【完結】よういふっ!   作:麿は星

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 今話は時系列的には『ようキャ』のEX最終話の次の話(原作6巻)になります。本編もオマケも完結からしばらく経過してるし、今更ですが。

 タイトルとは裏腹に試験自体は軽く流されてるし、かなりの部分がオリジナル展開なので注意。



1年生編6~8巻
ペーパーシャッフル


 

 12月6日の日曜日の夕方、僕は自室に訪ねてきた清隆と新しく購入した炬燵を囲み、共にビーフシチューをかっ込んでいた。夏休み前から稀にある日常風景だ。

 

「やってくれたな、夢月」

「ん、まだ言ってなかったな。

 清隆。僕がお前の価値観を壊してやるよ。心底では機械のように冷徹なお前を───僕が壊す」

「夢月……オレに勝てるのか、お前が」

「楽しくやるなら、それは邪魔でしかない。てか、らしくないじゃないか。今回は葬るって言わないのか?」

「……っ。お前はやらないんだろう?」

「はい、まず1つ壊してやった。僕をそう見てるなら、根底に僅かな変化はあるさ。数ヶ月前の清隆はもっと油断してなかったぞ?」

 

 体育祭が終わってしばらく何かで動いていた清隆に暇ができて、約1ヶ月ぶりくらいに会話した内容がこれ。

 ぶっちゃけ、闇の深い目をしたコイツは好きじゃない。だから、少し前にコイツの『舞台』を龍園と坂柳さんにスライドしてみた。

 坂柳さんは流石に踏み留まったが、龍園と何らかの決着をつけたようだ。

 

 龍園とは会ってないが、清隆から湿布薬の匂いが僅かにしていたので、椎名の予想が合っているなら不良漫画のやり合い的な展開になったんじゃなかろうか。多分、双方に後腐れないような状況を作り上げて。

 そこから、どういう理由か坂柳さんに向かわず、僕?にベクトルを向けたのがこのなんてことない宣戦布告の理由だろう。ならば、受けて立つのが友達というモノである。

 ま、敵意もなさそうだし、重いより軽い空気の方が好きだから馬鹿話に変えさせてもらうがな。

 

「そもそも、おっぱい至上主義なのがフォローできない。常識的に考えて尻だろう」

「…………は? ありえない。あの愛里と付き合ってるわりに、夢月はおっぱいの素晴らしさをまだわかっていないのか。残念な奴だ」

「あー?」

「ん?」

 

 強引すぎる方向転換をすると、一瞬呆気に取られた雰囲気を出した清隆はすぐに乗ってきた。流石の適応能力である。

 この夜は結局、久しぶりに話す友達と飯を食って遊んだだけで特に何もない1日だった。愛里を引き合いに出されて少しだけモヤッとしたけども。

 

 

 

 

 

 ちなみに、なんで清隆とこんな話の流れになったかというと、ペーパーシャッフル直前といっていい時期に、1年生用の学生寮に怪文書がバラ撒かれたのが発端だ。

 僕は後で説明する理由で疲弊してたのもあってそれほどじっくり見てなかったが、なんでも「一之瀬帆波は不正している可能性がある───龍園翔」みたいな文面の手紙が生徒個人のポストに多数投函されたらしい。

 

 そこへ一之瀬本人と元々ピリピリしてたクラスメイト達が登場して揉めていたところに、“名前を使われた”龍園が来たのでさあ大変。騒動は龍園が学校へ訴え、公の場で一之瀬が潔白を証明する話になるまでの拡大を見せた。

 僕が愛里の待つ自室へ戻ろうと、騒動の場に姿を現したのはちょうどこの一之瀬と龍園の言い争いが佳境な時で、不思議なことに僕へ注目が集まった。そこで憤慨しながら神崎の教えてくれた概要が、だいたいこのような内容だったわけだ―――って。

 

「ん? ちょい待て神崎。『龍園』が訴える? この手紙の内容で?」

「ああ。龍園が『明言』したわけではないが、一之瀬に潔白を訴えさせる『状況的に』おそらく龍園が下手人だろう」

「お前、下手人て……」

「クックック。何に引っかかった左京? どこにもおかしい部分はないだろう?」

 

 実に白々しい。おかしい部分がないのが不自然だろうが。

 その神崎と龍園の発言を聞いて、軽く周囲を見回してみる。

 さっきまで前面で言い合っていた一之瀬は静かに成り行きを見守っていて、クラスメイト達は神崎以外一之瀬の周囲を守るように囲っていた。そして龍園はいつもと違って1人だ。

 四方も早苗も高円寺もいない。部活組もいない。清隆や葛城はいるが……ああ、稀に起こる親切モードに入ってたのかと合点がいった。

 だから、僕が伝えておくべきことを口に出す。

 

「そうか───龍園」

「なんだ?」

「ありがとう。明日?の訴え、一之瀬の事をよろしく頼む」

 

 だが、僕の伝えたお礼の言葉は半ば奇行のように取られたようだ。

 

「「「……は?」」」

 

 それでも清隆と龍園だけが冷静さを保っている材料で自説に自信を持つ。普段世話になっている一之瀬に良くしてくれるんだから、龍園に感謝するのは当然の礼儀だろう。

 

「助け船を出してくれたんだし、僕だって感謝するくらいにはうちのリーダーを大事に思ってるさ」

「おいおいおい!! なんでそうなるんだよ左京!?」

「感謝? 龍園にか? 言いがかりにも等しいことを広められたんだぞ!?」

 

 渡辺や神崎などのクラスメイト達が言ってくるが、意味がわからない。どう考えても、いつもの龍園節で少しねじ曲がった好意の申し出だと思うのだが。

 一応、考えを聞いてみるか。

 

「ふむ。んじゃ、それをすることで齎される龍園のメリットは?」

「……っ。名誉毀損など気にも留めない不正を疑わせる攻撃だろう。龍園は材料が見つかれば攻めてくるスタンスの奴だ! やってもおかしくはない!」

 

 いつになく神崎が……いや、クラスメイトほとんどが熱くなっていた。論理的ではない。

 ま、一之瀬が攻撃されてるっぽいから、しかたないといえばしかたないか。

 

「はぁ、冷静になれ神崎。龍園はこんだけ明確な証拠があって、訴えてくれるんだぞ? よく考えろ」

「証拠……だと!? それに訴えてくれる?」

「これは龍園の性格を読んだ上での、龍園以外による何らかの仕込みだ。一之瀬を信じて結果を待つのが吉」

「どういうこと!? 龍園君がやったことじゃないみたいに聞こえるんだけど!?」

「最初から僕はそう言っている。だから感謝してるんじゃないか」

「……ククッ、まるで裏を確信してるような口ぶりだな」

 

 なんのつもりかこれほどわかりやすければ、冷静で知ってるわけだし、誘導された真相に辿り着くのも難しくない。確実に犯人がわかる(多数のポストになんか入れてる奴は写ってるはず)だろうポスト前の監視カメラに言及するだけで追い詰められる。

 愛里がストーカーに遭った時に寮周辺のカメラは把握してるし、おそらく龍園だってそうするだけで潔白を証明できるだろう。表向きのターゲットが一之瀬なのだから尚更だ。

 

 尤も、夏休み以前までは寮のポスト前に監視カメラはなかった。なんせ愛里に送られていた脅迫状や盗撮写真からストーカーを辿ろうとしたら、何故か設置されてなかったので事件後に僕が学校と“生徒会”に申請して、7月にそれぞれの学年の学生寮各所にカメラが設置されたのだ。

 時期的に、設置とほぼ同時に生徒会入りした一之瀬と葛城は少なくとも存在を知っている。慎重な葛城は口を出して来ないかもだが、一之瀬は解決策を思い付ける。

 

 だから龍園がカメラを知らない可能性はなくもないが、一之瀬の怪文書をバラまいた犯人の特定は容易だ。寮の管理人に監視カメラを見せてくださいと一言頼めばいい。

 それをしようとしないということは、一之瀬がこの対抗策を思い付かないほど内心動転しているか、たとえ攻撃されたとしても反撃したくない面倒な性格ゆえか。

 どちらにせよ、一之瀬本人に動くつもりがないなら龍園の提示した『訴えてくれる』という第3の選択肢はありがたい。

 

 現状を整理するに、一之瀬の疑惑っぽい材料を利用して『龍園に』仕掛けた清隆か坂柳さん、あるいは南雲の線が濃厚だろう。体育祭前に僕がされた嫌がらせと似た匂いもある。

 一之瀬を経由して遠回りに龍園を槍玉に上げるなら、ターゲットの龍園だけが気づくピンポイントな挑発行為だろう。これは龍園なら、十中八九受けて立つ。

 

「そりゃするだろ。こんな怪文書なんか、龍園の何事も面白がる性格を利用した『何か』以外に考えられない。それを理解した上で、否定せずに一之瀬の疑惑を訴えるなら、気まぐれな好意かあるいは……」

「やめろ、気色悪い。ふと興が乗っただけだ」

「ツンデレ? お前のそれは需要ないと思うぞ?」

「ぶっ殺すぞ、てめぇ」

 

 つまり、清隆が龍園の件を片付ける気になったって解釈でいいんじゃなかろうか。どういう形で繋げるのかは読みきれないが。

 

「待って左京君! 本当にこれは龍園君じゃないの!?」

「うん、それは確実だろうな。僕が知る龍園なら、怪文書にフルネームを印字させるなんて馬鹿をやるわけがない。そして周囲にとっても名前を出されて否定が入らなければ、そりゃ龍園がやったと思い込む。一之瀬のお人好しな性質と龍園の性格・風評を利用されたな」

「クックック。断言するなぁ、左京。まるでてめぇがやったみたいじゃねぇか」

「僕にそんなことする暇があるわけがない。メリットも意味もない。てか、お前……現状から考えて『ヤツ』に狙われてるぞ?」

「望むところだ。むしろそれが俺の狙いだぜ」

「……はぁ、気をつけろよ。打つ手を間違えると、多分ヤバい」

「余計なお世話だ。俺『達』は楽しんでんだよ」

 

 それと、これを指摘されることも想定済みだろう。

 清隆だとすれば、狙いは龍園へ一時的に敗北の二文字を刻み込むこと。一之瀬達も龍園も……そして僕も、そこへ至る過程で必要なフラグ立てに利用されたのだ。

 なら、多数の人前で龍園が気づくヒントを仕込むのは充分に意趣返しになりえる。自分で動かないと欲しい材料が入ってこないコミュ障ゆえの計算外を作ってやろう。リーダーかその周辺にいないと入ってくる情報が偏るからな。

 

「ただ龍園、今回で借りができた。僕のできることならやるから、この連絡先に」

「てめぇ……ククッ、やはり左京は話をする以外無駄なようだな」

「わかってたんだろ? 大丈夫じゃないようなら僕を利用してもいい。全力で仕込まないと龍園が食われるぞ」

 

 ついでに、これまで椎名か栄一郎経由だったのが面倒でもあったので、忘れていた僕の連絡先を龍園に渡しておく。コイツに限って、イタズラ電話や迷惑メールは送ってこないだろう。

 一之瀬含む他多数もいるが、なにより視界の隅に映る清隆が見ている前で。僕が破いたメモ帳のページに自分の連絡先を書いて渡す。

 と、龍園に問いかけられた。

 

「わかっちゃいるが、ここでお前に聞いておく。

―――左京。お前は自分の力で人を動かしたいとは思わねぇのか? 自分を馬鹿にする奴らを見返そうとは思わねぇのか? お前なら……人の上に立つリーダーにもなれるだろうに、何故その実力を使わねぇんだ?」

 

 何故、か。この学校に来てから、似たニュアンスで何人かに聞かれたなぁ。

 スペック上の僕は大した能力もなく、特別なモノもそんなに持ってない。人生2つぶんの経験値アドバンテージがあるだけの僕よりも、明らかに周囲から図抜けてる奴らの方がリーダーとかには向いてると心から思っている。

 

「そんなのやりたい奴にやらせとけばいい。それに言いたいこと言わせとけ。そんな事どうでもいいんだよ。

―――ただ、僕は自分の矜持や美学を自分から裏切るような真似はしないのさ」

 

 でも軽く聞いてきた龍園が真剣でもあると感じたので、僕も真剣に返した。

 自分に何ができるか確かめるためにも同じところに留まっているわけにはいかないだろうし、ちょっと先に進むための助言になればいい……龍園以外にも。

 

「クックック。クッ、クハハハハッ!!」

 

 すると龍園は、実に悪そうに笑い出す。なにわろとんねん。

 だけどこの様子だと、龍園も真相に近づいたな。

 後で椎名あたりに確認を取れば確実に。取らなくても、今度こそ本格的に動き出すはずだ。

 

「お前、マジで狂ってるぜ!! 俺のゲームもようやくクライマックスになってきたか!? それでいて見るべきところを見てやがる左京もいる! まったく面白い事になってきたもんだ……!」

 

 そう。清隆の想定に沿って。

 僕のぶっ込みで多少は龍園の準備も充実するはずだが、さてどうなるか。

 これはどう考えても龍園に必要になってくる手順の一つだ。最後のピース以外は僕も絡んでおいた方が後々に生きてくる。

 ま、今はとりあえず出たとこ任せで自分達の火の粉を払うだけにしとくのが無難か。僕が来てからの一之瀬は、最後まで静かに僕と龍園の会話を見て聞いてただけだったし……。

 

 途中から主旨と主役は変わったものの、この日はそのまま解散となり───翌日。龍園は言った通りに学校に訴え、一之瀬は学校を保証人に見立てて無事に疑惑を払拭した。

 学校の発表は当然『不正なし』の通達である。

 しかしながら、先を読んでいくとこれはまだ始まりにすぎないだろう。火種を燻らせておくのも『奴ら』なら抜かりなく行うはずだ。

 一之瀬の本格的な受難は、少し未来へと持ち越しになった。

 そしてそれが清隆との冒頭の会話に繋がっていくわけだ。

 

 

 

 この龍園や他と会話した数日後、12月3日と4日の2日間は、クラス内の誰かとペアを組み、一蓮托生で期末テストに挑む通称・ペーパーシャッフルという少し特殊な特別試験となっていた。

 試験科目は8教科100点満点、各科目50問の計400問をクラスごとに作成し、出題し合うというもの。

 赤点のボーダーは2種存在し、1つ目は各科目ごとのペアの合計点が60点を下回ること。2つ目はペアの総得点が学校の指定したボーダーを下回ることで、例年では700点前後のようだ。ちなみに、ペアは前に行われたテストの結果が関係していたらしいが僕はよく知らない。

 

 これらを踏まえて、それぞれのクラスに攻撃(テストを作成して出題)と防御(攻撃役のクラスが作成したテストを受け回答)を課してCPが動く試験らしい。決定されて発表された組分けは、A→D、D→C、C→B、B→Aが試験問題を全科目ぶん作成して攻撃。それを一定レベル以上で点数が取れれば防御成功とのことだ。

 興味が湧かなかったので話し半分に聞いてたら、僕達天文部員は適当な科目の試問題験作成に割り当てられていた。

 

 先にそのペーパーシャッフルの結果を端的に述べると、櫛田のいるDクラスへの攻撃を凌がれ、葛城・坂柳さんがコンビを組んだBクラスからの出題にも抵抗しきれなかった。

 

 Aクラス、-100CP。

 Bクラス、変動なし。

 Cクラス、変動なし。

 Dクラス、+100CP。

 

 総合でこのような結果だ。CPは、

 

 A(一之瀬)クラス 980

 B(坂柳)クラス  864

 C(龍園)クラス  696

 D(堀北)クラス  420

 

 である。いまだうちはAクラスだけど、Bクラスとは100CPの差が縮まった。

 

 惨敗の要因はおそらく、僕と四方と早苗が作成担当になった数学と物理と化学のテスト問題。実をいうと天文部の部室で作ってたので、来訪者が簡単に覗けたためと考えられる。離席中とか、帰宅後とか、普通に置きっぱだったしな。

 尤も、愛里や高円寺はしなかっただろうが、清隆と櫛田は期間中に人を連れて時々訪れてたので本人か連れの誰か、あるいは複数人がやったのだろう。そんな要因で負けたのだ。

 うむ。言うまでもなく、計3教科ぶんのディスアドバンテージをもたらした僕達は、紛うことなき戦犯である。

 

 それはさて置き、先に述べた僕がこの時期に疲れてた理由だが。

 12月の初旬頃、ペーパーシャッフルの試験で僕の所属クラスがボロ負けしたあたりだったか。

 何故か早苗が組み手をやりたいとかで、テスト期間中でも関係なく僕を投げまくるようになってから約1ヶ月。四方は野球部の練習で忙しくなったくせに、しっかり早苗の後押しをして段取りを組んでいった。

 結果、僕は付き合い始めたばかりの愛里の前で転がされることとなり、肉体的にも精神的にも疲弊していた。だが、早苗を転がす試行錯誤を胸に秘め、なおかつひたすら転がされた後にはご褒美が待っていると思えば、ギリギリ耐えられた。

 

 そう。愛里との癒しタイムである。

 

 そしてそれが問題で、12月のペーパーシャッフル終了の次の日───僕と愛里は一線を越えた。

 膝枕やハグ、愛里の勉強を見てる時の密着、共に食卓を囲む(ほぼ僕の料理)。転がされて格好悪いところを見せてたので幻滅されてないか心配だった僕には、甘え甘えられのご褒美タイムに癒されていたのだが……。

 耳掃除をしてもらった際、なんというかこう……愛里が異様に可愛く見えてキスしたら2人共やる気になってしまって、そのまま布団に雪崩れ込む事態に発展。以前と違って愛里の意思も必要な確認も終えていたため、歯止めが効かなかったのだ。生理でいきなり血塗れにならないようにか、愛里が安全日をしっかり把握していたのも大きい。

 

……うんまぁ、体育祭のリレーで僕がぶちまけたパフパフ云々の発言を聞いて覚えてたらしく、愛里のとんでもない破壊力の胸に抱きすくめられた。キスした直後にそんなことされたら理性とか我慢とかぶっ飛ぶよね。

 

 めっちゃ濡らして準備しても半分くらいしかアレが挿入できなかった最初こそ焦りまくったものの、そこは完全にその気になっていたやりたい盛りの高校生の男女。

 余裕がなさすぎて途中から避妊具を付けるどころじゃなかったというのに、お互いにできることでカバーし合って朝まで盛った。

 翌朝など、ぎっくり腰にでもなったんじゃないかと思うほど身体が怠く、なんとか愛里を支える感じでシャワーを浴び、掃除してから……力尽きた。だから日中は、2人で折り重なるように寝まくった。

 

 余談だが、夕方に起きた愛里を部屋に送り届け、自室に戻ったら清隆が来てて夕食を共にした流れだ。

 愛里を送り届けて不在していた少しの時間でも、窓を全開にして換気しといてよかったと思った。作り置きしといたビーフシチューの香りで多少は誤魔化せ……たかなぁ。持ち前の洞察力で僕の状態とか僅かな材料から、色々見抜かれてた気がひしひしとしてる。会話内容からして。

……清隆なら見ないフリしてくれるとは思うし、何事もないように祈ろう。

 

 ともかく、精神は大人な僕が完全に理性を失くすことはない。

 次回以降、僕は精神年齢のアドバンテージとほぼ消えかけている『俺』の経験を脳内で補完・捏造することでなんとか落ち着きを維持し、愛里の緊張や身体をほぐすことにまず専念していたと思う。

 更にした後は休息するのに充分な時間を置くなど、いくつかの工夫もしながら徐々に慣らしていく方法で着実に前進した。

 

 苦労した甲斐があったのか師走が終わりに近づく頃には、僕の横で寝る愛里は満足したっぽい寝顔をするようになっていた。っぽいのは、アレだ。

 何気に僕はともかく、愛里がエッチするのに馴染んでからしばらくのこの時期が回数・頻度の最高値を叩き出していた。そのぶんアレしてる時の愛里の声も大きくなってきていて、してる要所でお互いの口を口で塞ぎ続けて声が漏れないようにしていたからだろう。

 だから、っぽいのは、おそらく酸欠もどきだ。満足して「うっとり」というか「ぐったり」と形容した方が正確かもしれない。付き合い出して判明したが、愛里がキス好きだったのは不幸中の幸いだった。

 

 部屋の防音はそれなりだとは思うが、声を我慢できないと近所に聞かれてしまう可能性がある。もっと慣れてくれば声や音の制御・調整が可能になるかもしれないが、女子である愛里の色っぽい声が響きそうで小心な僕としてはビクビクしてしまう。

 できるなら、ホテルなど気兼ねなくできる場所の情報収集は急務だ。声や音もだが、色んな汁の掃除とかも意外と手間だからな。

 

 なので、クラス対戦の試験がある期間はなるべくエッチしない。少しでもマシに見えるように、どちらかが誘う際は直接的表現を避けて「後で」などの曖昧な表現を使う。部屋の外では我慢できる時はバカップルにならない。事後に外出する場合、痕跡を可能な限り綺麗にする。

 これらの約束を断腸の思いで愛里と締結した。

 燃え上がりすぎて、早々に愛里に飽きられてしまわないための苦渋の決断でもあった。過ぎたるは猶及ばざるが如し、である。

 まぁ、数ヶ月経過して慣れてきた後も無駄に鋭すぎる友達にはヤッたら即バレしてたりもするが、最低限の尊厳とマナーは守れるはずだ。

 

 閑話休題。

 勿論、数ヶ月かけて僕がやっていたのは愛里関係だけではない。

 大きな変化だと、桜プロダクションの社長交代がある。松雄父に正式に席を譲るため、引き継ぎや息子の栄一郎も含めて打ち合わせをしたり、綾小路の父関係などからちょっかいをかけられた際の対応。高円寺・鬼龍院の2財閥との最低限の連携や保険。他にも細々とした手続きも色々だ。

 予想に反して、何処からの接触も邪魔もなかったが、だからこそスムースに松雄へ席を譲ることができた。

 

 うん、正直片手間の問題作成もあってテスト勉強とかしてる暇がなかった。暇があっても僕のことだから友達に教える時間が増えたくらいだろうが。

 これらに加えて、清隆の妙に好戦的?な態度、早苗の組み手、時間を作ってまで何故か話しに来る南雲。僕が愛里に溺れたくなる気持ちもわかってほしい。

 ともあれ、12月までの『僕は』このように疲れと忙しさはあったが何事もない平穏な日常を過ごせていた。

 

 

 

 ペーパーシャッフルが終わった翌週。愛里との後に清隆と遊んだ翌日は、月曜日なので普通に登校である。

 そろそろ本当に誰かが月曜を廃止して日曜を増殖させてくれないかと夢想しつつ、僕は朝のホームルームで担任の戯れ言を聞いていた。

 

「Aクラスのみんな~、今回は負けちゃったけど頑張ったねっ! 知恵ちゃん☆17歳もなにかお手伝いしたかったよ~。ホントだよ? でもAクラス維持はできてるから元気出してねっ」

「「「……」」」

「うっわ、キッツー」

 

 戯れ言を聞いていた(2度目)。

 勿論、教室後方の自席にて「キッツー」と零したのは僕である。

 

「あぁん、ひどぅい左京君……」

「ほ、星之宮先生…う、ぁ……あ、ありがとう、ござ…います」

 

 折しも、他のクラスに学力で負けたとも言える結果を受けたばかり。敗戦の責任を感じていたのか、一之瀬と神崎はその戯れ言を流す余裕がない。

 消去法で、時たま担任の二日酔いの介抱をしている網倉が相手をしている。ただ網倉も気色悪いのだろう。喘ぐように跡切れ跡切れの言葉になっていた。

 でもまぁ、この担任は何気に遠くから見てれば良い空気転換とバロメーターになる。

 

 どういうことかというと、経験上何かしらの問題が起きた場合、多くの人が気づかないフリをしてる問題に対して最初に指摘や行動を起こしたり、内部告発をしたりするのは比較的知能の高い人な傾向があった。

 反対に、知能が低いと目先の損得や私情、善悪で物事を考えがちだ。担任や茶柱先生、“一之瀬と葛城など”は何らかの事情でここに囚われているのではなかろうか。

 

 だが、知能が高いと長い目で物事を見るために行き詰まる前に改善しようとする。その結果として、それでは都合の悪い低知能な地位のある者(主にいわゆる経歴や机上のみのエリート)からの理不尽な反撃や嫌がらせを喰らうのだ。

 細かく言わないが、社会でこれが多いのは『俺』の実体験からも明らか。多少は優秀な凡人程度の僕の経験だけのモノでさえ、だ。

 それでも、僕のような者は自分が動いておかないとますます生き苦しくなるので、あえて暗黙の了解やルールを破ってでも先手を打っておく必要がある。上から疎まれるのを承知の上で。

 

 何が言いたいかというと、僕が愛里と付き合い出した以上、『櫛田』とのパイプ強化が更に必要になったのだ。

 僕だけならどうでもよくても、これから先で湧く可能性のある愛里の風評被害や各種疑惑から何とかフォロー……守れるのは櫛田しかいない。ペーパーシャッフルで僕と早苗、四方の作成したテスト問題を横流しした一番の理由はこれである。

 当然、関係者に共犯理由もきちんと話して説得した後、櫛田本人と交渉して成立した。僕達の油断を突くように盗み見てもらう形にしたのは、どちらも自分のクラスを裏切っていないという最低限の保険にするためだ。

 

 清隆が僕の部屋に訪ねてきた6日は、初めてヤった翌日以外にも、櫛田推薦の『綾小路グループ』へ愛里が入るお見合い?の都合を付けた翌日だったのだ。

 そして昼に愛里が綾小路グループの仲間に入り、グループメンバーと親睦を深めたらしい。

 いやぁ、最近のテスト勉強を目的とした集まりで、清隆の名字を冠したグループができててよかった。櫛田の小グループは大人しい女子ばかりとは聞いてたが、ぼっち気質には微妙に合わないかもなぁ、と思っていたのだ。

 

 男子も何人かいたらしいが、愛里から来たメールにも相性は良さそうってあったし、このまま彼女らが同じクラスの友達になれれば幸いである。やはりこういう話を聞くと安心できる。

 安心しすぎて気が緩み、嬉しそうに話す愛里へ思わずキスして雪崩れ込んだのは、むしろ高校生として自然だろう。

 

 話を戻すと、ペーパーシャッフルの裏で実行された保険の手に、少なくとも担任は気づいてなそうなのが判別できたわけだ。

 一之瀬とか誰かに聞きに来られたら正直にゲロろうと思ってるが、聞かれないならもう少しだけ黙らせてもらう。

 クラスメイトのみんな、すまん。

 

 ただ流石に今回ばかりは勉強を頑張ってた奴らに心苦しいので内心で謝り、穴埋めも考えておこう。

 さしあたっては、敗戦を引きずらないよう担任を無駄に煽って空気を変えておく。無駄にふざけた担任の精神以外、何も問題がない素晴らしい誘導策である(自画自賛)。

 それともし必要ができるか、クラスの誰かが何らかのピンチになったら、最大限の協力を約束する。ついでに、僕が率先して貧乏クジを引きに行くから許して。

 





 今回から何話かは、体育祭以降~2月中旬(1年生編6~8巻)を予定してます(今話の時系列は6巻)。要は『ようキャ』から『よういふっ!』に繋げるための間の話、その1。
 この『よういふっ!』の最終話を書き終えてから、『ようキャ』の続編・繋ぎ部分を書き始めるアレなスタイル。付いてこれる奴だけ付いてこい! を考えなしに実行したからもうあまり読まれてないかもだけど、それでも始めちゃった以上はせめて1年生編を走りきる所存です。

 それにしても改めて考えたら、原作で付き合ってる奴ら(綾小路以外)とかって本当に何処でどうやって致してんだろ、という疑問が尽きない。個人差はあるにしろ、ヤってる部屋の隣近所はマジで声や音が男女問わず大変なんじゃなかろうか。後片付けやゴミ出しの問題もあるし、計算高い奴にほぼお相手がいないのはもしかして……みたいな邪推を書いてる時にしそうになった。
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