桃から産まれた十六夜咲夜   作:みみみすと

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北風と太陽とメイド長

 北風と太陽とメイド長の3人は、誰が一番強いのかいつもいつも言い争っておりました。

 言い争いではいつまでたってもらちが明かないので、あるときメイド長が言いました。

 

「あのお嬢様の傘をひっぺがした者が勝ちにしましょう」

 

 見ると、傘をさした吸血鬼のお嬢様が、のんきにそのへんを散歩しておりました。これからその身に振りかかる不幸のことなんて、てんで考えていないのんきっぷりです。北風と太陽はこの提案を二つ返事でのみました。

 

 

 

 というわけで、哀れな吸血鬼が久しぶりのきれいな曇天を満喫していると、いきなり北のほうから、刺すような寒さの風がふいてきました。北風が傘を吹き飛ばそうとしているのです。

 

「きゃあっ! さむっ! ってかスカートめくれてるし!」

 

 なんと、そのせいで、お嬢様のスカートがめくれ、ドロワーズが丸見えになってしまいました。これにはメイド長もにっこりです。

 

 しかし、お嬢様はいくら風に煽られても傘を離すそぶりもありません。流石は吸血鬼の握力です。これに北風はがっかりしてしまいました。

 

 

 

 風がひととおり落ち着いたので、お嬢様はふたたび歩きはじめました。でもちょっと調子が悪そうです。まわりがじわじわ暑くなってきて、それになんだか肌がひりひりする気がします。

 

 あまりの違和感にお嬢様が空を見上げると、なんと、さっきまで雲一色だった空は、いつのまにかちりひとつない晴天になっているではありませんか! 

 

 これは吸血鬼にはたまりません。傘を握る手に自然と力が入ります。

 かんかん照りの太陽に晒された吸血鬼の白い柔肌とそこから染み出す汗が、さっきの北風で乱れた髪と相まってなんだか扇情的で、メイド長は思わずガッツポーズをしてしまいました。

 

 しかし、太陽にとってはがっかりです。太陽は、傘なんて、天気が悪いときにさすものとばかり思っていました。日差しが強いときに使う傘なんて、太陽にはどうしようもありません。

 

 

 最後に、メイド長の番です。これは簡単です。メイド長は人間なので、お嬢様に直接話しかけて傘を借りればいいのです。でも、ちょっと待ってください。そもそもなぜ、お嬢様はひとりで散歩されているのでしょうか。お嬢様が太陽に照らされて困っているのに、なぜメイド長は傍観していたのでしょうか。仕事がたくさんあるのになぜ、北風や太陽なんかとおしゃべりしていたのでしょうか。そもそもよく考えてみると北風や太陽が言葉を話すということ自体、なにかおかしい気がします。それに、お嬢様が自ら傘を持つなんて、それこそ────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────くや────さくや────

 

 

 

 

 

 

 ああ、そうか。

 

 

 

「さくやー、さくやー、おきた? でかけるから、かさもってー」

 

 

 

 ……そうです。そもそもお嬢様が自分で傘を持つなどありえません。なぜなら、偉大なるレミリアお嬢様、レミリア・スカーレットお嬢様に使える完璧な従者、十六夜咲夜がいる限り、お嬢様に傘を持たせることなど、万にひとつだって、ありえないのですから。

 

 

 

 

 

 おしまい。

 

 




イソップ童話「北風と太陽」より。
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