注意。
今話で、原作を知ってる人にはちょっとありえないかもしれない勘違いが起きますが、夢月にとってそれほどの衝撃だったということでお願いします。
高円寺との一戦をなんとか乗り切ると、その頃には女子2組も決着していた。
おそらく王さんからあっさり奪取したのだろう姫野はまぁいい。予想に違わぬ結果である。
だが。
「わたし、ふぅー……ま、負けない…はぅー、から!」
「にゃ、にゃはは…は。参ったなぁ、はぁはぁ、ハァー……。思ってた数倍手強かった…よ、佐倉さん」
何故か安パイと思われた一之瀬と愛里はぜぇはぁと両者共に息を乱し話していた。
そして力強い目をした愛里が、一之瀬の鉢巻きを掲げながら宣言?して、一之瀬は余裕なく結果を受け入れてる感じだ。それだけでなく、いつもバッチリ決めている髪も二人ともボサボサで激戦を思わせ、付けていた鉢巻きもお互いの手に握られている。紅白入れ替わってだ。
え? まさか相打ち? 愛里が一之瀬相手に?
疑問符飛び交う僕の脳内が導き出した答えはそれだったが、どうにも納得も行かず信じがたい。駒同士の勝敗としては関係しないが、2勝1分けに持ち込んだ功労者が愛里になるのは考えてもみなかった。
なによりも僕は、寝床以外では普段あまり激しく動かない愛里が繰り広げる爆乳対戦を逃してしまったと思いたくない。きっと録画映像とかもないし、あっても見せてはもらえないだろう。
更に、本人に頼んで夜に再現プレイとかもしてくれそうにない。十中八九、僕が元気になりすぎてしまうからだ。止まらなくなったら大変なのはすでに何度か実証済みである。
ただでさえクラス対抗の観点から、試験期間は半強制で禁欲を強いられて大変なのだ。だから解放される際に最低限の自重をするのはお互いのため当然なのだが、やりたいものはやりたい。
それなのに……くぅ、なんということだ。僕としたことが、千載一遇の好機を逃してしまったというのか……! 愛里のキャットファイトなんて、もう見られないかもしれないのに。
一之瀬と何か会話してる愛里を余所に、僕は届かない星へと手を伸ばすように慟哭する。
「何故……何故、僕が見ていない時に本気になったんだ愛里……! スッゲー見てみたくてしょうがなかったというのに!」
「いや、そこじゃないでしょ左京君」
あまりのショックに、どこかの内心の声でも漏れてたのか姫野に話しかけられた。
「なんだと? これら以外になにか重要な事でもあると? あっ、もしかして姫野が録画していた?」
「あ、あんたのために試験を録画なんてしないんだからねっ」
「ひ、姫野。お前、それはいにしえのツンデレ台詞……! 最初に「べ、別に」を付ければ完璧だった」
まさか現実で、この耳に聞くとは。
ツインテールといい、確かに姫野はツンデレに脳内変換するのが非常に容易い。これほどの逸材を見逃していたとは僕もまだまだだな。好奇心が刺激される(高円寺風に)。
「……ウッザ、だる。でも言わないのも……はぁ、一之瀬さんが引き分けたことについてなにかないの?」
「ん、愛里頑張ったなって」
「色ボケしてんの、あんた」
「なわけない。僕だってほぼ負け確の高円寺相手になんとかなったし、愛里が一之瀬と引き分けるならそりゃあもう頑張ったんだろうな、ってことだ」
「一応わかってるのに、言葉足りなさすぎでしょ……」
愛里が挑戦、それとあえてこう称するが勝利。これ自体はおかしくない。
早苗や櫛田、椎名に長谷部さんもか。このあたりに挑みたくなるのは、長い間ぼっちだった者あるあるだ。僕によく挑んでくる奴らを思えば、チャレンジ精神や好奇心が何かしらで刺激され、数少ない身内枠に向けて起こる特殊な心理変化の一種と思われる。
少し意外なのは、愛里にとって一之瀬がこの枠?に入るほど自分をぶつけたい相手だったこと。まさか櫛田よろしく、譲れないモノのために戦うムーブではないだろう。
なんにしろ、男の趣味に女をなるべく絡ませないのと同様、女の世界に男は首を突っ込まない方がいい。ロクなことにならないからな。彼女のこととはいえ、ここらへんはスルー安定だ。
『Aクラスのキング防衛戦は成功しました。選手の6人は速やかに控え室にお戻りください』
まぁ、それはそうと、話の途中でアナウンスに急かされてしまった。結果はいいけど、またあのVIP席に戻るのが面倒でしかたない。愛里の戦う映像が見られないか聞くこともできないし。
……なんで指し手が清隆じゃないんだ(熱い手のひら返し)。いっそ野郎4人なら、開き直って録画の有無や頼みもできたかもしれないのによぉ。
進まない足を無理矢理動かして、対局?ルームへ戻ると聞き覚えのありすぎる声が室内に響いていた。
『あ~はっはっは!!! はっきり言って楽勝すぎました! 次はもっと退治し甲斐のある強敵(とも)を持って来なさい! でなければ、我が守矢神社を崇め奉るのです!!』
脱力した。みんなジャージの中、一人だけ制服で頑張ったのに、高らかな笑い声に脱力した。
………………アイツは……早苗はなんで……こんな、テンションが振りきれてるんだ。四方か誰かが何らかの材料で着火したの?
てか、確かに高円寺とのルーク戦前にあらかじめ次の一手…早苗単独のビショップを前方へ動かすようにはしてたけど、堀北さんはなんでよりによってアイツに当てたの? そして速攻で返り討ちにあったと。……馬鹿なの? 負けたいの?
文系科目の勝負(自由選択込みでも10分の3)が当たらないと、まず勝ちが見えない明らかな危険人物だろ。
向こうからは当てないだろうど真ん中に早苗を配置しとけば、もの凄く邪魔になると考えた時間稼ぎ目的だったのに、まさか即座にぶつけてくるとは……。
「ぁ……あんの無礼者その2ぃ……! 兄さんの話題によく出てくるからと調子に乗り腐って……!」
あと早苗が悪い方向に調子に乗ってるのは違う原因だと思うよ、堀北さん。愛里か高円寺に刺激されたんだろ、きっと。邪神スタイルになる時の早苗って、大抵誰かしらの友達が関係してるし。
「ところで『その2』とは? その1は清隆か櫛田か、堀北さん……?」
「……っ。貴方に決まっているでしょう。何を言っているの」
僕のMPに5のダメージ。疑問系になってたらダメージ倍だった。
しかし、ずっと前から変わらないが、この人はこの人でなんでこう、常に喧嘩腰なんだ。そんなだから、生徒会入りしようと、指し手になろうと、周りに人が集まろうと、孤独で可哀想な娘ムーブのままなんだよ。それもあって櫛田が嫌い続けてるし、諦めないんじゃね?
清隆は勿論、学も体育祭以降から妹と話すようになってたんだし、こういう部分を指摘してやれよ。例えば、孤高と孤独は違うんだよ、とか。
「そもそもAクラスや退学がかかる勝負となれば、貴方だって他を警戒したりするはずよ。なのにそんな素振りもない。それが不気味なのよ。私含めたほぼ学校中からも貴方はそういう認識でしょう」
「あー? そんな些細な事で僕が警戒するかよ。自分が楽しくて友達も楽しければオールOKだぞ? ついでに他も盛り上がる事を考えたら、警戒なんかするだけ無駄だろ」
ディスり部分をスルーして普通に返すと、堀北さんは目を丸くした。
「なるほど……逆に言うと、お膳立てをするだけして、食い付いてくればそれでよし、ね。なんとなくしか理解できないし、一之瀬さんとは違うけれど、妙に説得力を感じる考え方だわ」
いや、だからね? その謎に上から目線が堀北さんを孤独にしてるんだよと。まったく話が通じてねぇ。自覚なしなのは明白だから、言ってもわからないだろうし。
清隆って、この堀北さんをどう鍛え上げたんだ? それともブラフやあの場のノリ? まさかチェスや戦術を軽く手解きしただけ、ってことはないよな?
「僕はメッキで誤魔化した紛い物だけどな。本物は一之瀬みたいな奴だ」
「……意外。生徒会で一之瀬さんと話した時に聞いた話も、さっきもあんな扱いだったのに、貴方は一之瀬さんをリーダーだと認めているのね」
「そりゃ認めるよ。学級委員会で1年間見てきた。まだだいぶ未完成だけど、統率者としての資質は十二分に感じてたさ」
「統率者の資質……」
だから、ちょっとだけ話してみた。ブレインストーミングの発展系とも言えるそれを。
「ああ、知ってるか? アイツ、なになにをやれとか滅多に『指示』しないんだぜ。んで、代わりにこれこれはどうかな? とかの『提案』を自然にしてくる。一之瀬にそう言われると、魅力か説得力でもあるのか必ず賛同者が多く出る。そうすると何をするにしろ、実行してみよう、って感じになる。
これが自然とそういう雰囲気と流れになるんだから、もう間違いないよ」
正直、堀北さんとはタイプが違うリーダー像だから参考になるとも思えないけど、彼女の身近にいるリーダータイプの奴はこの一之瀬に近くもある。気づいてもさりげない保険程度にしかならないし、軽い思考誘導外しなら学や清隆も怒らないだろう。
「学や南雲なんかの何らかの力で仲間や部下を引っ張っていくリーダーシップを持つ奴らとは違う。本物のカリスマ持ちだ。今はまだ周囲の奴ら共々進化待ちだけど、順当に長じればきっと本当に前人未踏な何かをやらかすかもな」
「……」
たったこれだけの期間で一之瀬が得た絶対的な信頼。
このまま善性に全振りした教祖的なリーダーになるか、はたまたどっかで闇堕ちして櫛田や担任みたいな悪女風喪女に留まるか、善悪をふっ飛ばした清濁併せ呑む覚醒を遂げるか。それはこれから先の一之瀬にしかわからない。
だが、現時点で『まともな』リーダーの資質だけを見れば、高円寺と双璧を成すほどの可能性を感じる。尤も、そこまで到達する頃には高校は卒業してみんなそれぞれの進路に行ってるだろうけども。
それより堀北さんに真意が伝わってるかなぁ。伝わってなさそうだよなぁ。
偉そうだし、説教染みてるからあんまりこんな事を言いたくないんだけど、カリスマ型の統率者は一之瀬の他に『櫛田』もいるって理解してないと、そう遠くない未来であっさり『堀北さんが』退学にされる可能性が本当に見えてきてる。
あんまり好きな人格じゃないし、苦手でもあるけど、堀北さんが矢面に立てるDクラスの現状はなかなか恵まれている。櫛田が堀北さんの排除ではなく、利用する方向に持っていくには、完全服従か……あるいは……って事で試してみたけど、流石に僕だとこれ以上は難しい。
一之瀬をもう一度、ダシにしてみるか。すまん、一之瀬。
「見てろ? 軽くだが証明してやる」
本人に許可貰ってないけどな。
喉の調子を確認して、特技を行使しての士気向上を狙う。せっかく早苗の勢いもあるんだ。状況を利用しない手はない。
僕はアナウンスをするためマイクのスイッチを入れて、『一之瀬の声色』で空約束をぶち上げた。
『ん゛んっ……! にゃははは。みんなっ、早苗に続いて行くよ~! この試験で最も活躍した人は男女問わず、学校の超絶美少女アイドルである私・一之瀬帆波と1日デートする権利をあげちゃおう! 奮い立てっ! 私のクラスの精鋭達よ! この勢いでお相手さんに年貢の収め時だって教えてあげようねっ☆』
にゃあああああっ!! って本人が叫んでいるのが見えるようである。……いつもなら。
これで士気爆上げに加え、さっきの謎行動の意趣返しもできた。口調もわざと少し変えた上、本人がいるところに流したんだからすぐに訂正されるだろうが、クラスメイト達に夢を届けることもできた。
いやぁ、僕ってなんて良い奴なんだろうか。
「……勝手に一之瀬さんのデートを約束するなんてして許可は貰っているの?」
「ふぅ……。わかってないな、堀北さん。本人が約束した『かもしれない』って可能性が人々に夢を与えるんだよ。そして最大限に夢を広げられるのが、一之瀬帆波という生徒のカリスマ性の証明になる。くはははっ、きっと大混乱だろうなー。現場で見てみたかったものだ」
「…………吐き気を催す邪悪ね。夢という言葉をここまで悪用する人は初めて見たわ……」
「失敬な。悪用か決めるのは堀北さんじゃない───僕だ」
「……………………高円寺君や綾小路君、櫛田さんと話が合うわけね」
やっぱり不審に思われてんじゃん、清隆。しかも堀北さんにまでって、アイツは何故に周囲に対して不審者ムーブを自然にカマしているのだろう?
凡人どころか天才の中でも頂点にいる不審者っぷり。
お前がナンバーワンだ、清隆。
内心で清隆を称えていると、インカムに通話のベルが鳴った。
通信が入ったのは堀北さんの方だ。まぁ、僕は電話系統が苦手なので着信拒否するかも? と言っておいたのでかけてくる奴は少ないし、実際鳴りっぱなしなのを取ってないわけだが。
「はい? ……え、貴方達が? 何が目的かしら? それとも策でもあるの?」
堀北さんと変な事を話していた最中のタイミング。打開策の提案かもしれないな。ただ、予想外な奴だったのか堀北さんは何故か不信感を色濃く出している。
これは……おそらく清隆じゃないな。堀北さんが能力や実力を低く見てる奴な気がする。
だとすれば、なんだ? 状況を操る黒幕が他にもいる? 僕や堀北さんの予想を上回る奴がまだ潜んでいたか。
本当に油断ができない厄介なクラスだ。誰がこんなクラスの相手を指定したんだよ、馬鹿かよ(忘れていた華麗なるブーメラン)。
この時の僕は、おそらく自分や清隆などを基準にしていたから予想もできなかったのだろう。
だから、僕の見えない水面下で誘導と工作を行った意味も瞬時には理解できなかった。
堀北さんへの通話から、訝しげにDクラス・ナイトの駒を進められた到着点は、アンタッチャブルと直前に証明された東風谷早苗のビショップだった。
その数分後、格技場で数人の男子が最高潮に盛り上がっていた。Dクラスの自由選択競技になったせいもあるかもしれないが……。
『おっしゃー!! これで合法的に! あの! バインバインな美少女とくんずほぐれつっ!!! 退学になる心配もないって堀北が言ってたし、俺の素晴らしい幸運と天才的な冴えた策略を見たかお前らっ!?』
反対に、僕のいる対局ルームでは先生方含めて静寂が満ち溢れている。
「「「「……」」」」
…………えーと、勝負内容は。
「レスリング? さ、早苗相手に?」
「……………………山内君、本堂君、外村君。勝算とはなんだったの。何をやっているの…………本当に何をしてくれたの」
なんとか現状を再確認するため口に出したが、これこそ正気の沙汰とは思えない。堀北さんもブツブツと怨念のような言葉を漏らしている。怖い。
この感じだと、退学云々も微妙に本来の意味とニュアンスが違うだろう。
『だから言ったろ? 触りたい放題のお祭りだぜっ!! 無人島での借りを今こそノシ付けて返してやる!』
あ、うん。それが普通の状況や女子ならまぁ……わからなくもない。男女混合のレスリングなんかロマンとリビドー溢れる男の夢かもしれない。
だが、よりによって早苗1人のビショップに、せっかくDクラスの自由選択競技が当たっておいて、メリットの全てを投げ捨てる真似をする理由がわからない。
『大丈夫だって! あっちの左京とかいう奴も好き放題やってんじゃん! だったら俺らにもうま味がないと不公平だろ!? 見ろよ、あのルックス! アレに好き放題できるんだぜ!? 最高の試験だ!』
え、は? マジでエロ目的、か? でも早苗にセクハラ仕掛けようとするのもだが……。2クラス全員が見てる前でわざわざ大々的に宣言して、早苗どころか女子全員の敵対心や嫌悪感を極限まで煽るとか、エロ目的にしてもおかしい、よな? 龍園と似て非なる存在なのか?
ダークホースにもほどがあるだろ。全く真の意図が読めてこない。
『それにアイツが高円寺に勝てたんだから、3人で当たれば俺らならよゆ~っしょ! 男3人に勝てるわけがない。所詮、女1人だしなっ!』
いや、たしかに早苗は生物的には女子だが……。
「「「「……」」」」
絶句、というのはこういう時になる状態なのだろうか。室内に充満する静寂が痛い。
僕には景気よく戯言を喧伝してる山内とかいう奴が非常に高レベルな馬鹿か、狂人の自○志願者にしか見えない……が、無理矢理でも意図を考えてみると、清隆が今回も容疑者になる? いやいや、流石にこんなわけわからなすぎる事はしないだろ。結果予測もデメリットしか思い浮かばないあたり、想像を超える天才か想像を絶する馬鹿の暴走、と考えるのが妥当か? てことは。
「えっと、もしかして通報した方がいい事案発生…ですか、ね?」
誰とはなしに、つい社会常識に則った問いかけを発してしまった。
「……………………一応『まだ』どうもなっていないから、少し待ってくれるかしら左京君」
滅茶苦茶葛藤してんじゃん。
「……し、試験中の通報など許可で、できるわけないだろう……」
「しかし、真島先生。流石にこれは何らかの対応が必要なのでは……?」
「と、とりあえず無体な事態になりそうなら、すぐ取り押さえられるよう警備を何人か回しておきます」
そうだった。真島先生に言われるまで、試験中だったのが吹き飛んでたわ。
アレだ。非常事態宣言がいきなり発令されて狼狽える人達の気持ちになってた。多分、僕だけじゃなく対局ルームの全員が。
なにより画面の向こうにいる早苗。直前までの上機嫌が嘘のように無表情の無言になってるのが、まさに非常事態宣言下だ。唐突に「さて───テロりますか。鏖殺です」とか言い出さないか気が気ではない。無駄に煽ったりしてきた僕も、あんな早苗は初めて……本当に夏くらいでしか見たことがない。夏か。面倒な事になるかもしれない。
『それにしてもまだ開始しないのかよー。遅っせぇなぁ! なにやってんだよ』
お、おぉ。山内以外の二人はこの異様な雰囲気……というか早苗のヤバさを感じ取ったのかキョロキョロと怯えてるというのに、なんという空気読めなさ。無人島とか言ってたし、早苗を知ってエロに結び付けられる点といい、認識能力に異常をきたしてる奴なのではなかろうか?
清隆すらも凌駕する驚きのKYである。
Dクラスが天才的なスタンドプレーヤー達に加えて、このような秘密兵器まで隠し持っていたとは……。
心なしか機械音すら躊躇いがちに聞こえたブ…ブーという開始の合図。その只中で、無謀かつ勇敢なるドン・キホーテを思わせる山内が軽口を叩きながら真っ先に進み出るのが、風車に突撃する騎士の物語に重なる。
『おっ、ようやくか。待たされたぜ。さあ東風谷ちゃん、俺と楽しい事しようぜ!』
『……』
てか……ひ、ひぇええ。早苗の奴、マジでひとっ言も喋らねぇ。
僕があんな早苗を目の前にしたら、即座に逃亡か無条件降伏を選ぶだろう。間違いない。こんな念入りに煽り尽くすとか僕もやったことないけど、山内にはそれをはね除ける算段や隠してきた能力なんかがあるのだろうか。
まぁ、当然そんなモノはなかったらしく。
ほぼ見た目通りの身体能力だったらしい山内が、早苗と向き合った直後、天高く打ち上げられた瞬間に勝負は決したわけだが……結局なんだったんだ、山内の策略や思惑とやらは……って、そういうこと、か? 前に早苗もやってたサンジムーブで気を惹こうと? もしくは捨て身の謀略をやりやがったのか、アイツ。怖っ。
後者だとすれば、一之瀬のような明確なリーダーがいない向こうのダメージの方が明らかに大きいじゃん。諸刃の剣で全力斬りするような真似をよくできるな山内とやら。
こんな捨て身にしか思えない策略を、清隆や高円寺の他に実行可能な奴がいたとは計算外だ。
てか、それだとこちらにも反計を行う手間が発生する。面倒くさいが何も手を打たないともっと面倒くさくなりそう。工作員か“清隆”みたいな手を高校で使うなよ、まったく傍迷惑な。
とりあえず当たりが付いたので意識を現実に切り替えると、追撃?で幽助のショットガンか瞬獄殺でも食らったかの如く、触れてるようにも見えないのに山内の身体がところどころ“光り”ながら空中を踊り狂う場面だった。それはまるで、物理法則を無視し、吹き飛ぶことすらできず、悲鳴も上げられない特殊な処刑風景のよう。
幻聴にジョ○ョの処刑用BGMまで聞こえてきていたあたり、僕の脳内からしばらくこの光景は消去されないだろう。
「うん、知ってた」
「まぁ、確定された未来よね、結果だけは……」
「一応、レスリングのはずなんですが、今回は注意だけで大目に見ましょうか。女生徒には無理もないと思いますし」
「……というか、東風谷はずっと棒立ちに見えるのだが、何故に打ち上げや連撃?をあのまま繰り出せる……?」
「ふっ、僕もこれまでの彼女との友達付き合いで色々学びました。
東風谷早苗については常識に囚われてはいけません。おそらくアレは触れてはならぬモノです」
「「「……」」」
対局ルームの4人で適当な話をしてると、ようやく気が済んだのか落下してきたボロ雑巾のようになった山内に向かって、早苗が淡々と宣告を放つ場面に移っていた。
『苛立ちすら通り越す女の敵。その不快な振る舞い、愛里ちゃんの害にしかなりません。
───美しく残酷にこの学校から往ね!』
いや、往ねって……。いなくなれとか去れって意味だけど、伝わるんだろうか。テスト勉強で覚えた古語でも使いたかったのか? 早苗の和風?な外見からすると似合ってなくもないが。
『さもなくば今度は半分では済まさない。次におぞましい挙動を見せたら、この私が退治しに行く事、ゆめゆめ忘れませんように。
コソコソ蠢く卑劣な輩共々、ね』
えっと、通訳すると今は半殺しで済ますけど、次に会ったら本気で殺すから消えろ。って解釈であってるだろうか。そもそもあの状態の山内は聞こえてない可能性の方が高そうだが。
まぁ、坂上先生がなんとか止めてくれそうだし、腰を抜かして降参してる本堂と外村とやらも必死に伝えるだろうけども。
え、てか、最後はどういうことだ? 清隆のことを言ってるっぽいけど、清隆がこれに関わってる(と早苗は思ってる)? 不都合な奴をこの試験を利用して早苗に潰させる、みたいな? 流石にない、と断言できないから不審者の頂点なんだよな、清隆。
ついでに長谷部さんに冗談で似たような誘導かけようとはしたけど、まさか何もやってない僕は疑われてないよな。……念のためにご機嫌取りしとこう。ちょうど来ないはずの僕への通話がかかってきてるってことは、現状だと確実に早苗関係も追加だろうし。
あー、ここはリソースを使ってでもケアしておくしかないか。
というわけで、改めて情報を更新して問題がない事を確認。堀北さんが精神を立て直すためか長考する合間に、再び席を外してクラスの控え室へ行くと、予想通り早苗が人を寄せ付けない雰囲気でぬぼーっと突っ立っていた。
……やっぱりか。念のために来といてよかった。まずはコイツだろう。
早苗には独自のルール的なモノがあるのか、自分がやらかしたと思い込んでしまうと謎の落ち込みを見せることがある。
普段なら愛里がこういうのを発散させてくれるのだが、残念ながら別のクラスでいない。四方や姫野も本人次第では放っておくことが多く、一之瀬達も早苗は遠巻きにするのがほとんどだ。まぁ、こんなわけのわからない奴の機微が年齢的にどうにもできないのはしかたない。
結果、勘でなんとなくわかってしまう僕が対応することになるわけだが。
「はぁ……落ち着け早苗。誰もお前を責めたりしねーよ」
「夢月さん……? 何故ここに」
「んなことはどうでもいいだろ。
僕が言うまでもなく誰かに言われてるかもだが、むしろこういう時こそ調子に乗れ。タガの外し方が甘いんだよ、お前は」
「でも、私は……また感情に任せて」
「それの何が悪い?」
「え? だってやりすぎだって先生から怒られ」
コイツは、また意味不明に変な部分が真面目だな。
「ハッ、だから僕含めた友達がいるんだろうが。何度も助けてくれたお前を助け返しもフォローもしないとでも? てか、あんだけやって病院送りにすらしなかった手加減をもっと誇れ。最高に最強な振る舞いだっただろ? 自分でそうは思わないか?
───お前らしく常識なんか蹴っ飛ばしてやれ」
「ぁ……」
だから、要因と思われるモノ全部を笑い飛ばす。
なぜなら、コイツに常識という型を当てはめるなんてとんでもない。それで浮かない顔をさせるのは、僕の美学が許さない。どうかすれば空だって自由に飛べそうな奴が、つまらない理由で小さく縮こまるなんて馬鹿馬鹿しい。
いつか愛里に言った恥ずかしい言葉を付けてでも平常運転に戻してやる。
「そういう場合は僕が早苗の盾になるから、思うままにやれ。自分が信じるように好きにやるのが最も楽しいもんだろ?」
「信じる……楽しい……あぁ、そう、かもしれませんね」
「それでも気になるなら、僕としてた組み手だと思え。総計なら山内が受けた何十倍も僕は食らってんだぞ」
そう言うと、いまだ小さくはあるが早苗は笑みを零して頷いた。
遠慮なく、迷いなく、躊躇いもないいつもの僕の友達が戻ってきた感がある。時折見せる神々しささえ感じる、ひたすら強い風祝の東風谷早苗だ。
「…………ふふっ。ありがとうございます夢月さん。以降そうしますから覚悟してくださいね? これはちょっとしたお礼です───癒しの奇跡」
早苗は沈黙した後、お礼だと言いながら僕の腹に手を当てて何かを呟いた。すると、高円寺に食らった時から実は我慢していた痛みが和らいだ。回復魔法的なモノまで実現可能とは、本当に早苗には常識が通用しないのかもしれない。
なら、やる気を直球で刺激するだけでいい。コイツは高円寺と似て単独で立てる女だ。神様や四方も付いてるし、躓いた時だけフォローしてやればいい。
「ありがと早苗。……見に来てる神様方にも伝えといて」
「……っ。はいっ!」
まぁ、コイツは変に沈んでるより元気な方が落ち着くように調教されてしまった。何気にこうして時々は助けてくれるしな。
少し自分で整理する時間を置く必要はあるかもだが、調子が戻ってきたみたいだし、これ以上の補助はいらないだろう。
しかし……チッ、早苗は持ち直してきた感があるが、いつもとクラスの奴らの雰囲気が違う。捨て身の計略が、男女に小さな溝を作ったのだ。
こうした場合の要点は基本的に5つ。
戦意があれば戦い、足りなければ守り、守れなければ逃げる。逃げて捕まれば降伏と死。無論、そんな物騒な選択は現実にあまりないが、何かを競う時にも応用できたりする。仲間同士を疑わせる……戦意を砕く、などだ。
おちゃらけて見えても、山内の謀略の本質はA・Dのクラス間ではなく、両方のクラスの男女に溝を作る目的な可能性が高い。うちの仲の良さや団結があるとはいえ、万全と断言できるか微妙な以上、僕も手を打つべきである。
更に高円寺と試合してた時の神崎の様子や、おそらくノーマークだった愛里と引き分けた一之瀬の内心も考えるに、こっちにも最低限のフォローは必要だろう。
してやられた時こそ笑え。
ピンチの多くはチャンスでもあると思い出せ。
早苗を完全に持ち直すついでに、僕の想像力と口先で未来の早苗と一之瀬の可能性の一つを合成、実演してやろうじゃないか。
時間ももったいないし、所詮は紛い物で凡人が実行する模倣に過ぎない強引な力押しにはなるが、本物達の踏み台程度はこなせるだろう。
経験値というのはこういう使い方もあると教えてやる。
「おいおい。クラスメイトども。勝勢になにそんな湿気た面してやがる。ここから先を僕に丸投げするつもりか? クックック───やなこった」
まずは口調をわざと崩して道化になりきりつつ、一之瀬のやり方を自分流にトレース。語りかけるように雰囲気を変化させる。
「あらかじめこれだけは言っておく。僕は何かを変えるつもりは元々ないし、勝利も最優先では狙わない。それでも本気で頑張ってる奴の邪魔はしないから、『変わっていく』様は目の当たりにするだろう」
俯いていた一之瀬と神崎が顔を上げる。
そうだよ。何を疲れてるのか悩んでるか知らないけど、これを本来やるお前らへ向けてんだよ。との念を込めて、これ自体にはなんの意味もない演説をブチかましておく。
「そうだ。『争い』じゃない。『競争』ってヤツだ。誰もがレースのように前を向き、上を目指せる理想の環境作りが僕の役割で目的だ。だが、リソースの奪い合いや他を蹴落としたいってんなら、僕はそいつの敵に回る。誰であろうと確実にだ」
一呼吸を入れて、これが本来誰の目指す先かを考えさせ浸透させる。
「この『変化』じゃない『進化』を邪魔したい奴はいつでもかかってこい。ああ、意味わからない奴のために一応補足しとくが、生物学の進化じゃないぞ。精神的な話だ。成長とも言う。これが実感できてからが始まりだからな。自発的に成長しようとする奴から変わっていくだろう。具体的なやり方がわからない奴はー……」
早苗や四方には僕が転生したことを明かしてあるし、なんとなく雰囲気で言いたいことはわかるだろう。後のフォローは四方と一之瀬に任せた。
「うん、一之瀬あたりに相談してくれ。僕はわからん」
何人かコケたのを確認し、演説の転章を無理矢理に齎す。相談しても解決しないなんてザラにある。だから一定程度でも解決すると人の印象に残りやすいのだ。
こういうマメな人気取り手法に、前の人生で培ったそこそこ経済人達と渡り合ってきた交渉や調整の手法。政財界にも稀にいる本物の実力者な人達のノウハウ。説き伏せ、時にはたらしこむも可能とするカリスマを持つ奴らの模倣。
それらをゴチャ混ぜに応用しつつ一之瀬に投げ込み、序盤から山あり谷ありだったうちのクラスの奴らを、引き込み、巻き込んで、僕の言葉で意識をすり替えてやろう。
「きっとなんとかしてくれるさ。だから僕は何も要求なんかしない。今まで通りに、いつも通りに、前を向いて歩いてれば、どこかで変わっていく部分に気づくはず。ゆっくりかもしれないが、だからこそ確実だ。なんか失敗しても焦る必要なんかない。それが理不尽じゃない自然なことなんだからな。
僕の目的で願いはこれだけだ」
長じた一之瀬や早苗をトレースした悪辣な大人の手段だがな。
一度紛い物を見せとけば、勝手に学んでくれるだろう。一之瀬や早苗の先を考えると特に重要なので、これを聞いてしっかり自分を持つように。アイツら、能力や影響力のわりに、めっちゃ気分や雰囲気に乗せられるからマジで頼む。
「ただ今回は僕に任せろ。責任は全て僕が持っていく」
最後の問題対策も当然考えてある。
理論武装ならぬ議論武装の殺し文句。大勢に何かをブチ上げた場合は、聞かれなくても聞きたい事が大抵は明白なのだ。
つまり責任を取れるのか聞きたい相手に対し、では問題が拡大したらお前が責任を取るのかと返す。そこへ僕はその責任を取ると言っている、と続ければいい。
これに反論してこれる奴はまずいない。学生なら尚更だ。
「希望者は僕に乗れ。地獄行きかもしれんから、抜けるんなら今しかないかもよbaby? 良い子は良い子でお利口さんらしく固まってな」
ここで改めてクラスメイトに向き直り、勢いに『だけ』乗せる。本当に多数が乗ってくると僕が退学になった時に大変だから、ならず者ムーブも忘れない。ハードボイルドは僕の心の師匠である。
その暗に問いかけたふざけた提案に。
「乗りかかった船だ。俺は夢月に乗るよ。放っておくとどこ行くかわからんからな、コイツ。それに何が悪いか悩むより、何が正しいかで決める方が建設的ってものだ」
「そうですね。夢月さんがいなくなる可能性は考えたくありません。取り乱しちゃいましたけど、ここからは私も本気で乗りましょうか」
まず四方と早苗が理解を示してくれる。ありがたい。
「勝手なことばっかりする奴だが……ああ、俺も賛成する。付き合おう、左京」
「ここで見捨てるかよ、馬っ鹿じゃねえの。そんなの格好悪すぎんだろ」
「まぁ、左京君ってリーダーとしてはアレすぎだけど、間違ったことはあんまり言わないしね」
「女子にもたまには良いところ見せねぇとな。勢いもあるし、勝てるだろ」
神崎や渡辺、姫野、柴田が。何人か脱落してはいるが、他もだいぶ雰囲気を持ち直してきた。
大半が男子なのには思うところもあるが、こういう時に必要なのはええかっこしいの勢いである。答えのない話で無駄に時間を浪費するなら、多少強引でも言いたいことを言い切ってスキップしてしまうべきだ。
だからクラスメイト達の野次のような減らず口を聞いて、僕は安心してぶちかましておいた。
「おっしゃ、いつもの馬鹿丸出しなお前らで安心した。だが、柴田の言う通りだ。勢いでもって殲滅しよう。なに、Dクラスの主力をどうにかしてあちらさんのキングを討ち取る簡単な試験だ。総合力と練習量で勝ってるうちなら楽勝だろ?」
返事は頷くのみだったが、上手いこと良い表情にできた。
向こうがどう対処するか不気味ではあっても、さっきの男子全体の評判を下げる山内の諸刃の剣的な計略はなんとか吹き飛ばせたはずだ。
懸念対象の1人であった一之瀬も発言こそしなかったものの、自分を取り戻した目になっている。ここまでくれば、もう大丈夫だろう。
ここから反転攻勢だ。
「んじゃ、試験中で悪かったけど、ご清聴ありがとう。
僕はもう戻るが、あと少し僕の駒として働け? 下僕のようにな。ふはははっ!」
一拍の間を置いて、僕のジョークに罵声と笑いとなんとも言えない視線が浴びせかけられた。だが、目的達成を確信した僕は笑って手を振り、普通にいるべき場所に戻った。
四方と早苗、ついでに『神崎』と一之瀬が笑っていたからだ。元々、そこさえクリアしていればなんとかしてくれる、と考えての行動だった。
勿論、対局ルームから直帰予定の僕にもなんら影響なく、もう今日はクラスに合流しないと思っていたからこそできた振る舞いでもある。
でも山内とやらが起こした暴風のせいで、いらぬ仕事が増えた借りは返させてもらう。
ただまぁ、予想外ではあれど、情勢の急変に寄与したことに変わりはない。考え方を変えてその後を見れば、山内が『うちのクラスに』最も貢献したMVPに認定するのも吝かではないほどだ。
対戦相手ながら、一歩間違えば試験中に自分の所属するDクラス崩壊まである恐ろしい手を打つ相手である。
ここまで潜伏しておいて当たり前に嫌われる手を打つ奴なら、退学を押し付けられる枠に入らない保険も用意してあるだろうし、その山内を落とした以上は堀北さんの参謀に就かれると厄介。
高円寺の動きまで利用?して躊躇いなく盤外から心を攻めてくる奴がいるなら、僅かな油断も許されない。坂柳さんや龍園と同等レベルの警戒をするべき相手だ。
クラスの勝ち負けはともかく、後にまで爪痕を残すような策を使う奴には僕も本気で封じにかかる。
なら、ここで手堅く小さく纏めるよりは、いっそタガを外して全ブッパした方がいいだろう。
取るべき選択肢は五分の状況に持ち込んでの全面攻勢である。
ゆえに対局ルームに三度戻ると同時、現在の盤面を俯瞰し、把握しつつ、勘で比較的弱い部分を見つける。使わないのになんか鳴ってる僕のインカムは放って、景気の良いアナウンスを流して堀北さんにも煽りの一手。
『僕からAクラス各員に伝達。
言ったことから察してるかもだが、これより総力戦に移行する。各員、いつでも行けるよう準備してくれ。総合力の高さを多面作戦で十全に活かす采配で追い込んでいく。
遠慮も加減もするな。全て喰らい尽くせ』
「……っ」
息を呑む堀北さんへ不敵に見える笑みを向け、更に追加で圧力をかけ、精神を引っ掻き回す。潜んでいた策士が目を覚ますまでにできるだけ戦力を削り取ってやる。もう最後以外は何もさせるものか。
高円寺は動かない。堀北さんの背後に清隆の匂いは感じようと本人じゃないし、山内はまだ寝ているはず。清隆の性格なら、現状では相互連絡も簡単ではない。
いかに堀北さんが優秀でも、参謀不在で社会人経験を持つ僕が手を抜かないなら負ける気はしない。言ってはなんだが、PLやPM(プロジェクトリーダー・マネージャー)を務めた身からすると、彼女自体は打ち筋も思考もかなり粗が見える。
加えて、クラスメイトの長短や性格は把握してるっぽいけど、真っ当に運用する程度までしか到達していない。つまり堀北さんはリーダーや指揮者としては、オマケしてせいぜい中堅レベルといったところか。
通常のチェスであれば、それで問題はない。だが、この『チェス』試験において最重要といえるのは、予想外が発生した時のリカバリーだ。堀北さんはお世辞にもこれが上手いとは言えない。
Dクラス内の雰囲気も、堀北さんの表情を観察する限りではおそらくそんなに良くない。諸刃が裏目ったのだ。こういう策こそ櫛田の根回しが光るから心配していたが、どうも手を借りたり対策があった風ではない。動くとしても櫛田独自か清隆の介入ありだろう。
高円寺にしろ、山内にしろ、二の手三の手を備えるなどしておけば、僕の反撃を抑えることも可能だったはずなのに何故か対応が遅いからだ。
だから席に戻ってからは、堀北さんが駒を動かした瞬間に合わせて別の勝負を展開させ、急かすようにして頭を休ませない。清隆などに助言させる余裕を削り、付け焼き刃のメッキを容赦なく剥がす。
運が絡む以上はこちらにも損害は出ているが、運悪く不得意な分野が当たってしまった白波のナイト、それにポーン1騎で済んだ。柴田・網倉・二宮のナイトも、池、篠原、市橋のナイト同士の的当て競技で苦戦はしたものの、勝ったのでオールOKだ。地力が相対的に高めなので、士気さえあれば多少の無茶は通せる。
山内のルークが撃破されてからは、士気などのリカバリーの有無もあって形勢は逆転し、続いてビショップ、ポーン2騎、ナイトの勝負をほぼ同時にぶつけて落とせた。
白波のナイトを落とした小野寺、前園、西村のビショップを落としたのも大きい。もし動揺がない彼女ら3人に、特に小野寺さんに得意分野のパフォーマンスを発揮させていたら、安藤や南方のいないこちらは少し不味かったと思わせるほどの運動能力だった。
また前に出て来ず落とせなかったクイーンや綾小路グループのナイト、軽井沢・佐藤・松下のビショップに、ほとんど何もさせなかったのは消耗を抑える点でも悪くない。
個人的には、櫛田・平田・須藤のいるクイーンを動かされるか、綾小路グループの残り4人がいるナイトを倒すのはヤバいと思ってたので上々の成果だ。狙ってなかったのは友達だからとか情とかでなく、清隆か櫛田に本格的な参謀として専念されると、ここからでも巻き返しされる可能性があったためである。
結局、この勢いはナイトの三宅の奮闘、弓道の勝負でポーンを落とされたことによって、落ち着きを取り戻させてしまったわけだが。攻勢を短時間にされたとはいえ、戦力比は五分に戻せた。
まぁそれなりに望ましい結果に導くついでに戦果も獲得できたのではなかろうか。
チェス駒配置の作者用メモ。
※名前見ても誰かわからない人が結構いるので、描写外の通常対戦は封印してたダイス使用あり。
一之瀬クラス。
指し手。左京夢月。
キング。(キング戦により変動)
クイーン1。(一之瀬、四方、姫野)
ビショップ2。(神崎、安藤、渡辺、源)、(東風谷)
ナイト2。(柴田、網倉、二宮)、(時任、白波、小橋)
ルーク2。(初川、大貫、山形)、(南方、浜口、津辺)
ポーン8。(合計で残りの19名)
堀北クラス。
指し手。堀北鈴音。
キング。(キング戦により変動)
クイーン1。(櫛田、平田、須藤)
ビショップ2。(小野寺、前園、西村)、(軽井沢、佐藤、松下)
ナイト2。(綾小路、三宅、長谷部、幸村)、(池、篠原、市橋)
ルーク2。(高円寺、佐倉、王(みーちゃん))、(山内、本堂、外村)
ポーン8。(合計で残りの17名)
今話までのリザルト。
一之瀬クラス。脱落は駒が8騎の計24名で、残りの総人数は15名。
ポーン5(前話と合わせて14名)
ナイト(時任、白波、小橋)
ビショップ(神崎、安藤、渡辺、源)
ルーク(南方、浜口、津辺)
堀北クラス。脱落は駒が9騎の計24名で、残りの総人数は15名。
ポーン5(前話と合わせて12名)
ビショップ(小野寺、前園、西村)
ナイト(池、篠原、市橋)
ルーク2(高円寺、佐倉、王(みーちゃん))、(山内、本堂、外村)
ポーンの割り当て人数が不自然なのは仕様です。私が貧乏性なので、ネームドじゃない奴も含めてクラス全員を漏れなく使いたいって理由の人数調整ですね。なるべくネタバレには気をつけてますが、これでラストが透けてたらすいません。