見える人の里。
入口の門構え。
左右に二人の門番。
「止まってくれ」
中心に集まる。
制止を受けバイクを止める。
「何者だ」
嘘吐く意味はない。
素直にことを話す。
……前に。
「ルポライターをやってる者です。これどうぞ」
文が降りて二枚の名刺を渡した。
滑らなか動作。
慣れ過ぎている。
高頻度で出向いているのね。
「あの記者さんか。此方の方も記者さんで」
常連だった。
…記者?
………二枚?
名刺を見る。
社会派ルポライター。
あや。
社会派ルポライター。
……ゆう。
「文」
返事はない。
悪戯に成功した子供。
そんな笑みを浮かべていた。
全く。
どのタイミングで……。
着替えに行った時、か。
「大丈夫ですよ。入ってください」
「お勤めご苦労様です」
文は門番の間を抜けていく。
バイクを押し後に続いた。
門の先。
広がる景色。
昔ながらの木造平屋。
軒を並べている。
商店街にも引けを取らない店の数々。
賑わいは老いることを知らず。
俺を見るも直ぐに戻す。
得体の知れない相手にこの反応。
安心しきっている。
人里に入れた。
それだけで無害と認識している。
……変わらない、か。
「むそうふんいん!」
「うわー」
子供たちが遊んでいる。
幼い少女少年。
大幣と御札を持っている。
少女は追いかけ。
少年は逃げる。
「博麗の巫女ごっこ。…ですかねえ… 」
相変わらず人気ですね、とカメラで撮る。
博麗の巫女…か。
……当代の巫女は人気者、ね。
「……っ…」
鳴るお腹。
忘れていたよ。
「良い店があるんですよ。先輩…悠さんも気に入ってくれるはずです」
気付いた文が手を取り先導。
呼び捨てで構わないんだけどね。
仲間だと思ってくれている。
違う、過去に囚われている。
今の今まで覚えていてくれた。
嬉しいよ。
同時に不安でもある。
数百年。
忘れていいんだ。
なのに……。
……人間の価値観じゃ計れない。
妖怪にとって。
数百年は一瞬だ。
一瞬だった。
だとしても。
抜けきれなかった。
だから騙され。
殺された。
人間にとって。
妖怪はただの化け物だと。
理解できなかった。
それでも……。
変えられなかったのは。
人間の…性だね。
……騒がしい?
入口。
門番の叫び。
咆哮。
吹き飛ぶ門扉。
「ハクレイノミコハドコダ!!」
醜態な姿。
ではない。
……少女と大差ない。
人の形を成した者。
飛び交う悲鳴。
逃げ惑う住民たち。
負傷した門番。
「行きましょう。関わってはいけません」
その通り。
文は分かっている。
妖怪の出る幕はない。
……外来人も、ね。
「霊夢さん…博麗の巫女がくるでしょう」
人里を守る。
博麗の巫女の役目。
来るまで。
見てることしかできない。
「うん、行こうか」
霊夢。
名前は博麗霊夢、ね。
どんな子なのか。
楽しみだ。
早足。
文の後に続く。
━━ことができれば。
良かった。
「…た、たすけて……」
取り残された。
怯える少女。
立ち向かう者は。
……いない。
逃げろ、と。
言い放つ者だけ。
情けない。
大人が……。
とは言えない。
相手は妖怪。
野生動物とは違う。
逃げて当然。
当たり前なんだ。
分かっていても。
嫌になる。
「オマエガミコカ」
見下ろす妖怪。
「…ひっ…」
座り込んでいる。
腰を抜かしている、か。
少女は助からない。
妖怪に殺されるだろう。
「先輩」
真剣な表情。
分かっている。
分かっていても。
納得はできないよ。
助けられる命を。
取り零すようなことは。
「……文。ごめん!」
意味の無い謝罪。
文の思惑を崩すことになる。
それでも助けたい。
「ちょっと! …もう…っ」
駆け出す。
逃げる波に逆らい。
少女の元へ。
「オマエヲコロセバァッ!」
振り上げられた腕。
……知能は無きに等ず。
少女と博麗の巫女。
似ても似つかない。
少女は霊力を持っていない。
なのに勘違いしている。
感知することができないのか?
力だけは一人前の低級妖怪。
……生まれて間もない。
言葉通り勘違いした。
己を実力も見誤る。
広い世界を知らない妖。
哀れと感じてしまう。
腕は振り下ろされた。
「いやっ……ぁ…?」
「捕まえた」
少女を抱き締め。
見上げる。
現前の事実。
衝撃が起こり。
地は罅割れる。
舞う土煙。
砕けるヘルメット。
痛みこそない。
嘘。
痩せ我慢。
砂にまみれ。
距離を離す。
うん、気づいてない。
どよめく悲鳴。
観衆の中。
……文はいない。
「預かっときますよ」
…びっくりした。
現れた隣人。
割れたヘルメットの隙間。
少女を抱きかかえる。
落ちる大幣。
散りゆく。
御札たち。
「無謀も良いところですね。霊夢さんを知らない妖怪とは」
そうだろうね。
大幣と御札。
……拾う。
ん? この大幣。
偽物じゃない。
これは紛れもなく。
正真正銘。
俺……
なんで少女が……。
やっぱり…。
うん、手に馴染む。
変わらないな。
御札には膨大な霊力。
洗礼され神々しい。
細密に込められている。
並の妖怪なら。
追い払う位はできるね。
魔除の比にならない。
凄いな。
当代の巫女は…天才、か。
「ドコダ!」
土が晴れる。
右に大幣。
左に御札。
「何をするつもりですか?」
あ…説明してなかったね。
見てもらった方が早い。
…目をつけられたくはない。
けれど……やるしかない。
機会主義は。
趣味じゃないんだ。
ふぅ…久々だね。
「準備運動を」
「…分かりました。余計なお世話かもしれませんが……お気をつけて」
撤退する文。
見送り前に出る。
「キサマ…ガイライジンカ!」
確実に…確信。
そういった。
俺を見て。
待つつもりはない。
大幣を前に。
御札をばら撒く。
妖怪の追撃。
鋭く速い。
だけど。
避けるのは容易。
ヒラヒラ。
散りゆく御札。
意思を持ち。
飛び交う魂。
廻り。
廻る。
儚い夢を想ふ。
一抹の軌跡。
「━━封印」
「グゥゥ!? チカラガ…!」
覆う御札。
全身に貼り付く。
幾ら力を込めようとも。
破れることなき空界。
遮るもの。
邪魔するものは。
赦されない。
なんてね。
対妖怪に特化しているだけ。
「キサマガァ! ハクレイノミコカァ!」
「……そうだよ」
「退いてくれないか」
「ナンダト!」
驚く。
そうなるよね。
君に勝ち目はない。
外来人に負けるんだよ。
博麗の巫女に勝てる通りはない。
為す術もなく。
滅される。
人里のため。
危険分子は消すべきだ。
人間の為にも。
妖怪の為にも。
幻想郷の為にも、ね。
ただ、俺は部外者。
好きにさせてもらう。
「望むなら何時でも相手をする。だから人里に手を出すのはやめること。俺の為にも、君の為にもね」
「………ナマエ」
「博麗✕✕」
御札は剥がれ。
墨と化す。
「オボエタ。…カナラズコロス」
去りゆく。
後ろ姿。
……おわった。
つ、つかれた。
沈黙。
風だけが。
場を支配する。
肩を掴まれる。
「……文?」
返事をしてほし…。
痛い! 痛いんだけど!?
「……後で教えて貰いますよ」
あはは……。
分かっているよ。
「あ、あの……」
少女。
……そうだね。
「怪我はないかい?」
「は、はい!」
ああ、良かった。
「これ、返すね」
大幣を渡す。
もう必要ないもの。
失くしたものだ。
あの日の私は。
もういない。
「え…でも……みこさまの」
「持っていて欲しい。その巫女様も望んでいるよ」
「……はい!」
事なきを得た。
……うん。
お腹が鳴り響く。
「全く。……改めて行きますか」
「うん」
「ありがとうございました!」
お辞儀。
「どういたしまして」
文と共り。
後にした。
☆
縁側。
お茶を啜る。
何事もなく。
一日を終えるのかしら。
良いことね。
風靡く。
揺らる木々。
「なんで博麗神社にいるんだ?」
境内に降り立つ。
白黒の魔法使い。
霧雨魔理沙。
「当たり前のこと聞いてるんじゃないわよ」
飲み干し。
湯呑み置く。
「だって人里に行ったんじゃないのか?」
戸惑い。
頬を搔く。
人里に行く予定はない。
口を開き、返す。
「妖怪が人里に入り込んだって聞いたぞ?」
「は?」
ことはできなかった。
思わず吐き出された言葉。
「博麗の巫女が追い払ったって…人里で噂になってるんだ」
私が…追い払った?
どういうこと?
思考する。
人里に行っていない。
自分が分かっている。
「詳しく教えなさい」
「お、おお。わかった」
隣に座る。
私の反応を見て。
魔理沙も疑心になっている。
件の博麗の巫女は。
黒い被り物に黒い服装をしている。
……どう考えても。
「偽者じゃない」
「偽者だよな」
合わさる声。
他には連れがいた。
女性の記者。
思い当たる奴は。
一人しかいないわね。
「これだ」
帽子の中。
取り出し見せてきた。
社会派ルポライターあや、か。
裏に隠れてもう一枚。
同じ名刺。
社会派ルポライターゆう。
天狗絡み。
今度は何を起こすつもり?
面倒事は勘弁して欲しいわ。
と、いうか。
これだけ情報があるのなら。
「私じゃないくらい分かるでしょう」
どう考えても成りすましじゃないの。
私なら追い払わない。
祓うけど。
同族のよしみで逃がしたんでしょう。
魔理沙の顔が曇る。
……まだ言ってないことがあるわね。
息を吐き。
真剣な面持ち。
「その、な。人里のみんなが言ってたんだ」
「なにを」
「
…………。
「はぁ…夢想封印は博麗に代々伝わる秘術の一つ。天狗なんかに使えるわけないでしょ?」
「……そうだよなぁ。似てたとかそんな感じじゃないかと思うんだ。あと…こう名乗ってらしい。…博麗✕✕、と」
博麗✕✕。
そういえば。
どこかで。
聞いたことがある。
宴会の場。
微睡みの中。
紫が零した名。
古い代の巫女。
以外は知らない。
ただ沈みゆく。
視界に映った。
涙だけは鮮明に。
記憶に残っている。
まあお気に入りだったんでしょ。
にしても。
なんで天狗が知っている?
……調べる必要があるわね。
異変、として。
立ち上がる。
「行くわよ」
「どうしたんだ急に」
「いいから来なさい」
向かう先は人里。
稗田の屋敷。
稗田家当主。
稗田阿求なら。
なにか知っているはず。
手っ取り早い話。
紫に聞けばいいだけ。
……教えてくれないだろうけど。
次の一手。
それが幻想郷の記憶。
それでも確証はない。
いつものように。
「ちょ! 待てよ!」
唯の勘よ。