色々でっかいポケモンが勝負を仕掛けてきた 作:ゆるぽけ
エンニュート可愛いよエンニュート
あとオーリム博士も可愛いよ
「……大きいですね」
オレンジアカデミー校長 クラベルが新たにアカデミーへ入学することとなった人物の自宅へ赴いた際、家で待ち構えていたそのポケモンを見て最初に口から出た感想は自分の頭に詰まっている知識と比較しても大柄な体格へのものだった。
どくトカゲポケモン エンニュート
1.2m/22.2kg
毒ガスで クラクラにした 相手を 妖艶な 身のこなしで 誘惑し 忠実な しもべに してしまう。
エンニュートの 群れ同士が 鉢合わせると フェロモンガスで オスを 奪い合う 争いになる。
パルデア地方に生息するポケモンを網羅している図鑑にはそう記載されているのだが、彼の目の前で自身のトレーナーに纏わり付いているエンニュートは明らかに巨大だ。
直立していない状態かつ精密に測定した訳では無いので正確性は怪しいが、足底から頭の頂まで軽く見積っても3mはある。ここに長大な尾を加えたら4.5mにはなるだろうか。
「げるるる……」
これは私のだ、と初対面のクラベルを牽制しているのだろうか。
自分のトレーナーの着用している衣類の中に細長い腕を滑り込ませ、衣類の動きから撫で回しているのが丸分かりの独占アピールを勝ち誇るような笑みを浮かべながら続けている。
激しくはない。慈しむように緩やかかつ、味わい尽くすような艶めかしさを伴う腕の動きはクラベルに生唾を飲ませるのには十分に蠱惑的だった。
「ヤトウモリの頃から大きかったのですが…どうも、ぬしとして生活するうちに、グングンと大きくなりまして……」
しなやかな肉体を絡み付かせ、背後から肩に乗せられたエンニュートの頭を撫でるトレーナー ユキは、まだ年若いにしてはやや低めの声で困ったように笑っている。
受け取った資料をパラパラと捲っている間も片手でエンニュートの顎下や頭を撫で、それに対してエンニュートも嬉しそうな唸り声を上げていた。
右頬には痛々しい火傷跡。色白の肌と雪のように真っ白なロングヘアーという全体的に白を基調とした乙女の顔には不似合いなその傷を、ユキは何かで隠すでもなく堂々と晒していた。
何があったのか、こうも堂々とされていては気になって当然のことも聞きにくい。
クラベルはごほんと咳払いをし、用意された紅茶を1口すすって程よい熱さと風味の液体と共に疑問を飲み込んだ。
「ぬしというのはアローラ地方の……あぁ、そうでした。アカデミーの書類にもアローラ地方 アーカラ島で過ごしていた時期がある、とありましたね」
パルデア地方から遠く離れた土地 アローラ地方
そこには子供が一人前に成長するために存在する伝統儀式である島めぐりというものがあり、アローラ地方を構成する4つの島を巡りキャプテンと呼ばれる人物から与えられる試練を乗り越えなくてはならない。
そして試練の果てに待ち構えるのが守り神達のお気に入りの場所を守る役割を与えられ、カプの眷属とされるポケモン達であるぬしポケモン。
従来より遥かに強い力と大きな体躯へ成長を遂げてその場を縄張りとして管理していた人間や他のポケモン達を追い出し、周囲の生態系のトップに君臨する個体を比喩したパルデア地方の『ヌシポケモン』とはまた異なる。
「ええ。人生の半分くらいをアーカラ島で過ごしておりまして。ヤトウモリがエンニュートに進化したのも、そこで」
ユキが幼い頃、外に遊びに行こうとして家の玄関を開けると玄関先で倒れていたのがこのエンニュートの進化前 ヤトウモリ。
群れから追い出されたのか傷だらけであり、生きているのか一瞬判別が付かない程にぐったりしていた。
慌ててユキは当時まだ存命であった両親に伝え、ポケモンセンターに連れて行った。その時の緊張は今でも忘れられない、そう彼女は語る。
「ぬしとして生活するうちに……と仰っていましたが、ならここに居るのはどうしてですか?」
ぬしポケモンはカプの眷属とされ、島めぐりが行われる上で欠かすことのできない存在であろうという想像はクラベルにも付く。
そんなポケモンが役割とは無縁なパルデア地方に居る理由が、彼には想像出来なかった。
彼から投げ掛けられたこの質問は彼女にとっても織り込み済みだったのだろう。「少し特殊でして」と前置きし、ユキは答える。
「彼女は見てわかる通り大柄なのもそうですが、そこに加えて物凄く利口かつ負けず嫌いなんです。お陰で彼女がぬしポケモンになってからというもの、アーカラ島 ヴェラ火山公園の試練の難易度が跳ね上がり過ぎまして……」
直接そう言うのを避けてクラベルが察するような物言いをしたのはエンニュートを気遣ってなのか、ユキ個人としてその事実を直接述べるのが嫌だったのか。
どちらにせよ明言を避けたことに絡み付いているエンニュートが嬉しそうに目を細めたのを見て、クラベルは目の前にいるトレーナーとポケモンの間に確かな絆が結ばれているのを確認した。
「げけるるるる♪」
「ん……もう、人前ではやめてって言っているでしょ?」
訂正。絆と呼ぶには些か刺激が強いか。
ユキのスカートに尾を滑り込ませるエンニュートの『私はこんなことも出来る』と勝ち誇る目は、クラベルの想像した絆とはやや毛色が異なるように思えた。
ふと壁の時計を見やるとそこそこ時間が経っている。
今日の用事はアカデミー側の不手際で渡すのが遅れてしまった学校案内や校内設備等の資料を渡す以外にもうひとつあった。
「すみませんユキさん。私としたことが、1番大切なものをユキさんに渡すことを うっかりしていました」
「資料にある、入学生に渡すというポケモンでしょうか?」
パラパラと捲っただけで把握したというのか。
速読術という本や書類を効率良く読破する技術はある。
アカデミーに所属して歴史の教科を受け持つ教師であるレホールが速読術を用いて資料を素早く読破する光景を見た事も彼にはある。
それをまだまだ年若いユキが習得していることにクラベルは多少の驚きと、次世代の芽の将来有望な姿に多大な喜びを抱いた。
「そうなりますね。何か、不都合でも?」
「不都合と言いますか……私の相棒
ヤキモチ焼き。その言葉とエンニュートの姿を見て、クラベルは腑に落ちた。
よく懐いているということは、それだけユキに対する思い入れが強いということ。新たにポケモンを手持ちに加えるとなると、それに難色を示すのも当然か。
「大丈夫ですよ。でしたら私は先に外で」
「いえ、私も外に出ます。何故かは分からないのですが、私の相棒は皆大柄で家の中では出しにくいので」
大柄なポケモン
それを聞いてクラベルは年甲斐もなく気持ちが踊るのを自覚する。
歳を重ねたとて彼も一人の男、大きいものに興味関心が湧くのはある意味当然と言えた。
「分かりました。では行きましょう」
やや食い気味に返事を返されてユキは少しビクッと身体を震わせたが、彼女も相棒達を見せびらかせるのが嬉しいのか直ぐに満面の笑みを見せる。
二階にある自室に戻ると帽子を被り、鞄を背負う。
テーブルの上に置かれている両親との写真が納められた写真立てを手に取り、自立させるためのスタンドを畳むと鞄にしまう。
そして、木材を半球型にくり抜いてヤスリがけをしたお手製のボールホルダーに置かれていた相棒達の住まいでもあるゴージャスボールを手に取る。
「皆……行こう。新しい冒険の始まりだよ」
ユキの言葉は、彼女を相棒と認めそれ以上の感情を向けている手持ちのポケモン達にしっかりと届いていた。
「げけぅるる♪」
最も長い付き合いであるエンニュートが頷く。
『さぁなぁ♪』『ミロロっ♪』『……メノ』
両手にそれぞれ一つずつ持たれているゴージャスボールとボールホルダーに置かれたダークボールから、彼女のまだお披露目していない相棒達の声が聞こえてきた。