ブルーアーカイブ 〜ハーメルンの狼〜   作:Su-57 アクーラ機

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7話 角笛を吹くオオカミ

「うっそでしょ……」

 

 辺りを見渡すセリカの口から、そんなつぶやきがもれる。

 そこら中に転がる気絶したヘルメット団、砕けて中身をむき出した鉄筋コンクリートの支柱。さらには、胴体が半分吹き飛んだ装甲車両まで。

 完膚(かんぷ)なきまでの――壊滅――。それ以外に表現しようのない光景を前にしてみれば、先の言葉が口を()いて出たのもしかたないのかもしれない。

 

「……これを全部、ホシノ先輩とマモルで?」

 

 珍しく、情緒の薄い顔を唖然(あぜん)としたものに変えるシロコ。そんな彼女の眼前には、Flak41改だったモノ(・・・・・)が変わり果てた姿で転がっていた。

 

「いやぁ、ほとんどは打鉄くんかなぁ。おじさん、もう歳だから身体がついてこなくてぇ」

 

「若い子が羨ましいよぉ〜」などと言って腰を(さす)るホシノの姿は年寄りのそれだが、しかし、口で言うほど消耗しているようには見えない。

 ほんとに規格外……と改めて驚いたシロコは、そういえば、このとんでもスペックな先輩の相方がいないことに気がついた。

 

「マモルは?」

 

「えーっと……。ちょっと『お話し中』、かな?」

 

 ヘルメット団を尋問中と直球に告げるのも何となく(はばか)られたホシノは、言葉を(にご)して奥の部屋に視線をやる。

 

「お話し……って、もしかして……?」

 

 明らかにボカした台詞と仕草に、何となく意味を察した先生が口を開いた、その時だった。

 

 パンッ、パンッ、パンッ!

 

「「「「!!?」」」」

 

 閉ざされたドアの向こうから、くぐもった破裂音が3回。静寂(せいじゃく)を切り裂いたそれは、間違いようもなく銃声だった。

 

「ちょっ……! まだ残ってたの!?」

 

「先生、下がってください!」

 

「シロコちゃん」

 

「ん」

 

 突然の銃声に肩を跳ねさせた4人は、すぐさま戦闘態勢に入る。

 それぞれが配置につき、『さあ、いつでも来い』と身構えたところで横合いからの声が制止した。

 

「あー、待って待って。そんなに慌てなくても大丈夫だから」

 

「うん。たぶんだけど、ヘルメット団じゃないと思う」

 

 止めたのは、事情を知るホシノと、音の主に(かん)づいた先生。2人の落ち着き払った様子に、それなら……と、一同も銃口を下げる。

 たしかに、ヘルメット団の残党だったなら数発程度の射撃で済むはずはない。

 ――ということは、考えられる人物はあと1人。

 

「じゃあ、今のはマモルが?」

 

「じゃないかな〜。銃声が聞こえても気にしないで、って言ったの本人だし」

 

「マモル……、撃つのは前提なんだね……」

 

「あっ。『お話し』って、そういう……」

 

「……あいつ、普通に容赦ないわね……」

 

「あ、ははは……」

 

 本人の知らないところで、マモルの人物像が『良い人なんだろうけど、ちょっとヤバそうな奴』という認識で固まっていく。要するに、少し引き気味だった。

 

……あちゃー……

 

 説明のためとはいえ、後輩達や先生の何とも言えない表情に、ちょっと悪いことしたなぁと、ホシノは小さく苦笑いを浮かべる。

 しかしまあ、敵の拠点内で聞こえた銃声を警戒しないわけにもいかないので、一応確認だけでもしに行こうと、ショットガンを手に(きびす)を返した。

 

「念のため、おじさんが様子を見てくるから、みんな良い子で待っててねー」

 

「それなら、僕も一緒に行くよ」

 

「うへへ、先生がついてくれるなら安心だー」

 

「じゃ、行こっか」と言って、ホシノは先生を連れ立って銃声のあった部屋へと向かうのだった。

 

 ……

 ………

 …………

 

「――。……?」

 

「っ……。〜〜…!」

 

 かすかに聞こえた話し声に、ホシノと先生は自然と忍び足になってしまう。

 はじめから後ろめたいことを考えて近づいたわけではなかったが、息をひそめて気配を殺した2人は、廊下の角からそっと室内をうかがった。

 

「なるほど。そう簡単に尻尾を出すはずもないか」

 

 そう言って、ふん……と鼻を鳴らしたのはマモル。彼の前には、カタカタヘルメット団のリーダーと、その隣で気絶した戦闘員がイスにしばられている。

 その尋問者が、クルクルと手の中で(もてあそ)ばせているハンドガンを見れば、ここで何があったかは一目瞭然(いちもくりょうぜん)だった。

 

「よし、もういい。質問は以上だ」

 

 これ以上は情報を引き出せないと判断したのか、マモルが、のそりと木箱から立ち上がる。

 

「「っ!!」」

 

 まずい、こっちに来る! と、隠れて見ていた2人は後退(あとずさ)るが、不意に口を開いたヘルメット・リーダーの声が、その場にいた全員の足を止めた。

 

「お前、アビドスの奴じゃないだろ。なんであんな連中に手を貸すっ……!?」

 

「……!」

 

 それは、ホシノ自身も感じていた疑問。なぜ、来たのがアビドスなのか。何が目的なのかを知り得るチャンスに、彼女は思わず顔まで寄せて聞き耳を立てた。

 

「……ただの個人的な感情だ。それをお前が知って何になる?」

 

「個人的な、感情だと!? わ、私達のビジネスをぶち壊しておいて、ふざけるのも大概に――」

 

オイ今なんつった?

 

 圧のこもった低い声音が、(うら)(ぶし)を遮った。

 

「これがビジネス? 他人から大事なもの根こそぎ奪い取って、日常すらぶち壊して、そんなものがビジネスだと? 奪われる側の気も知らない奴が、よくもぬけぬけと言いやがる……!」

 

 声こそ荒げないものの、吐き捨てるような口調からは隠しきれない怒気が(にじ)み出ている。

 ホシノも、先生も、そんなマモルの姿など想像すらしておらず、ただただ唖然としてしまっていた。

 

「いいか、よく覚えておけ。これ以上は、お前らの好きにはさせん。そのバカげたビジネスとやらも必ず潰してやる。1つずつ、1円ずつ。確実にな……!」

 

「くっ……!」

 

 人さし指を突きつけ、ただの脅しではなく宣言するように告げる。

 ――その一瞬。向けられた左腕が、射し込んだ月明かりを浴びた刹那(せつな)、ヘルメット・リーダーの(にく)らしげな表情が、一転して引きつった。

 

「お、おまえっ……!?」

 

「………?」

 

 異変に気づいたマモルが、(いぶか)しげに目を細める。

 そんな何気ない表情の変化にもビクつくヘルメット・リーダーの変様ぶりが、ホシノと先生をさらに困惑させる。

 

「その、部隊章……! つ、角笛を吹くっ、オオカミ……!!?」

 

 釘づけになった視線の先には、点々とシミに汚れた部隊章。赤茶色に乾いたそれは、まるで落ちない血の(あと)のよう。

 面ファスナーで留められた、その厚手の布地の中では、牙をむき出して不敵に笑うオオカミが角笛を吹いていた。

 

「……角笛を吹く、オオカミ……?」

 

 眉をひそめて、ホシノは口の中でつぶやく。

 元来、他校の生徒のことになど興味のない彼女が知るはずもないが、どうやらあのヘルメット・リーダーのように、一部では知られた存在のようだ。それも、おそらく悪い意味で。

 

「(先生、聞いたことある?)」

 

「(ごめん。赴任(ふにん)したばかりで、僕も何も知らないんだ)」

 

 ひょっとしてシャーレの先生ならば、と視線を向けてみるが、同じく眉をひそめて首を横に振る動作だけが返ってくる。

 今の2人には、マモルの過去に何かがあった、ということくらいしかわからなかった。

 

「ま、まさか! お前、ハーメルンのオオカ――!!」

 

 焦って何かを叫びかけたところで、2発の銃声に黙らされる。

 胸と頭にそれぞれ1発ずつ叩き込まれたリーダーは、短いうめき声を残して力なく沈んだ。

 

「情報提供どうも。だが、()かれていないことはしゃべらなくていい」

 

 薄く硝煙(しょうえん)の上がるハンドガンを下ろし、動かなくなったリーダーにマモルは冷たく言い放つ。

 その一部始終を陰から見ていたホシノは、胸中にどうにも(ぬぐ)えない違和感を覚えた。

 

「(……あいつ、今……)」

 

 一見すれば、ただ用済みになった敵を眠らせただけ。

 だがあの瞬間、まるでリーダーの言葉にかぶせた(・・・・)かのような銃撃が、ホシノには、これ以上余計なことをしゃべらせないように――聞かれたくない『何か』を隠そうとしたように見えたのだった。

 

「ホシノ、そろそろ行こう」

 

「えっ? ……あ、うん……」

 

 さすがにこれ以上の盗み聞きはよろしくないし、何よりバレるだろうと感じた先生に肩を叩かれたことで、思考は一度打ち切られる。

 言われて気づいたが、廊下(ろうか)の奥からはコンバット・ブーツの重い足音が近づいてきていた。いつまでもここにいれば、間もなくマモルとはち合わせすることになってしまうだろう。

 

「(……角笛を吹くオオカミ……、ハーメルン……)」

 

 音を立てず足早にその場を去る道中、ホシノは頭の中で2つの言葉を何度も何度も反芻(はんすう)させる。

 どれも聞いたことのないワード。何かのコードネーム? それともあだ名か何かだろうか? いずれにせよ――。

 

「(あいつは、いったい)」

 

 ――何者、なのだろうか。

 違和感は、疑惑へ。謎は深まるばかりだった。

 

 ▽

 

《話が違うじゃねーかッ!!》

 

「いきなりなんだ。何を言っている……」

 

 ビリビリとスピーカーを震わせるガナり声に、男は不愉快そうに顔をしかめながら受話器を耳から遠ざける。

 いつまで経っても完了しない仕事の進捗(しんちょく)を問いただし、ついでに嫌味のひとつでも言ってやろうと電話をかけた矢先の出来事であった。

 

《アビドスの生徒はたったの5人だけって話だったろ!? なのに、なんで『ヤツ』までいるんだよ!!?》

 

「だから、いったいなんの話を……!」

 

《――ハーメルンのオオカミ(・・・・・・・・・・)までいるなんて聞いてねーぞ!!》

 

「なに……?」

 

 要領の得ない一方的な怒声に苛立ちを覚え始めていた男だったが、ふと聞き覚えのある単語を耳にして動きを止めた。

 

「(ハーメルンのオオカミ……。(うわさ)で聞いたことはあるが、まさかアビドスに来ていたというのか……?)」

 

 裏社会で、その名を知らぬ者はそうそういない。

 ただの噂話や目撃談から、信じるのもバカバカしい与太話まで事欠かず、しかし素性などはほとんど不明の人物。わかっていることと言えば、そいつが、オオカミなんて生易しい程度の存在ではないということ。

 

「(そんな奴が、なぜ……? 戦力として(やと)えるほどの資金はアビドスに残っていないはずだが……)」

 

「とにかく! 私達はこの件から降りる!」

 

「なっ……! おい、仕事はまだ――」

 

「知るかっ! 他のでも雇えばいいだろ!」

 

 ブチッ! ツー、ツー、ツー

 

 好き勝手なことを言い残して、電話は一方的に切られた。

 

「ぬ、ぬぅッ〜〜〜! ……まあいい。役立たずどもに、これ以上ムダな出費をしなくて済んだというものだ」

 

 カッと瞬間湯沸かし器のごとく沸騰する頭を、深呼吸をおいて平静に戻す。

 

「しかし、本当にヤツもいるとなれば、相応に専門家が必要か」

 

 ギシリと、希少動物の皮で作られた背もたれへとその身を沈めた男は、今度は別の電話番号を呼び出した。

 

《はい。こちら便利屋68(シックスティーエイト)です。ご要件をお(うかが)いします》

 

「便利屋。キミ達に任せたい依頼がある――……」

 

 ▽

 

「たぶん、ここだよね?」

 

「じゃないですかね? ここ以外、みんな真っ暗ですし」

 

 電気代を少しでも節約するためなのだろう、ほとんどの照明が落とされた校舎内は、自分の足元すらまともに見ることができない。

 飛ばし飛ばしに(とも)された最低限の照明と、時折雲の切れ目から射す月明かりだけが頼りの廊下にて、俺と先生は『第3保健室』という札が()された部屋の前にいた。

 

「入るよ」

 

「あ……。先生、それにマモルも」

 

 コンコン、とノックをして入室する先生のあとに続くと、そこには仮眠ベッドに腰かけたセリカがいた。

 

「やあ、セリカ。お見舞いに来たよ」

 

「よう。調子はどうだ?」

 

「も、もちろん元気よ! ほら、この通りピンピンして――つぅっ……!」

 

「おうおう、無茶するなって。8.8センチ弾の砲撃を食らったんだから……」

 

 無理に立とうとしたセリカをたしなめる。

 今回の誘拐事件と、その後の激しい銃撃戦は彼女の体力を大きく消耗させるものだった。後遺症などは残らなかったものの、誰がどう見ても絶対安静であることは間違いない。……それにしても、この子のガッツは大したモンだと思うが。

 

「ほら、大人しくしときな。対策委員会の戦いは、まだまだこれからだろ?」

 

「そうだね。しっかり休んで元気になったら、またみんなで頑張ろう」

 

「う、うん……。……ありがと

 

「―――!」

 

 驚きのあまり、つい(ほう)けたツラを(さら)してしまう。

 今のセリカの言葉はそれほどまでに意外で、となりに立つ先生も、丸くした目をしばたたかせていた。

 

「な、なによ……」

 

「え? ああ、いや、まあ……」

 

「ちょっと驚いた、というか……」

 

 まさか、ありがとうなんて言われるとは思ってなかった。などと言えるわけもなく、歯切れ悪く答える俺達にジト目が刺さる。

 

「わ、私だってお礼くらい言えるわよっ。その……助けて、もらったわけだし……」

 

 そう言って、気恥ずかしそうに視線をそらしたセリカの(ほほ)は淡く火照(ほて)っていた。

 

「「……………」」

 

「ちょっ……! な、なにニヤニヤしてんのよ!」

 

 仲間として受け入れてもらえた気がして、俺も先生もつい口元がゆるんでしまう。それを見られて、ネコのように髪を逆立てて怒られてしまうが、それでもこの気持ちはどうにも抑えようがなかった。

 

「ははっ、悪い悪い。ちょっと嬉しかったもんでな」

 

「なにがよっ!」

 

「まあまあ、セリカ。落ち着いて」

 

「だっ、誰のせいで落ち着けないとっ……!」

 

 羞恥(しゅうち)と興奮とでめちゃくちゃなセリカが、真っ赤な顔で先生をにらむ。――が、当の本人はというと、キョトンとして小首をかしげていた。なんだなんだ? なんの話だ?

 

「えっ、僕?」

 

「あっ、いや。それは、その……」

 

 心当たりありません、といった表情の先生に返されて、今度はセリカの歯切れが悪くなる。

 

「(はて……)」

 

 何かあっただろうかと、俺もなんとなく記憶を巡らせてみるが、残念ながら思い当たるような場面が見つからない。

 

「ごめん、まったく覚えにないや。何かしちゃってたなら謝るよ……」

 

「べ、別にっ……! ひどいこと言ったのに、助けに来てくれて、優しいこと、言ってくれたり、とか、だから……

 

 ゴニョゴニョと何かを口ごもるセリカ。小動物みたく縮こまり、先生の視線から逃れるかのように背ける顔。熟れたトマトのような頬。

 (はた)から見てもおかしな様子に、ひょっとして? と(かん)ぐりを働かせてしまう。

 

「セリカ?」

 

「な、なななっ……!? なんでもないわよっ! こっち見んなぁ!」

 

 もはや赤面を通り越し、今にも蒸気を噴き出しそうな有り様を見れば、いい加減察しもついた。……ははァん。なるほどぉ?

 

「んくく……」

 

 思わずもれそうになった笑いを噛み殺す。

 どうやら、シャーレの先生にはたらし(・・・)の才能があるらしい。おまけに、それが無自覚だってところが凶悪だ。

 

「? マモル、もしかして何かわかったの?」

 

「イヤー、自分にもまったくわかりませんネー」

 

「そっかぁ……」

 

 ショボ〜ン……、という効果音が今にも聞こえてきそうな先生に、申し訳ないと思いつつも、さらに笑いがこみ上げてきてしまう。

 そんな俺の様子を知ってか知らずか、とうとう臨界点を迎えたセリカが爆発した。

 

「っっ〜〜〜!! もうっ! もう、もう、もうっ!! いつまでそこにいる気よ! ふたりとも早く出てってぇーー!!」

 

 結局、俺と先生は仲良く保健室から叩き出されることになったのだった。

 

「とにかく、セリカもみんなも、無事に帰ってこれてよかった」

 

 勢いよく閉じられたドアを少しだけ見やってから、先生がホッと安堵(あんど)の息をつく。

 

「先生のおかげですよ」

 

「……?」

 

「作戦の構築に、戦力と人員の的確な振り分けも。自分達だけでは、ああはいかなかったかも」

 

 なにせ、相手との戦力差はわざわざ比べるのもバカらしいほどだ。ミスひとつから連鎖を起こして全滅、なんてことも十分ありえただろう。

 だからこそ今回の救出作戦は、先生が生徒一人ひとりをよく観て、そして信じてくれたからこそ成功したのだと、俺はそう思っている。……小っ恥(こっぱ)ずかしくて、とても口には出せんが。

 

「それを言うなら、マモルやアビドスのみんなの力があったからこそだよ。僕は先生だけど、でも何でもできるわけじゃない。大型免許だって持ってない(・・・・・・・・・・・・)しね」

 

 ……こいつは驚いた。まさか、先生から軽口が飛んでくるなんて。

 

「ふ……。それじゃ、お互い様ってことで」

 

「だね」

 

 そう言って、はははっと笑い合う。

 

「しかしまあ、正直に言うと意外でした」

 

「意外って?」

 

「まさか、あんな強引な作戦に真っ先にノッてくれるほど、先生が武闘派な方だとは思はなかったので」

 

 くっくっと(のど)を鳴らして笑う俺に、先生は(ほほ)をかきながらはにかんだ。

 

「あれが望みのある作戦だったっていうのもあるけど」

 

「『あるけど』?」

 

「何より、キミ達を――生徒を、僕は信じていたからね」

 

「………そうですか」

 

 それを言葉にして向けられると、ちょっと……いや、かなりこそばゆい。

 はじめは『大丈夫かよ、この大人……』なんて思ったりもしたが、そんな考えは間違いだったと、改めてそれを思い知る。

 

「…………。では、あとは先生がアクティブな方(・・・・・・・)にさえなれば、向かうところ敵なしってわけですね」

 

 照れ隠しに軽口をひとつ返してやると、ズテッと、となりからつまづく音がした。

 

「そ、そのアクティブ云々(うんぬん)の話、まだ続いてたの……!?」

 

「へっへっへっ。しばらくはこのネタで(こす)りますよ〜?」

 

「うぅ……。ちゃんと鍛えることにするよ……」

 

「その時はぜひ呼んでください。人間卒業トレーニングを一緒にやりましょう」

 

「なにその物騒なトレーニング!?」

 

「読んで字のごとくです。これさえこなせば先生も、未来から来た抹殺アンドロイドのように大変身♪」

 

「僕まだ人間のままでいたいよ!?」

 

「そりゃ残念」

 

 とうに日付も変わった深夜の廊下に、にぎやかな声が響く。

 俺達は、転ばないよう足元に気を配りながら、ゆっくり元来た道を帰っていくのだった。

 

 

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