色々でっかいポケモンが勝負を仕掛けてきた 作:ゆるぽけ
「大きいね!!」
クラベルさんがエンニュートを見た時に放った感想と文言は似つつも、声量では比較にならないくらい圧勝しているのは隣の家に住んでいたトレーナー ネモさん。
褐色肌にそばかすがとってもお似合いで可愛らしい、それでいてハキハキと喋る元気そうな人だ。
「さなぁ」
サーナイト ほうようポケモン
1.6m/48.4kg
トレーナーを 守るためなら サイコパワーを 使いきり 小さな ブラックホールを 作り出す。
心の 通い合った トレーナーを 守るとき 最大 パワーの サイコエネルギーが 発揮される。
空中へ放ったゴージャスボールが開き、中から現れたサーナイトもエンニュート同様にパルデア地方のポケモン図鑑に記載されている情報以上の大柄な肉体を誇っている。
「さぁなぁ♪」
私とクラベルさんの間に出るようにゴージャスボールを投げたのにサーナイトはテレポートで私の背後へと回り、わざわざしゃがみ込んでまで高さを調整して抱き締めていた。
分類の通りでサーナイトは事ある毎に私を抱き締めてくれる。
力強くて、でも痛くない。元々非力寄りのポケモンではあるけど、それでも私よりは力があるのに絶妙な力加減でしっかりと私を包み込んでくれた。
「シンオウ地方に住んでいた祖父から譲り受けたんです。生まれつき肉体が大きかったみたいで、知り合いの考古学者が考察するには『先祖返り』なんじゃないかって」
シンオウ地方は 昔 ヒスイ地方 と呼ばれていてね
遠く離れたシンオウ地方に住む祖父の家へ遊びに行った時、考古学者だった祖父と話し込んでいた金髪美人がそう教えてくれた。
今は失われた進化、太古のモンスターボール、シンオウ神話。
それ等を語る際に金髪美人はとある古文書の内容を私へ教えてくれた。
「オヤブン、と呼ばれる屈強であり凶暴でもあったポケモンが古のシンオウ地方には居たそうで」
今ほど人間とポケモンの距離が近くなかった時代、ヒスイ地方と呼ばれていた頃のシンオウ地方には野生ポケモンたちの中でも一際屈強で凶暴な個体がおり、それをオヤブンと呼び恐れていた。
ラルトスの頃から他の個体より大柄で力も強かったことから、金髪美人はこのサーナイトは祖先がオヤブンに分類される屈強な個体であった可能性を口にしていたっけ。
「そのサーナイトの祖先もオヤブン個体だったのでは、と」
少し離れた位置でふむふむと頷くクラベルさん。
私のサーナイトとエンニュートを遠目で見ていたのか、クラベルさんと話していたはずがいきなりすっ飛んできたネモさんの勢いが凄まじくて弾き飛ばされちゃったからね。
「げけぅる」「さなぁ…」
私に抱きついているサーナイトをエンニュートが引き剥がそうと噛み付いているけど、そんなもの何処吹く風とサーナイトが頭をクリクリ押し当ててくる。
なんなら匂いを吸われている。シャンプーしたてでは無いから良い匂いはしないはずだけど、それはもう堪能するように深く匂いを吸っている。
それを見てネモさんは「仲が良いんだね!」と満面の笑みで話していた。この人、相当なポケモン好きだ。
「えぇ。仲良しです。そして……強いですよ?」
強いですよ?
この言葉にネモさんの目付きが変わる。
分かっていた。一目見た時から、この人はポケモンでバトルをするのが大好きなバトルジャンキー的な素質があるのが理解出来た。
サーナイトとエンニュートを見る目も品定めをするというか、2人のことに見定めるような真剣な気配が混じっていた。
「ユキさん、彼女は」
クラベルさんが何かを言いかけていたけど首を振って制した。
ネモさんと私は同じだ。だからこそ分かる。
私も、エンニュート達も、戦うことが大好きだから。
あれだけ真剣な視線なんて向けられてしまったら、こちらとしても戦わずにはいられない。
「へぇ! ねぇねぇ! なら用事が終わったら私と!」
「えぇ、戦いましょう。ですから今は、先に用事を済ませても?」
嬉しそうに飛び跳ねるネモさん。これで私が男だったら彼女の笑顔で飛び跳ねる姿に惚れていたかも。
「さァなぁ…」「ぐぇるるる」
サーナイトが抱きしめる力を強め、エンニュートが足に軽く噛み付いてきた。少し痛い。ごめんて、浮気じゃないから許して。
さて、それでは当初の予定通りに皆の説得と行こう。
残りの2人が入っているゴージャスボールとダークボールも中央のボタンを押し、宙へ投げた。
「……メノ」
ダークボールから出て来てくれたのは祖父が住んでいたキッサキシティ近辺で出会ってからの付き合いになるゆきぐにポケモン ユキメノコ。
最近までサーナイトと一緒にキッサキシティにある祖父の墓を守ってくれていた。
2人ともしばらく会っていなかったというのに、数日前に再会した私のことを覚えていた。
幼少期のポケモン大好きっ子だった自分を褒めてやりたくなる。
こおり・ゴーストタイプという冷たそうな印象を与える複合タイプの通りというか、気を許した人以外には目もくれない冷たさと気に入った人や物に対する強い執着心の持ち主だ。
ふわりふわりと空中から舞い降りてきた彼女は私を視認すると、ぺこりと頭を下げてスーッと滑るようにして私の隣へ移動してくる。
「めのこっ」
「げぅ!?」
隣を譲りたがらなかったエンニュートだったけど、尾の先端を粉雪によって軽く凍らされてはじっとしていられない。
指先がいきなり冷たくなるのと似た感覚なのだろうか。ぴょんと跳ね上がり、その隙に私の隣をユキメノコに奪われていた。
彼女の冷たい右手が私の左手を掴む。
「みろろろろっ♪」
もう一つのゴージャスボールから出て来たのは生まれ故郷であるフロレオ島を内包する地方 レンティル地方で仲良くなったヒンバスが進化したいつくしみポケモン ミロカロス。
彼女もサーナイト達と同様に最近までレンティル地方に残ってくれて、写真撮影や調査を行う人達を見守ってくれていた。
優美さを感じさせ、それに付随する他者を寄せ付けない高圧的な気迫すら感じさせる見た目とは打って変わってとんでもなく人懐っこい性格をしている。
「みろぅ♪」
「ごふっ」
ごす、と腹部にミロカロスの頭突きが炸裂。軽く小突く程度とはいえ8m近い巨体の頭突きはかなり効く。
出会いこそ幼少期だけど、ここ数年はレンティル地方に帰れていなかったからね。
降雪地帯でなければお目にかかることが出来ないユキメノコが現れた時点でネモさんとクラベルさんは見入っていたけど、ミロカロスが姿を現すと2人揃って口元に手を当てて驚きを隠せないでいた。
「凄い……ミロカロスの、色違いですか」
「すごぉい! キレイだし優雅だし、物語に出てくる人魚姫みたい!」
私の相棒は普通のミロカロスと比較して東部のヒレが薄紫色であり、水色の鱗は黄金に煌めいている。極めて稀な色違い個体である。
ミロカロスの進化前であるヒンバスと私が出会った原因は私の勘違いだった。
だって他のヒンバスに紛れて紫色のヒンバスが泳いでいるんだ、知識が無ければ顔色が悪いとかどく状態になっているとかを疑ってしまっても無理ないと思う。
幼かった私は『助けなきゃ!』なんて無知無知をかまして色違いヒンバスに突撃。釣竿で釣り上げるのではなく、持っていた虫取り網で捕獲するという暴挙に出た。
散々体当たりでド突かれ回されたけど、最後には私が勘違いしていた事も善意での行為であったことも理解してくれて、そこから仲良くなった。
「……あれ? なんかユキメノコもミロカロスも、図鑑のデータより大きくない?」
興奮しつつも図鑑を取り出して情報の確認に務める勤勉なポケモントレーナーであったネモさんの疑問に、私は頷いて見せる。
「それについてはポケモンバトルの後に説明します。大丈夫でしょうか?」
「〜〜〜ッ!! うんっ! 大丈夫だよ! 私待ってるから!」
バトルジャンキーなのを利用したようで少し罪悪感が芽生える。後でしっかり相手をしよう。
これで相棒達は出揃った。当初の目的を果たすとしよう。
「皆。これから新しい仲間を迎えるんだけど」
良いかな。
最後まで言い切ることは出来なかった。
サーナイトが後ろから回した両手で私の頬をぶにっと押し潰して、話すのを邪魔してきたから。
「……さな」
嫌がっている声色だが、少し躊躇いも感じられる。
サーナイトは迷いつつも反対らしい。
「めの、めのこ」
ユキメノコはより強い拒絶の声色で首を左右に振る。
彼女は明確に反対している。手を握る強さが少し増した。
「みろろ?」
ミロカロスは2人とは対照的に、ニコニコと笑いながら頷いている。新しいお仲間大歓迎、と顔に書いてあるのが読み取れた。
彼女としては2人が反対姿勢なのが理解出来ないようで、なんで?と言いたげな視線を2人へ向けている。
「げぅるる……」
クラベルさんの話を私と一緒に聞き、私が読んでいた資料にも目を通し終えているエンニュートも一応は賛成してくれていて、嫌がるサーナイトとユキメノコに呆れているような表情とため息を吐いていた。
賛成2:反対2
見事に意見が真っ二つに割れてしまっている。
参ったねこりゃ。サーナイトはまだしも、ユキメノコは断固反対って感じの姿勢だし。
「アカデミーに入学する生徒にポケモンを渡す決まりなんだってさ。これからお世話になる場所の決まりなんだから従わないと、ね?」
「…さぁなあぁ……」「ゆきッ」
伝統あるオレンジアカデミーの決まりなのだから、お世話になるのだから。
そう説明してもサーナイトは渋っているしユキメノコは断固拒否。
「クラベルさんもわざわざ家にいらして下さったんだからさ」
近い訳でも無い私の家まで来てくれたクラベルさんをダシに使って見ても、2人は否定的なままだ。
サーナイトは押し切れそうだがユキメノコは完全に聞く耳持たず。
どうしたものか。なんかサーナイトは重くてどんよりした気を放ち始めているし……
「げけぇう」「みろろ……」
賛成派のエンニュートとミロカロスも何やら話し込み、エンニュートが何かを提案してそれにミロカロスが同意したのか頭を上下にコクコクと振っていた。
あ、エンニュートの目付きが怖くなった。
私の相棒達の中でも特に付き合いが長いエンニュートは皆のまとめ役を務めてくれる。
彼女があの目をする時は、大体がお説教だ。
口から火炎が漏れている。怒っている証拠だ。
「さなっ!?」「ゆ、ゆきぃ……」
サーナイトとユキメノコが嫌がり続けているのに業を煮やしたんだろう……頑張って。
エンニュートの気迫に押されて2人が私から離れる。そこに彼女が飛びかかって行ったものだから、さあ大変。
家の周りをドタバタとサーナイトが駆け回り、ユキメノコは飛び回り、エンニュートが猛追する。
これはしばらく手が付けられないね。私の顔を覗き込んでいるミロカロスの顔にもそう書いてあった。
「ネモさん。ミロカロスしか今手が空いている相棒が居ませんがそれでも良ければ一戦、如何ですか?」
時間があるのなら、戦おうじゃないか。
お待たせし続けるのも可哀想だし、何より私も久しぶりにミロカロスと一緒に戦ってみたい。
「いいの!? 私は全然歓迎だけど!?」
ほら、可愛らしくもおっかない顔で食いついた。もうモンスターボールを持っている。
やっぱりこの子は戦闘狂だ。私と同じ、ポケモンバトルをするのが大好きなバトルジャンキーだ。
顔は見えないけど私もきっと、同じ顔をしているのだろう。