自機は主人公張れる気がしなかったので   作:千里亭希遊

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最後の愚行と最後の砦 - 6 years ago -

 2065年。

 十数年前に突如発生した異形の生物達によって、世界の全てが安全性を失った。

 次々と消えていく町。

 次々と消えていく命。

 遠い旧ロシアの地で行われたというアラガミ大規模殲滅計画も、成功なのか失敗なのかすら伝わっては来ず、人々は不安にただ押しつぶされていた。

 

 しかし押しつぶされながらも、アナグラ周辺に移住しようとしない者たちも多数居た。

 

 アナグラ自体もそう安全というわけではない。

 常にアラガミの脅威に晒されているのはどこでも同じことだ。

 でもあそこには、このかつて日本と呼ばれていた地域において唯一、フェンリルの支部がある。

 唯一アラガミに対抗できる力を持つ、ゴッドイーターたちが居る。

 

 それでも、移動手段がわからない、移動することすら怖い、故郷を離れたくないなどと言うさまざまな理由で各地に留まる者達が、寄り集まって各地に点々と町を形成していた。

 

 もちろんそれは責められるようなことではない。

 けれど彼らは、命の危険に晒されながらも、それを他人事のようにみなして。

 今まで大丈夫だったから大丈夫。一番安全なのは、自分の家────。

 

 そう逃避しながら、今日も町が、命が消えていく。

 

(──ちくしょうっっっ!!!! また間にあわないっていうのかよ!!!)

 

 ゴッドイーターたちにとってはもはや馴染みになっているような小型のアラガミの出現でさえ、こうした町をすぐに壊滅させてしまう。

 

 極東支部ひとつでは、どうしても対応しきれない。

 

 それはとてももどかしく、やりきれない現場だった。

 食い荒らされた瓦礫の山の中を、彼らは走り回っていた。

 誰か、生存者はいないのか。

 アラガミはもうあらかた撃退したはずだ。

 もう安全になるんだ。俺たちは、ここを安全にすることができるんだ。

 お願いだから、誰か生きていてくれ、誰か……。

 

「リリック! サルワ!」

 

 呼ばれてそちらを見ると、ヘイオンが躍起になって手招きしていた。

 おそらく生命反応を機械が捕まえてくれたのだ。呼ばれた二人はすぐにそちらへ向かう。

 

 見れば、ヘイオンが示す先のがれきの隙間で小さな女子が身をすくめて固まっていた。

 

 一同は大きく安堵した。彼女をなだめすかしながら保護する。

 幸いパニックやヒステリーを起こすことなく、素直に保護されてくれるようだ。

 

 以降も数名を瓦礫の中から見つけ出し、早いうちに逃げて助かっていた人々とも合流する。

 

 怪我人の手当てなどをしながら、フェンリルの人間達は一様に暗い顔をしている彼らを、気分重たく眺めた。

 これからが、きついところなのだ。

 

 極東支部は、普段はアナグラ周辺の活動でせいいっぱいだ。

 アナグラからの配給やゴッドイーターたちの護衛が行き届く範囲も、普段はアナグラ周辺だけでせいいっぱいだった。

 だから、移動できる人たちはほとんどがアナグラ周辺に押し寄せてきていた。

 アナグラ周辺の居住区は年々拡大の一途をたどっている。

 

「皆さんも、移住されませんか」

 

 おそるおそるといった様子で、フェンリルの人間が口にする。

 

 ──数日前のことだ。

 衛星が、アナグラよりもかなり西の方で大型アラガミらしき影をとらえた。

 未知のアラガミの可能性があるということで調査隊が派遣されることになった。

 

 遠方ということで念のために、護衛班のゴッドイーターたちも同時に派遣された。

 それが、リリック、サルワ、ヘイオンの3人である。

 

 結局数日かけてもその周辺で衛星がとらえたと思しき大型アラガミの姿は発見することができず、一応撤退ということになったのだが、その帰路で偶然アラガミに襲われている集落に出くわしてしまった。

 

 一行は慌てて救援に向かったのだが……小さな町はほとんど食い尽くされてしまっていた。

 

 やりきれなくはあるが、よくあることだった。

 フェンリルの感知しない範囲で、いったいどれだけの町が、人が、消えているのだろう。

 

「……今まで、ほったらかしておいて」

「自分たちだけ、ぬくぬくと生活して」

「我々が今までどれだけ苦労してここまで」

 

 誰からとも無く、ぼそぼそと恨みがましい声があがる。

 

 よくあることだった。

 よくあることだったが──やはり慣れることはできない。

 

 フェンリル側は皆一様に唇を噛む。

 彼らにしたって精一杯生きてきた。

 両手に余ることなんて誰にだってできない。

 そして極東支部周辺への移住はやろうと思えば誰にだってできることだった。

 

 うしろめたさを感じることなんてないはずだが、やはりどこか申し訳なく感じてしまう。

 

 アナグラをもっとたくさん作るだけの余裕は本部にはないのだろうか──フェンリル以外にもそういう施設を作れる団体は、どこにもないのだろうか──けれど作ったとしても、ゴッドイーターが圧倒的に少ない現状、きっと、守ることができないのだろう……。

 

 ちょんちょん、と袖口がひっぱられて、リリックは沈んだ思考から引き戻された。

 

「あの……」

 

 そこには、先ほど救助した小さな女子が居た。

 

「わ、わたし、行きたいです、そこに」

 

 精一杯勇気をふりしぼってという様子でうつむきながら訴える少女に、リリックはとまどった。

 

 皆が恨み言を言っている中その発言をするというのは確かに勇気のいることなのだろうが、なぜあえて自分に言ってきたのか。

 

「わたし、あなたみたいになりたい。そして、こんなことになる町が少しでも少なくなるようにしたい、です……!」

 

 結局、その女子と他に数名だけ出た希望者とともに、逃げるように彼らはその地を後にした。

 

 距離が離れている土地への結構な人数での調査ということで、数台のジープに食料や物資などを積んでの行軍だったため、数人増えたところで問題は無かった。

 

 残った人々はこれからどうするというのか……。

 それは考えても仕方の無いことだと、諦めるしかないのだろう。

 

「……そりゃ支部はいつだって人手不足だし、大歓迎だって言いたいところなんだけどさ」

 

 リリックは気まずさで言葉を詰まらせながらも、切々と少女を諭そうとした。

 希望をへし折るようなマネをするのは気まずくて仕方が無い。

 けれど向こうに着いてから無理だったなんてことになるのも何だかかわいそうだったから。

 

「君みたいな子供まで働かせられるかどうか……」

「失礼な。わたしはこれでも15ですっ!」

 

 女子は膨れっ面になった。

 リリックはせいぜい10歳くらいだろうと思っていたため固まる。

 

「働きたいからって嘘ついたらいかんぞ」

「嘘じゃありませんっ! だとしても畑仕事だって瓦礫処理だって毎日一日中手伝ってたんだから、並みの十代より力はあると思ってますよっ!」

 

 なるほど言うだけあって日に焼けた感じではある。

 しかしガリガリな腕に申し訳程度に盛り上がる力こぶなんて誇示されても何だか余計に憐れみを憶えてしまった。

 

「いや力仕事なんてそれこそ……」

 

 そしてはたと思い当たる。

 この子は『あなたみたいになりたい』と言っていた。

 生存者捜索中にでくわしたオウガテイルを難なく撃破した所を彼女は見ていたはずである。

 

(なりたいってのは……ゴッドイーターか?)

 

「お父さんもお母さんも、あそこにいなかった。きっと、あいつらにやられたんです。かたきを取ってやるんです、絶対……」

 

 しまいには泣き始めてしまった。どうしろというのだ。

 

「いや、その、落ち着けって……泣くなよ」

 

 傍らのおっさんとおばさんはそ知らぬふりをしている。

 奴らのことだから内心ニヤニヤしているに違いない。

 彼女がリリックに妙に懐いたそぶりなところを見てからかうようにつついて来たくらいだ。

 

「歳はどうだっていいんだが、残念だけど誰も彼もゴッドイーターになれるわけじゃないんだ」

 

 15歳女子はぐ、と唇をつぐむ。

 

「神機──ゴッドイーターの武器だ。それに適合するかどうかは遺伝子レベルで調べないと分からない。それで合いそうでも、本当に適合するかどうかは試験次第、ヘタしたら──」

 

 そこでぽんぽん、と、あやすように彼女のツインテールの頭に手を置きながら、ヘイオンが言った。

 

「意気込みだけで立派なもんだ。仲間になれることを祈るぜ」

 

 ヘタしたらそこで神機に食われてオシマイ──それはきっと、言わない方が良かったのだろう。

 

「それでもし、なれたとしても」

 

 これも言わない方が良いことなのかもしれない。

 

「アナグラ周辺以外の町まで、手を回せないと思うぞ」

 

 アラガミに襲われる町が少しでも少なくなるようにと、彼女はそう言っていた気がする。

 

「それでもいいんです」

 

 それは意外な答えだった。

 思わず彼女の顔をまじまじと見つめてしまう。

 

「あなたみたいにあの化け物と戦える人が少しずつでも増えていったら、きっといつか、どこの町でも、どこの人でも守れるようになるはずだから」

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