自機は主人公張れる気がしなかったので   作:千里亭希遊

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トラウマ

 そこは医務室みたいだった。

 

「大丈夫?」

 

 同期のコウタが心配そうに上から覗き込んでる。

 ええと……なんだっけ。

 

 ぼやけた頭を懸命に回す。

 

 ──あぁ、そうだ。

 鉄塔の森と呼ばれるあの廃工場で。

 目の、前で。

 

「彼……は?」

「……え、えぇと」

 

 青くなったコウタを見て事実を把握する。

 

「……そっか」

 

 両目を固く閉じて片手で額を押さえる。

 

 緊張の適合試験をクリアした後のメディカルチェックで、榊博士がさりげないふうに言ってたことが、現実になってしまったみたいだ。

 

 ……こんなに、はやく。

 急襲だったとはいえ……どうにか、できなかったのかな……。

 

=====

 

「……どんなに頑張っても、どんなに装備を整えても、どんなに気をつけていても、ゴッドイーターというものは、いつどうして命を落とすか分からない。

 もしもまた、目の前で誰かがそうなってしまった場合、

 君は──耐えられるのかな」

 

 PTSDの、心配だった。

 

 わたしの過去を知る人なら、まず浮かぶことなんだろうな。

 でも、きっとそういう場面に遭ってしまわないことには、分からないことだ。

 

 けれどあんな目に遭うのはもうごめんだ。

 できることならこの手で皆守り抜いてみせる、って豪語でもしてみせたい。

 

『──前線ではな』

 

 確かヘイオン隊長が言ってたことだ。

 

『俺がやってやるんだ! って意気込んでる奴ほど先に死んでいく』

 

 欲張るな、と隊長は言った。

 できることだけ精一杯、かつ正確にやれ、と……。

 

 ふ、と曖昧に笑う。

 

「……わかりません」

 

 正直に言うと、博士は一瞬なんとも言えない表情をして。

 

「そこに横になって。大丈夫、次目が覚める時は──」

 

 必要以上に明るい声で業務を進めていった────。

 

=====

 

 エリック・デア=フォーゲルヴァイデ。

 

 ゴッドイーターとしての成績は、あの尊大な態度に見合う優秀なものだったんだって。

 

 彼がオウガテイルに襲われた時、わたしは急に心拍数が上がって、呼吸が激しくなって、視界が狭くなって、体がうまく動かなくなってしまった。

 それでも必死に任務をこなそうとして、それで、ほとんどソーマのおかげで周辺のアラガミたちを撃退して。

 

 その後を何も覚えてない。

 

「まぁ、気に、すんなよ……生きて帰れたんだ。これから、その、エリックって人の分も、さ」

 

 コウタはたまに歳不相応な気遣いをする子だった。

 思わず彼の頭をなでてあげたくなってしまう。

 

「……ありがとう」

 

 うまく笑えてたかは分からないけど、微笑んだつもりでそう言うと、コウタも安心したように笑った。

 

「うん、頑張ろうな、これから」

「チッ……日常茶飯事だと言っただろう。いつまでへばってやがる」

 

 いつの間にか医務室のドア付近にいた人物が悪態をついた。

 

『──お前はどんな覚悟を持ってココに来た? ……なーんてな』

 

 あの時彼──ソーマが言った言葉が頭をよぎる。

 

「あ、アンタは……」

「そんなんじゃお前もすぐあの通りだな。どいつもこいつもすぐいなくなる。まったくクソッタレな職場だぜ」

 

 それだけ言って彼は去っていった。

 

「……シュンって人が言ってたんだ」

 

 彼が去っていった方を見ながら、コウタがボソボソと言う。

 

「あいつは死神だって」

「死神──……」

 

 ずぐ、と、何かが胸の内に圧し掛かる。

 

「でも、あの人」

 

 任務中を思い出す。

 

「動揺して、固まっているわたしをフォローしながら……一人で全部やってくれたの」

「……任務だからじゃないの、それ」

「さぁ……どうなのかな」

 

 曖昧に笑っておく。

 

 何にしても死神だのなんだの、妙なそしりを受けるべき人物じゃないような気がした。

 

 ソーマ・シックザール。

 

 第1部隊との関わりなんてほとんどなかったから話したことも無くて、昔から陰口みたいな噂話ばかり耳にしていた気がする、けど。

 噂の人物像を鵜呑みにしちゃ、いけない気がする。

 

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 倒れたせいで今日1日大人しくしておくようにって言い渡されてたんだけど、それを無視して支部の外に出た。

 時間があったらどうしても訪れておきたいところがあったんだ。

 

「……あった……」

 

 さまざまな墓石が並ぶ中、隅の方に小さな墓石が三つ、並んでる。

 刻まれた名前を、なぞる。

 

 間違い……ないんだな。本当に。

 

 お墓とかありませんか、と聞いた時に、榊博士が教えてくれた場所だった。

 

 わたしは配給ビールは苦手だから口にしない。

 だけど持ってきた。

 コツン、と三つ、供える。

 みんなは、たまに飲みながら集まって騒いでいた、から。

 好きなんだろうなぁ、と、思って。

 

「えへへ。知らないうちに詩田さんと同い年になってましたよ。でもやっぱ、わたしはビール苦手でした」

 

 三つの墓石の前に、ちょこんと座る。

 そして自分は栄養飲料のふたを開けた。

 無言で黙々とそれを飲む。

 

 ひどく喉の通りが悪い。それは別に飲料の質が悪いとかいうわけではなくて。

 飲んだそばから出て行ってしまっているんじゃないかというくらい、それは頑張っても止まってはくれなかった。

 

「わたしが……撤退準備に気をとられたり、怪我したり、しなかったら、とか、置いていってくれればよかったのにとか、色々……今更だよなって思っても」

 

 どうしてもたらればを考えてとまらなくなることがあって。

 

「……わたしだけ、生き残って」

 

 ごめんなさい。

 そして。

 守って、くれて……ありがとう……ございました……。

 

「守ってもらったから、わたしがやることは、皆の分も守り続けることだって、思うことにしたんです」

 

 それなのに。

 

「守れませんでした……そればかりか、仲間に負担をかけました……」

 

 どうしたら、いいのだろう。

 

「わかんないです……わかんないんです……」

 

 皆に助けてもらっておいて、情けなくて。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

 わたしはしばらく、声を殺して泣き続けた。

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