TSしたから女子校で電波系女子ごっこをしていたら、いつの間にかヤンデレ美少女に囲われていた件について   作:ペンギン3

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十話 本物の電波女

 屋上の扉を開けて現れたのは、ずっと来て欲しいなって願ってた岸根さんじゃなくて、図書室の主系ミステリアス少女の双葉さんだった。

 

 相変わらず、ボクと一緒で表情筋が死んじゃってる。夕暮れ越しに、彼女の水色の髪が暗く染められてる姿は、浮世離れして見える。

 

 ……初対面時に、岸根さんがボクを幽霊と間違った理由、分かっちゃったね。

 

 双葉さんは音もなく、そっとボクの近くまでやってきた。

 

 屋上に用事、あるのかな。

 夕焼け、見に来たとか?

 

「翼、お話ししに来た」

 

 違った、ボクに用事だったみたい。

 

「なに」

 

「太宰のオススメ、したい」

 

 そう言って、双葉さんはスカートのポケットから一冊の文庫本を取り出した。あの日の図書館での時みたいに、好きなものを共有したいって気持ちが伝わってくる。

 

 ミステリアス商売敵だけど、悪い子じゃないってことは知ってる。なので、双葉さんとお話しすること自体は嫌じゃなかった……いつもなら。

 

「……いらない」

 

 でも、気が滅入ってるし、あんまりお話しする気分じゃない。だから、話したく無いって口にする。

 今は、そんな元気ないよって。

 

 ……今日も、岸根さん来てくれないよね。

 もう、帰っちゃおうか。

 

 暗い気持ちのまま、ボクは双葉さんの横を通り過ぎて。そのまま、足が出入り口の方へと向いていき……。

 

「──素っ気ないの、岸根が原因?」

 

 背中に投げかけられたその言葉に、足がピタリと止まった。止められた。

 

「……なん、で?」

 

 知ってるのって言葉は続けて出せなかったけど、意味は十分に伝わっていたみたいだ。

 

「話、する?」

 

 双葉さんはニコリともしないまま、そう告げて。

 ボクは吸い寄せられるように、双葉さんに近づいていかざるを得なかった。

 

 ……岸根さんのこと、知ってそうだったから。

 どうして岸根さんが怒ってたのか、教えて欲しかったから。

 

 

 

「翼、喧嘩してる?」

 

「して、ない」

 

「そう、じゃあ岸根だけ、なんだ」

 

 ジーッと、お互いの無表情を覗き合いながら会話が始まった。双葉さんも全部を知ってるわけじゃなさそうで、まずはその辺りの擦り合わせ。

 

「……ん」

 

 尤も、ボクの口は思った通りになんて、もちろん動いてくれなくて。

 

「……会いたい」

 

 会って話がしたい、謝りたいって伝えたいのに、極度に言葉が削れてしまう。

 

「寂しい?」

 

「……少し」

 

 本当は、かなりって言いたかった。

 なのに、ボクの口は恥ずかしがり屋の意地っ張りだから、素直じゃないの見本市になっちゃってる。

 

 ──少しなわけ、ないよ。

 

 初めての友達で、一緒にお話しできると嬉しくて、ミステリアスにも付き合ってくれてて、ボクに面倒くさがらずに付き合ってくれてて。

 

 ……そんなの、岸根さんだけだもん。

 早く、また二人でたくさん、お話ししたいよ!

 

「少しなら、私が代わりになれる、よ?」

 

「……ふたば、きしねじゃない」

 

「うん、私は私。でも、楽しいよ、きっと」

 

 多分、双葉さんは友達になろうって言ってくれてる。ボクがこんなのだから、放っておけなくて。

 

 それ自体は、悪い気はしない。

 ありがとうって気持ち、結構ある。

 

 でも、やっぱり首を振ってしまった。

 

 岸根さんの代わりとして、双葉さんと仲良くなるなんて、そんなのやりたくないから。

 

 岸根さんは、ボクが一番って言ってくれたから。ボクも、岸根さんが一番だって、言葉で言えなくても、せめて態度で伝えたくて。

 

 だから、またタイミングがあった時、双葉さんと友達になれたらって思う。

 

「──ふたば、いらない」

 

 そう伝えようとしたボクの口は、端的に言って最悪だった。

 

 言い方っ、もっと伝え方あっただろ!

 いるよ、いらないわけないだろ!

 友達になろうとしてくれてありがとうって思ってるよ!!

 

 見てよ、双葉さんも無表情変えてないけど、瞬きの速度が3倍くらいになっちゃってるよ! ボクのおバカ、無茶苦茶おバカ!!

 

 ……ど、どうしよ、双葉さんにも、嫌われちゃったかな?

 

 

「…………誰がこの私のひたむきの愛の行為を、正当に理解してくれることか」

 

 

 え?

 

「両思いなら、仕方ない。太宰的文脈から、今の私は間男みたい、だし」

 

 双葉さん、急にどうしたの?

 文学系ミステリアス少女の領域展開、始めちゃってる?

 

「要るって言ってもらえるよう、頑張る」

 

「ふた、ば?」

 

「待ってて。二、三日で何とかする」

 

 無表情のまま腕まくりして、タッタッタと双葉さんは屋上を後にした。

 

 なんか納得した風だったけど、結局何だったんだろう。

 ……何とかしてくれるって、岸根さんのこと、なのかな?

 

 

 

 

 

 夕暮れの屋上にいた翼は、どこか遠くを眺めてた。

 夕陽を見てるのか、それとも……。

 

「翼、お話ししに来た」

 

「なに」

 

「太宰のオススメ、したい」

 

「……いらない」

 

 私に目を向けたのは一瞬で、興味ないと言わんばかりに、直ぐに空へと視線を向けた。

 

 夕日は綺麗だけど、多分それじゃない。

 魅入られてるというには、今の翼はボンヤリしてる。

 

 ……本当に夕陽に魅入られてるなら、イカロスになろうかと思ってしまうから。

 だから、今の翼は夕陽なんて見ていなかった。

 

 事実、翼は直ぐに屋上を後にしようとした。

 

 せっかく、翼と話せる機会なのに、翼は振り向いてもくれない。今は太宰では、翼は引き止められない。

 

 それが、何だか悔しくて。

 

「──素っ気ないの、岸根が原因?」

 

 代わりに、翼が夕陽の向こう側に見てたらしい名前を口にすると、思った通りにその足が止まった。

 

「……なん、で?」

 

 振り返った翼の表情は、透き通っていて。

 

「話、する?」

 

 ──でも、夕焼けで、いつもより色めいて見えた。

 

 

 

「翼、喧嘩してる?」

 

「して、ない」

 

「そう、じゃあ岸根だけ、なんだ」

 

 本当は太宰のことで盛り上がりたいけど、今の翼は目の前に焦点が当たってないから。

 

 太宰と翼のために、まずは目の前の問題を解決しなくちゃいけなかった。そのために、具体的に何が起こってるのか、知らなくちゃいけなかった。

 

 問題点、岸根はなんで怒ってる……違う、拗ねてるのか。

 それを知らなくちゃ、何も始まらない。

 

 ……私の灰色の脳細胞は、倦怠期でえっちできてないから若年性更年期を発症してる、を最有力説に掲げている。

 

 岸根、性欲強そうだし。

 翼は、多分そんなだし。

 

「……会いたい」

 

 健気に、ボソリと呟く翼。

 この姿を見たら、岸根も強情なんて張らないと思う。

 

 へそ曲がりだから、ここに来てないんだろうけど。

 

「寂しい?」

 

「……少し」

 

 透明な表情で、翼は遠いどこかを見ていた。

 どこかじゃなくて誰か、なのかもしれない。

 

 ……翼、こんなにも健気。

 まるで饗応夫人みたいに、報われないのに尽くしてる。

 

 それが、なんだか可哀想で。

 ──だから、魔が差した。

 

「少しなら、私が代わりになれる、よ?」

 

 岸根が聞いたら、多分激怒する。

 レズじゃないけど、私にしとく? って聞いちゃったから。

 

「……ふたば、きしねじゃない」

 

 でも、迷うことなく振られてしまった。

 翼も、えっちはしたくないけど、岸根のこと普通に好きみたいだったから。

 

 ……残念。頷いてくれたら、めくるめく太宰読み聞かせツアーにご招待できたのに。

 

「うん、私は私。でも、楽しいよ、きっと」

 

 一応、食い下がってみる。

 このまま、放っておけもしなくて。

 

 頷いてくれたら、スカート裏に隠してある

 

「──ふたば、いらない」

 

 でも、やっぱり翼は誠実で、逆に怒らせてしまった。

 本気で好きみたい、岸根のこと。

 

 

 …………良い、なんかキタ。

 ダメな恋人に操を立ててるの、凄くゾクゾクする。

 

「…………誰がこの私のひたむきの愛の行為を、正当に理解してくれることか」

 

 太宰の文学的にも、今の翼は愛がある。

 翼は佇んでるだけで、愛の形があるように見える。

 

 困った、どうしよう……。

 ダメなのに、いけないのに……。

 

 ──お薬で抑えてるのに、どうしようもなくテンション上げずにはいられないっ!

 

「両思いなら、仕方ない。太宰的文脈から、今の私は間男みたい、だし」

 

 翼、応援したくなっちゃった。

 可哀想な翼が、凄く可愛く見えたから。

 

「要るって言ってもらえるよう、頑張る」

 

「ふた、ば?」

 

「待ってて。二、三日で何とかする」

 

 久しぶりに、天啓を得た気分。

 楽しくなりながら、私は屋上から飛び出していた。

 

 岸根、待ってて。

 翼のために──焚き付けてあげるね。





アホはファッション電波ですが、双葉さんは本物の電波です。
対戦よろしくお願いします。
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