ブルーアーカイブ 〜ハーメルンの狼〜   作:Su-57 アクーラ機

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6話 Lock and Load

 

《みんな、準備はいい?》

 

 ヘッドセットを通して先生の声が響く。

 これから始まる『戦闘』への緊張感からか、その声音は少し強張(こわば)っているように聞こえる。

 

《は〜い!☆ 西側班、準備完了で〜す!》

 

《今まで散々邪魔してくれた分、キッチリお返ししてやるんだから!》

 

《ん。やることはいつもと変わらない》

 

 ノノミ、セリカ、シロコ、と合図が出る。特にセリカは相当頭にキてるらしく、声からは殺気がにじみ出ていた。さすが、『怒らせると怖そうランキング in アビドス』堂々の1位(順位変動あり)だ。

 

《マモル、ホシノ、そっちは?》

 

「よし……。いけるか?」

 

「うへーい。おじさんならいつでも大丈夫だよー」

 

「あいよ。東側、準備完了です」

 

 この東側班、西側班というのは文字通りの意味で、東西それぞれに設けられた通路のどちらを担当するかで割り振られている。

 東側は出口へと繋がっている方向のため、その進路上に待ち構える敵の排除が任務。西側の役目は、はさみ打ちを狙って攻め入ってくる敵をくい止め、東側班の背後を守ることだ。

 作戦は至ってシンプル。つまるところ強行突破だ。

 ちなみに実を言うと、言い出しっぺは俺だが、それを作戦として組み立てたのは先生だったりする。あの人、優男(やさおとこ)なナリで意外と武闘派だったりするのだろうか……?

 

《上空偵察はお任せください。後方からドローンで得た情報を適宜(てきぎ)皆さんにお知らせします》

 

 最後に、後方にて偵察支援を担当するアヤネ。直接戦闘には加わらないが、頭上から戦場を見渡してくれる存在というのは大変ありがたい。

 

《みんな気をつけてね。例のFlak41がまだ姿を見せてないのが気がかりなんだ》

 

「出てきたら、その時はその時です。40ミリグレネード弾に発煙弾、対戦車手榴弾も持ってきてます」

 

《マモルは歩く武器庫か何かなの……?》

 

 なぜかちょっと引き気味の反応をされたのは、この際、聞かなかったことにしておこう。……本当になぜかはわからないが。

 

「それじゃ、いっちょう始めるか」

 

 タクティカル・ゴーグルを下ろし、腰の装具から棒付き手榴弾を取り出す。

 RPG-40対戦車手榴弾。戦車の装甲をカチ割るほど詰まった大量の炸薬は、ただの手投げ爆弾としても破格の威力を持つ代物だ。

 

「このクラッカーが鳴ったら、パーティー開始だ。よろしく頼むぜ、相棒」

 

「え、あ、あいぼう……?」

 

 なぜかホシノにキョトンとされてしまった。はて、何か変なことでも言っただろうか?

 

「そりゃあ、俺達は今から互いに背中を預けるんだからな、……っと!」

 

 後ろ蹴りで思いっきり開け放ったドアから、安全ピンの抜けた手榴弾を放り込む。

 

「なら、『相棒』って呼ぶのが一番しっくりくるだろ?」

 

「しっくり……。うへへ、そうかも。じゃ、よろしくね相棒〜」

 

 ゴトンッ! と、重い金属がコンクリートの床に落ちる音。そして――

 

「なっ……!? グレネー――!!」

 

 (あわ)れな誰かの悲鳴は、すさまじい爆発にかき消された。

 

「ロックン・ロード!!」

 

 手榴弾の炸裂音にも負けない大声。それは戦いの始まりを告げる合図であり、自分へ向けた(げき)

 それぞれ愛用のエモノを構えた俺達は、待ち構える敵の集団へと飛び出した。

 

 ▽

 

「つっ、つつ、突っ込んで来たぁ!!?」

 

「ああ! あまりに遅いから、こっちから来てやったぜ!」

 

 慌てふためく戦闘員の頭に、マモルは挨拶代わりのライフル弾を2発叩き込む。

 

「おやすみ!」

 

 バイザーを食い破り、顔面を強打する7.62ミリ弾。ヘルメットを(くだ)き割るその威力に、敵は断末魔すら上げずにダウンした。

 

「な、ナメやがってッ……! たった2人で――」

 

「2人いれば十分じゃなーい?」

 

 歯ぎしりする戦闘員の言葉を(さえぎ)り、横合いからホシノが肉薄する。折りたたみ式の(たて)と体格に不釣り合いのショットガンを装備していてもなお、その身のこなしは軽やかだった。

 

「なぁっ……!?」

 

 反応が大幅に遅れてしまった戦闘員が見たのは、自身の顎下(あごした)に突きつけられた――真っ黒な銃口。

 

「はい、まずひとり」

 

 ドンッ! と、放たれた12ゲージのバックショット弾は敵の体を容易(たやす)く宙に打ち上げた。

 

「う、狼狽(うろた)えるな! 腕がよくても所詮(しょせん)は2人だ! 数的優位はこっちにある!」

 

 リーダーの一喝(いっかつ)で即座に態勢を立て直し始めるところは、さすが戦い慣れた集団というべきか。

 ただ、彼ら・彼女らは1つ大きな誤解をしていた。――1+1が、ただの『2』ではない(・・・・ ・・・ ・ ・・・・)ということを。

 

「くたばりやがれェェェ!!」

 

 怒号とともに掃射(そうしゃ)されるマシンガンの弾幕を難なくかわし、二手に別れたマモルとホシノは各々(おのおの)遮蔽物(しゃへいぶつ)へと身を隠す。

 

「うへー、こりゃ相当頭にキてるっぽいねー……」

 

「でりゃああああ――うぎゃっ!?」

 

「悪党どもにキレられる筋合いはないんだけどな――おっとっ」

 

「どりゃああああ――ぅぐえぇっ!?」

 

 銃剣でマモルに斬りかかろうとする戦闘員の横っ面にホシノがスラグ弾を叩き込み、逆に、頭上からホシノに殴りかかろうとする戦闘員めがけて、マモルがライフルに増設したグレネードランチャーを見舞ってやる。

 即興(そっきょう)のチームである2人だが、そのコンビネーションは確実に敵を圧倒していた。

 

「のわあああああああ!!?」

 

「「「く、来るなぁぁぁぁぁ!!?」」」

 

 腹にグレネード弾をめり込ませて吹っ飛んだ戦闘員が、密集する集団のド真ん中へと落っこちていく。その弾の種類は――高威力の炸裂弾。

 

 ボンッッ!!

 

「……うわぉ……。ご愁傷(しゅうしょう)さん……」

 

 結果まで計算していたわけではない。ただただ運が悪かっただけの戦闘員達に、張本人のマモルでさえ思わず同情の声をもらしてしまう。

 絶望的な数の差を誇っていたはずのヘルメット団は、しかし、たった2人を相手にまるで歯が立っていなかった。

 

「ぐ、ぬぅぅぅ〜……!!」

 

 現在進行で次々と部下が倒されていく光景を前に、カタカタヘルメット団のリーダーは握りしめた拳を震わせる。怒りのあまり、愛銃のグリップから嫌な(きし)み音が鳴っていることにも気づかない。

 

「何度も何度も……! こ、こんな廃校寸前の奴らごときにィッ……!」

 

 たった2人を相手に苦戦を強いられ、おまけに、はさみ打ちを仕掛けてやろうと裏手に回した別働隊は返り討ちに()って身動きできない始末。

 怒りと焦りが、彼女から正常な判断力を奪っていく。

 

「おい! あのデカブツを持って来い! あいつらをひねり潰してやれ!」

 

「え!? あ、あんなものをここで使うんですか!?」

 

「ここが使い時だろうが! いいからさっさとしろ!!」

 

「は、はいぃぃッ!」

 

 慌てて走り去る部下の背中を見送ったリーダーは、視線をマモル達に移して不気味に(わら)った。

 

「ふ、ふふふ……! 調子に乗っていられるのもそこまでだ……!」

 

 その言葉に呼応するかのように、ゴロゴロと地面を揺らしながら金属履帯(りたい)のこすれる音が近づいてくる。

 

《おふたりとも注意してください! 正面から何かが来ます!》

 

 無線を通して響くアヤネの声を聞き、マモルとホシノは反射的に正面の格納庫ゲートへ振り向く。

 内部機構が壊れ、修理もされず開きっぱなしにされた左右スライド式の金属壁。そこを間に合わせ程度で塞いでいた廃材バリケードを踏み潰して、『それ』は現れた。

 

《大型の半装軌式車両(ハーフトラック)です! 後部に砲台を確認! ――Flak41と思われます!》

 

 平面を繋ぎ合わせたような角張ったボディに、(いか)ついエンジン音。全身にゴテゴテと取り付けられた不格好な増加装甲は、並大抵の火器では車体に小さなヘコみを作るのが精一杯だろう。

 だがしかし、何よりも2人の視線を引きつけたのは、後部荷台に無理やり載せられたシールド付き88ミリ対空砲だった。

 

 ギュイィィ……ガゴンッ

 

 (ふる)い手動式砲台からは聞こえるはずのないモーター音を上げながら、異様にスムーズな動きで旋回を始める大砲。その照準器が捉えた先にいるのは――

 

「おぉい……マジかよ……」

 

「撃てェ!!」

 

 薄暗い室内をマズルフラッシュが照らした次の瞬間、マモルが身を隠していた廃材の壁が、文字通り吹き飛んだ。

 

「うおおおお!!? チクショーー!!」

 

 廃材が身代わりになってくれたものの、隠れる場所を失ったマモルはすぐさま発煙弾を周囲に3発、4発とバラまく。

 白煙が相手の視界を遮ったその(すき)に、大急ぎでホシノが身を隠している廃列車の陰へとすべり込んだ。

 

「っぶねぇ……!」

 

「今のはヤバかったねー。怪我とかしてない?」

 

「ああ。ちょいと耳鳴りがする程度だ」

 

 ヒラヒラと軽く手を振りながらマモルは応えるが、そのマスクの下は苦虫を噛み潰したような表情をしている。

 

「クソッ、ありゃただのFlak41じゃねえぞ……! んなもんどこから仕入れやがった、あのアホどもっ……!」

 

 体中を火薬くさい(すす)で真っ黒にしながら放たれた悪態に引っかかるものを覚えて、ホシノはわずかに眉をひそめた。

 

「おじさん、あんまりそういうの詳しくないんだけどさ。アレは『普通じゃない』の?」

 

「目視から照準、発砲までに約3秒。手動操作のFlak41にしては速すぎる。――アヤネ、ドローンであの砲台をズームして見れるか?」

 

《少々お待ちください。…………確認しました。旋回装置が手動ハンドルから大型のバッテリーに換装されているようです》

 

「電気駆動か。道理で首の回りが速いわけだ。他には何が見える?」

 

《はい、後方に大型のドラム型構造物が見えます。砲尾とレールで接続されているようですが……》

 

「……そいつは機動砲システム用の自動装填装置だな。あいつら旧式の砲になんつうもん載せてやがる……」

 

《自動装填装置!?》

 

「この様子だと、他にも高倍率照準器にレーザー式測遠器(レーザー・レンジファインダー)、暗視装置だのと、色々載せてるだろうな。だとしたら、あの性能にも辻褄(つじつま)が合う」

 

「ありゃもう外見(ガワ)だけの別物だ」と、マモルは呆れたように続けた。

 事実、その大砲には本来搭載されるはずのない装備がこれでもかと増設されている。主要パーツ以外のほとんどを別物に置き変えられたそれは、カタカタヘルメット団の中では『Flak41改』と名付けられていた。

 

「えぇー? そんなの絶対めんどくさいヤツじゃーん……」

 

「まったくだぜ。どこかにあいつらを餌付(えづ)けしてるクソ野郎でもいるんじゃないかぁ?」

 

《そ、そんな呑気(のんき)に言ってる場合じゃないですよ!?》

 

「わかってるさ。アレは昨日のT-34なんかより、ずっと手強い相手だ。それだけ向こうも本気なんだろう」

 

 珍しく声を荒げるアヤネに、マモルは左腕の部隊章をトントンと()でながら応える。その仕草は、彼が気合いを入れる時にいつも無意識で行う(くせ)だった。

 

「とにかく、アレの相手はこっちに任せてくれ。代わりに、西側3人の補佐と先生の護衛は頼んだ」

 

「そーそー。こっちはおじさんと打鉄くんでテキトーにやっとくからさー、そう心配しなくても大丈夫だってー」

 

《マモルさん……ホシノ先輩……。わかりました! どうかご無事で!》

 

 プツリ、と短く音を立てて交信が終了する。

 

「さて……。任せろとは言ったものの、アレに生半可な攻撃は通じないからな。(ふところ)にもぐり込んでデカい爆弾で叩くしか方法はないわけだが……」

 

「そもそもアレに近づけないと話が始まらないもんねー」

 

「ああ。だが、いくら高性能とはいえ、複数目標を同時には狙えん。だから――」

 

「どっちかが(おとり)になるってかんじ?」

 

「その通り。じゃ、正解したキミにはコイツを」

 

 そう言われてホシノが手渡されたのは、先ほど敵を吹き飛ばした強力な対戦車手榴弾だった。

 

「使い方は簡単だ。しっかり握って安全ピンを抜く。あとは投げるだけでいい。(おとり)役は俺がやる」

 

「………本気で言ってるの?」

 

 目を細め、つい()の口調に戻ってしまう。ホシノからすれば、マモルの発言はそれほどまでに意外だった。

 

「(……いったい、なんのつもりで……)」

 

 普通、敵の弾幕に(さら)される囮役など、最も危険で忌避(きひ)されるような役柄だ。相手が最新装備を搭載した攻撃兵器ならばなおさら。にもかかわらず、なぜ無関係な者のために躊躇(ためら)いもなく体を張るのか。

 下心にまみれ、利益と自己保身しか頭になかった者をこれまで嫌というほど見てきたホシノには、それが不思議でならなかった。

 

「(もしかして、何か裏が……――)」

 

 と、そこまで思考するホシノだったが、直後にマモルが放った言葉で全てが霧散(むさん)した。

 

「任せろ。必ず守る」

 

「……!!」

 

 月並みの台詞なのに、声音からは薄っぺらさをどこにも感じない。

 ニッと、マスクを通して浮かべる笑みは力強く、そのダークブルーの(ひとみ)に宿す意志は確かで――

 

「だから俺を信じて、キミは真っ直ぐ進んでくれ」

 

 そして、どこまでも真っ直ぐだった。

 

「(……まさか……本当に、本気で……?)」

 

「――大人しく出てこい! そうすれば少し痛めつけるだけにしてやる!」

 

 庫内をこだまする愉悦混じりの声が、ホシノの頭を強制的に戦闘へと引き戻す。

 辺りを包んでいた煙幕はすでに薄れ始めていて、このまま2人が見つかるのには数分とかからないだろう。

 

「ハンッ! 返答は『クソ食らえ』だ」

 

 自分達の優位はもう崩れないと、そう高をくくるヘルメット・リーダーを鼻で嗤い、マモルは勢いよくアンダーバレル・グレネードランチャーに弾を込める。

 

「さあ、第2ラウンドといこうか。プレゼントの配達は任せたぜ、相棒」

 

 昨日出会ったばかりで、何者かもわからないような相手を無条件に信じられる道理も根拠もない。だが――。

 

「はぁ〜。まっ、任されたからには、おじさんも頑張るかー」

 

 確かにあの瞬間、ホシノの目にはマモルが、これまで見てきた汚い人間とはまったくの別に見えたのだった。

 

「よぅしっ! ()してやろうぜ!!」

 

 そんな威勢のよい台詞とともに敵集団のド真ん中へ突貫を仕掛けたマモルに続き、ホシノも廃列車から飛び出す。

 

「(守る、か……)」

 

 進路を塞ぐ敵を数人なぎ倒し、Flak41改を真っ直ぐに目指しながら、ホシノは頭の中であの言葉を反芻(はんすう)させた。

 

 ――必ず守る――

 

 そんなこと誰かに初めて言われたなぁと、ふとそう思い返す。そうして気づけば、視線は無意識にマモルの姿を捉えて離さなかった。

 

「(なんなんだろう。コレ……)」

 

 まだ、完全に信用したわけじゃない。けれどもほんの少しだけ、ホシノの()てついた心を『何か』が()り動かしたのだった。

 

 ▽

 

「バカが、顔を出しやがった! 撃て撃て! ズタズタにしてやれ!」

 

 リーダーの声に低い駆動音で応えたFlak41もどきが、すばやくこちらを指向する。

 

「撃てェ!」

 

「(今だっ……!)」

 

 機関砲が発射される直前、俺は装填していたグレネードランチャーを砲手用照準器に撃ち込んだ。

 当然、40ミリ程度のグレネード弾では厚い装甲はビクともしないが、狙いは別にある。

 

「うわっ――!?」

 

 小規模とはいえ、爆発閃光をマトモに見てしまったのだろう。砲手の手元が狂ったFlakは俺の顔のすぐ横に向けて火を噴いた。

 

 ヒゥンッ……!

 

 鋭い風切り音を残して通過していった88ミリ砲弾は、格納庫の内壁に当たって周囲をめちゃくちゃに破壊する。相変わらずの破壊力だな……と、激痛に(あえ)いで(もだ)え回った記憶がよみがえった。

 

「(とにかく、こいつらをホシノから引き離す……!)」

 

「逃がすな!」

 

「野郎をハチの巣にしちまえ!」

 

 Flakを中心に、左回りで円を描くように走り抜ける。撃つことに必死になっているヘルメット団の意識は、とにかく俺に集中した。

 

「ぐっ……」

 

 ドズッ! と、右脚に強い衝撃と鈍痛を感じて、自分が被弾したことに気づく。……この威力は対物狙撃銃か。

 すぐさま発射されたであろう方角に視線を動かせば、予想通り、狙撃銃持ちの戦闘員とスコープ越しに目が合った。

 

「こいつ、直撃したのに――!?」

 

その程度(・・・・)で仕留めた気になるなよ!」

 

 姿勢を低くして、その狙撃銃持ちの(ふところ)へと入り込む。

 

「このっ……!」

 

「脚に1発くれた礼だっ!」

 

「あぐっ!?」

 

 振り下ろされた銃床(じゅうしょう)を左手で受け止め、鳩尾(みぞおち)にお返しの1発。

 

「こっ、このヤロォォォ!」

 

 今度は、すぐ近くにいた別の戦闘員がマシンガンをバカスカ撃ってくる。――が、半狂乱の射撃は狙いがブレまくっていて、ただムダ弾を消費しているに過ぎない。

 

「ふん!」

 

「がっは……!?」

 

 かすめた程度ではダメージとも呼べず、数発の直撃弾もアーマーと持ち前の丈夫さが受け止める。

 ()えて真正面から最短距離でマシンガン持ちに肉薄した俺は、銃口に取り付けた近接戦用のスパイク・ハイダーで無防備な胴体に打突を食らわせた。

 

「撃て!」

 

 ズガァンッ!!

 

 体の芯に響くような轟音。

 Flakから射出された88ミリ砲弾が、音速を超えて飛来する。もはや、ここが自分達のアジトだとか、味方が密集しているだとか、そんなことは範疇(はんちゅう)にないらしい。

 

「っ……!!」

 

 前に踏み込んだ左足で急制動をかけ、同時に上体を右にひねってほぼ直角に進路を変更する。行き場を失った砲弾は俺のすぐ後ろに着弾して爆ぜ、粉々に砕け散ったコンクリート片が横雨のように降りそそいだ。

 

「バカっ! 外したぞ!」

 

「クソッ、ちょこまかと……!」

 

 なんとか回避はできたが、そう何度も同じようにはいかない。敵はすぐにこっちの動きを学んで、いずれは正確に当ててくるだろう。それまでには決着をつけなければ。

 

「(頼むぞ、ホシノ……!)」

 

 チャンスは一度っきり。装甲で(おお)われていない背面を晒した時が決め手だ。ただ問題なのは、その瞬間まで敵に俺を狙わせ続ける(こちらを向かせ続ける)必要があるということ。

 しくじればどうなるか、どれだけの人が傷つくかなんて想像するまでもない。そうさせないために、俺はここにいるんだ――!

 

「だああァァァァ!!!」

 

「そんなバカなっ……!?」

 

 ガトリングガンをぶっ放してくる戦闘員に全速力のタックルを食らわせる。

「ぐえっ!?」と、くの字に折れたその身体をさらに左腕で(つか)み上げた俺は、やたらと重くゴツい防弾装備で身を固めたそいつを弾除(たまよ)けにしながら敵の集団と撃ち合った。

 

「(今度こそ守ってみせる……! 守りきってやる!)」

 

 長い銃身から加速して放たれる、強力な7.62ミリ弾のフルオート射撃。装弾数にして20発分を撃ち尽くすと同時に、最後の1人が(ひざ)から崩れ落ちた。

 しかし次の瞬間、無防備となった背中に砲弾が撃ち込まれる。

 88ミリの榴弾(りゅうだん)。それは、あのFlak41もどきからのものだった。

 

「がッ……!?」

 

 紙くずのように軽々と吹き飛ばされた俺は、金属製コンテナに全身を強く叩きつけられる。

 揺れていた視界がようやく戻ってきたと思った時には、すでに敵が次弾を装填してこちらを完全に照準していた。

 今度こそ、どこへも逃げようがない。万事休すの状況。

 

「……!」

 

 だがそれも、流れるような『淡い桃色』を目にしたなら、話は別だ。

 

「くっ、ふふ……」

 

 動けば即座に撃たれる。そんな状況にもかかわらず、俺は口元をつり上げてほくそ笑んでしまう。

 そう。――無防備な背中を(さら)したのは、ヤツも同じなのだから。

 

「よ、ようやく捕まえたぞ。好き勝手に暴れてくれやがって……!」

 

「なんだ。お前ら、もう忘れたのか? それとも目が節穴(ふしあな)なのか?」

 

「なにを言って――」

 

「俺達は、『2人組(タッグ)』なんだぜ?」

 

「!!?」

 

 ギクリと、敵は肩を跳ねさせるが、気づいた時にはもう遅い。

 刹那、スニーカーシューズの軽快な着地音が静かに響いた。最高のタイミングだ……!

 

「悪いんだけどさー。キミ達に構ってあげられるほど、おじさん達も(ひま)じゃないんだよねー」

 

 気だるげに間延びした口調に、なんとも風変わりな一人称。

 死角からFlak41もどきの背後を取ったホシノが、月明かりを背に受けて立っていた。

 

「し、しまっ――!?」

 

「遅いよ」

 

 無情にも投げ込まれる対戦車手榴弾。安全装置は、もちろん外れている。

 マッチ1本火事の元とはよく言うが、爆薬で満たされた箱に火のついたマッチを捨てたら、それはもう火事程度で済むはずがなかった。

 

「ははっ、デッケぇ花火だぜ」

 

 吹きつける熱風と格納庫を揺らすほどの衝撃が、爆発のすさまじさを物語っている。

 爆風に持ち上げられてビックリ箱のごとく宙を舞う砲塔を見上げながら、俺は勝利を確信するのだった。

 

 ……

 ………

 …………

 

「はぁ〜、やーっと片付いたよー……」

 

 ダルそうに伸びをしながら、ホシノが歩み寄ってくる。

 東側の敵はもちろん全滅。他に銃声も何も聞こえないので、西側も無事に戦闘を終えているようだ。

 

「大丈夫? 立てそう?」

 

「おう。なんのこれしきっ……ぁいてて……」

 

 差し出された手を握り返し、立ち上がろうと踏ん張った瞬間、背中から右脇腹にかけて走った重く響くような痛みに俺は思わず顔をしかめた。

 

「あっ、無理しちゃダメだよー。背中からモロに食らったんだから……」

 

「むしろ、よく意識を保ってられるよ……」と、驚いたような、呆れたような、そんな様子のホシノに支えてもらって立ち上がる。

 ズクズクと脈打つような痛みはしばらく続きそうだが、不意を突かれたことへの反省はあれど、自分の行いに対する後悔なんてものは微塵(みじん)もなかった。

 

「なぁに、丈夫なのが取り柄だって言ったろ? こんなもんじゃ俺は倒れねえぞ。撃つまで撃たれ、撃ったあとは撃たれない! ってな」

 

「なにそれ?」

 

「100発撃たれても、101発撃ち返してやりゃいいってことさ」

 

「……脳筋……?」

 

「おうコラ、だーれがイノシシとゴリラの合の子(あいのこ)だぁ?」

 

「うへぁ!? 言ってない、言ってないよ〜!」

 

「はっはっはっ。冗談だ、じょーだん」

 

「もー! ひどいよ〜!」

 

 先刻の車内での一件に対する『お返し』に軽ーくからかってやる。

 初めて見るホシノのアタフタした姿にひとしきり笑ってから、俺は、それにしても……と周囲に視線を巡らした。

 

「(……似たやり口だ(・・・・・・))」

 

 いきなり()いて出た不良集団、理由不明の度重なる襲撃。そして、連中には明らかに不相応な兵器・装備の数々。どれも、俺達の学校が()った状況に酷似(こくじ)しているのだ。

 確証はないものの、しかし偶然とも思えない。俺には、どうもきな臭く思えてしょうがなかった。

 

「……………」

 

 もしそうなら、これはまだ序章に過ぎない。

 そこらで気絶してるヘルメットどもも所詮(しょせん)は捨て駒、疑いの目を避けるための身代わりだ。『奴ら』ならば――

 

「打鉄くん?」

 

「っ!? ぁ、ああ。どうした?」

 

 意識外から突然名前を呼ばれて、思わず肩が()ねてしまう。

 見ると、ホシノが怪訝(けげん)そうに俺の顔をのぞき込んでいた。

 

「どうかしたわけじゃないけど、キミがすごく怖い顔して黙り込んじゃったからさー」

 

 ……いかんな。そんな顔してたのか、俺は。

 

「いやな、この一連の事件、本当にこいつら単独での行動なのかと考えてたんだ」

 

「そういえば、さっきも言ってたよね。『あいつらを餌付(えづ)けしてるクソ野郎でもいるんじゃないか』ーって」

 

「そう、それがどうも気になってな。しかしまあ、考えるだけじゃ始まらんからな」

 

 ふむ、と腕時計に視線を落とす。ちょうど23:00(フタサンマルマル)。…………やるか。

 

「少しこいつらの口を割らせてくる。2、3発銃声が聞こえても気にしないでくれ」

 

「うへー……、発言が物騒すぎだよー……」

 

「だいじょーぶだ。最初はやさしく(・・・・・・・)聞き出す」

 

 もちろん、素直にしゃべってくれたら、だが。

 心の中でそうつぶやき、リーダー格と手ごろな戦闘員の襟首(えりくび)を引っつかんだ俺は、気絶した2人を引きずって格納庫内の小部屋へと向かうのだった。

 

 ▽

 

「う……?」

 

「こ、ここは……」

 

 薄暗い部屋の中、2人のヘルメット団員はフラフラと目を覚ます。

 ボヤける視界で互いに仲間の姿を見つけ、そして自分達がロープでイスにしばられているのだと気づくと同時に、それを待っていたかのように低い声が響いた。

 

「よう、起きたかムシケラども。早速だが、質問に答えてもらうぞ」

 

 声の主は、すぐ目の前にいた。

 鼻まで上げた黒いスカーフに、タクティカル・ゴーグルと帽子で人相(にんそう)を隠した男が、ドカリとふてぶてしく木箱に座っている。

 そいつ――マモルが、今しがた自分達のアジトで散々暴れ回った奴らのひとりだと思い出した2人は、当然ながら怒りに目をつり上げた。

 

「て、テメェっ……!!」

「この野郎、よくもっ……!!」

 

 続く罵声(ばせい)は、しかし、ジャカッとハンドガンのスライドを引く音に止められた。

 

「マカロフか。ずいぶんシブい銃を使うな。が、しかしどこを探しても登録番号が見当たらん。どこで手に入れた? あのFlakの出どころは?」

 

「「……………」」

 

 2人は口を『へ』の字に歪めてだんまりを決めこむ。それは、身動きが取れないなりの抵抗のつもりだった。

 

「おいおい、言葉がわからないなんてことないよな? 読み書きぐらい習ってるだろ、ええ? ――俺が習ったのはな、お前らみたいな人間の口の割らせ方だ」

 

「ハンッ」

 

 冗談めかした風に言うマモルを、リーダーが鼻で嗤う。カタカタヘルメット団を束ねるだけあって、この尋問(じんもん)に物怖じしている気配はなかった。

 

「『お願いします』が抜けてるぞ。赤点だ。さっさと補習でも受けてきな」

 

「んふっ……くくくっ……!」

 

 リーダーの切り返しに威勢を取り戻した隣の戦闘員も、イスにしばられながら笑いをこらえている。

 完全にナメられている。そのはずなのだが、マモルの反応は怒るでも困惑するでもなかった。

 

「ふっ、ははははっ! うまいこと返してきたなぁ! いやはや、一本取られちまった。ははっ、こりゃ笑えるぜ」

 

 2人のヘルメット団員につられてマモルも声を上げて笑い、それがさらに互いの笑いを誘発する。剣呑(けんのん)な空気が薄れたと思った――次の瞬間だった。

 

「あがっ!!?」

 

 いきなり立ち上がったマモルが、戦闘員の口にハンドガンの銃口をねじ込む。

 

 パンッ、パンッ、パンッ!

 

 口の中で弾ける3連発。そこに容赦や躊躇(ためら)いといったものはない。

 死んではいないものの、ついさっきまで呑気に笑っていた不良男子はグッタリと動かなくなった。

 

「はぁ……、ダメだな」

 

 不満げにため息をつきながら、マモルは木箱に座り直す。

 

「腕が(なま)ってる。たしかに赤点だ」

 

 台詞とは裏腹に、その()わった目には冷徹な光が宿っていた。

 

「そいつのことは悪かった。ノリのよさそうな奴だったのに」

 

「なっ、ぁ……!?」

 

「さて、質問を変えるぞ。裏で糸を引いてる奴は誰だ?」

 

「ふ、ふっ、ふざけるなよ! この――」

 

ナ メ た 口 き く な

 

 地の底から響くような声に危険なものを感じて、リーダーは反射的に口をつぐむ。

 突きつけられたハンドガンと――何より、自身を射抜く絶対零度の視線が、『次はお前だ』と言外に告げていた。

 

 




尋問シーンはとある映画のオマージュなのですが、シーンだけ見ると完全にこっちが悪役……。
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