最後のアビドス生徒会長   作:シャッチトムソン

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エデンの園

 

「それでは今日も答えは貰えないと言うことでしょうか?」

 

「そんなに結果を求めるものではありませんよ。それは貴女らしくもない」

 

アビドスとは雰囲気も何もかもが違うお屋敷の様な部屋。

チラリと外の時計塔に目を向ける。

訪れてからだいぶ時間は経ったが、テーブルに向かい合う人物と話し合いにきたのだがどうにも進展はしなさそうだ。

 

「まぁそうせざるおえない状況であるのはわたくしもアビドス学園の実情は認識しています」

 

「それなら!!」

 

「ですが、わたくしも一つの派閥を纏める長。

不用意な行動はできぬ身の上、貴女なら十分に理解できるのでは?」

 

彼女とてコチラを蔑ろにしているわけではないのだろう。

先程の言葉どうり彼女には彼女の立場がある事も理解している。

 

だが、彼女の言葉には隠しきれない棘がある。

どんなに上品に振る舞っても格式高く紅茶を嗜んでも柔らかな物腰で対応したとしても。その目には静かだが炎が揺らいで見えた。外見からは考えられない触れた途端に火傷してしまいそうな高温の熱。

 

それからも話し合いは続くがやはり平行線で進展はみえない。彼女に怯えていては成せることも成せなくなる。私は怯むことなく、しかし相手を害することなく言葉を選びながら卓上で戦い続けた。

 

そうして実感させられるのは向こうが圧倒的な強者で私達が弱者の力関係。人を束ねる者そのあるべき姿とも呼べる選ばれた者の才能。

 

互いの立場をわからせる様に。

美しい薔薇が棘を持つ様に。

舐めるなよと気安く触れようものならタダでは済まないぞと暗に告げる。

 

「会長そろそろ時間だよ」

 

机の隣に立ち給仕に勤めていた生徒から声が掛かる。

 

抑揚のない声。

それは内心を悟らせ無いためのものか。

 

その生徒が比較的派閥で重要な立場に居るのか、それとも目の前の人物に気に入られているのか。はたまたたまたま今回は彼女の担当だったのか。最近の学園の情勢などに疎い私では判断はできない。

 

「それでは。有意義な時間でしたが、この後にも予定がありますので」

 

タイムリミットがきた。

さっさと立ち去れと言われたので出していた資料を鞄に詰め込み急いで立ち上がる。

 

「いえ。私の方こそお忙しい所、時間を割いて頂いたことありがとうございます」

 

深く頭を下げて最短ルートで部屋を後にしようと扉に手をかけたところで背後から声をかけられる。

 

「わたくしからの用件の方。

返事はいつでも待っていますよ。梔子ユウさん?」

 

その問いに私は何も言うことなく振り返ると座ったままのその背に向かって再度の礼を送り退出した。

 

 

 

 

 

 

その場に座ったままの彼女はユウが立ち去ったことを確認するとカップを手に取り一口嗜むと立ったままのもう1人に視線を向ける。

 

「あの子、どうだったかしら」

 

部屋には2人だけ、物音がしないテラスに声が響く。

 

「ふむ。君が目を置くのも分かる。素質としては十分、むしろ惜しい人材だ。何故彼女はあんな場所を進学先に選んでしまったのか...」

 

彼女のテンションに比例する様に特徴的なキツネ耳がしょんぼりと垂れる。

 

「えらく残念そうね」

 

先程までは客人が座っていた席に堂々と自らが着席し目の前にある汚れ物を端に寄せスペースを作り磨かれたカップを取って紅茶を注ぐ。

 

そこには遠慮も何もなく。

先まで見せていた従者の振る舞いが嘘の様だ。

 

「才能は然るべき場所で発揮され正しく評価されるべきだと私は思っているだけさ。梔子ユウ。中等部時代、同世代ならば尚更知らない者はいないだろう」

 

 

 

 

 

 

部屋を後にして廊下を歩く。

とりあえず人は少ないが誰が何処で何を見ているかわかったものではない。一歩一歩に気を引き締め、いつ見られても恥ずかしくない振る舞いを心掛ける。

 

今の私はああ早くここから立ち去りたいと願う気持ちに足も同意して早歩きに近い。しかしそんな私の感情など理解されず声をかけられてしまったので立ち止まる。

 

「ナギサさん」

 

「やはりユウさんでしたか。偶然見かけたものですから声をかけされてもらったのですが、この後どうでしょうか?」

 

お茶の誘い。

気持ちに従うならNOを叩きつけて駅まで急ぎたい。

 

が、お互い知らない仲でもない。

今日の予定は終わり後は帰るだけのスケジュール。

 

もう今日は頭を使うのは嫌だが、友人としての誘いならそんな必要もあまり要らずお茶の味を飲めそうだなと判断すると私は彼女の提案に乗った。

 

 

 

洗練された動作でお茶が入れられていくのを眺めながら彼女と普段から仲の良かったはずの生徒の姿が見えないので話題の一つとして訪ねてみる。

 

「ミカちゃんは今日は一緒じゃないの?」

 

「ミカさんですか。よければお呼びしましょうか?彼女もきっとアナタと会えるのを喜ぶと思いますよ?」

 

その提案には気にしなくていいとやんわりと断っておく。

その方がナギサさんも都合が良いはずだ。

 

注がれた紅茶を受け取り飲むとやはり彼女の淹れた紅茶は使っている元の素材の良し悪しもあるのだろうけど、それが更に活きて一段と美味しくなっていると感じる。

 

嗅ぎ慣れた様な匂いに今頃戻ってきたんだなと遅れながらの実感が湧いてきつつ友人が淹れてくれた飲み慣れた味を楽しむ。

 

一通り堪能し終わると私はカップを置き自分の分の紅茶を入れる友人にちょっかいをかける事にした。久しぶりにお行儀の良い人を気取ったからストレスが溜まっていたのかもしれない。

 

「それで?ナギサさんは私を捕まえてきなさいって命令されちゃったわけかな?」

 

「なっ!?」

 

溢した紅茶が純白のクロスを汚していくのは見てないフリをするのがエチケットかな?先輩方を相手にした格式ある場であるなら今頃は氷河期間違いなしのチョンボである。

 

「どうしてわかりましたか?」

 

「顔に書いてあるからね」

 

「そんな!?…からかいましたね!!」

 

生真面目なのも相変わらず。

だから揶揄うと実にいい反応を見せてくれるが、やり過ぎて機嫌を損ねてしまうと恥も何もかも捨て去り力技の強硬手段でくるから匙加減は必須。この場にいない友人が彼女の話を聞かず何度喋る口に食べ物を押し込まれて強制的に沈黙する光景を見てきたか。

それは見る分には面白いのだが、自分がそうはなりたくない。

 

「まあ。それは置いておいて」

「そんな簡単に!!」

 

「支援の話はごめんなさいって伝えてくれないかな?」

 

笑っていた顔を引き締めて取り引きをする時の態度を示すとナギサさんもハッとして向こうも私の友人としてではなく、ティーパーティの1人としての顔になる。

 

「ですが!!これはアビドス学園にもメリットがある話です。トリニティがアリウスに援助をすれば廃校問題など」

 

提案をコチラがハッキリと断った。

ならそれで話は終わったはず。

 

ナギサさんはそれを生徒会長さんに伝えるだけ、それだけなのに。

 

なのにどうして話を続けたがるのか、、、

どうやら相手を納得させるまで終わらないらしい。

 

「で、アビドスの借金は片付いて終わり?そこで終わるはずがないよね」

 

正直自分でもびっくりするくらいの低い声が出たと思う。

 

でもそれ程までにティーパーティいやフィリウス分派の生徒会長川出してきた条件は到底認められるものではなかった。

 

「何が不満なのですか!?アビドス学園は存続します。手一杯で統制を失い無法地帯となっている各地区の方にも学園の借金がなくなれば人員を回せ、そうなれば復興の目処は立ち、砂害についてもアビドスとトリニティが共同で手を取り合って__」

 

「手を取り合う?共同?あの資料は目を通させてもらった。けど、私には到底そうは思えなかった。締結すれば生徒会の任命にはトリニティ学園の選考にて選ばれるって書いてるのを見て思ったよ。それって元々アビドスに住む私達の参政権は剥奪されるって事だよね?そんなのって植民地と何が違うのかな」

 

「言い方は悪いですが、杜撰な運営が招いた結果が今のアビドスです。今まで通りに運営していてはまたいつ廃校問題が浮かび上がるか」

 

私達の苦労を知らないで好き勝手言わないで欲しい。

 

「最高にして最強の力を誇っていたアビドス学園。その自治区を砂害が襲って急速な砂漠化なんてだれが予測できたの?その栄華も都市中心部が機能停止であっという間に廃れた。あんなことが起こればどこの自治区だってああなる」

 

そうだ。

あんな超常現象が起こるなんて分かるわけがない。

 

調査を依頼した最先端技術を駆使するミレニアム学園すらも科学的にも何故起こったのかそして何故今も進行しているのか。その全てが原因不明の超自然現象と匙を投げた。

ならばいったい誰が予測できたというのか。証明して解決できるのか。出来る人がいるのなら教えてほしい。

救えるというのなら私に出来ることならなんだってする。

 

「ですから厳正な審査をして優れた人材をですね」

 

「それを選ぶのは何処?シスターフッド?救護騎士団?どれも違う、決めるのはティーパーティでしょ」

 

その一言でナギサさんの顔色が変わった。

 

「私達を信用できないと。そう言いたい訳ですか」

 

「その言葉はそっくりそのまま返させてもらうよ。疑い合うのはそちらの得意分野でしょ」

 

私達の間にバチバチと火花が散る。

ナギサさんにはごめん...だけど、これは学園の話だ。

 

皆んなの未来がかかっている友人だからと譲歩する選択肢があるわけがないのだ。

 

これでもう私達が呑まない事はわかってくれたはずだ。

私は副会長としての仮面を捨てて表情を和らげて友人に微笑む。それにはナギサさんも毒気を抜かれた様な顔になる。

 

「さてと、今日のオススメのケーキはどれですか?」

 

「えっ?そうですね。今日はこのイチゴのロールケーキがオススメです。なんといっても希少なイチゴを使ってましてそれはとてもとても___ではなくて!!」

 

騒がしい人は放っておいて私は私で勝手にその一押しのロールケーキを取るとまずは一口食べる。うん凄く美味しい。

 

流石舌の肥えたお嬢様が勧めるだけはある。

アビドスでは絶対に食べれない逸品だ。

 

これも副会長として各自治区に出向く特権、対価とするならそれもいいのかもしれないと我ながら現金な自分に少し呆れつつまた一口食べると祝福がまた押し寄せまさにループ状態。

 

「・・・あぁそうですか。

私達ティーパーティの話よりもそちらに興味がお有りだとそう言いたい訳ですね。ええ、いいでしょうなら思う存分....」

 

甘味の幸福感に包まれた今はまさに天国。

 

エデンの園。

確か楽園の有無を問う設問があったが、今なら私は楽園はあると言えるだろう。私はなんといい友人と知り合えたのだろう。

 

「その口にロールケーキをぶち込ませてもらいます!!毎日!!」

 

「ぶちこむ!?それも毎日!?」

 

静かな庭園には似合わない怒号と驚く声が鳴り響くと

 

「くしゅん!!誰かが私の噂でもしてるのかな?」

 

同時刻にどこかでピンクのお姫様がくしゃみをした。

 

 

ユウは理解した。

楽園とは存在しないのだと。

 

いくら今が幸福だとしても。

それが毎日続くと胃もt___人はその幸福を享受できなくなるのだ。

 

楽園にいることを忘れる。

今いる楽園を認識できなくなった自分達。

 

楽園が楽園の住民に忘れた時点で。

それ即ちその楽園は設問で問われた楽園の定義から外れるのではないだろうか・・・さて、この話はここまで、

次の議題は目の前で怒りと羞恥心の板挟みに合って素敵な笑顔でこっちを見ている友人への対処を考えるのが急務である。

 

私は周りから集まる視線に晒されながらどう食生活を守るか急ピッチで思案していた。

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