リファイン悪役令嬢とモブキャラ転生者の背中合わせ英雄?譚   作:はめるん用

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結局、普通がいちばん難しい。

 入学からしばらく。

 

 あの平民の男子生徒から感じた不思議な魔力のことが寝ても覚めても気になるマゼンタであったが、まずは足元をしっかりと固めてから行動するべきだろうとクラスメイトとの交流を優先した。

 

 手探りでも意外となんとかなるものだ、と。スキルの研究よりも緊張する他者とのコミュニケーションは概ね順調である。

 普段はお淑やかな才女が、妹の話題のときだけ早口になって褒めまくる姿を見たクラスメイトたちが“ちょっと変わってるけど良い奴”として受け入れてくれたのだ。

 

 

(回りくどい。魔女と呼ばれた一周目のアタシに比べて目的まで遠回りしている、けれど……これでいい。これが、いい。アタシは凡人から普通を学ぶことで成長できる。敗北を認めることで次が与えられると思えばどうということはねぇ。

 相手は平民、迷宮貴族の娘がいきなり接触してくれば警戒するのは当たり前って話だ。武器系のスキルを習得していないアタシなら、投げナイフに火属性を纏わせるスキルもアリっちゃアリだが、それを目的に話しかけるのはさすがに不自然だ。あの平民の男子生徒との接触は偶然じゃないとな……あくまで、偶然に……)

 

 

 迷宮貴族という立場を使えば呼び出すのも押し掛けるのも簡単である。だがそこから友好的な関係を築くのは容易ではない。それは相手の都合や立場を考える能力の無い愚者の行いであるとマゼンタは学んだのだ。

 

 そして命と引換えに『待つ』という選択肢を得たマゼンタには幸運が舞い降りたらしい。件の男子生徒がひとりで初級ダンジョンに潜るところを偶然見かけ、彼に関する情報をいくつか仕入れることができた。

 平民でありながら様々な属性のスキルを第二階級まで扱える器用さは、その将来性を期待して何人かの貴族が友好的に接していること。しかし彼のモチベーションが故郷の弟妹たちを護ることにあるため、強引な勧誘は控えて繋がりをつける程度に抑えていることを教わった。

 

 弟妹たちのためにスキルマイスターとなる。その時点でマゼンタから男子生徒への評価は高くなった。

 弟や妹のことを考える人間に悪いヤツはいない。なのであの男子生徒は危険な人物ではない。以上、証明終了。

 

 

 そうと決まれば早速行動である。相手の魔力の波は記憶しているので追尾するのは赤子の手をひねるように容易い。

 

 

「こんにちは」

 

「……? えぇ、どうも。こんにちは」

 

 

 まずは挨拶。やはりコミュケーションの基本は挨拶である。こちらの身分や立場がどうであろうと、初対面から一方的に自分のことばかり話すのは正しい行いではない。

 一方的に搾取する権利を持っていると勘違いしていた過去と比較して確実に成長している……と自画自賛しつつ、マゼンタは無価値のようで実は意味のある世間話というものから交流を試みた。

 

 そのままフワッフワなやり取りを数分ほど繰り返し、流れで一緒に探索するところまで話は進み。

 

 

「そう言えばまだ名乗っていなかったですね。俺は紅の国、北方領のルージュといいます。どうも、よろしく」

 

「ルージュさん、ですね。わたくしは紅の国、金猫のマゼンタ・ローゼンガーデンと申します。どうぞ、ろよしく」

 

「金猫……同じ紅の国の迷宮貴族の方でしたか。失礼しました」

 

 

(警戒されたか。北方領地の出身ならそうなるわな。前世のときも平民は貴族のために汗を流し、貴族は平民のために血を流す、だから貴族の血は尊いのだとか言って領主も息子どもも最後まで領民を守るためにアタシに逆らい続けたぐれーだしなぁ)

 

 

 ゴールド級の迷宮貴族の女性であることを示す『金猫』の冠に対する反応は概ね予想通り。領主貴族と迷宮貴族は水と油よりも相性が悪いことは知っている。

 それでも大きな衝突が起きないのは領主貴族側が領民を戦乱に巻き込むことを嫌っているから、というところまで理解しているマゼンタは心の中で苦笑いをするしかない。

 

 それでもマゼンタは敢えて自分が迷宮貴族であることを隠さなかった。黙っていたほうがよさそうな情報をわざわざ自分から教えることで得られる信用があると人間観察から学んだからだ。

 自分(と妹)大好きなマゼンタがそこまでルージュに気を遣うのは、未知の魔力に対する好奇心がもちろん1番の理由だが……前世の過ちを繰り返さないためにも、こうした変化や気付きは無視するべきではないと判断したからである。

 

 

「そこまで畏まる必要はありません。建前と化してはいますが、学園生活や迷宮探索に身分を持ち込まない……努力はしているつもりです」

 

「……そうですか。ほかの学生たちがどう感じるかはともかく、俺としてはマゼンタさんのその姿勢は好ましいと思いますよ」

 

 

(あ〜、もうッ! 命令して従えるのに比べて信用を稼ぐってのはメンドクセーなホントによー。でも拒否られなかったってコトは、信用の取っ掛かりぐらいはあるってコトだよな? クソッ、クラスの男どもとは雰囲気が違うから同じように扱っていいのかわかんねェぞ……

 なんで凡人どもはこんな面倒な心理戦を平然と繰り返すことができるんだよ……意味わかんねェよ……力で上下関係をハッキリさせたほうが認識の統一も楽じゃんよ……こんな厄介なやり取りを普通に続けるとか……なんて難しいんだ、この“普通”ってヤツは……ッ!)

 

 

 交流の場、という全体の流れと意識の調整がされていたクラスでの会話とはまるで難易度が違う。

 屋敷の使用人や雇用している冒険者との会話はそもそも立場の影響がまるで違うので参考にならない。

 

 記憶と共に引き継いだスキルに関する知識がどれほど豊富だろうと────同世代の男の子とのコミュケーションには全くの役立たず。

 

 どうにか平静を保ち穏やかな微笑みの仮面を被り続けることで一緒にダンジョン攻略を開始することができた。

 だが、ここにきて『普通』という概念の深淵を覗き込んだマゼンタの精神は下手なスキルの使用時よりも消耗していた。

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