「転生を繰り返していて。私の先輩で……元博麗の巫女でもあり、他にも沢山の人生を経験してきた。今は東風谷早苗さんの先輩、と」
膨大な情報量。
理解しようにも脳が拒絶する。
否定をしたくなる。
特に現代について。
「そんな感じかな」
呑気に酒を呷る。
それどころじゃないんですけど。
情報の整理。
と、いきたいが。
相変わらず騒がしい。
異変直後。
妖怪の話で持ち切り。
救いは正体を知られていないこと。
博麗の巫女を騙った。
博麗の巫女ではあるんでしょう。
あの技は……。
霊夢さんが使っていた。
同類のもの。
霊夢さんからすれば、だ。
名を使われたに過ぎない。
…喧嘩を売ったと同義。
先輩が強いことは知っている。
隣で、間近で見てきた。
憧れ、情景、親愛……。
なにより……愛情。
初めて好きになった男性。
誰かに向ける笑顔。
私だけに向けて欲しかった。
誰かにかける言葉。
私だけにかけて欲しかった。
それぐらい私は溺れていた。
……溺れていたかった。
あの日まで、は。
全て変わった。
だがそれは先輩が優し過ぎたから。
悪意ある人間にも警戒せず無防備。
強者ゆえの余裕、驕りではなく。
ただありのままで居続けたから。
先輩が本気になれば……。
それでも、霊夢さんに勝つことは。
……不可能。
彼女は。
最強なのだから。
「しかし当代の巫女は天才だね」
酒を飲み干し。
口溢す。
その通り。
先輩は分かっている。
「いつ気づいたんですか?」
ただの疑問。
知る術はなかった、はず。
「御札だよ。あれだけ精密に霊力が込めているものは久しぶりにみた。あれが魔除なら俺の作る魔除はただの紙になる」
静かに呟いた。
……霊夢さんがどれだけ凄いのか改めて認識する。
先輩がそういうのであれば確実だから。
それでも…認めたくはなかったな。
「…先輩が本気で戦えば良い勝負をするんじゃないでしょうか?」
要らぬことをいう。
私情を挟む。
感情を押し殺すことはできず。
偏愛的に贔屓する。
「無理だね。確実に負けるよ」
悔しむこともなく。
平然と言い放つ。
「素質が天と地の差。経験だけで埋められるほどの甘さなんてない。天性の才能と言ってもいい。多分、幻想郷最強と言って過言ではないよ」
空のグラスが落ちる。
「……そう、ですか」
「なによりただの人間が勝てるはずないだろうに」
カラカラと笑う。
たった一つの情報でここまで言い当てる。
…はぁ……変わらない。
天狗の中でも上位の実力でありながら驕らない。
相手を見下すのともなく敬意を称し…誇りを持ち、私たちに天狗の在り方を見せてくれた。
「お待たせしました!」
目の前に料理が並べられる。
煮物、川魚とレンコンの素揚げ。
何故かカレーライス。
「おかわりいいかな」
グラスを持ち上げ見せる。
「はい! かしこまりました」
笑顔で受け取る。
チラリと私を見ると厨房へと消えていく。
この酒場。
鯢呑亭の看板娘。
さっきから探って来てますね。
私が男と居たらそんなに不思議でしょうか?
不思議ですね。
男と絡むことはありませんし、同族すら有り得ませんよ。
……人間なら尚更ですね。
良いんです。先輩は特別なので。
例え先輩の事が嘘であろうとも。
信じますし、信じるだけです。
天狗としてではなく。
……私として。
「あの子って妖怪だよね」
気付きますよね。
「はい。座敷童子です」
一応、ですけど。
「
看板娘の……奥野田美宵に対し含み。
気になりますが本題に入る。
と言いつつも煮物を美味しそうに食べている。
思わずカメラを構えそうになる。
なんとか押さえ、後に続いて料理を口にする。
やっぱりここの煮物は絶品ですね。
「人里は難しそうですね。噂になってますし何より霊夢さんが怖いです」
これはマジです。
もう人里にいるかもしれません。
そう考えたら震えそうになりますよ。
「遠回しに喧嘩を売ってるからね」
なんで呑気に言えるんですかねぇ。
どんな時も自然体。これが先輩ですよね。
今回はそうもいきません。
霊夢さんの逆鱗に触れている。
持ち前の勘で必ず先輩にたどり着く。
絶対的運命。
「私の家に行きましょう」
これに限ります。
まだ先輩を知る天狗は沢山いる。
少なくともはたてや飯綱丸様は……。
分かってくれるはず。
「それはダメだよ」
それでも先輩は頑なに……。
それが……分からない。
私の何かに触れた。
「じゃあどうするんですか!」
テーブルを叩く。
倒れるグラス。
床に落ち砕ける。
破音と訪れる静粛。
視線が一斉に集まる。
……構わない。
息を吐く。
口を開く。
「事は深刻を極めてます。……思っているよりもずっと」
「……文」
「だからお願いします」
頭を下げる。
下心は…ある。
少しでもいい……違う。
ずっと…また貴方と同じ時を過ごしたい。
隣に…先輩。
貴方が居る日常に戻りたい。
正直、私には霊夢さんは関係ない。
もし先輩を狙うのならば……。
本気で……行くだけ。
容赦はしない……負けると分かっていても。
……殺す気で…。
あ……先輩…?
「分かった。…分かったから」
温かい。
歪ませた先輩の顔。
息がかかる。
酒の匂い…。
懐かしい匂い。
……落ち着く。
☆
「お会計お願いします」
危なかった。
……文…。
そこまで取り乱すなんて。
……初めから分かりきっていたはずだ。
天狗は妖怪という種族の中では温厚。
人間から神として崇拝される地域も存在する。
だけど……。
反応を見るに…。
なにより…先程の殺気、殺意。
特定の誰かに向けられたものじゃない。
あれは……。
集団に向けられていた。
無意識かもしれないけれど。
客達に向けられていた。
完全なる無関係……。
1つの共通点。
自惚れたくないが…。
傷は深いんだろうね。
にしてはいきなり過ぎた。
文は物事を冷静考えられる子だ。
気がかりではある。
……それでも解決はできない。
第三者が干渉している。
……
それはどんな酒よりも。
魅力的を感じてしまうものだった。
全く……天邪鬼な奴だ。
彼女の能力なら。
人里にいてもおかしくはない、か。
酒場を出る。
腕の中で身動ぎひとつしない。
落ち着ける場所。
……探そうか。
「動ける?」
「…………」
返事はない。
虚ろな瞳は揺らぎを知らず。
だめ、か。
街並みは変われど。
変わらぬ場所はある。
…いや、それよりも。
誘いに乗る方が、面白いかもしれないね。
文を横抱きに、外へと向かう。
落ち着いたら
☆
人里へ降り立つ。
罅割れた地面…門が破壊されていること。
それを除けば代わり映えしない。
「普通ね」
街並みを見て思う。
相変わらず賑やか。
とても妖怪が現れた後とは思えない。
「霊夢ー!」
遅れた魔理沙。
荒く息を吐き捨てる。
そんな光景を見ても人々は。
当然の様に反応はない。
「✕✕✕ふういんー!」
視界に映る少女。
大幣を無邪気に振るう。
「相変わらず博麗の巫女は人気者だなー」
能天気に笑う魔理沙。
和やかな空間に一つの疑問。
いいや、二つの疑問。
「どうしたんだ?」
「あの子が持ってる大幣。どう思う?」
「大幣? ああ、お祓い棒か? よくできてるなって」
そう、それが普通の解答。
少女が博麗の巫女に憧れ模倣した結果。
残念ながら半分正解、半分不正解。
「
残りの解答をぶつける。
「は?」
「だから、あれは私が使っている大幣と全く同じもの。微かに霊力も感じるわ」
「……落としたのか?」
「落とすわけないでしょ。仕事道具よ? それにあれは博麗の巫女にしか扱うことはできない…」
そう…できない。
例え魔理沙や妖夢、早苗が使おうとしても使えない。
そういう風にできているのだから。
最後に聞き覚えのない秘術。
✕✕封印。
記憶を辿っても何一つ、ない。
少女に向けて足を進める。
突然の接近に動きを止める少女。
慌てて着いてくる魔理沙。
「み…みこさま……」
身を縮こませる。
威圧してるつもりはないのだけど。
まぁいいわ。
聞くだけ…余計な気遣いなんて。
「霊夢は黙っててくれ。なぁ! 人里に妖怪が出たって聞いたんだが……あ、おい!」
割り込んだ魔理沙の問に少女は逃げる。
あっという間。点となって消えていく。
「……なにしてんのよ」
「霊夢の顔が怖いからだろ…いって!?」
うるさいぶっ飛ばすわよ。
額を押さえる魔理沙は置いておいて。
少女なら寺子屋に通っている可能性が高い。
……慧音に聞いてもいい。
それよりも阿求の方が確実、ね。
目指すは稗田家。
少女が逃げた辺り。
視線を感じる様になった。
何か裏があるわね。
面白いじゃない。
この時の私は。
異変解決よりも好奇心。
偽者の正体が気になって仕方がなかった。