「ねぇ放課後、DU地区に遊びにいくんだけどユウも来ない?」
放課後、廊下を歩いていると声をかけられる。
ありがたいことに遊びの誘いみたいだが、生徒会の仕事があるのでその誘いに乗るわけにはいかない。
「ごめんね。今日は用事があるからまた誘って」
「今日も用事ね。アンタもたまには羽目を外さないと倒れちゃうわよ」
手痛い言葉をアハハ...と笑って往なしつつ本当にごめんと誠意を見せる様に謝る。これくらいしか私は出来ないのだ。
「ほら、生徒会の人に迷惑かけな〜い。ユウも頑張ってな」
「な!?そんな言い方って、人を虐めてるみたいじゃん!!私は...」
「わーってるって。ほら遅れるから行こうぜ」
「ユウ。今日も生徒会の仕事?頑張ってね」
「みんなも楽しんできてね!!また話聞かせて!!」
知り合いの集団の後ろ姿を見届けつつ姿が見えなくなるとため息を吐く。私だって年頃の女である。こうみんながやっているみたいな流行りを巡る遊びに興味が無いことはない。
今日もまた誘ってもらえたことは本当に嬉しかったし、断ったけど、行きたい気持ちが無いかと言えば嘘になる。
人付き合いは得意な方だと思う。
前の学園では人付き合いが第一でやたらと集団で派閥を形成したがる人ばかりだったので自ずと自分の居場所を作るために満遍なく関係を形成して接していた。そのおかげでアビドスにやってきてからもこうしてすれ違えば声をかけてくれる程度には関係を築けている。
他人との関係を優先するならここは私も一緒に遊びに行った方が良かったのだろう。でもしょうがないじゃないか。
私にはみんなみたいに放課後になると他の自治区に出歩く余裕はない。あるとしても生徒会関係で他の学園に融資を頼みに訪れるくらい。
そんなお金があるなら借金の返済に当てた方がマシだと、そんな考えを持つ私を見ると他の人はどう思うのだろうか?
変人だろうか?金の事しか頭にない金の亡者か?今更指摘されたところで私も十分に自分がズレている事は認識しているつもり。
誰からも理解されなくても。
それでも守りたいモノがあるから。
私は今日も生徒会室を目指して歩いて行った。
「今日のテーマはなんと人助けです!!」
じゃじゃーんとひっくり返されたホワイトボードにデカデカと書かれたその文字にとりあえずパチパチと拍手を送る。
「それで、具体的には」
「ないよ」
小鳥遊さんの言葉は直ぐにぶった斬られる。
えっ?と言うか細い声などは現生徒会長の声にかき消されたが、安心して隣に居た私には聞こえていたともさ。
「ほら皆んなスタンダップ。困っている人を探しに行こう」
会長の号令がかかる。
アビドス生徒会の出撃である。
「ありがとうね。アビドスの生徒さん達」
人を助けるためにまずは人探し。
言葉にするとそうなんだろうけど、でもなんだかなと思いつつ今日の仕事を進める。
ただ以外にも困っている人いうものは目を凝らせば結構いるもの。普段は意識してないからか見落としているのかもしれない。
砂の影響で立ち往生してしまった車を押してあげて渋滞を解消してあげたり、今のご時世、客足が離れてしまった店の客引きを手伝ったり、道に迷った人を案内したり等々。
そんな感じで困っている人探しに困るという本末転倒な事態に陥ることなく着々と依頼を解決していく。
謝礼なんてのは貰わない。
それがアビドス生徒会にある数少ない決まり事の一つ。
対価を目当てにやってる訳ではない。
いわゆる慈善事業。
ボランティア活動の一環として学園の名を借りてやってるのだから当然と言えば当然だけれど、丸一日活動してそれで市民からの好感度は得られても1円も減らないという事実に目を向けてしまうとなんとも言えない気持ちになるのは仕方がないのではなかろうか。
まぁそんな日頃の行いが功を成すのか募金として少なからず支援金が集まったりはするが正直な所、焼石に水とはこのこと。
実際問題の話。
アビドス学園の懐事情は自分達が精一杯算出しているお金を含めてた諸々を返済に充てているが、それでは利息すら払えきれずドンドン借金の額は膨れ上がっている現状。
それは自転車操業などという不名誉な言葉が頭によぎりそうになるが、その実はそれさえも成し得ていないまさに断崖絶壁を背にして前から常に突かれ続けているという表現をすれば伝わるだろうか。
普通の企業なら倒産していてもおかしくない。
なら何故、アビドス学園は存続しているのかと問われるとここギヴォトスにおいて学園とは特別な存在だからだ。
学園というのはその自治区の根本的な権限を所有し、住まう者達の身分を保証する。国という区切りのところの政府に分類される機関と例えれば分かりやすいかもしれない。
その学園が廃校になればどうなるか?
管理していた土地の所有者は消えてアビトスで発行された身分証明書は意味をなさなくなる。つまるところ皆が路頭に迷う。
それにアビドスは今でこそこんな砂まみれの状態になってしまったが、元々は広い自治区と発展したギヴォトスでも有力な学園だったらしい。その学園が消えれば他の自治区とのパワーバランスは変わるだろう。そうなればギヴォトス全体の経済を始めとした様々な分野に少なからず余波として広がる。
最悪な話、空いた空白地を求めて戦争になるかもしれない。混乱に乗じて裏の世界で暗躍していた良くないヤツが表舞台にでてくるかもしれない。
そうした事態を恐れ均衡が崩れるのを嫌う者は誰だろうと考えれば裏で手を引いているのは連邦生徒会とユウは睨んでいるのだが、尋ねてもいつもはぐらかされて終わるから事実確認はできていない。
でもそんな無茶もいつまでも続かない。
自力で借金を返す方法も借金を踏み倒せる程の力をアビドス学園はもう持っていない。私達はハリボテの城を支えながら居場所の為に一生懸命に叫んでいるけど、今のままでは終わりはいつか必ずやってくる。
会計を任された私が言うのもなんだが、こうしてまとめると数字として嫌でも理解できることだ。
「よしよし。先月よりもお金を払えたおかげで利息はそこまで増えなかったね。ユウちゃんも報告書作成ありがと〜」
そんな私の思いを知らず、生徒会長である姉は目の前の事実をそうやって受け止める。
表情はいつもと変わらない。
普段通りの梔子ユメ。
生徒会長ともなるとそれくらいの気の持ち様が大事なのか。お姉ちゃんを見ていると時折り私みたいにバカ真面目に向かい合っているのがおかしく思えてくる。お姉ちゃんは本気でアビドスを救う気があるのかと、生まれてきた黒い感情にハッとなると振り払う。
何を今更、
お姉ちゃんがアビドスを愛していることなど昔から知っている。
それに私みたいに日々、真面目にこんな額の借金と向き合うと頭の髪がなくなってしまいそうだなと思い。生徒会活動をこなす上ではお姉ちゃんのスタンスもあながち間違いではないのかもしれないと考えを改めた。
「・・・」
私の隣に座る同い年の同級生は何も言わすただ黙って私の資料を眺めていた。