リファイン悪役令嬢とモブキャラ転生者の背中合わせ英雄?譚 作:はめるん用
悪役令嬢モノとやらに挑戦してみることにしました。
「夢を、見るのです」
「ほぅ……?」
「夢の中のわたくしはスキルの才能に驕り、欲望に目が眩み、野心のために妹の排除を試み、大勢の人々の生命と尊厳を踏みにじるのです。そして最後には観衆から石を投げつけられながら処刑される。そのような夢を見るのです」
「なるほど。あの子にお前がどうにも甘いのは、そうした未来が現実になるのを恐れるが故のことであったか」
「もちろん、それだけではありませんよ? お祖父様。だって、あの子、とっても面白いんですもの。確かにスキルの扱いは未熟ではありますが、真面目に努力している姿を見ていると……ふふっ、なんだか仔犬のようで可愛いのです」
「そうか……。まぁ、言われてみればそうした雰囲気もあるような気がするな。しかし、なんだ、お前の見たという夢の内容については少し……いや、だいぶ愉快ではない話ではあるが、だとしても姉としての振る舞いが苦ではないというならワシはそれでよいとしよう」
「ありがとうございます、お祖父様。娘のわたくしが言うのもなんですが、お父様とお母様はすでに手遅れのようですから、お祖父様が味方になってくれるのであればとても心強いというものです。それでは、妹との約束がありますのでわたくしはこれで……」
────。
「なぁ」
「はい」
「アレが語った夢について、キサマはどう思う?」
「どう、と申されましても」
「あぁ、そういう気遣いはいまはいらん。ワシの執事としてではなく、子を持つ親としてどうだと聞いている。忌憚のない意見を言え。これは命令と受け取ってもかまわん」
「才能があるからと期待を押し付け過ぎである、と私めは感じました。シアンお嬢様のスキルの才能があまりよろしくないと判明してからは尚更のこと、マゼンタお嬢様への圧の掛け方がそれはもう」
「むぅ……、そんなにか?」
「はい。仮にマゼンタお嬢様が暴力によって当主の座を奪ったとしても、使用人一同迷うこと無くマゼンタお嬢様を支持することでしょう。その過程で前歯が全損するほどメイスで殴打されたとしても助けに入るつもりはございません」
「え、ちょ、おま、それマジで言ってんの?」
「マジでございます。私めには、貴族としての格を上げるためにマゼンタお嬢様を道具として扱っているようにしか見えませんでしたので。ご命令の通り子を持つ親として忌憚のない意見を言わせていただくのであれば、テメェら自分の子どものことをなんだと思ってやがんだクソどもが……としか」
「そうか。……そうかぁ〜」
長年自分を仕えてくれた執事からの容赦無い酷評を聞かされた男は、それはもうわかりやすいほどに頭を抱えて深い溜め息を吐き出した。
貴族としての格を上げたい、そういう欲求があることは自覚していた。冒険者を抱え込み迷宮資源を掻き集める国家に献上する『迷宮貴族』の立場は領主貴族などよりも上に位置するが、やはりその中でも格付けというものは存在する。
王族に次ぐブラック級とまではいかなくとも、その次の階級であるプラチナ級の格ぐらいなら充分に狙える。そのためには抱える冒険者の質と量や踏破した迷宮の数だけではなく、当主の『スキルマイスター』としての実力も求められるのだ。
だからこそ、才能に恵まれたマゼンタには期待をした。迷宮貴族としての格を上げることが孫娘たちの幸せにも繋がるだろうと信じ、その才能に驕ることの無いようにと厳しい態度を心掛けていたのだが……。
「バランスは良い塩梅であるかと。王族や迷宮貴族は肩書を誇り、領主貴族は民衆が幸せであることを誇る。お互いにマウントを取り合っていますので大きな争いに発展することもございません」
「ホントか〜? それ本当にバランス取れてるのか〜? その言い方だと丸っとワシらのほうが印象悪い感じがするんだがなぁ」
「冒険者の皆様方の間では領主貴族からの招待状はご褒美扱いであり、王族や迷宮貴族からの招待状は罰ゲーム扱いなのをご存知ありませんでしたか?」
「ご存知ありませんでしたねぇその話は!? えぇ……? そんな、ワシ、ほかの迷宮貴族よりは冒険者たちのことを重用してるからそれなりに慕われているだろうと思っていたのに」
「はっはっは」
「なにわろてんねんキサマ。……いや、わかった。ほかの領主貴族とは違うという自信が痛々しい勘違いであることは理解した。この程度の屈辱など孫娘たちの幸せに繋がるものと信じて飲み込もう。その上で、だ。ワシはこれからどうするべきだ?」
「マゼンタお嬢様から頼られたときには充分なご支援を、それ以外のときには余計なことをしない。これに尽きるでしょう。こんな家庭環境で何故そうなったのかは私めにもわかりませんが、マゼンタお嬢様の価値観や考え方は迷宮貴族のモノではございません」
「ワシが最善手だろうとしてもアレにとってそうであるとは限らない、ということか。肝に銘じておこう。それはそれとしてお前、仮にもワシに仕える執事のクセにこんな家庭環境とか言うの止めてくんない?」
「ご安心ください。これは私めの個人的な感想ではなく使用人一同の共通認識でございますので」
「そいつはご安心だなぁチクショウめッ!!」
祖父と執事が長年の信頼関係から成り立つ漫才を繰り広げているその頃、スキルの訓練のために結界による隔離措置が施された屋敷の裏庭にて。
「エーテル・ランスッ!! ……やったぁッ! やりましたお姉様ッ! まだひとつだけですけれど、ちゃんと槍の形をした魔力を放つことができましたッ!」
「えぇ、ちゃんと見ていたわよシアン。よく頑張ったわね。どう? 貴女は自分にはわたくしのような才能など無いと嘆いていたけれど、努力を続けることでこうして魔法スキルを使えるようになったでしょう?」
スキル操作が不得手な妹を、スキル操作の得意な姉が指導する。そんなホッコリした光景に使用人たちも訓練場を利用している契約中の冒険者たちもチラチラ眺めてはニッコリしていた。
迷宮貴族の後継者争いはドロドロしているのがお決まりだと知っているが故に、この姉妹のような関係を見ているだけで癒やしという名の現実逃避ができる。なんなら娘がふたりとも『家』に関心が無さすぎて、将来のことで空回りしている両親が哀れですらあった。
スキルの訓練ではあるが、大好きな姉との時間が楽しいのかブンブンと荒ぶる尻尾が見えそうな妹のシアン。
それに対して姉のマゼンタが何を考えているのかというと。
(……なぁ〜んで一周目のアタシはこんなカワイイ妹のことを邪険に扱ってたんだべな〜?)