ブルーアーカイブ 〜ハーメルンの狼〜   作:Su-57 アクーラ機

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5話 救出

 人がいなくなり、街灯の電気すら(かよ)わなくなった旧ビジネス街。暗闇と静寂(せいじゃく)だけが支配するその大通りを、俺達はトラックのヘッドライトだけを頼りに進んでいた。

 

「あと2つ先の(かど)を右折で合ってるよな?」

 

「そそ。ちょっと細い道だから気をつけてねー」

 

「ぶつけたりしたら大変だよー?」などと(となり)から冗談を飛ばしてくるのは、道案内を任せているホシノだ。

 

「おいおい、怖いこと言うなよ。修理したばっかなんだから」

 

 苦笑混じりにそう応えて、俺は無人となったビジネス街の暗闇に再び目を()らした。

 

「(人がいなくなった街ってのは、こんな風に荒廃していくんだな……)」

 

 青白い月明かりをバックに建つビル。役目を果たせなくなった信号機、砂や倒壊した建造物によって寸断された道路。

 かつてはどこよりも賑わっていたであろうそこは、今や風化した廃墟となって静かにたたずんでいる。不気味……というよりは、寂しさを感じるような光景だった。

 

「…………ここもずいぶん変わっちゃったな……」

 

 ふと聞こえたのは、そんな小さなつぶやき。

 声につられて横を見やると、頬杖(ほおづえ)をついたホシノが(うれ)いを帯びた目で窓の外を眺めていた。

 

「ここにはよく来ていたのか?」

 

「うへっ!? な、何か言った?」

 

「いやなに、『ずいぶん変わった』って言ってたから、それなりに馴染(なじ)み深い場所だったのかと」

 

 突然の質問に目をパチクリさせたホシノは、それから小さく首を横に振った。

 

「んーん。来たのなんて片手で数えられるくらいかな」

 

「そうなのか?」

 

「学校から結構距離があるし、そもそも来てもすることないしねー」

 

「それもそうか」

 

 たしかに、学生がビジネス街なんかに来たところで、特段おもしろいものがあるわけでもないだろう。それをわざわざ遠出(とおで)してまでなんて――っと、そろそろ例の右折点に差しかかる頃合いか。

 

「ぁ……」

 

「?」

 

 背の高いポール看板をフロントガラス越しに見上げながら、ホシノが小さく声を上げる。

 その視線と同じ方角に目をやると、そこにはデフォルメされた大きなクジラが、色()せた姿で月明かりを受けていた。

 

「ホエイル運輸の看板か。この近くにも物流センターがあったんだな」

 

「そりゃあ昔は規模の大きな街だったからね。ちょっとしたランドマークにもなってたんだよー、あの看板」

 

「まあ、あれだけ目立つ見た目してりゃあなぁ」

 

 実際、宣伝や目印としての効果はバツグンだろう。いやはや、あのデザインを考えた奴はなかなか思い切った判断をしている。

 

「で、あれが見えたってことは、そろそろなんだけど……。あっ、気をつけて。そこが右折するところだよ」

 

「おお、ほんとだ。こんなところに」

 

 ホシノが指差す先、建物と建物の隙間(すきま)に小さな曲がり角が姿を現す。

 彼女にナビを任せたのは大正解だ。土地勘のない俺では間違いなく見つけられなかっただろう。

 

「む……。たしかに、ちょいとキツい角だな」

 

 ハンドルを限界まで回し、ゆっくりトラックを進入させる。軍用トラックが通ることなど元から想定されていないその道路は、たった数センチのズレで車体を大きく(こす)ることになるだろう。

 いやまあ、バンパーとサイドミラーが()くのもだが、なにより怖いのは、運悪く車体がつっかえて身動きが取れなくなることだ。さあ、いけるか……!?

 

「ぃよっと! ふぅーっ……」

 

 ハンドルを水平に戻し、アクセルペダルに足を戻す。

 (さいわ)いなことにトラックが何かに接触するようなこともなく、俺は難所を通過できた安堵(あんど)から深く息をもらした。

 

「おお〜! やるねー!」

 

 感嘆の言葉とともに、パチパチパチっと拍手を贈られる。

 

「ふふん。こう見えて運転にはかなり自信あるんだぜ?」

 

 なにせ、俺のいた学校では車両運転も必須科目の1つだったからな。入学初期から嫌というほど叩き込まれたスパルタ訓練の数々は、今でも思い出すたび背筋に冷たいものが走る。

 とにもかくにも、女子に褒められたということも相まってすっかり得意な気分になった俺は、口を()いて出る浮ついた発言が止まらない。

 

「あれくらい、100メートル離れた敵にヘッドショットをキメるよかずーっと簡単さ」

 

「言うねー。ちなみに、おでこが冷汗ビッショリなことには触れない方がいい感じー?」

 

 ピシッと、体が凍りつく。

 なんとなく。本当になんとなーく(ひたい)に手を当ててみれば、アーマー付きグローブの指先が水分で光を反射していた。

 

「………………ハハハ、砂漠は暑いからな。よし、クーラーいれよう。うん」

 

「えー? 夜の砂漠って(ちょー)寒いのに〜?」

 

「ふぐ……!?」

 

「うわ。今の気温、氷点下ギリギリだー」

 

「ぐっふ……!」

 

「窓が結露(けつろ)しちゃってるよー」

 

「ッ〜〜〜! あ、あー! 目的地まで2キロを切った! 各員は装備の最終点検! 全て確実に動作するようにしとけ!」

 

 容赦ない連続射撃に耐えきれなくなった俺は、ホシノの声をかき消すようにわざと声を上げてヘッドセット・マイクに叫んだ。

 通信先は、荷台に同乗している他のアビドスメンバーと先生だ。

 

《ん、わかった。けど、そんなに大声じゃなくても聞こえるよ?》

 

《マモル? もしかして、そっちで何かあった?》

 

「いえ、先生! なんでもありません! ちょっと自分に(かつ)を入れただけです! サー!!」

 

《さ、『サー』……?》

 

《気合いバッチリですね!☆》

 

《う、うーん? 何か違うような……?》

 

 そう。何も問題はない。何も……ながっだ……! 頼むからそういうことにしておいてくれ……!

 

「…………」

 

 ニヤリと、まるでイタズラが成功でもしたかのような笑みを浮かべてこっちを見てくるホシノに悪寒を覚える。

 

「……な、なんだよ……」

 

「無理やり誤魔化した」

 

「ぐぅっ……!!?」

 

 どうやら、このままなかったこと(・・・・・・)にはしてくれないらしい。

 汗で冷えつつあった自分の顔が、今度は羞恥(しゅうち)やら何やらで、カーッと熱くなっていくのを感じる。

 

「わ、わかった! 降参だ、降参する! だからもう勘弁してくれぇ……!」

 

 なんというか、ホシノには(かな)う気がしない。

 これ以上は何を言っても墓穴を掘るだけだと今さら悟った俺は、大人しく白旗を上げることにしたのだった。

 

「うへへ、なんかわからないけど勝っちゃったぜー。イェーイ!」

 

「(こ、こいつ……ユルい性格してるように見えて、実はちょいSっ気混じってるんじゃないか……!?)」

 

 とはいうものの、今のは完全に自爆なので、俺に何か言い返すような(すべ)はない。

 

「はぁ〜……」

 

 下手にカッコつけといて自爆なんてカッコわりぃ……と、自分に呆れてため息をこぼした俺は、そのまま黙ってトラックを走らせるのだった。

 

 ……

 ………

 …………

 

 旧ビジネス街を抜けて十数分後。

 車両での接近は危険だという判断から、俺達はヘルメット団が根城にしている廃墟の1キロ手前で徒歩に切り替えていた。

 この辺りはかつて鉄道網が張り巡らされていたらしく、近くには規模の大きな列車基地もあるとのこと。敵が潜伏(せんぷく)しているのもそこである可能性が高いという意見で一致し、今は砂に埋もれかけの線路をたどって(くだん)の廃列車基地を目指していた。

 

「……ふむ」

 

 小高く積もった砂でできた稜線(りょうせん)に身を隠しながら、俺は双眼鏡を通して見えるあのレンガ造りの建物こそが目的地であると確信する。

 発見は実に容易だった。――誰も使わなくなって久しいはずの建物に、まばゆく照明が(とも)っているのだから。

 

「ほれ」

 

「ん」

 

 隣で同じく頭と犬耳を出して(うかが)っていたシロコに双眼鏡を手渡し、基地の中庭を指差す。

 

「あの作業灯の下、見えるか?」

 

「……バンが停まってる。やっぱり、セリカはあそこに……!」

 

「十中八九な。周囲は高いコンクリート(べい)に囲まれて、入口は2つ。正面ゲートと、側面の作業員用口。それ以外は全て廃材で塞いでやがる」

 

 連中は多少なり知恵が働くらしい。あれは、襲撃された際に侵入してくる敵の数と経路を制限する防御法だ。

 

「――念のため聴いておくが、路線の再建計画とかは?」

 

「いえ、そのような話は一切ありません……」

 

 振り返り、後ろで身を(かが)めていたアヤネに確認するが、返ってきたのは、やはりと言うべきか『No』だった。

 

「路線復活よりも、まずは治安の回復と流出した人口問題のが先だしねー」

 

 言いにくいことではあるが、すでに見放された地でわざわざ列車を走らせる理由はないということだ。

 

「なら、決まりだな」

 

 ジャッキンッ! と、バトルライフルのコッキングレバーを引き、薬室に弾を装填する。それじゃあ早速、敵さんの基地に侵入――す・る・前・に。

 

「……それはそうと、先生は大丈夫なのか……?」

 

 俺の言葉に、全員が『言われてみれば』といった様子で首を巡らせる。

 

「ヒィ……フゥ……! ご、ごめんねノノミ……」

 

「いえいえ、お気になさらないでください」

 

 俺達の視線の先では、こんな寒空にもかかわらず(あご)下から汗を(したた)らせた先生が、ノノミの補助を受けながら砂丘を登ってきていた。

 

「ハヒィ……ハヒィ……! つ、ついたっ……!!」

 

 ようやく砂丘を登り切り、両手を膝に置いて肩で息をつく先生。

 

「先生、大丈夫ですか?」

 

「だ、だいじょーぶっ……!」

 

 俺の問いにそう応えた先生は、「だけどっ……」と息も絶え絶えに続けて自身の体に視線を落とした。

 

「こ、このベストっ、重すぎない……!?」

 

 カッターシャツの上から胴を丸ごと包み込んでいる黒いベスト。いかにも頑丈そうなそれは、細身の先生の体を1.5倍増しで大柄に見せている。

 装着型防弾アーマー。所謂(いわゆる)防弾ベストだった。

 

「我慢してください。先生はヘイローを持たない(・・・・・・・・・)外来人なんです。腹に9ミリ弾を1発食らうだけでも致命傷になりかねません」

 

 そう。先生には、俺達のようなヘイローがない。

 一般的に、俺達キヴォトス人は頭上にヘイローを持っているものだ。それがどんな形やサイズか『目で見る』ことはできないが、呼吸と同じように『何となく感じる』ことはできる。――それが、彼からは感じられないのだ。

 獣人系やオートマタ系ならまだしも、ヘイローを持たない外来人が生身で銃撃に(さら)されようものなら、どうなるかは想像に(かた)くない。

 

「そのベストなら小口径高速弾の接射も受け止めれます。重いし動きにくいのはわかりますが、命には代えれんでしょう」

 

「それはもちろんマモルの言う通りだし、身を案じてくれるのは嬉しいんだけどね……!」

 

 言いたいことはわかる。ただでさえ重いベストを装着しているのに、加えてフィールドは歩きにくい砂地ときた。移動するだけでも消費する体力はバカにならない。

 俺だって、できるなら装備も全部下ろして身軽になりたいものだ。自分でもそう思うほどなのだから、身体能力に大きく差のある先生が(こと)さらそう感じるだろうことも重々承知している。――けど、それでも――。

 

……もう誰も死なせたくないんだよ……

 

「え? マモル、今なんて――」

 

「休憩は十分だ、と言ったんです。ほら、さっさと移動して、さっさと連中との(かた)をつけますよ!」

 

 いかん、つい口をすべらせちまった。

 自分の口の軽さを反省しながら、俺は帽子を目深(まぶか)にかぶり直し、列車基地へ向けて歩を進める。

 

「先生はもう少し鍛えることをオススメします。この程度でヘバってちゃあ、この先、体がもちませんよ」

 

「僕、ヒィ……ヒィ……あまり、アクティブな方じゃ……フゥ……フゥ……なくてっ……」

 

「なら、今日からアクティブな方になってください」

 

「い、一刀両断っ……!?」

 

「うへ、スパルタだー」

 

「鬼教官……」

 

「マモルさんの意外な一面、ですねっ」

 

「見た目も相まって、軍人さんみたいですね……」

 

 みんなして好き勝手に言ってくれるが、俺なんてまだまだマシな方だと思う。ウチの元生徒会長なんて、入学式の挨拶でいきなり『諸君には今日から人間を卒業してもらう(意訳)』とか、超笑顔で言ってきたからな。あのころの俺は……いや、昔を懐かしむのはやめにしよう。

 

「(さて……、やるか)」

 

 ここはもうヘルメット団の拠点だ。集中せねば。

 深く深く吸い込んだ息を吐き出し、首元にかけた黒いスカーフを鼻まで上げる。

 一瞬にして、頭の中が戦闘モードに切り替わった。

 

「っ……、待った」

 

 そう短く告げて足を止めたことで、俺の後続で列をなしていた面々も動きを止める。――敵だ。アサルトライフルで武装したヘルメット団の警備が1名。こちらの存在に気づいた様子はなく、気だるげに突っ立っている。

 建物を囲むコンクリート(べい)にまでたどり着き、その陰に身を隠しながら、側面入口を目前にしての遭遇(そうぐう)だった。

 

「ちょっと預かっててくれ」

 

 すぐ後ろにいるホシノに小声で言って、持っていたバトルライフルを預ける。

 

「おぉ……結構重いね、これ」

 

「色々と着けてるからな。そこで待ってろ、手早く済ませる」

 

「りょーかい。気をつけてねー」

 

「おう」

 

 連中の拠点なのだから、警備が立っているのは当然のことだ。(ゆえ)に想定もできている。

 両手が自由になった俺は静かにそいつの背後まで回り込むと、その首にすばやく腕を回した。

 

「ぐ……!? かっ、は……!」

 

 足を払って地べたに尻を着かせ、抵抗する手段を順に潰していく。そうして暴れる体を押さえつけ、ゆっくりと首を()める腕に力を込めて確実に意識を奪い取ってゆく。

 必死にもがいていたその肢体が、グッタリと動かなくなるまでにそう時間はかからなかった。

 

「いい子だ。そのまま眠ってろ」

 

 気絶した構成員を物陰へと引きずり込み、人目につかない場所で乱雑に転がす。こいつには気の毒だが、しばらく砂の上で寝てもらうとしよう。

 

「(よし、もう来ても大丈夫だ。音は立てるなよ)」

 

 軽く周囲に視線を巡らせて安全を確認した俺は、口の前で人指しゆびを立て、それから小さく手を招くジェスチャーでホシノ達を呼んだ。

 

「手慣れてるねー。実はSRTかどっかの出身だったり?」

 

「いや、俺は辺境の学校出身でな。そもそも、ああいうのはもっと器用でセンスのある奴が行くもんさ」

 

 もっとも、あそこも最近は強制閉校やら何やらの騒ぎでかなり荒れてるそうだが。

 

「さあ、ここらでおしゃべりは終わりだ。連中は茶菓子つきの接待なんざしてくれないぞ。なにせ、ケチで貧乏なやつらだからな」

 

「お(そろ)のヘルメットにはやたらこだわるくせに」と、軽いジョークで緊張を(ほぐ)してから、ゆっくりとドアノブに手をかける。

 夜の闇に(まぎ)れた俺達は、静かに建物へと侵入するのだった。

 

 ▽

 

 廃列車基地の深部にある薄暗い資材倉庫。冷たい鉄筋コンクリートで囲まれた狭苦(せまくる)しいその中に、セリカは閉じ込められていた。

 

「…………」

 

 三角座りで壁に背を預け、抱いた両膝に(ひたい)を乗せてうつむいている。

 孤独感と疲労から、もはや抵抗する気力も(つい)えていた彼女は、ただ部屋の(すみ)で小さくうずくまっていた。

 

「(みんな今頃、私のこと探し回ってるのかな……。ううん、もしかしたら……)」

 

 ――アビドスを捨てて、自分だけ出て行ったと思われているかもしれない。

 置かれた状況と過去の自分の行いを振り返ってみれば、そんなネガティブな思考に行き着くのは自然なことだった。

 

「(そう、だよね……。私だけ意固地になって、ずっとみんなに反対し続けてたから……)」

 

 誰からも見放されたアビドスの復興を手伝うと言ってくれた先生を。

 まったくの他人にもかかわらず、遠く離れた地から助けに来てくれたマモルを。

 頭ごなしに否定して、拒絶し続けた。差し伸べられた手を、払い除けてしまった。これは、その(むく)いなのかもしれない。

 

「……ぐすっ……」

 

 ギュッ……と、膝を抱きしめる力が強くなる。

 

「(このまま、人知れず砂漠のどこかに埋められて……みんなにも忘れられちゃうのかなぁ……)」

 

 泣いちゃダメだと思っても、こみ上げる嗚咽(おえつ)をセリカは止められない。

 

「ヤだ……! ヤだよぉ……!」

 

 ツン、と鼻は赤らみ、熱を持って(うる)んだまぶたからは、とめどなく(しずく)が落ちていく。

 

「だれかぁ……助け――」

 

 その時だった。

 

 バガァンッ!!

 

「きゃあぁっ!?」

 

 重さ数百キロはあろうドアがいきなり爆ぜ、大きな地響きとともに倒れる。

 ドアフレームとの接合部位を吹き飛ばされたそれは、かろうじて四角い原型を留めているだけの鉄クズと化していた。

 

「な……なに……!? 何なの!?」

 

 理解が追いつかず呆然とするセリカだったが、立ち込める黒煙の中に、ふと人影を見つけて一気に警戒を強める。――が。

 

「けほっ、けほっ。セリカちゃん!」

 

「え……?」

 

 聞き覚えのある声に、トレードマークの赤縁メガネ。

 

「アヤネ、ちゃん……?」

 

 黒煙を突き破って駆け寄って来たのは、中学時代からの無二の親友だった。

 

「セリカ!」

 

「セリカ、大丈夫?」

 

 続けて自身を呼ぶ声に視線を上げれば、そこには先生とシロコが。

 

「迎えに来たよ、セリカちゃーん」

 

「ご無事そうで何よりです☆」

 

 さらにホシノ、ノノミと入ってきては、皆(そろ)って安堵(あんど)の表情を浮かべる。

 

「開かぬなら 爆破しちまえ クソ(とびら) ってな」

 

 俳句のようなリズムで物騒極まりないことを言いながら、最後に現れたのはマモル。

 (くだん)のドアを爆破した張本人であろう彼も、セリカの姿を見るやマスクの下を柔和(にゅうわ)な笑みへと変えた。

 

「よう、セリカ。怪我はないか?」

 

 対策委員会のみんなに、先生、そしてマモルも、誰一人としてセリカを見捨ててなどいなかった。それがたまらなく嬉しくて、せっかく引っ込みかけていた涙がまたあふれそうになる。

 

「う、うぅ……みんなぁ……!」

 

「ありゃりゃ、今日のセリカちゃんは泣き虫だねー。そんなにママに会いたかったのかな?」

 

「誰がママよ……。歳ほとんど変わらないでしょぉ……」

 

 いつものようにボケ・ツッコミ漫才を繰り広げるホシノとセリカ。そんな2人の(なご)やかなやり取りは、しかし、けたたましく鳴り響く侵入者警報によって(さえぎ)られた。

 

『基地内で爆発を確認! アビドスの奴らだ! 総員、戦闘態勢!!』

 

 ドタバタと、慌ただしく近づいてくるいくつもの足音に殺気立った怒声。

 計画を妨害されたからか、はたまた非番中のささやかな仮眠を邪魔されたからか。とにかく怒り心頭のヘルメット団は、侵入者を絶対に逃がすまいと、マモル達のいる廊下を完全に包囲した。

 

「……ま、そうなるよな」

 

 (ふくろ)(ねずみ)な状況に、マモルは小さく肩をすくめて苦笑いを浮かべる。

 

「完全にはさまれちゃったね……」

 

 追い込まれて逆に冷静になったのか、先生も「どうしよっか……」と言って、同じく苦笑い。

 

「ご、ごめんなさい……。私、みんなに迷惑ばかりかけて……!」

 

「迷惑なんかじゃないよ」

 

 仲間を危険に(さら)してしまった罪悪感から顔を真っ青にして自責するセリカを、先生が優しく制する。

 

「誰もセリカのことを悪くなんて思ってない。セリカがアビドスのために頑張ってるって、みんなわかってるよ」

 

「先生……」

 

「――それに、別にこの状況が絶対絶命ってわけでもなさそうだしな」

 

 壁に張りつき、隙間からそっと外の様子を(うかが)いながら、マモルが口を開いた。

 

「先日の撃退がよほど効いたんだろうなぁ。奴ら、ビビって前に出てこれないらしい」

 

 言いながら、その口角が何かを(たくら)んでいるようにニヤリと釣り上がる。

 

「向こうが尻込みしてるってんなら、そのチャンスを見逃さない手はないよな?」

 

 不敵に笑うマモルの双眸(そうぼう)には、確かな闘志が宿っていた。

 

「あいつらに、ケンカを売る相手を間違えたと後悔させてやろうぜ」

 

 

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