最後のアビドス生徒会長   作:シャッチトムソン

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空に輝く星

 

「毎度ありがとうございました!!」

 

最後のお客さんへの対応を終えると大将から声がかかる。

 

「今日はありがとうさん。客入りが多くて忙しかったろう?給金は弾んでおくから期待してな」

 

景気の良い言葉に私も元気よく返すと端末が揺れて確認すると姉からメッセージ。

 

今夜は生徒会室に集合らしい。

また何を思いついたのか、、、

 

あの人の行動を予測する方が難しいのでとりあえず分かったと必要最低限の言葉で返し店の片付けをしようと作業に戻ろうとすると私の行動を見ていたのだろう大将から用事があるなら帰っていいと促されてしまった。

 

お金を貰っている立場。

最後まで責任を持つのも仕事だと食い下がっては見たがいいからいいからと認めてはもらえなかった。

 

「良いってことよ。ユウちゃんにはいつも助けられてるからね。たまには早く返してやらないと俺がバチに当っちまうよ」

 

笑って送り出してくれる大将にお礼を言いエプロンを脱ぐと私は言われた通りに学園に向けて舵を切った。

 

 

「天気ヨシ!!立地ヨシ!!望遠鏡も準備OK。これならなんでも見られそうだね」

 

「先輩は何もして無いですよね」

 

学園に着くと生徒会室に向かったのだが誰も居なかったのでモモトークを開き尋ねると屋上に来てと直ぐにメッセージが返ってきた。

 

屋上を目指すとそこには残りの生徒会メンバーが揃って何やら作業をしている。

 

ホシノが望遠鏡を組み立ててお姉ちゃんはその後ろから騒いでいる。その状況から判断するに私が呼び出された要件を想像することは容易かった。

 

そもそも望遠鏡でやることなんてひとつくらいだし誰でも予想はつく。

 

___天体観測。

確か私はやった事はない未知の体験。

 

やろうとは思わなかったから未知の体験なのだが、やる機会に恵まれるというのなら興味はある。

 

私自身、オカルトやらまだ証明されていない未知の神秘やら時代にそぐわないオーパーツなどなど一見すると古参臭いその界隈の話題にも一時期はハマっていた事もあるし、その手の雑誌をよく買っていた。私は存外そういった自然の謎に対して気になるタチの人間だったのだ。

 

そうしてなんとなく空を見上げればいつも通りの夜空が広がる。

だけれど今回はいつも以上に輝いて見える気がする。それは私の今の感情に比例してそう見えているのだろうか。雲一つなく天体観測には絶好の日なのは間違いない。

 

「おっユウちゃんこっちこっち」

 

見れば分かるのに目の前で手を振ってくるお姉ちゃん。

私もその場に立っているわけにも行かないので望遠鏡の側へと向かえばお姉ちゃんの鼻歌が聞こえてくる。今日も実に楽しそうでなによりかな?

 

「ほらこれ学園を漁ってたら見つけたんだ」

 

じゃーんと効果音を自分の手で付け加えながら本を差し出してくるのでそれを受け取る。

 

「季節の星...天体観測入門編?」

 

「うん。多分そういった部活があったのかな?奥の方にあった望遠鏡一式も埃を被って段ボールの中にあって可哀想だったし、なら天体観測でもやろうって...ね?」

 

まぁ要約するとたまたま訪れた出来事によってこれ幸いと予定を決めたということ。いつも通り平常運転の我が姉で安心すら覚えてくる。

 

「でも先輩はずっとその本読んでましたよね」

 

「そっそれは...ホシノちゃんが他の事してろって言うからで」

 

「レンズを拭くだけの作業で短時間に3枚も割る人がどこに居るんですか全くもう...」

 

こっちはこっちで私がバイトに励んでいる間に色々とあったらしい。とりあえず買ってきたスポーツドリンクをホシノに手渡すと今度はお姉ちゃんにも一本差し出すが受け取られる前に引っ込める。

 

「ひぃん!?ユウちゃん!!」

 

受け取ろうと差し出された手が切り傷でいっぱいだった。

どうせこの人は割れたレンズを素手で触って掃除でもしたのだろう。もう少し自分の身体を大切にして欲しい。ただでさえ普段からよく転ぶのだから注意意識が著しく欠落している気がする。

 

思わずため息を吐いてしまい。ちょっとまってと屋上から生徒会室をスタスタと向かい救急バッグを手にまた屋上へと戻る。

 

そしてお姉ちゃんの手を捕まえて消毒を行えば「しっ染みるよ〜」とプルプルと生まれたての子鹿みたいに震えるが私は無視してガンガン手の一つ一つに消毒を施していく。後は消毒した場所に絆創膏を貼って完了。

 

お姉ちゃんも女の子なんだからもうちょっと気を遣って欲しい。こんな事で一々古傷なんか作っていてはいずれ全身傷だらけ女になってしまう。自分の姉としてそれはNGだ。

 

処置が終われば飲み物を渡し私も望遠鏡の元へ。

 

「ユウ。組み立ては出来ていると思うので覗いて確認お願いします」

 

手元の作業に視線を向けたままにホシノからの指示が飛んでくる。言われるがままに目の前にある望遠鏡を覗き込むとそこには星が広がっている。

 

「うん。大丈夫そうちゃんと見えてるよ」

 

目を覆い尽くす新しい世界。

自分で見るよりもハッキリと見えるそれらは宇宙のロマンを感じさせるのには十分で吸い込まれそうになる。だが私もその光景を独り占めする訳にはいかない。覗き込むのを中断し隣で次は私と体を揺らしてウズウズしているお姉ちゃんへとバトンタッチして私は渡された本を読む。

 

今の季節だとどんな星座が見えるのか?ページをめくって実際の空と見比べながら見えそうな星を探す。

 

あいにく天文学には疎いので今の状態では確かに星は綺麗だけどそれでもう終わってしまう。ならせっかくなので今しか見られない星というやつを探すのも悪く無いのではなかろうか。滅多に無い機会だそうしよう。

 

「あっホシノちゃんこれ天の川ってやつだよ!!凄いよ」

 

「いやそう言われても1人用ですから先輩」

 

「じゃあ次はホシノちゃんの番だね」

 

天の川...あった。

確かに説明されている通り川のように見えなくも無い。

 

頭上ある真っ黒な空に集まるように生成された星々。

大き過ぎて望遠鏡を使わなくとも見えてしまえる。いやこうして宇宙から一番離れた地上から目視でみているからそう感じられるのだろう。きっと覗いて仕舞えばそこにあるのは無数の星々だけだろう。

 

なんとなく私はその何気なく自分が抱いた感想を得て面白いと思った。見方を変えると印象がガラリと変わってしまう良い例の一つ、見解の深まりを感じつつ星の観察を続けてみる。

 

しかしあれが天の川という事を初めて知った。

なら周りよりも一際輝くあれが夏の大三角だろうか、、、そうなるとあれが星座の一つの...パラパラとページと答え合わせすると一致する星を見つけてはなんだか達成感みたいなものを感じて楽しくなってきた。

それに知る前と知った後ではさっきまではただ綺麗なだけだった同じ星たちが今では区別がつくようになってきた。

 

「見てみているか座だよホシノちゃん!!」

「イルカ!?どこですか先輩!!」

 

「ほらあそこ。わし座の下の方」

「ん?…あれですか?...いるか...いるか?そうはみえませんけど...」

 

「そこはアレだよホシノちゃん。きっとセンスだよセンス。宇宙の神秘ってやつ」

 

そうしていざそこに名前が付けばなんとなく違いがわかってくる。何気なく見ていた星が自然とあれは確か〜でこれはさっき見つけた〜だとなんだか夜空に色がついたみたいに変わらない夜空が変わって見えた。

 

これが宇宙のロマンというやつか。

 

恐ろしいものだ。

出会う時期が時期であれば私は星の虜になっていたかもしれない。

 

「それでどうして今回は天体観測になったの?」

 

「それがね新しい星を発見するとなんと名前をつけられるみたいなの」

 

なんともまあロマンチックな課外活動に対して現実的で欲深い目的だことで、、、それが今回引き受けた依頼の線も十分に考えられるのがアビドス生徒会。なんだか急に悲しくなってきたのは気のせいかな?

 

「で、いくら貰えるの?」

 

「はぇ?いくらって?…ち違うよ!これは歴とした生徒会活動だから」

 

その後資金集めも生徒会活動だけど・・・と小声で付け足しつつも、とりあえずは今日は借金返済の為の行いではないらしい。

 

そうと分かると夏の課外活動としてはお姉ちゃんが持ってきた癖に中々に面白い題材ではなかろうか、何よりもお金がかからないというのが良い凄く良い。

 

見つからなくとも支障がないし…もちろんやるからには見つけたいし名前もつけたい。自分の星を作れるなんて魅力は言葉だけでも伝わってくれるだろうか。

 

 

私達はそうして満点の星空で星を探し始めた。

 

「アレは...ダメだ。もう見つけられてる」

「あの星も見つけられちゃってる」

「この星ももう名前があるやつだ」

 

みんなで星探し。

ロマンチックな課題に取り組む私達アビドス生徒会は学生的な青春を満喫している行動とは裏腹にいつも通り苦難の壁に正面衝突していた。どうやら私達が手を出した物は結構ハードルが高いものだったのかもしれない。あれだけあるのだから一つや二つくらい見つかるだろうと適当に考えていた私の方が馬鹿だった。

 

見つかるものはすでに見つけられ名前が付けられた星々。

普通に考えて自分の好きな名前をつけられる。そんな魅力的な提案に宇宙に想いを募らせる層が飛びつかないはずがない。

 

今もなおその本職の者達によって端から端までキッチリと探索され尽くされてしまったであろう夜空から見つかる星は悉くが発見済み。

そうとくれば自分の中で少し諦めムードになってくる。

 

・・・我ながら情けない事だが、最近諦め癖がついてきてしまった気がする。これも失敗続きの生活で歪んでしまったのか...いやそもそも私達はこんな事をしている余裕があるのだろうか?そんな疑念すら出てきてる。

 

出口がない袋小路、果てのない真っ暗な空。

煌めく星を眺めては私はこんな意味をなさないであろう事に時間を浪費するくらいなら借金を少しでも減らせる案を立てて___それこそ新しい星を見つけて需要のある人物に売りつける等々、幻想的な風景をぶち壊すに足る思考回路。

 

「もう少しで見つかるんじゃないかな!?」

「どんな根拠ですか」

 

「う〜ん。私の生徒会長としての感?」

「そんなもん当てにならないですよ」

 

「ひぃん...」

 

2人の楽しそうな声が響いているが私の気持ちは現在進行形でドンドン下がってきている。多分友人達とでも変わらない。一歩引いた場所で私は達観してはすまし顔で話題を振られた時だけ愛想笑いをして時間を過ごしていくのだろう。

 

 

 

 

 

 

「先輩!!」

 

シーンとした夜中では普段の声でも大きく聞こえるが、一際大きなホシノの声。

 

「どうしたのかなホシノちゃん」

「私じゃありません。空を見て下さい!!」

 

ユメは導かれるままに上を見上げるとうわ〜...と言葉になっていない、人が感嘆した時に生まれる言葉にならない声をあげた。

 

「ほら凄いよユウちゃん!!」

 

少し離れた場所で難しい顔をするユウを引っ張り近くに寄せるとほらほら見て見てと興奮冷めきらない顔で空を指さしながら、それにユウはその指先と同じく上を見る。

 

「凄い...」

 

空から星が落ちてきている。

横から横へ流れる無数の星。

 

見たこともない超常的な現象にそこにいる全員が目を奪われて無言で眺め続ける。その正体は流星群と呼ばれる現象。滅多に見ることのできない空の神秘。

 

「…って、こうしている場合じゃない。ほら早くしないと!!」

 

感動的な光景に似合わない大声にハッとすると自分が言えた義理ではないがもう少し空気を読んだほうがいいとユウは思った。はぁ〜とため息を吐くホシノも多分同じ事を感じていることだろう。とりあえずどうしたの?とユウが聞くと急かすようにユメは慌てた様子で答えた。

 

「願い事、願い事だよみんな!!3回言わないとこんな大チャンス滅多にないよ!!」

 

流れ星を見たら3回願い事を言えば願いが叶う。

何故か誰でも知っている誰が言い出したかも分からない行い。

 

ユメの迫る気迫に圧倒されて有無を言わさず結局は各々願い事を言う。一つに対しては難しくてもこれだけ流れ星があれば余裕で達成してしまえる。

 

「ユウちゃんは何を願ったの?」

 

「借金を減らしたい」

「私も同じです」

 

「はぁ〜夢がないな...もう、今日くらいはいつもの事は忘れて楽しむべきなんだよ」

 

言いたいことは分からないでもない。

きっと気分転換が必要だと言いたいのだろう。

 

「それで?そう言うお姉ちゃんは何を願ったの?」

「ん、私?私はあれかな」

 

「みんなとこれからも一緒に楽しくやれますように。かな?」

 

「それって、、、それこそいつも通りじゃないですかわざわざ願うことなんですか?それ?」

 

本当にブレない人だ。

梔子ユメという生徒はきっとどんな場面が訪れても自分を貫くのだろう。普段から弱いと貶される彼女。しかしその中にあるのは単純な戦闘能力の高さではなく、人として得難い真の強さと呼ぶべきものなのかもしれない。

 

本人に自覚はない。

いつも通りのその柔らかな表情を浮かべ無意識に無自覚にただ思ったままに行動しているだけなのかもしれない。けれどそれが梔子ユメという人間性なのだ。

 

「私にとってはみんなでこうして毎日を送れる事が奇跡だからね」

 

えへへと笑いながら2人を抱き寄せて頭を撫でられる。それだけでホシノとユウは毒気を抜かれてしまう。この人には敵わないと変わらないなと思わせられる。

 

撫でられ続けて懐かしささえでてきたその心地よさに身を委ねつつ星が降る空を見てユウは今日の目的を思い出す。

 

「あのさ...これっていつ終わるの?星探せなくない?」

 

流れ星は未だ止むことを知らない。

 

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