最後のアビドス生徒会長   作:シャッチトムソン

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私が知らないアナタ

 

なんとかあの後ナギサさんのご機嫌取りに成功すると私達は友人同士のお茶会を楽しんだ。

 

今はトリニティからアビドスへと帰り道。

電車に揺られながら窓を見つめる。

 

そこから見える景色は都会。

街には物や生徒。オートマタや獣人が忙しなく行き交う。

 

その賑やかな光景が望ましく見えるのは持たざる者だからなのだろう。

 

『その。もう一つの件___』

 

『アナタの1人の友人として言わせてもらいます』

 

「真剣に考えてみてください』

 

別れ様に手渡された見覚えのある茶封筒。

紙袋にはカップと羽根を描いたティーパーティのシンボルが印字され、ご丁寧に封緘印まで押された見るからに重要書類ぽいソレ。

 

だが、宛先が私である時点で開けなくとも中身は想像がついた。

ならば中身は紙屑みたいなもの。

 

手渡された紙封筒を一瞥し興味が無くなったので視線はまた窓へと戻す。

 

向こうに帰る頃には陽は落ちるだろう。

そのまま学園に戻らず直帰する旨を端末画面に打ち込んで送信。直ぐに了解の返信を見届けると画面を消してまた外を見る。

そして学園から出た帰り道は特に語るまでもないくらいに何も起こることなく私はアビドスへと戻っていった。

 

 

 

 

私には友人がいる。

 

先輩の妹で副会長を務めているユウの事だ。

 

正直言ってあの姉にして何故こんな妹が出来たのだろうかと不思議に思うが、その環境こそが彼女を生んだのかもしれない。

 

あいにく私には姉妹は居ないので理解することはできないが、それでも彼女と過ごして言えることは梔子ユウといえ人物は優秀ということだろう。

 

仕事は卒なくこなし相手や状況の変化に対する視野も広い。

戦場で共に戦っているからこそ彼女が敵だったらと思うと恐ろしくなるけれど、背中を任せられる仲間としてこれ程心強い仲間もそうは居ない。

 

本人に言うと買い被りすぎだと言うのだろう。

だけどそんな事はない。

 

優秀、、、そう優秀過ぎる。

言っては悪いが、この学園に居る意味がわからない。

 

その疑念の答えが出ることはあるのだろうか。

 

 

ユウが出張に出かけることは多い。

私や先輩はとてもではないが外交に関する知識も経験もない。当然相手に対して良い条件を呑ませる所か会話すら成立するかも怪しく、逆に気付かぬうちに不利な条件を呑まされるかもしれない。

結果として全部が全部をユウに任せているのが現状。

 

今朝方にはトリニティで今日は確か連邦生徒会との支援金の話し合いでDU地区へと出向いている。昼過ぎには帰ってこれるだろうと言っていた。

 

だから今日は私とユメ先輩の2人。

今日は見回りを兼ねて1人だけで外に出ようと校門を出ると見慣れない生徒に声をかけられた。

 

「あの。すみません梔子ユウさんはいらっしゃいますか?」

 

アビドスには似合わない小綺麗な服装に黒塗りの高級車。

彼女達がアビドスの生徒ではないのは間違いない。

 

あの様ななりをした生徒は月に一度くらいの頻度でたまに見かけるが話しかけられたのは今回が初めてだった。どうやらユウに関係する人だったようだ。

 

「副会長は今は出張中です。今日の帰宅は昼過ぎかと、要件があれば伝えておきます」

 

「えっと、貴女は?」

 

「同じくアビドス生徒会に所属している小鳥遊ホシノです」

 

私がそう伝えると納得したのか封筒を差し出してくる。

 

「アビドス生徒会の役員ですか。

では、これを梔子ユウさんへとお渡しお願いします」

 

「分かりました」

 

そう言って私が受け取ると彼女達も届け物をするのが役目だったのか、それではと背を向けて車に乗り込むがいつまで経っても車は動かない。

 

なんとなくそんな気はしたが砂への対策をしていなかったらしい。それだけ車体が低ければ比較的学園周辺道路の砂は除去されているが一度入ってしまうと確実にタイヤは浮いてしまうだろう。

 

「何事なの!?」

 

「あれ?...砂の上に乗ってますね」

 

「全く、田舎に来るからこうなるのですわ」

 

散々な言われ様だが、他の学園から見ればアビドスはそう映ってしまうのだろう。それを理由に去る生徒は少なくもない。今更なにも驚くことでもないし、気にすることなく私は彼女達と協力して背後から押すと無事に乗り上げていた車は動き出すことに成功。

 

車は走り去っていったが、また立ち往生しないか不安ではある。

 

ん?

着信が入り震えると画面には先輩の名前。

そのままケータイを耳に当てると悲鳴にとっさに耳を遠ざける。

 

「ホシノちゃん!!助けて〜!!」

 

「どうしたんですか先輩!?場所は!?今すぐに向かいます」

 

先輩の声の後ろで一緒に聞こえる銃撃の音。

 

「おらおらサッサと出てこいよ生徒会長さん」

 

それとよくない者たちの声。

 

「ひぇ〜ホシノちゃ〜ん」

 

私は現場へと走って向かった。

 

 

 

「少しは人を疑う事を覚えてください」

 

「だって凄く困ってるって言ってたし、、、」

 

覚えてろよ〜と退散する不良集団を追い払うと先輩が物陰から出てくる。

 

「ですからそこをですね。貴方は生徒会長なんですよ?ご自分の立場を理解してください」

 

相手の目的は先輩の身柄。

生徒会長を拉致して身代金を要求してやるぜとご大層に説明してくれた。

 

「えへへ、ホシノちゃんありがとね」

 

「はぁ〜まったくもう仕方のない人ですね。ですが、何故抵抗しなかったのですか?だから相手も図に乗って」

 

「うんとね。この子達が居たから動けず耐えてたの」

 

そうして先輩と同じ方へと視線を向ければ足元に先輩の陰に動くなにか。

 

ニャ〜

 

鳴き声ですぐ正体はわかった。

 

すりすりと先輩の足に擦り寄って感謝示している姿。

そうか先輩はこの子達が居たから動けず盾を構えて篭っていたのか。

 

「アハハ、くすぐったいよもう」

 

その内の一匹が先輩の所から私の足元まで歩いてきて先輩と同じ様に私の足へと体当たりしてきた。

 

「ホシノちゃんにも助けてくれてありがとうって言ってるね」

 

「そうですか」

 

屈んでその頭を撫でれば気持ちよさそうに身体を伸ばして地面に寝転がる。純粋にその愛くるしい姿に可愛いと思った。

 

「にゃにゃにゃ〜ん」

 

「何やってるんです」

 

「ネコさんと会話してるんだよ。ホシノちゃんもやってみたら」

 

私の柄ではない。いつもなら何を言ってるんだと断っていただろう。でも彼等の可愛さが私をそうさせたのかそんな気は起きなくて口が動いていた。

 

「・・・にゃ〜」

 

「にゃにゃん」

 

「なんで先輩が喋ってるんですか」

 

えへへと照れた表情をして。

私は呆れているというのにこの人ときたら。

 

「うん。よしそれじゃあみんな悪い人には気をつけるんだよ〜」

 

先輩は一通りネコを撫で終えると立ち上がるので私もそれを見て立ち上がる。

 

「それじゃあ行こっか」

 

にゃ〜と別れの言葉を受けながら私達はその場を後にする。

 

「先輩こそ悪い人には気を付けてくださいね」

 

「うぅ、気を付けます」

 

 

今日は珍しくアビドスに雨が降った。

天気予報では晴れのマークが出ていたので私達が傘や雨具を持ち歩くわけもなく。雨から逃れる様に頭から水を浴びながら走るものの一面は雨。雨はずっと追ってきて全身がずぶ濡れになるのは遅くない出来事。

 

この日はたまたま先輩やユウの家が近くだったこともあり、活動を中止して家で雨が止むまで一旦、雨宿りする運びとなった。

 

「このままだと流石に風邪ひくかもしれないから順番にシャワー浴びて行こうか」

 

「うへぇ〜ごめんけど、先に入らせて〜」

 

私はユウにタオルを受け取ると滴る水分を拭き取っている最中、先輩が震えながら言うものだから私もユウもそれに同意して先輩はお風呂場であろう方角に走って行った。

 

「今暖かい物を準備するから。コーヒーに紅茶とそれとココアにミルク。ホシノはどれがいい?」

 

「ココアでお願いします」

 

「うん。分かった。準備するからそこの椅子にでも座ってて」

 

ユウにリビングに案内されると指示された椅子に座る。ユウはキッチンへと移動して私の為に暖かい飲み物を用意してくれていた。それにありがとうございますと感謝の念を示すと全然だよと返される。

 

少しして暖かなココアが机の上に置かれると私はいただきますと口にする。冷えた体が中からじんわりと温まっていく。

 

「美味しいです」

 

「インスタントだけどね」

 

そこで目についたのは机の真ん中に置かれたティーセット一式。いかにも高そうでそして大事に手入れされているのだろう。霞一つなく陶磁器はピカピカと光っていた。

 

「お茶を嗜むのですか」

 

「まぁね。でもどちらかというと昔から習慣かな?最初は苦手だったけど、続けていたらいつのまにか癖になっちゃって気づいたら紅茶を入れて飲んでる」

 

ピンっと指で弾き陶磁器はカーンと音を奏でる。

 

そのティーセットとユウを見比べて彼女がカップを手に紅茶を飲むの様子を想像すれば普段彼女が紅茶を飲んでいるのは見たことない筈なのに何故か妙に似合っていた。

 

「ふぅ〜整ったぁ〜」

 

ちょうど私がココアを飲み終えるタイミングで先輩もお風呂から出てきたようである。

 

「なら次はホシノが入ってきていいよ」

 

「いいんですか?」

 

「私は最後で大丈夫だから」

 

なら言葉に甘えて私は席を立ちお風呂場へと目指す。

 

ココアで温まったが体の端はまだ冷たい。

一刻も早くお湯を浴びたかったのだ。

 

私がお風呂を出ると今度は入れ替わりでユウが入っていく。

 

お風呂に入ったもののその後の着替えを失念していた。

が、ユウの服を借りることでことなきを得ることができた。

元々着ていた衣類が乾くまでの間ではあるが、他人の服を着るのなんとなく違和感があって落ち着かない。その様な機会も頻繁に起きるわけもないので慣れるのも難しいだろう。

 

先輩と2人で特に何もするわけもなく。

時たま先輩からの話題に答えるだけの時間。

 

生徒会室にいる時とやっていることはあまり変わらないのに、それが他人の家になるだけで新鮮な気持ちになる。

 

「何が役に立つか分からないね。昔のユウちゃんの服がピッタリでよかった」

 

先輩が何気なく言った言葉に引っかかった。

いつもなら「はいそうですか」「ありがとうございます」と流すがなにが私の気に触れたのか私は聞き返してしまった。

 

「ユウさんの服だったのですか」

 

「そうだよ懐かしいな。今のホシノちゃんを見てると昔のユウちゃんを思い出すね。可愛かったな〜今はしっかりしてるけど、あの頃はどこにいくでもお姉ちゃんお姉ちゃんってひっついてきてね」

 

「それはいつ頃の話ですか?」

 

「う〜んもうだいぶ前の話だよ。中学生に入る前、小さくて可愛かったな」

 

「アハハハハ。物持ちがいいんデスネ」

 

・・・それは今の私が中等部だった時の同い年の同級生と同じ大きさと言うことを暗に告げる。押し寄せる敗北感はなんなのだろうか。

 

下に視線を下せばなんの特徴もなく、目の前に視線を向けると自分にはない山々に私は自然とその部分に手を当てどうすることもできない決定的な差で負けたことに気がつくとこの話題を振ってしまった自分を深く後悔した。

思えば下着もかわいいデザインだなと思ったが、、、そこで私は自分の頭を強制的にシャットダウンしてこの話題から切り上げた。

 

「あの。お手洗いに行ってきます」

 

「トイレは廊下に出て右の扉だよ」

 

「分かりました」

 

逃げるようにリビングを後にするとトイレを目指す。

 

「右の扉」

 

そうして開けた扉の先はトイレではなく部屋だった。

 

誰の部屋かはすぐにわかった。

学習机のコルク板に写真が貼られていたからだ。

 

記憶に新しい水族館の写真。

私達が先輩に抱きしめられて皆んなが笑顔で楽しそうにしている。それを始めとして今までの私達の数々の写真。それは生徒会の活動を振り返るのには十分で。

 

その写真を端から端まで見ていると知らない写真があった。

 

アビドスではない白を基調にした制服に身を包んだユウ。

 

そんなユウと一緒に映る2人の姿。

 

パッと見で抱いた感想は何処ぞのお嬢さま。

写真を見るだけで伝わる産まれからして私達とは住む世界が違ってて。

その子たちとの面識は当然無い。

 

そんな雲の上の人達と映るユウは口元だけで微笑んでいるだけであったがその表情は非常に柔らかだった。

 

私の知らないユウ。

よく見ると今よりも幼い感じがするので昔のユウなのだろう。髪をキッチリと纏めて他の2人とお揃いの着ている制服もシワひとつなく新品の様で。

 

そんなユウが写真の向こう側で笑っていた。

まるでお嬢さま然としたユウもまたあちら側の世界の住人に思えて。

 

面白くないと思った。

何故そう思ったのかはわからない。

 

だけど、知らない誰かと笑うユウの姿を見て。

心底面白くないと思った。

 

でもそう考えると私はユウの事をあまり知らないのではと感じた。知り合ってまだ一年も経たない関係ではあるが、それを理由にはしたくなかった。

 

好きなものは、、、サメ。

でもそれ以外にも好きなものもあるだろう。

 

趣味は、、、お茶?

道具を一式揃えるくらいならそれだけこだわりもあるのだろう。私は詳しくないのでわからないが、お茶の葉のバリエーションもある様に思えた。外から見れば十分な趣味ではないだろうか。

 

勉学も銃火器の取り扱いに関しても完璧といっていい。彼女に欠点らしい欠点はなさそう。

 

それが私の知っているユウ。

 

でもあの写真を見る限りまだまだ私の知らないユウがいるのは間違いなかった。そうして目についた最近見た茶封筒。だいぶ前にユウに渡したはずのそれは開けられもせず机に置かれていた。

 

あの時は何も思わなかったが今は無性にそれが気になった。もっとユウを知れる気がして手が伸びた。

 

でも手に取る直前になってやっぱりダメだと咄嗟に手を引っ込めた。これを勝手に見てしまったらユウに嫌われてしまうかもしれない。そう考えると水を頭から被った時みたいにスッと冷静になれた。

 

今の私はきっと正常じゃない。

それに勝手に人の部屋に入っているのは少々不味い状況だ。

 

私は当初の目的であるトイレへと向かおうと部屋を後にしようとした。

 

「あっこれって」

 

部屋に置かれたゴミ箱。

そこに捨てられていたのは机の上に置かれた茶封筒と全く同じ。違いがあるのはゴミ箱に捨てられている方は開封済みで口が開いていた。

 

自然と私は手を伸ばした。

その封筒を手に取って中に入っていた紙を読んでしまった。

 

「これ...」

 

「ホシノは何をしているの」

 

血の気が引くとはこのことだろう。

ドアの前に立っていたユウに気付き瞬時に手に持つそれを隠すがもはや手遅れである。現場を押さえられて言い逃れのしようがない。

 

「それか、、、大したものじゃないからそんなに気にしなくていいよ」

 

「でもこれって...」

 

そうは思えない。

だってこれは。

 

「あっ、でもお姉ちゃんには黙ってて欲しいかな。お姉ちゃんには言ってないから」

 

そう言って笑う彼女は私のよく知るユウで。

 

「分かりました。

その勝手に部屋の中に入って漁ってしまってすみませんでした」

 

私はこれ以上嫌われまいと直ぐに頷く。

 

「全然大丈夫。見てて面白いものなんて何もないつまらない部屋だったでしょ。これならお姉ちゃんの部屋の方が面白いものが見つかると思うよ」

 

いつも通りのユウなのに、怒りもせず私の行為を咎めもせず。私を責めることなく何事もなく接してくるユウを怖いと思った。

 

「それでどうしてここに」

 

「その本当はトイレに行くつもりだったのですが」

 

「はぁ〜どうせお姉ちゃんのことだから右側の扉だよとか適当なこと言ったな。ごめんねホシノ。トイレは私の部屋のもう一つ隣の扉なんだ」

 

そうして出ていくユウの背後を私は続いて部屋を出ると隣の扉へと案内される。

 

「ここがトイレだよ」

 

「そのありがとうございます。それとすみませんでした」

 

「気にしなくていいよ。お姉ちゃんにはホシノが困ってたよった言っておくから安心してね」

 

その本人の言葉に甘えて私はホッと一息、彼女の逆鱗に触れることなく事なきを得たことに安心した。

 

もう彼女の部屋に勝手に入らないと心に決めてそれではとソッと扉を開けてトイレに入った。

 

ガチャりと鍵がかけられる音がする。

私はまだかけていない。

 

 

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