___アビドス学園。
三大学園に並ぶ程の力を持っていたのは昔の話で今は多額の負債を抱えただ廃校を待つだけの学校。
その原因は砂嵐。
突如数年前に都市中心部まで肥大したその自然災害は都市機能を麻痺させるに十分で私達も最初こそ抗っていたが、年々酷くなる飛砂害と解決の目処が立たない暗い未来に人は刻一刻とアビドス自治区を離れて行った。
そうして今もこの場所に残ったのは物好きな連中か他に居場所がない者達。
私は今日も誰も居なくなったゴーストタウンで昨日今日で積もったばかりの砂を砂かきしていた。
「ユウちゃん。こっち手伝って!!」
「もうすぐ終わるから待っててお姉ちゃん」
うへぇ〜と上から追加で落ちてくる砂に慌てふためく姉を横目で見つつ出された救援依頼に答えるべくペースを上げる。
「いや〜ありがとうユウちゃん。お姉ちゃんは出来る妹がいて幸せ者だよ〜。そんないい子はハグしてあげましょう!!」
「ちょっと暑苦しいからお姉ちゃんまっ...うぷっ」
今日の仕事も終わって片付けをしているといきなりお姉ちゃんがが近寄ってきて抱きつかれると次には自分にはまだ無い柔らかな脂肪の間に顔を押し込まれ左右から拘束される。
腕との完璧なダブルバインドに私はジタバタするしかない。
柔らかな物体は的確に私の気道を塞いでくるし、怪我しない程度に暴れるものの変幻自在に形を変えてくるものだからそれに阻まれて息ができない。それどころか
「ユウちゃんそんなに嬉しいんだね〜ほらほらもっと抱きしめちゃうぞー!!」
酸素を求めようと開けた口に布ごと食い込んできて逆効果である。
私もやられてばかりいるわけにはいかない。負けじと押し返そうと対抗するが同世代では大きい方でも相手が悪いとはこの事。
私の胸部装甲より一回りも二回りそれ以上に大きな暴力の前には儚い抵抗でしかなかった。
普段からどこかぬけている姉だが、唯一勝てないと部分でどちらが上かを定期的にわからせてくる。それも無自覚なのだからタチが悪い。
「ユメ先輩。そこまでにしてあげてください。
梔子さんが窒息死してしまいます」
「ん?あっ!?ユウちゃん大丈夫!!」
間一髪。
意識が朦朧とし始めていた所で不意に解放されると新鮮な空気をありったけ吸い込む。
「ありがとう小鳥遊さん。助かった」
「いえ、流石に死にそうになっている人は見捨てられませんから」
私はその場に座り込み呼吸を落ち着かせながら隣に立っている命の恩人に礼を言う。
私やお姉ちゃんと違うピンクの髪色。
少々とっつきにくい鋭い目つきをした私と同い年の生徒である小鳥遊ホシノさん。私と同じ年に入学してきた同級生でもある。
「それじゃあ祝勝会だね。学園に戻ろう!!」
息は既に整い。すっかり綺麗になった一帯を見つめていると声が掛かるので立ち上がるとスカートに付いた砂埃を払う。
時刻は夕暮れ時を迎えようとしている帰宅時間として切り上げるには頃合いであろう。少し目線を離せばまだまだ砂山は広がり終わりが見えないとはこの事を言うのかもしれないな。なんて考えつつそれを捨てて勝手に帰路に突き出したバカな姉を追って隣にいるもう1人の同級生の手を握って歩き出す。
「ほら。小鳥遊さんも行くよ」
「分かりました。ですが、手を繋ぐ意味ありますか?」
本当に素直な疑問といった風に聞いてくるので少し笑いそうになってしまう。が、人が手を繋ぐ理由なんて私も深く考えたことがないな。なんて頭で思い浮かべるが、深く考えた事がない時点でその程度の事だ。
「小鳥遊さんは嫌だった?」
「嫌とは言ってません。ただ歩きにくいし、非効率だと」
「人生って案外無駄の積み重ねっていうからね」
「はぁそうですか」
生返事をする小鳥遊さんとの距離間を感じずには居られない。
でもそれは仕方がないことなのだ。
だって私と彼女の関係はまだ1ヶ月くらいだし、私には姉と違って誰とでも仲良くできるそこまでコミニケーション能力はない。せいぜい空気を読んで相手の機嫌をとるのが得意なだけ、そんな透明人間みたいな行い。それをコミュニケーション能力と呼んでいいのか私には分からないし、私はそれは違うと思う。
真に人を思いやれる、仲良く慣れる人というのは打算も何もなくすれ違った相手に話しかけられる人や困っている人がいればすぐ手を差し出せる人で、でもそんな私でも小鳥遊さんとは仲良くなれるとなりたいと思った。詳しくはよくわからない。所詮、直感というやつ。
「ほら、小鳥遊さん走るよ!!お姉ちゃんは1人にしちゃうとすぐ迷子になるから」
「了解しました」
2人で二人三脚する様に走る。
無愛想に見えて小鳥遊さんはしっかりと人を見ている。
今も何も言わずに私のペースに合わせて繋いだ手を引っ張ることなく引っ張られることなく不快感無く私のペースで走らせてくれる。
「ほら!!お姉ちゃんもいくよ!!」
追い越し様に空いていた手でお姉ちゃんの手を掴んで引っ張り出す。もちろん走ったままだ。
「ちちちょっとまってよユウちゃん」
「待たない。ほら体重増えたって朝落ち込んでたじゃん。だから学園までダイエット」
「そ..そんな乙女の秘密を軽々しく言うなんてホシノちゃんも居るのに酷いよ〜」
無視してコチラは違って私のペースで無理やり引っ張ってやる。
決して仕返しをやってるつもりはありませんとも。
「ん?小鳥遊さん?」
「どうしましたか?」
不意に見た彼女の顔が笑っている気がしたのだが、どうやら気のせいだった様だ。じっと見つめればいつもの小鳥遊さん。それな私を見てどうしたんだと言いたげな表情だ。
「このまま学園まで走るけど大丈夫?」
「体力的に問題ありません。帰宅の短縮は実に効率的ですが、そのユメ先輩は...」
早くもゼェゼェと息を荒くする人物を見て不安げにするがそちらは無視して構わない。
「この人は気にしなくて平気。最近心身共にダラけてるから矯正しないとね」
「ハァハァ...ちょっとまって!!ほらあの先に見える自動販売機でジュース飲もうよ!!私がお金出すから...って聞いてる!?あぁ...自動販売機が過ぎちゃったよぉ〜」
走りながらもペラペラと減らず口を話すお姉ちゃんを見て小鳥遊さんはもう何も言わなくなった。いや少しペースを上げてきた。ならこっちも負けていられない。
「ちょっと全力出すけどついてこられる?」
「望む所です。置いていかない様に注意します」
わぁ〜お。
その返しは想定していなかったかな。
思ったよりも好戦的でビックリしちゃった。
けど、小鳥遊さんの新しい一面を知れて嬉しいかな。
「まだ上がるの!?ユウちゃんホシノちゃん、転ぶから。私、転んじゃう〜!!」
「安心してお姉ちゃんバランス崩しても転ぶ前に引っ張って立たせてあげるから」
「そんな親切いらないよ〜!!ユウちゃんの悪魔!!鬼!!お姉ちゃんはもう嫌いになりました」
静かな市街地に賑やかな声が反響する。
今日もいつも通りのアビドスです。