ブルーアーカイブ 〜ハーメルンの狼〜   作:Su-57 アクーラ機

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3話 打鉄マモルという男

「うーむ……」

 

「ぬう……」

 

 対策委員会との初邂逅(かいこう)から明けて翌日。アビドス自治区内の無人となった住宅街。

 再始動をかけてもグズり声しか上げなくなったトラックを前にして、俺と修理工のおっちゃんは揃って唸り声を上げた。

 

「たしか兄ちゃん、砂を吸っちまったかも、って言ってたよな?」

 

「ええ。小規模でしたが、砂嵐に()ってすぐに動かなくなったので、それが原因じゃないかと」

 

「ふむ……。兄ちゃん、ひょっとしてアビドスに来るのは初めてかい?」

 

「え? ああ、はい。初めてです」

 

 突然の質問に頭上に「?」を浮かべながら応えると、おっちゃんは「やっぱりな」と何やら独りで納得する。

 

「アビドスは風でしょっちゅう砂が舞い上がっちまうからよ、車持ちの住民はみんな何かしら対策してるんだよ」

 

「あー。そういう……」

 

 つまり、対策もなしにこの砂漠を乗り切ろうとしていた俺は、どこからどう見てもアビドスを知らない外部の人間だと。なるほど、たしかに。

 ちなみに、住民の大半はアビドスを離れてしまっているものの、郊外に行けばそこそこの規模の街がある。実際、この修理工のおっちゃんもそこで出会った1人で、事情を説明すると(こころよ)く引き受けてくれたのだった。

 ……しかしまあ……。

 

「(一応、オフロード対応の軍用トラックだったんだけどなぁ……)」

 

 なにせ6輪駆動式に加えて並大抵の泥やゴミじゃビクともしない頑丈な代物だ。そんな移動拠点としても長らく苦楽をともにしてきたコイツがまさか、ちょっと砂を吸っただけで動かなくなるとは……。

 

「けどまあ、これだけゴツいトラックがちょっとばかしの砂で止まっちまうとも考えにくいしなぁ」

 

「と言いますと?」

 

「兄ちゃん、よっぽどツイてなかったんじゃないか?」

 

「 」

 

「おーおー、そんな絶望的な顔すんなって。せっかくの男前が台無しだぜ?」

 

 俺の肩をバシバシ叩きながら「ガハハハ!」と豪快に笑ったおっちゃんは、早速乗ってきた作業用トラックから工具箱を取り出した。やっぱ俺ってツイてないのか……。ちくしょう、泣いてなんかいねえぞぉ……!

 

「なに、心配するな。これくらいなら工場まで引っ張って行って修理しなきゃ、ってことでもねえ。少し時間はもらうけどな」

 

 言いながら、手際よくボンネットを開けて作業を開始するおっちゃん。車の構造に関してからっきし(・・・・・)な俺は、ただ横に立って指定された工具を手渡すぐらいしかできることはないが。

 

「……そういやぁ、兄ちゃんはなんでこんな砂漠くんだりまで?」

 

 修理を始めて2時間ほど経った頃だろうか。ふと、ボンネットの中を(のぞ)きながら、おっちゃんはそんな質問を飛ばしてきた。

 

「ここにあるのは一面の砂景色と、あとはアビドス高校だけだぜ? 旅行で来たってわけじゃあないんだろ? ――そこのレンチ取ってくれ」

 

「どうぞ。――ここには、アビドス高校に用があって来たんです。学校が暴力団の襲撃を受け続けているという話を偶然耳にして、それで居ても立ってもいられず」

 

「ほう?」

 

「こことは別ですが、似たような状況へ追い詰められて、どこにも助けを呼べないまま(つぶ)された学校の末路を知っている身からすれば、どうしても知らないふりができなくて」

 

「兄ちゃん……あんた、もしかして……」

 

「ええ、まあ」

 

「……そうか」

 

 何となく察したのだろう。短く、静かな相槌(あいづち)が返ってくる。

 当然ながら、その学校はすでに存在していない。最後に見た時は、そこら中を散々に掘り返されてほとんど面影をなくした荒れ地と化していた。

 俺と、かつての学校とを繋いでいるのは、今や左腕に()めている薄汚れた部隊章だけだ。

 

「――世の中、人が大事にしてるものを平気な顔してふんだくるような(やから)が五万といるけどよ」

 

「……?」

 

「兄ちゃんみたいに、他人のために戦えるような優しい人間もいると思うと、まだまだ捨てたもんじゃねえなって思えるよ」

 

 いつの間にかこっちに向き直っていたおっちゃんは、その(いかめ)しい顔をおだやかな笑みに変えていた。

 

「ありがとうございます」

 

「礼を言いたいのは、むしろこっちの方だぜ」

 

 そうしてまた豪快に笑って、それからトラックのボンネットを閉じる。どうやら修理は完了したらしい。さすがはプロ、昼飯時よりもずいぶん前に仕事を終わらせちまった。

 

「どれ、ちょっと回してみろ」

 

 言われた通り運転席に登ってエンジンキーを(ひね)ってみる。

 すると、さっきまで病人が()き込むような音しか出さなかったディーゼルエンジンが、すっかりゴキゲンな音色を(かな)で始めた。

 

「おぉ……! まるで新車だ……!」

 

「よしよし。上手いこといったみてえだな」

 

 6気筒エンジンの奏でる甘美な調(しらべ)……。素敵だぁ。…………おっと、いかん。今ちょっと変な電波を受信しちまった気が。

 

「兄ちゃんの言ってた通り、吸った砂が悪さしてたみてえだからその清掃と、持ち合わせ分だけだが、ついでにパーツを新品に取っ()えといた。なに、サービスってやつだ。金はいらねえよ」

 

「……いいんですか?」

 

「おう! この修理屋ブル太郎、吐いた(つば)は飲み込まねえ!」

 

 そう言い切って、おっちゃんは犬獣人特有のフサフサした毛皮で(おお)われた胸板を、ドンッと強く叩いてみせた。

 

「そら、早く行ってやんな」

 

「はい。お世話になりました」

 

 ご厚意に甘えて……ということで、本来の必要分だけ代金を支払い、深く頭を下げてトラックのキャビンに乗り込む。

 

「――なあ、兄ちゃん」

 

 最後にもう一度頭を下げて、それからドアを閉めようとしたところでおっちゃんに呼び止められた。

 

「どうか、あの子達の力になってやってくれな」

 

 今度はこっちが深々と頭を下げ返される。

 突然のことでつい目を丸くしてしまうが、その真剣な声と眼差しから、彼女達のことを心から案じての言葉なのだと直感した。

 

「もちろんです。自分はそのためにここへ来たんですから」

 

 そう応えて、俺はアビドス高校へ向けてトラックを発進させるのだった。

 

 ▽

 

 砂埃(すなぼこり)を上げて走り去る軍用トラック。遠ざかっていくその後ろ姿を、ブル太郎は複雑な表情で見送っていた。

 

「……何やってんだろうなぁ、俺は……」

 

 さっきまでの豪快な様子はすっかり鳴りを(ひそ)め、思わず出たため息とともに、そんな独り言が()れる。

 アビドス高校が襲撃を受けているという話は知っていた。郊外から距離があるとはいえ、同じ自治区なのだ。むしろ知らないはずがない。

 

「(何が『力になってやってくれ』だ……)」

 

 学校を襲撃しているその集団だけでなく、流れ者の不良までもが我がもの顔で街を跋扈(ばっこ)し、治安は年々悪化していくばかり。それに耐えきれなくなった者は早々に荷物をまとめて去っていき、残った住民は毎日を怯えながら過ごしている。

 それでもまだ街として機能していられるのは、名も知れないアビドス生が夜な夜な見回りをしてくれているからだ。それも、たった独りで。

 

「(子供に任せっきりで、守られてばかりで、『大人(おれたち)』は……)」

 

 自分達は銃の撃ち方どころか戦い方さえ知らない。それでは(かえ)って邪魔になるだけ。――そんな言い訳をしてただ逃げ隠れているだけなのだと、そう思わない日はない。けれども、怖くて体が動かない。

 無関係なはずのアビドスのために遠く離れた地からやって来たというあの青年に比べて、自分達はなんて臆病(おくびょう)で、卑怯(ひきょう)な奴らなんだろうか。

 

「ほんと、情けねぇなぁ……」

 

 そんなブル太郎の小さな呟きは、砂混じりの風にかき消されていった。

 

 ▽

 

「オーライ、オーライ」

 

 シロコの誘導に従って、ゆっくりと校庭内へトラックを進入させる。

 ちなみに今日は自由登校日ということらしく、今この場にいるのはシロコを始め、ノノミとアヤネの3人だけだ。ホシノも来てるには来てるらしいが、屋上で昼寝中。セリカはバイトではないか、とのこと。先生は……恐らく仕事だろう。

 

「オーライ、オーライ。――ストップ」

 

 周囲が見守る中、慣れたハンドルさばきでデカブツを停車させる。

 

「うし、こんなもんか」

 

「いい腕してるね」

 

「自転車と同じさ。慣れれば意外と簡単なもんだぜ?」

 

 グッと親指を立てるシロコとそんな会話を交わしながら、トラック・キャビンを降りる。

 

「おっきいトラックですね〜! 緑色の迷彩がすっごくおしゃれです☆」

 

「ほう、この迷彩の(しぶ)さがわかるか。もちろんだが、コイツは見た目だけじゃないぞ? 舗装路(ほそうろ)なら10トン、不整地(オフロード)でも5トンまで載せて走れるほどパワフルだ」

 

『良さ』のわかるノノミに上機嫌で応えつつ荷台の後ろ側へと歩いていると、次に口を開いたのはアヤネだった。

 

「ですが、なぜ軍用トラックを校庭まで持って来る必要が……?」

 

「なぜか、だって? そりゃあ決まってるだろ。トラックってのは物を運ぶための車だ。まあ、つまるところ――」

 

 (ほろ)をかぶせた大きな荷台、そのリアドアの固いロックを解除しながら俺は、ニヤリと口角を持ち上げた。

 

「ちょっとばかし取り扱い注意な『荷物』を、な?」

 

 そうして、シロコ達の眼前に(さら)したのは、所せましと積まれまくった武器弾薬に爆発物etc…。

 

「「「…………うわぁ……」」」

 

 材質もサイズも様々、しかし皆一様に『危険物につき取り扱い注意!』と注意書きされたそれらを見て、3人は顔を引きつらせた。

 

「なかなか壮観(そうかん)だろ? かき集めるのには苦労したぜ」

 

「え、え〜と……」

 

「ん……」

 

「あ、はは……」

 

 ふふん、どうやら驚いて言葉も出ないらしいな。だが、これはまだまだ序の口(じょのくち)ってやつだ。

 

「おいおい、この程度で固まってたら心臓がもたないぞ?」

 

 そう冗談めかしながら荷台によじ登った俺は、手前でシートをかぶって鎮座している巨大な機関銃を引っ張り出した。

 

「手始めにコイツからいこう。Kord(コルド)50口径重機関銃(キャリバー・フィフティー)だ」

 

 大型マズルブレーキを装着した長大な銃身、側面から伸びる精密スコープ。重機関銃には珍しいピストル型グリップ。

 太陽の光を黒く照り返すゴテゴテしたそれは、重厚な威圧感を周囲に振りまいている。

 

「弾薬には強力な12.7×108ミリ弾を使用。陣地防衛や対車両にはうってつけだ。おまけにピストル型グリップだから、やろうと思えば構え撃ちなんかもできる。――まあ、デカイ以外はよくある普通の機関銃と大して変わらんな」

 

「普通……? 普通ってなんでしたっけ……??」

 

「ああっ、アヤネちゃんがゲシュタルト崩壊を起こしちゃってます……!」

 

「ノノミのガトリングガンよりもインパクト強烈……」

 

 ふむ、出だしはまあまあってとこか。よし、それじゃあ次はちょっと変わり種といこう。

 

「次はもっとイカついぞ? なにせ、悪党の手に渡っちゃいけない銃トップ3に入るくらいヤバい代物(しろもの)だからな」

 

「そ、そんなに危険なものなんですか!?」

 

「いや、俺が勝手にそう言ってるだけ」

 

 ズコォッ! と、盛大にズッこけるアヤネ。この子めっちゃノリいいな。

 

IWS(イワス)2000対装甲狙撃銃だ」

 

 取り出したのは、銃全長が1.8メートルにもなるブルパップ式セミオート狙撃銃。

 鉄パイプにグリップとストックを付けたDIY作品のような見た目とは裏腹に、その破壊力は凶悪の一言に尽きる兵器だ。

 

「最初に言っとくと、コイツは人を撃つ銃じゃない。相手はもっとデカい(まと)――それこそ、装甲車や戦闘ヘリが(もっぱ)らだ」

 

 もちろん、用途が似通(にかよ)った狙撃銃なら探せばたくさん出てくる。――が、コイツが他の何よりも抜きん出ているのは、その使用する弾丸だ。

 

「口径は15.2ミリ。使用弾は――聞いて泡吹くなよ? コイツが撃つのは装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)だ。他にも滑腔(かっこう)銃身や油圧式駐退(ちゅうたい)機構も搭載。()わばコイツは、10分の1戦車砲だな」

 

「「……………………」」

 

 なぜだろうか。ノノミとアヤネからの『うわ、こいつヤベぇ……』みたいな視線が突き刺さる。なあ、それって俺じゃなくて、銃がヤバいんだよな?

 

「マモル、質問いい?」

 

 心当たりのないドン引きの視線に首をかしげているところへ声がかかる。

 見ると、さっきまでIWS2000を興味深そうに見ていたシロコが耳をピコピコさせながら手を上げていた。

 

「おう、どうした?」

 

「この銃が強力なのはわかった。けど、実際にどれくらいの威力があるか教えて欲しい」

 

「む、それもそうだな。コイツは射距離1000メートルで40ミリ厚の防弾鋼板(ぼうだんこうばん)をぶち抜ける。例え戦車が相手でも(もろ)い部分を狙えば確実にダメージは入るはずだ」

 

「そっか。…………。ちなみにだけど、例えば銀行にあるような大型金庫に撃ったら壊すことはできる?」

 

 えらく食いつくなぁ。そんなにコイツが気に入ったのか? というか……。

 

「なぜ例えが金庫? まあ、かけ金(ラッチ)なり接合部なりに撃てば簡単に壊せると思うぞ」

 

 そもそも撃つような理由が見当たらないし、仮に撃っても過貫通(かかんつう)で中身もオシャカだろうけど。

 

「ん。これ気に入った」

 

 特徴的な犬耳が、また(せわ)しなく動く。それに加えて、本人が気づいてるかはわからないが、その口元は満足気な笑みを浮かべていた。

 

「そうか……! コイツのすばらしさをわかってくれるか!」

 

 何がそこまで彼女を()きつけたのかは知らないが、どうやらシロコとは話が合うのかもしれない。よぅし! テンション上がってきたぞ!

 

「それじゃあ次だ! コイツはとにかく強力な――っ!?」

 

 荷台から武器ケースを引っ張り出そうとしたところで、ふと覚えた違和感に手が止まる。……なんだ? まるで――

 

「どうかした?」

 

 気のせいなんかじゃない。薄っすらと肌を刺す、敵意の混じった視線。

 監視か、観察か。即座に周囲の警戒を始めるが、しかし、その気配はすでに霧散(むさん)したあとだった。

 

「いや、なんでもない。ちょっと目に砂が入ってな」

 

 そう応えながら、俺は静かに抜きかけていたハンドガンをホルスターへと(おさ)め直すのだった。

 

 ▽

 

 相も変わらず、キツい陽射しに(さら)されるアビドス校舎の屋上。そこにある小さな休憩スペースは私のお気に入りスポットの1つだ。

 ここからなら広いグラウンドはもちろん、それよりもっと先の景色まで一望できるし、日陰に寝転がれば最高の昼寝場所にもなる。

 ――けれども今、私がこの場にいるのは、ただ景色を眺めに来たわけでも、ましてや昼寝をしに来たわけでもなかった。

 

「………………」

 

 昨日の銃撃戦の後処理すらまだ終えていないグラウンドに立つ4つの人影。シロコちゃんにノノミちゃん、アヤネちゃんの3人と、そして――

 

「(打鉄(うちがね)、マモル……)」

 

 昨日、先生を名乗る大人に続いて現れた謎の人物を注意深く観察する。

 奇襲とはいえ、あの一瞬で戦車1両と戦闘員複数を軽く制圧してみせた高い戦闘能力は十分に脅威(きょうい)だ。それがいつ私達に牙を()くかもわからない。(ゆえ)に私は、あの男を特段に警戒していた。

 

「――? ―――!」

 

 下では、(くだん)の男が意気揚々といった様子でトラックから箱を運び出している。会話までは聞き取れないが、どうやら追加で持ってきた大量の武器類(いったいどれだけ用意していたのやら)の荷下ろしをしているらしい。

 常に弾薬が枯渇(こかつ)している私達アビドスからすれば大変ありがたい話ではある。

 

「『力になりたい』、ね……」

 

 が、しかし、それを遠目に眺める私の目は、完全に冷え切っていた。

 

「(……どうせ、あいつも他と一緒だ(・・・・・・・・・)……)」

 

 実を言えば、こうして誰かがアビドスにやって来るのは初めてではない。彼と同じようなことを言って近づいてきた連中は、過去に何人もいた。

 みんな、はじめはニコニコ笑って近づいてきて、口を(そろ)えてこう(のたま)うのだ。『力になりたい』と。そうして信用してしまったが最後、詐欺(さぎ)まがいな理由で法外な報酬(ほうしゅう)(たか)られる。

 (ひど)い時には、ヘルメット団や不良達と裏で繋がっていてマッチポンプを仕掛けられたこともあった。

 

「っ……!」

 

 見据(みす)えていた視線が無意識に鋭くなっていく。

 どいつこいつも、アビドスを本気で助けようなどとは微塵(みじん)も思っていない。都合のいい小遣い稼ぎとしか、ただの食い物としか考えていない。

 今回やって来た打鉄マモルも、あの先生という大人も、信じることなどできない。私には等しく敵でしかなかった。

 

「(私が、守らなきゃ……)」

 

 大切な学校を、後輩達を。

 もし、あいつらがアビドスに危害を加えようものなら、その時は……。

 

 ……例え、この身に代えてでも。

 

 ▽

 

「うっし! これで荷物は粗方(あらかた)降ろし終えたな」

 

 トラックに詰めるだけの武器弾薬に爆発物、その全ての荷降ろしがようやく完了する。

 合計にして5トン。こんなもの1人で運んでいるところを見られようものなら、間違いなくヴァルキューレでの取り調べが待っていることだろう。

 

「さすがに全部手作業でするとなるとハードだったな。みんなお疲れさん」

 

 クーラーボックスから取り出したスポーツドリンクを3人に手渡し、(そろ)ってトラックの(かげ)に腰かけた。

 

「マモルは……」

 

 スポーツドリンクを半分ほど飲み終えて(のど)(うるお)したシロコが、ふと口を開く。

 

「うん?」

 

 突然話しかけられた俺は、飲み口に顔を近づけたまま視線だけを横へ向けた。

 

「どうして、私達にここまでしてくれるの?」

 

 投げかけられたのは本当に突拍子(とっぴょうし)もない質問で、俺はつい間抜けな顔をして固まってしまう。

 けれども、シロコの(ひとみ)はたしかに答えを求めていた。……いや、シロコだけじゃない。ノノミとアヤネも、ただ静かに俺の言葉を待っている。……どうして、か……。

 

「キミ達に、守ることを諦めて欲しくなかったから、かな……」

 

「守ることを……?」

 

「ああ。還る場所を、帰りを待つ仲間を――守ることを」

 

 忘れもしない、2年前の惨劇(さんげき)

 俺にはもうどちらも残っていないが、でも彼女達は違う。仲間がいて、還る場所がある。

 

「俺はただ、そんなキミ達の力になりたいだけだよ」

 

「でも、借金返済に追われる私達じゃ、満足な報酬も出せないよ?」

 

「そいつは心外だな。まるで、俺が見返り欲しさにここへ来たゲス野郎みたいじゃないか」

 

「気を悪くしたなら謝る。けど、今まで来た人達はみんなそうだったから」

 

 人の弱みにつけ込んで小遣い稼ぎかよ。……ふん、大した性根した連中だぜ。

 

「なら、ハッキリと言っておこう。そんなもん1円たりともいらんよ」

 

「えっ?」

 

「たしかにまあ、武器弾薬に燃料その他出費で当分の間は極貧生活だ。けどな――」

 

 飲みかけのボトルを胡座(あぐら)の上に下ろし、俺はシロコ達へと向き直る。

 

「それは、俺自身が『それでもいいからやりたい』と望んだ結果なんだよ」

 

「……!」

 

「俺は、学校を――このアビドスを守ろうとするキミ達の助けになりたいから(・・・・・・)ここに来たんだ。そこに損得や打算なんていらないし、そんなもんはクソ食らえさ」

 

 ハンッと鼻で笑って、ボトルを(あお)る。冷えたドリンクが(のど)を通る感触が心地よい。

 

「まっ、探せばそういう変わり者もいるもんさ。……あっ、1つ言っとくが、俺は自分が『変人』だって自覚はしてるけど『変態』ではないからな? そこは間違えないでくれよ?」

 

 最後に自虐ネタのジョークを飛ばして、俺はもう一度ボトルを呷った。

 

「ぷっ……ふふっ……!」

「ンフっ……!」

「っ〜〜! くっ、ふっ……!」

 

 どうやら、ちょっとウケたらしい。3人とも肩を震わせて笑いをこらえている。おうおう、口の中のスポドリは()かないでくれよ?

 

「マモルのことが少しわかった気がする」

 

「ほう、そうなのか?」

 

「ジョークのセンスがないところとか」

 

「ヌ゙っ!? な、なかなか手厳しい……」

 

「あと、ちょっとだけズレてるところも、ですね☆」

 

「『ズレてる』って……別に俺は普通だぞ? うん、普通のはずだ。…………普通、だよな?」

 

「で、でも! こんなに遠い所まで助けに来てくれた、優しい(かた)だとも思います」

 

「嬉しいこと言ってくれるなぁ。よぅし! そんなキミには、このパンツァーファウスト3をプレゼントしよう!」

 

「け、結構です……」

 

「そうか? 対戦車弾の替え弾(・・・)もあるぞ?」

 

「そんなラーメンの替え玉みたいに……」

 

 時刻はもうじき正午。俺達は他愛のない会話に花を咲かせながら、仕事後の休息を満喫(まんきつ)するのだった。

 

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