払って(くれて)やる。どこに欲しい?」

 

「ひぃっ!?」

 

 こうして、もう何度目かもわからないアビドス高校防衛戦は予想外の幕引きとなったのだった。

 

「……なるほど。こいつは話で聞いた以上にひどい状況だな……」

 

 小さく何かを()ちて、逃げ帰っていくヘルメット団と無人の戦車を交互に見やる謎の乱入者。

 鼻まで上げたスカーフとタクティカル・ゴーグルに隠れて顔は見えないが、背格好からしておそらく男。

 背中には、何が入ってるいるのか知らないが、本人とほぼ同サイズにもなる大きなバッグパックを背負っていた。

 

「よう! 銃声を聞いて走ってきたんだが、全員無事か?」

 

 思わぬジェットコースター展開にアビドス防衛組の面々は、つい呆気(あっけ)にとられてしまう。

 

「いや〜、道に迷って一時はどうしたもんかと思ったが、なんとか間に合ったようでよかったよ」

 

 ついさっき戦車1両と歩兵多数を1人で片付けた人物とは思えない様子で、しかも手まで振りながら歩いてくる男。そのなんとも軽い調子の声で話しかけられて、防衛組はようやく意識を引き戻された。

 

「…………」

 

 手を貸してくれたとはいえ、相手はいきなり現れた素性(すじょう)も知れない奴。即座に警戒レベルを上げたホシノは、気づかれないようにこっそり愛銃の残弾を確認してから口を開いた。

 

「やあやあ。さっきは助かったよぉ。さすがに戦車砲で狙われた時はおじさんも覚悟したねー」

 

「お、『おじさん』……? あー、まあいいや。えっと、キミ、アビドス生だよな?」

 

 わざわざアビドス生であることを確認してくるあたりに不審感を(つの)らせつつ、それを表に出さないよう張りつけた笑顔のまま応える。

 

「そだよ〜。私は3年の小鳥遊ホシノ。――そういうキミは、いったい誰なのかな?」

 

 手元のショットガンは、相手が少しでも妙な動きを見せれば即座にバックショット弾を叩き込むことが可能だ。

 

「おっと、悪い。名乗るのが先だったよな。俺は――」

 

 言いながら、男は握手を求めて右手を差し出し――散らばっていた空薬莢(からやっきょう)を踏んづけて、「ブベッ!?」と盛大に顔から地面に突っ込んだ。

 

「ふっぐおぉ……! は、鼻打っだぁ……!」

 

「(あー。ちょっと抜けた感じの人か……)」

 

 ……まあ、見た感じこっちに危害を加えてくるわけではなさそうか、と。鼻を押さえて悶絶(もんぜつ)する姿を前にひとまずそう判断を下し、わずかに警戒を緩める。

 

「えーっと……大丈夫……?」

 

「お、おう。大丈夫、だいじょーぶ……」

 

 しきりに鼻の頭を(さす)りながら、男は立ち上がろうと上体を起こす。刹那、そのハプニングは起きた。

 

「いててて……。む……?」

 

 アビドスの校庭に舞い込む1つの風。

 イタズラなそれはホシノの足元を流れるように通り過ぎて行き、制服のスカートをフワッとなびかせて――その奥にある三角形の布(・・・・・)を白日の下に(さら)した。

 

「…………。へ……?」

 

「し、縞々(しましま)……」

 

 白と水色のボーダー柄に目を奪われた男は、黒いスカーフで(おお)った口をあんぐり開けたまま固まってしまう。

 

「「先輩!」」

 

 異変に気づいたシロコとセリカが銃を(たずさ)え駆け寄ってくるが、それに何かしら応答してやろうとすら思い至れない。

 見てしまった側と見られた側。お互いに脳内処理が追いつかず固まること数秒後、先にフリーズから解除されたのはホシノだった。

 

「!?!?!?!?」

 

 瞬時に耳まで赤くなったホシノは、すでに手遅れながら慌ててスカートを押さえる。

 取り(つくろ)っていた仮面が外れていることも忘れて、キッと鋭く男をにらんだ少女は、その右足を大きく後ろへ振った。……そう、思いっきり力を込めるように。

 

「へ? ……ハッ!? す、すまん! 悪気はなかったんだ!」

 

 本能的に嫌な予感を察知した男が顔を青くしながら命乞いをするが、時すでに遅し。

 

「ちょっ、待てまてまて! ……あぁ……マジかよ……」

 

 ドゲシィッ!!

 

 元より高い身体能力に羞恥(しゅうち)というバフのかかったキックが顔面に炸裂した。

 

「ぬおわあああぁぁぁぁぁーー!!?」

 

 ロケットのように校庭の端までかっ飛んで行く男。

 美しい放物線を描きながら向かうその先には、ずいぶん昔に使われなくなった古いバスケットゴールが待ち構えていた。

 

「ぐえっ!?」

 

 色あせて腐食も始まっているそれに叩きつけられてカエルのような悲鳴をもらした男は、やがて重力に従ってズルズルと落ちていき、そのままネットに頭からゴールインしてとうとう動かなくなる。

 

 乙女の下着を見てしまった代償は、あまりに高かったのだった。

 

 

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