__目を開けるとそこは知らない部屋だった。
何もかもが真っ白な部屋。
カーテンに覆われて区画が仕切られたようなベットとその横にある点滴の管を追っていけば私の腕に繋がっていることに気づいた。
病院だろうか?
あいにく私の記憶はあのビナーとか呼ばれる過去の先人達の遺産。トンデモ兵器を相手に戦闘をしていた所で終わっている。
___思い出せばハッとなる。
どうして私は生きているのだろうか、一瞬だったがあの攻撃をマトモに受けてタダで済むはずはない。
私にアレを防げる程の防具は無かったはずなのだ。
お姉ちゃんの盾なら...それなら防げたのかもしれない。
でも手元にはなかった。
私の中に思い浮かぶ選択肢の一つは私の行動で失われていた。あの時点で私はあの攻撃を防ぐ手段を手放し詰みだったのだろう。
でもこうして砂漠から何処かわからない場所に居る時点で私はきっとビナーに負けたのだろう。仇討ちもできず、そして死ぬこともできず無様を晒しておめおめと生き残ってしまったのか。
シャーと音を立ててベットを囲うカーテンの切れ目が開く。なんとなく動く気のならない身体を動かさず目線だけを音のする方に向けるとそこに立っていたのは医服を着たオートマタ。
「おお!!目を覚ましたのですね!!いや〜流石に手遅れかと思いましたが、なんとかなりました。よかったよかった」
そう言って機械の顔を映すモニターがビックリした表情から喜びに移り変わる。この人の言葉から判断するにこのオートマタが私を助けてくれたのかもしれない。
「おっと、こんなことをしていては!!意思疎通の有無を___「ここはどこですか?」
「おお、視力も意思疎通も大丈夫そうですね。あっ身体はまだ動かさない方が良いでしょう。」
医師が言うには全身火傷で道に倒れていた私を通行人が見つけて運び込まれたのだという。体を動かそうとすると痛むのはそのせいか、あの光は熱量を持った兵装、私はそれをマトモに受けた。
よく人の原型を保ってたものだ。
少しでも運び込まれるのが遅れていたら間違いなく死んでいたとのこと。事情はどうあれ命の恩人さんであるのは変わりないありがとうございますと言えばそれが私達の仕事ですのでと簡易な検査を施されるとではと立ち去っていった。
退院にはまだまだ時間がかかるらしい。
__そろそろ退院の許可が出るらしい。
それまでに担当医から集めた情報によるとここはDU地区のシャーレと呼ばれる建物らしい。当初はアビドス砂漠から医療施設の揃った場所へと運び込まれたと考えていたが、何故か話は噛み合わずとすれば私が見つかったのはアビドスではなくDU地区内という事が分かった。そう言えば道で倒れていた所を運ばれたと言っていたような...寝起きでまだボ〜としてしまっていたから疑問にすら思わずスルーしてしまっていた。
でも、だとするとなぜ私はDU地区で倒れていたのかという話になってくる。私はアビドス砂漠にいたこれは紛れもない事実、その後倒れた後に誰かに運び込まれた?誰に?あの化け物を目の前にしながら死にかけを守りつつ戦線離脱なんて離れ業を成せる者なんて果たしているのだろうか?
そんな全くもって答えの出ない問題を頭の隅に置きつつ、退院後について尋ねられる。どれくらい眠っていたのかは分からないが、とりあえずアビドス学園に戻って謝らないといけない。不在の間、1人で頑張ってもらったのだ。最近は会話ロクにしていなかったが、彼女からの小言の一つは覚悟しておかないといけないだろう。
「アビドス学園?…アビドスですか?あそこは在校生徒が居なくなって確か実質的な廃校になっていた様な?本当にアビドスの生徒さんですか?」
医師がそんな反応を示すので私は制服に学生証ごあるはずだと言うと医師はハンガーに掛けられた制服の中から学生証を取り出し確認すると驚いた表情を見せた。
「梔子ユウさんですね。いやぁ〜本当にアビドスの生徒だったとは。すみません勝手な事を言ってしまってアビドスには疎いものですから...しかし気をつけて下さい。アビドスの治安は最悪なので。…まぁ今となってはギヴォトス中、どこも変わらないかもしれませんが」
「えっと?どう言うことですか?」
「ん?少し記憶障害が?頭を強くぶつけたのか...後で検査してみましょう」
「それよりも治安が最悪って」
ギヴォトスの治安が最悪その言葉の意味はテレビが付けられると直ぐに理解できた。
『シャーレが爆破されてから、ここDU地区も安全な場所とは言えなくなってきました。連邦生徒会はこの事態を受けて___」
NEWSと画面端に表示され、画面に流れる映像は暴走するオートマタや組織的な集団から爆撃され崩壊する建物、炎が上がる一帯と逃げ惑う者達を映しながら次々と画面が移り変わり視聴者にギヴォトスの現状を伝える。
そうしてテレビを見続けていると不意に別の場所から声が聞こえてきた。
「もう__日目___の___は絶望的です」
「しょうが__い。最初から___」
「では___には?」
「___安否は__せざるを得ない」
バタバタと誰かが駆けていくとそこ足音はどんどん遠くになっていった。
___私の趣味はテレビ鑑賞になっていた。
というかベットの上ではそれしかやる事がないから一日中テレビの画面を観ているだけに過ぎない。
相変わらずギヴォトスが戦火に包まれている旨の放送がほとんどを占めており、それは事実なのだろう。静かな病院には似合わない爆発音や銃声が外から毎日の様に響いてきている。
最近のトップニュースは先生という人の事実上の死亡が確認されたらしい。私には知らない人ではあるが、結構重要な人だったのか、緊急ニュースとして医師が会見を行っている映像が毎日毎日繰り返し繰り返し流されている。これで何度目だろうか、もう飽きる程にみた記者会見。記者の質問、医師の回答まで覚えてしまった。
違和感は拭えない。
こうして病室で唯一の情報源を得るがどうしても頭の中に引っかかるモノがある。もう実際目にした方が早い。出来るなら明日にでも医師に退院の許可を貰おうかなと考えていると私はテレビを消して目を瞑った。
「先生!?意識が戻られたのですか!!どうして!?あなたの容態は絶望的だったはず、それこそ奇跡でも起きなければ...」
少しして目を開ける。
寝るつもりだったが、周りがうるさくて寝れる状態ではなかったからだ。
外が騒がしい。
ああ、外とは言っても病室内。
私のテリトリー外からの騒音。
同じ病室ならば少し静かにしてくれてもいいのに。おかげ様で聞きたくもないのに会話が丸聞こえである。
程なくして私の方に別の医師が駆けつけてきくる。
「梔子さん。早く逃げて下さい!!もはやここも安全とは言えません。まだ完治しないまま患者を動かしたくはないですが、これも緊急事態です!!ご了承とお急ぎを!!」
そう言って私に付いている器具を取り外してくれるとさあ行きましょうと医師の先導を頼りにベットから立ち上がると同時に凄まじい爆発音と共に建物が揺さぶられ思わずベットの縁に手をつく。
「うわぁぁぁ!!に逃げろ!!」
先に来ていた医者の方はそれによって急いで走り去ってしまった。医者の話は本当だったらしい。今はまだ建物は保ってはいるが、何度も爆撃されればいつ崩壊してもおかしくはない。
「さあ行きましょう」
私も私でこうしては居れず、もう1人の医者に導かれる様にその場を後にするその時、隣人を初めて見た。その姿はスーツ姿に仮面をつけた実に奇妙な姿の人だった。
建物を出るとそこは地獄の様な光景だった。
ギヴォトスでは抗争は日常茶飯事だ。それによって建物が倒壊するなんて珍しくもないし、道路が使えなくなることなんてのもよくある事、でも今は目に見える街の全てが戦火に包まれ崩壊していた。銃撃は全方位から響き渡りいくらギヴォトスとはいっても異常事態であるのは明白だった。
私は待つことにした。
世紀末と化した世界、銃社会で銃も無しに丸腰で歩くわけにもいかず、医師とは別れを告げて目的の人物を待った。
___仮面の人。
先生と呼ばれていた人。
ニュースでも大々的に報道されるのだから、それなりの地位か知名度があるのだろう。私は知らなかったけど、、、
「えっと、先生ですよね?」
背後の入り口からゆっくりと歩いてくる自分よりも大きな人。ヘイローを待たない生徒ではない人、、、大人。
その大人は私の問いに答えることはなく、しかし立ち止まってコチラを見つめてくるが、その仮面からは何も言葉は出てこなかった。
「すみません。喋れない、、、でしたか」
あの医師の言葉が本当ならば身体を動かすことも喋ることも困難、顔はかろうじて仮面で矯正して保っている状態。医療知識はないけれど、とても出歩いていいような状態ではないのは確か。
「すみません。盗み聞きするつもりはありませんでしたが、同じ部屋でしたので聞こえてしまいました」
それは本当だ。
結果盗み聞きした様になってしまったが、悪く思わないでもらいたいものだが、いかんせんあの仮面ごしでは表情が全くといいほど伝わらない。困ったものだ。
私がコミニケーションについて悩んでいると先生が初めて反応を見せた。腕を動かしたかと思えば掌を前に突き出す。
″気にしないでいい″
その動作はそう言っている様に思えた。何故だろう勝手に解釈した私もきっとそうだろうと謎の自信があり、そして会話は終わったのだろう。先生は私を追い越して歩き去ろうとしてくる。
「そんな身体でどこにいくんですか?まぁ私が言えた柄ではありませんけど...」
一応完治しかけとはいえ怪我人なのは間違いない。
そんな自分よりも重症であろう人がヘイローも無しに銃撃の鳴り止まない場所の方角へ行こうとするなら私じゃなくとも声をかけてしまう。
先生も無視をせず律儀に私の話を聞いてくれるか、立ち止まってくれている。もう話すこともできないらしいが、きっと優しい人なのだろう。
私はそんな人が死にかけの状態で何処に向かうのか純粋に気になった。先生を見ていると酷く既視感を覚えたのも私の考えの一つだったのかもしれない。
___だからだろう。
「それにこんな治安では歩いているだけでも流れ弾で死んでしまうかもしれませんよ。私も連れて行って下さい」
私は先生について行くことにした。
先生はいい人だ。その人がこんな状態でも命を燃やしてまでやろうとする事。きっとそれは私では想像がつかない程に大切なものなのだろう。私は先生を手伝ってあげたいと思った。
先生が困ったような態度を取るが私は無視して先生の手を取る。先手必勝私が想像する通りの人なら拒むことが出来ない。拒んだとしても絶対にこの手を離すつもりはないけれど。
これならフラフラしていてもいくらか歩きやすくなるかもしれない。ふと目に入った先生の反対の手に抱えられたタブレット端末。少しだけ、そう少しだけなんとなく気になって青く光る画面を見つめるがただ画面は光を放つだけだったので興味は薄れ前を向く。
ホシノに帰りが遅くなるってメッセージを入れないと思ったが、端末はどうやら何処でなくしてしまったようだ。心の中で謝罪しつつ私達は歩き出した。