TSしたから女子校で電波系女子ごっこをしていたら、いつの間にかヤンデレ美少女に囲われていた件について   作:ペンギン3

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八話 すれ違い電波通信

 き、岸根さんに、名前で呼ばれる様になっちゃった。

 

 翼ちゃんって、夕焼けてるニコニコ笑顔で呼び掛けられちゃって。でも、全然イヤじゃないんだ。むしろ、射抜かれちゃった感じがして、嬉しい様な……。

 

 えへへ、何だかこそばゆいね?

 

「おはよう──翼ちゃん」

 

「おは、よ、きしね」

 

 今日の朝も、登校すると白銀さんじゃなくて、翼ちゃんって呼んでくれている。あれから1週間くらい立ったけど、呼ばれる度にずっとこそばゆいままだった。

 

「……やっぱり、理央じゃダメ?」

 

「ん」

 

 それと、岸根さんは自分が名前で呼ばれないこと、気にしてるみたいで。

 

 ……いつか呼ぶから、ちょっと待っててくれないかな?

 

 下の名前呼び、照れて恥ずかしいから。もうちょっと仲良くなれたら、きっと自然に呼べる気がするからさ。

 

 試しに心の中で呟いてみるとか、訓練始めた方がいいのかな?

 

 えっと、理央ちゃん……だ、ダメだねこれ!?

 心の中で呟いただけなのに、変に心臓速くなっちゃってるよ!

 

 女の子を下の名前で呼ぶのなんて、前世も含めてやったことなんてなかったし、今のボクには難易度高めの挑戦みたいだ。

 

 そういうことだから、しばらくは岸根さん呼びでよろしくね!

 

 

 

 そうして、気が付けば放課後。

 ボク達二人は、やっぱり屋上に立っていた。

 

「……ねぇ、翼ちゃんはさ、何で天使様の階段を登りたいって思ったの?」

 

 強めの風が時折吹き抜ける中、そんな話を始めてくれた。岸根さんは、もう立派なミステリアス同好会(部員二名、不認可同好会)の仲間だね。

 

 お陰で、ノリノリな気分でミステリアスを始められた。

 

「……きしね、空の向こう側、知ってる?」

 

「えっと、宇宙だよね」

 

 岸根さんの答えに、首を振って否定する。

 ボクが言いたいのは、そういうことじゃないから。

 

「違うの?」

 

「ちがう」

 

 少なくとも、天使の階段がある時は。

 

「階段の向こう側、漏れ出た光の先は、別」

 

 確かに、空の向こう側には宇宙が広がっている。

 でもね、それは普通のお空の話。

 

 雲間の隙間から覗いてる、あの階段はどこか別の場所に繋がっている。

 

 それが天国とかどっか別の場所かは、ボクには分からないけど。でもね、どこか別の狭間へと繋がっている階段なんじゃないか、とは考えたことあるんだ。

 

 知らない未知の世界と繋がる階段。

 

 それは過去や未来かもしれないし、他の異世界なんかにも繋がっているのかも。もしかしたら、次元が違うスピリチュアル空間かもしれない。

 

 なんてね!

 

 これ、ロマンあるタイプの妄想だよね?

 ボクが考えた妄想の中でも、結構お気に入りのやつなんだよ!

 

「……そこに、翼ちゃんは行きたいの?」

 

「そう」

 

 本当にあるのなら、一度行ってみたい。

 そこに神様とか居たなら、転生の謎とか尋ねたいしね。

 

 行けないって分かってるから、好き勝手言ってるんだけどさ。

 

「……そう、なんだ」

 

 どうせ行けないって分かってるし、この屋上から好き勝手に神様へ語りかけちゃおうか。感謝の気持ちは、その場で伝えないとスッキリしないし。空に近い屋上だから、いつもより聞こえやすいだろうし。

 

 神様ー、転生させてくれてありがとーっ!

 お陰で、素敵な友達ができましたー!!

 

「かみさま──これからも、よろしく」

 

 岸根さんとお友達って気持ちが嬉しくて、ウキウキで声に出しだらやっぱりズレちゃった。

 

 なんか、空の向こうにいる神様にっていうより、神社でご利益感謝します、みたいな伝え方になっちゃった。

 

 まあ、どちらにも会えないんだし、大した違いなんてないよね!

 

「……翼ちゃん」

 

 神様に感謝を伝えて、気持ちスッキリさせたところで、岸根さんに声を掛けられて。

 

 振り向けば、夕暮れのせいか瞳が潤んで見える岸根さんが立っていた。

 

 んにゃ、どしたの?

 

「もし、何だけどさ。天使様の階段──私が一緒に登れないって言ったら、どうする?」

 

 妙に思い詰めた表情で、恐る恐るって感じでそんなことを口にした。まるで、約束を破っちゃったのを、告白したみたいに。

 

 岸根さん、すごい申し訳なさそうな顔、してる。

 結構大変な事情とか、ありそうな感じ。

 

 ……天使の階段が見える気候の日とか、生理不順になりやすい体質なのかな?

 

 岸根さんも、女の子だもんね。

 だったら仕方ないよ、それは。

 

「一人で、行ける」

 

 だとしたら、任せて欲しいな。

 とっても綺麗な写真、ちゃんと撮ってくるからさ!

 

 一緒にキラキラな空を見たいって気持ちはあるけど、岸根さんに無理なんてさせたくないし。綺麗な写真撮れたら、岸根さんに真っ先に報告に行くよ!

 

「きしねは、無理、しなくていい」

 

 えっへんと胸を張って伝えると、岸根さんは着信中のスマホみたく、俯いてプルプル震え出しちゃった。

 

 ……電波、受信中だったりする?

 ここ、ミステリアス同好会だから、電波はニアリーイコールなんだけど?

 

 俯いたのは、ほんの少しの間だけ。

 直ぐに顔を上げた岸根さんの目は──どうしてか、ウルウルとしていた。

 

 ……え?

 

「つ、翼ちゃんにとって、私って……行きずりの相手でしかないんだねっ」

 

 ふぁっ!?

 

「きし、ね?」

 

「知らない!」

 

 呼び止める暇もなく、岸根さんは勢いよく屋上を飛び出して行ってしまった。追いかけようにも、ノコノコくらいのスピードしか出せないボクでは、到底追いつかない速さだ。

 

 ……行きずりの相手って、一体何?

 ボク、なんか変なこと、言っちゃってたのかな……?

 

 


 

 

 白銀さんから、翼ちゃんへと呼び方を変えてから数日。私の胸の中は、翼ちゃんのことで溢れる様になっていった。

 

 翼ちゃんと口にする度、その存在が大きくなる。

 特別であって欲しいと、勝手に像を大きくしてしまう。

 

 構って欲しくて、気付いてって視線を向けて。

 二人でいたくて、双葉さんを威嚇しちゃって。

 

 それでいて──彼女の特別でいたくて、名前で呼んでと何度も伝えてしまった。

 

 今日も、また同じことの繰り返し。

 

「おはよう──翼ちゃん」

 

「おは、よ、きしね」

 

 きしねと愛らしく呼ばれる度、まだ特別になれてないんだってモヤモヤする。

 

 

『……きしねは、きしね』

 

 

 ……私って、翼ちゃんの中では、一体どんな人なんだろう。

 

「……やっぱり、理央じゃダメ?」

 

「ん」

 

 ……私じゃ、翼ちゃんの特別に、なれないのかな。

 

 

 

 最近、気が付けば放課後になってる。

 

 ずっと翼ちゃんのことを考えて、ふと顔を上げれば終礼のチャイムが鳴っている。

 

 授業、どうだったっけ?

 ノート、取ってたっけ?

 

 ──まあ、いっか。

 

「……ねぇ、翼ちゃんはさ、何で天使様の階段を登りたいって思ったの?」

 

 それより、翼ちゃんのこと。

 

 もっと翼ちゃんのことが知りたくて、仲良くなりたくて、信頼してほしくて。

 ──彼女の特別に、なりたくて。

 

「……きしね、空の向こう側、知ってる?」

 

「えっと、宇宙だよね」

 

 だから、彼女の世界を頑張って理解したいって思う。

 不思議で満ちてる言葉を、確かめていきたいんだ。

 

 ふるふると、リスみたいに首を振る翼ちゃん。

 早速、普通とは違う、その意味に触れてみた。

 

「違うの?」

 

「ちがう」

 

 空をふわりと見つめている翼ちゃんは、不思議な空気を纏っていた。

 不思議で、不可思議で……ちょっと不安になる空気感。

 

「階段の向こう側、漏れ出た光の先は、別」

 

 ふわりと、気が付いたら居なくなってそうな、そんな存在感。

 教室で、私だけが知っている薄い気配とはまた別の、透明な感じ。

 

「……そこに、翼ちゃんは行きたいの?」

 

「そう」

 

 目を離したら空に踏み出してそうな、そんな危うさがある。

 ……翼ちゃんは空を歩こうって、まだ思ってる。

 

「かみさま──これからも、よろしく」

 

 無表情なのに、どうしてか弾んで聞こえる声。

 空を見上げる瞳が、夕陽の反射で煌めいて見える。

 

 翼ちゃんは、神様の近くに行こうとしてるのかな。

 

「……翼ちゃん」

 

 ドクンと、イヤな感じがした。

 私の予感が本物なら、だって……。

 

 一緒に天使様の階段を登れても、離れ離れになっちゃう。

 

 ──翼ちゃんはきっと、天使様に生まれ変わるつもりなんだ。

 

「もし、何だけどさ。天使様の階段──私が一緒に登れないって言ったら、どうする?」

 

 私なんかは、天使になれない。

 俗物で、低俗で、重い人間だから。

 

 ……生まれ変わったら、一緒にいられなくなる。

 こんなに私の心の中で大きくなってるのに、そんなの……。

 

 だから、一緒にいると言って欲しくて。

 祈るみたいに、翼ちゃんを見つめて。

 

「一人で、行ける」

 

 その言葉に、突き放された気持ちで心が溢れかえってしまった。

 

「きしねは、無理、しなくていい」

 

 無表情で告げた翼ちゃんと私の間に、透明な隔たりが形造られていく。俗世と彼岸を分つ、そんな川みたいな壁が。

 

 翼ちゃんにとって、私って……。

 

 手を握りしめる、悔しくて。

 歯を食いしばる、切なくて。

 

 翼ちゃんとって、私は偶々そこにいただけの人で、どうでもいい相手なんだって、分かっちゃって、それで……。

 

「つ、翼ちゃんにとって、私って……行きずりの相手でしかないんだねっ」

 

 自分は天使様になって、私を置いていくつもりなんだって、見捨てられたって気持ちが氾濫して。

 

 悔しくて切なくて寂しくて──許せなくて。

 

「きし、ね?」

 

「知らない!」

 

 翼ちゃんが呼び止めてくれたのにも関わらず、勢いよく屋上から飛び出してしまっていた。

 

 翼ちゃんのことは、本当に特別だから。

 だからこそ、余計に我慢できなかったんだ。

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