【完結】よういふっ!   作:麿は星

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 時系列でいうと原作の11巻と11・5巻を元にした独自エピローグ風。
 本文・後書きともに長めですが、一番長い話よりはほんの少し短めです(苦しい言い訳)。
 でも最初からエイプリルフールに間に合うように書き始めたので、片方だけでも間に合ってよかったー。本文、ほぼエイプリルフール関係ないけども。



エピローグ
理の外側


 

 僕は他の生徒と比べ物にならないくらい汚れていた赤と青のペイントをシャワーで流して、対局ルーム?多目的室?へと戻ってきた。一応の締めが残っていたからだ。

 

『―――お疲れさまでしたAクラスとDクラスの皆さん』

 

 着席すると、結末を静かに見守っていた坂上先生がアナウンスを流していた。

 

『キング防衛戦はAクラスの勝利です。よって今回の最終特別試験は合計9人を残したAクラスの勝利となります。Dクラスも大健闘でした』

 

 残した人数で獲得CPに差ができるわけではないが、試験が終わった実感を呼び起こすにはちょうどいい。ようやくこの居心地の悪い空間から脱出できる。

 

「なんというか……予想外ばかりの結果だったが、両クラスともよく頑張った。勿論、左京と堀北もな。あまり気を落とすな。今回の結末ばかりは予想できる生徒もおそらく、いないだろう……」

 

 なんとも言えない顔をしている真嶋先生が主に堀北さんを慰めている。落ち込んでるっぽい当の堀北さんは気づいてなさそうだが。

 

「はい……しかし」

 

 ま、無理もない。僕達のクラスはともかく、Dクラスはこれから退学者の押し付けが始まるのだ。気分が良い奴がいるわけがない。

 試験前に話し合っていた方法を使うのだとしたら、退学者にふさわしいマイナスを齎した生徒が選ばれるだろう。何気に僕にすら予想できる奴が1人いたし、Dクラス担任である茶柱先生に匿名のメール投票で決定する関係上、退学者が判明・確定するのは明日だ。

 これはどちらのリーダーがすることになっても心の負担を少しでも減らすために、最低限のセーフティーになればと根回ししておいた。退学になる瞬間さえ誤魔化せば、おそらく格段に精神ダメージは減少する。

 

 ちなみにそいつが退学者になるなら、救済に足りないぶんをうちのクラスからポイントを借りる、という手は使えない。というか、Dクラスの誰かが一之瀬に打診してきたとしても、早苗や神崎が使わせないと思う。

 あえてそいつを残すというのもない選択ではないものの、対価が重すぎる。ほぼ確実に返済能力がない奴に大金を貸す選択はありえないはずだ。仕組んだ奴もそこは計算ずくだろう。

 

「……堀北。提出は今日の夕方18時までだ。遅れると問答無用でお前が退学することになるので気をつけるように」

 

 退学者の選出期限、ということか。

 真嶋先生は心に傷を負ったように、無表情に淡々とした態度を装って堀北さんへ告げる。見ると坂上先生も目を伏せていた。思ったより情に厚かったようだ。

 何気にこの試験、対決するクラスの担任が担当しないのは、こうして教師陣への心に負担をかけないためかもしれない。

 それだけに―――。

 

「この通達をもって試験終了しました。『左京君』は速やかに退室してください」

 

 試験中、僕の『ふざけていた』態度は、特に真嶋先生の反感を買ったようだ。その強張った顔に笑顔は最後までなかった。

 

「坂上先生、教室に戻って解散でしょうか?」

「いえ、途中の怪我に問題がなければ、左京君はこのまま帰宅しても大丈夫ですよ。お疲れさまでした」

 

 ただ素朴な質問に気遣いの言葉を返してくれた坂上先生は、当初からそれほど変化がない。

 

「本日はありがとうございました。では失礼します」

 

 だから、クラスで集まらなくていいと聞いたのもあって、僕は立ち上がりながら荷物を持ち、礼をして部屋を出た。

 

「堀北さん。学によろしく」

「―――っ!」

 

 ちょっとした土産を残して。

 

 

 

 そのまま帰ろうと思ったのだが、ふと自分が手ぶらな事に気づいてシャワールームへと足を向けた。試験で汚れた体操着を思い出したのだ。いくら簡単に落ちる塗料とはいえ、早めに洗濯しておくに越したことはないだろう。

 

「ん……夢月か」

 

 シャワールームの篭から置き忘れていた自分の洗濯物を取り出し袋に詰めていると、清隆が訪れた。

 

「よっ、清隆もなんか忘れ物か?」

「いや、違う。オレはちょっと『呼ばれた』ついでに、夢月がここに入って行くのが見えたから話かけただけだ」

「ふ~ん。物好きだな」

「物好き……。さっきの事があってこれか」

 

 試験は終わったのだから、もう平常運転になって問題ないだろう。

 コイツがここにいるということは、全て計画通りになったのだから。

 

「……退学者が誰になった…なるのか気にならないのか?」

「あー? あんなあからさまで気づかない奴なんかいるわけない。僕が見たのは試験中のアレだけだけど、清隆のことだ。他も仕込んでただろ」

「夢月の打ち方が急に変わった時に気づいたのか……?」

「あのなぁ、思い返せばだけどさ。堀北さんの態度が最初から変だったし、僕か愛里じゃなければ多分天文部員は最初に気づくと思うぞ。早苗とか、ホント朝に会った時すでにその気だったからな」

 

 尤も、早苗は反則気味な可能性もあるが。

 数日前にも試験中にも似たような会話をしたけど、こんな当たり前の話をわざわざするまでもないと思ってるが……まぁ、清隆的には答え合わせでもしたいのかもしれない。

 なら、何度目かの釘刺しをしとくか。

 

「───清隆が『何人か』の退学を狙ってた、なんて」

 

 IQについて調べると、面接などでする自己PRでは、IQの低い高学歴者ほど誇大PRする傾向にあり、逆にIQが高くなるほど自己評価が低くなって控えるようになるらしい。だから、要領の悪い人を面接で落とすのには良いが、優秀な部下にはなっても将来的に管理職や幹部にすると無能になる者ばかりを採用するので、求めすぎない方がいい。いわゆるダニング・クルーガー効果というヤツだ。

 

「ふぅー。時に夢月は底の抜けた考えなしなのか、悪辣な策士なのかわからなくなるな」

 

 清隆は息を吐き、罵倒なのか嫌味なのか…あるいは褒めてるのかわからない風に溢した。

 反応からしても、おそらく清隆はこれを応用したモノで山内を嵌めたのだろう。だから退学するのは予定通りなら山内、ということになっているはずだ。

 ま、ぶっちゃけしかたなくはある。能力や特技があればなんとかなるってのは外野の意見だ。多少役割がこなせても、面倒だったり摩擦を生む存在は排除しておくのが円滑なグループ運営のコツ。替えが効くならなおさらだ。

 加えて、ほぼ確実に退学者予定だっただろう山内以外も……。

 

「試験中も言ったし、僕と関係ある奴じゃないなら清隆の好きにすればいいけど、本気で敵を作るからな、それ」

 

 ともあれ、何らかの手を他の誰かにも打っていたと今の僕は予想している。清隆は必要以上に安全マージンを取る男だ。

 勿論、この学校のように退学をかけた争いまであるなら、清隆の安全マージンを大きく取る方針もなくはない。信用も信頼もできなく、乗せられたとはいえ場の空気までギスギスさせる、と清隆が見てるなら切り捨てもやむ無し。

 清隆本人や高円寺、早苗なんかもある意味そうなのだが、彼らは高い個人能力と需要の多いスキル・性質のために、大抵は自分でなんとかできて、周りもフォロー入れやすいので別問題である。

 逆に、そういう許されるモノなしにあの試験での振る舞いは考えなしにもほどがあり、若さゆえとかフォローとかそういう次元の話ではない。

 

 山内は、おそらく学習意欲やら素行に問題を抱えているのだろう。先のビジョンも見えず、覚悟も決められず、ダラダラ過ごす普通の高校生だ。

 しかし他所ならともかく、この学校でそれは許されない。僕や愛里に作っておいたような何らかのプラスαがないと、問題児はいつか見限られる。せめてどこかで心を入れ替えれば違う結果が訪れたかもしれないが、子供に特有の意固地で負の信頼を重ねて、ついには本気の総スカンを食らってどうにもならなくなった奴ってわけだ。最低限の協調性にさえ疑問を持たれても当然の事である。

 つまり坂柳さん云々の匂わせも加味すると、手遅れってことで……山内にとって憐れなことに、清隆が仕込む対象としてさぞ容易い人選だったことだろう。どうでもいい部分も含めて。

 

「試験の時も言ってたな。

 ちなみに、もし何らかの理由があって、オレが友達の誰かを狙っていたら……」

 

 もしも、どうでもよくない奴だったら?

 決まってんじゃん。

 

「は? ヤるよ? その場合だけは、相手が清隆だろうと、どんな手を使ってでも完膚なきまでに葬る。そして、なんとかして阻止するよ」

「できるのか……。夢月にそれが」

「さあな。でも、僕は確実にそうする。迷う余地もないし」

「……ふっ、くくく。そうだろうな、お前なら───」

 

 清隆には笑われてしまったがしかたない。僕は根っからの凡人なのだ。むしろこんな普通の能力しか持たないのに、なんとかやれてるって事実を誉められてもいいと思う。すごくね?

 

「オレが目的達成を目前とした瞬間、いつもその時に夢月は現れる」

 

 魔王かな?

 てか、それじゃあ僕が勇者役することになるだろ馬鹿野郎。素直に早苗や四方、高円寺あたりにやらせろよ。僕になにやらせようとしてんだ。もう笑うしかない。笑おう。

 なので、僕は笑った。

 

「は……はは、ははははっ!」

「なにがおかしい?」

「笑うしかねぇんだよ! 怖すぎんだよ、お前!」

「……交流がなかったとはいえ、その他大勢への夢月の態度も相当だぞ?」

「そうだよな! ははは! それを確信するためだけに、山内や堀北さんを陥れたんだもんな!?」

 

 ざっとは周囲は確認したけど、更衣室内なら大丈夫だろ。清隆はそれを見越して僕に話しかけたと思われる。

 一之瀬がクラスメイトのみならず、他のクラスの奴もできる限り退学させたくない、という意向は僕も理解している。だが、僕は少し違う。友達以外はどうでもいい、とまでは行かなくとも優先順位は低い。それが他のクラスならかなり下の方なので、終わった後はもう笑い飛ばす。

 

「ふはははっ! 強靭! 無敵! 大喝采ってヤツだ!!」

「その意味のわからない能天気さは羨ましい」

「憂鬱とネガティブは全て過去に置いてきた。これからの僕の戦いには付いて来られそうにない」

「夢月、急にブラックな背景を匂わせるな」

「お前が言うな!」

 

 ただ確実にきな臭さは清隆が格段に上だ。それこそ僕との能力差以上に。

 

「ふっ……だが、本当に夢月に手を出す前に実験しておいてよかった。まさかオレがこうなるほど、面白い男だったとは───!」

「なんとでも言え。やっぱり清隆も『あの』悪魔どもと別方向に邪悪じゃないか!」

「お前もな、夢月」

 

 結果的に退学をクラスメイトに押し付けといて実験とか。

 わかってはいたが、なんて冷酷非情な奴なんだ清隆。

 しかし、よく考えなくてもわかる。1年間の期間が経過したこの時期、友達はいようとその他との繋がりが薄い僕達は、どう評価されてようとどう言われようと人間絶縁体の陰キャだ。

 更に人間関係において、残り物に福があるなんてのは幻想でしかない。

 ゆえにお互いの一線を越えない限り、友達は大事にすべきだろう。

 

「ああ、だが……これは珍しく、いや、初めてからもしれない良い気分だ」

「はぁ~、清隆。この際はっきり言っておく。

───こうなった以上、僕はお前と一蓮托生のつもりでいる。勿論、いずれどこかで道が分かれることもあるとわかっているさ。でもそれは決して今すぐじゃないだろ」

「夢月……」

 

 僕の考える友達とはこういうものだ。コイツにははっきり言っておかないと、いつまでも学習してくれないとようやく悟った。おそらく実感がないのだ。なら、友達の『共犯者』というのが僕達の関係性に合っているのだろう。

 その“普通”の言葉をどう受け取ったのか、清隆は長い沈黙を挟んで露骨に話を逸した。

 

「……………………そうかもな。ただ、これからどうするんだ?」

「僕のこれから? 帰って寝るけど」

「なら、夢月に1つ頼みがあるんだがいいか?」

「時間がかからず、僕にできることなら」

 

 そして落ち着くと、僕にある頼み事をしてきた。

 

「で、『お前のテスト』の結果はどうだった?」

「それも見抜いてたか。答えを言ってなくて悪かったな」

 

 僕が試験で綾小路グループ及び櫛田を先に落とし、清隆を最後に残した上で多対1という状況を作る意味は今も不明だが、こちらに有利になる匂わせだったのは間違いない。それをテストという表現で返してみたが、口では謝っても意図を読ませないんだから、経験上もう考えるだけ無駄である。

 

「なぁ夢月───オレと組まないか?」と。

 

 後々に思う。

 多分僕はこの時、疲れで頭がイカれてた。清隆の無茶振りに……『清隆を』駒のように使うアホな遊びに二つ返事とか何事。普段なら即座に逆の提案を返していただろう。

 

 

 

 そんなわけで無意識に脳死で減らず口を出し、または返すのを確認しつつ繰り返す。

 清隆の妙な試し癖も相当だ。手を変え品を変え何度もやられりゃ、いい加減馴れてくるよ。切り替えよう。

 

「しかし大したものだな。それが最高傑作様の実力ってか? 僕もそれなりにデキるつもりだったけど、自信失くすよ」

「初手から嵐のように暴れ回ったイレギュラーがよく言う。オレの場合、多少の根気と運があれば誰だってやれるさ」

「冗談。クラスどころか全学年を見渡してもお前ほど意味不明な奴はいないじゃん。その不審っぷり、なんかコツでもあるなら教えてくれよ」

「だから根気と運だ。とにかく地道に積み上げる。適切な時に適切な量を休む。回復したらまた積み上げる───これをひたすら繰り返すんだ」

「普通の学生の範囲だけならそうかもなんだけどな。清隆はふと垣間見える思考や策略が怖すぎるんだよ」

「おそらくお前だけだがな。軽く差を見抜く癖に、正面からオレに言ってきて、あまつさえひっくり返し続ける奴は……」

 

 そして、なんとなく清隆と話しながら歩いていると、聞き覚えのある声が二種類。

 

「協力してくれて助かりました坂柳さん。お陰でこちらは最初の一手を深く食い込ませることに成功しましたよ」

「貴方に協力などしていません。忙しさから現実の区別がつかなくなりましたか月城理事長代理」

 

 それまで何の話をしてたか知らないが、凄まじい皮肉の擦り合いだ。

 僕は遠回りして帰る決意を固めた。

 

「協力してくれて助かった夢月。お陰でこちらは不要品を楽に処分できたよ」

 

 清隆がいなければ、それも気づかれることなく成功に導けただろう。それにしても、月城さんの発言に寄せるとは大胆不敵なものだ。

 人の不幸は蜜の味という価値観がある。

 シャーデンフロイデ・影の喜びというドイツ語から端を発して英語圏に広まり、日本にも輸入されて現在の形で定着したのだろう。本来の日本にはなかった価値観だが、海外から輸入されたモノの中では比較的確立しているネタだと思われる。

 

 僕としては他人の不幸とかどうでもいいのであまり理解はできないものの、現実や物語で悲劇などによる愉悦や曇りを好む人がそこそこいることからも明らかだ。

 清隆の本質はそれと違う部分にあっても、何故かコイツは僕を巻き込んでくる部分にそれが見える時があった。そんなところに飛び込みたくないというのにだ。

 

「……そう言えば、AクラスとDクラスの決着はついたのでしょうか?」

 

 案の定、清隆が発した無駄な言葉が聞こえてしまい、月城さんと坂柳さんの視線が僕達に向く。

 コイツはホントに……!

 

「ええ、今しがた」

「どちらが……?」

 

 この短い会話からは、もう1つのクラス対決はだいぶ早く終わっていたと察する。

 速戦で分があるのは……失礼は承知の上だが、他の結果とかどうでもいいので僕はさりげなくここから去ろうと───清隆に腕を掴まれた。

 ふざけんなよ、さっさと離せ。いやいや、夢月こそここでいなくなるとか駄目だろ。そんな暗闘を口に出さないまま、清隆と繰り広げてたとかなんとか。

 お陰で逃げる機会を逸した。

 

「Aクラスですよ。最後に『左京君が』綾小路君を倒したのが決定打でしょう」

「……っ」

 

 もうやめましょうよ月城さん! (僕の)命がもったいない!

 ここまでの全てを知ってしまった……そう、僕を。

 たとえ偶然や興味本位ではあっても絶対に見逃してやらない、って感じで。

 真実を闇から闇へと誘うように……。

 ほら、清隆への激重感情のとばっちりが僕にも!

 その証拠に坂柳さんが僕をガン見してるから! こっわぁ。

 

「綾小路君……どこまで本当の事ですか?」

「ああ、だいたい全部」

「どちらのクラスも、様々な工夫を凝らした非常に興味深い戦いでしたよ。学校側としても予想外の連続でこれからの運営の参考になります。来年以降の大きな財産となるでしょうね」

 

 坂柳さんと違って。って副音声が聞こえてくるのはきっと気のせいだろう(知らんぷり)。清隆の発言を遮るところといい、月城さんは坂柳さんに何か含むところがあるのかもしれない。

 ただ実際、清隆もそうだけど坂柳さんはかなり特殊な部類なので、データを一般で活用するケースが難しそう。あちらは相手が反則や裏技も辞さない龍園率いるクラスなのもあって、変な事になっててもおかしくないからな。

 

「もう一方の結果は、Cクラスが『辛勝』しましたよ。2つの結果で、また少しクラス間の差が広がりましたね」

 

 やはり龍園達が勝ったのか。

……なら、奇策だけどうちのCPを必要分だけ譲渡してAクラスを交代して、代わりにあいつらと同盟とかできないかな。正直、Aクラスを維持するより『いつか裏切るだろう味方』の伏せ手を作っておくと、最後まで戦わなくて済むから楽なんだが。

 流石に無理か。一之瀬や神崎を説得できない。本当に最後以外は龍園と味方になれるなら安いモノだけど、所詮は僕の勘にすぎないし。

 はぁ、どこもかしこも好戦的なことで嫌になる。たかが記号でしかないA~Dのクラス競争、別に出血を覚悟してまで勝たなくてもいいじゃん。

 

「坂柳さんのクラスは手痛い敗北でしたね。“不運”の連続がありましたし、無理もありませんが」

 

 あー、そういうことか。月城さんも僕と似たような感想をこの学校に抱いているらしい。勝負を馬鹿にする…とまではいかないが、子供をあやすかのような響きが感じられる。

 それと坂柳さんは、おそらく月城さんに何か失礼な真似したな。僕や清隆もいるこの場でサラッと情報を溢してくるなら、清隆退学などへの協力要請を表向きでさえ乗らずに正面から強く断ったとかだろう。

 いくら頭脳が並外れてようと、社会の仕組みに精通していない子供では自分を優先してしまうのは無理もない。父親である理事長の表の結果もあって、意識や判断力が狂っている可能性もある。また表裏以前の問題として、あからさまでこそなくとも月城さんに敵意を向けている点からも目が雲っていたのかも、と見えた。状況的に高校生には無理もないが。

 

「まさか……愚かな事を」

「していませんよ。あなた達には細工の意味がありませんからね」

 

 とは月城さんも言うものの、僕の感知する限りでは目立たない介入が2度あった。高円寺の時と、最後の勝負だ。

 あれは本来ありえない。百歩譲って僕のキング戦参加の許可は出ても、あれほど即座に出るのはおかしい。早苗の遠距離狙撃もだ。早苗の弾の補充が異様に早く、回転率? なにそれ? みたいな爆撃は用意がなければどこかで攻撃の切れ目ができていたはず。

 そのような何通りもの想定をして、僕達のクラスがほんの少し有利になる準備の気配があった。

 

「過程と結果ですよ───そうですよね、左京君?」

 

 それはありがたくもあったけど、ここで僕にパスするとか……。

 

「はい……まぁ、お世話になりました」

「左京君……貴方が薄汚い提案を受け入れて!?」

「ふぅ……。私の言い付けを守らなかったのは同じですが、過程でも結果でも目を見張る成果を出した左京君とAクラス。そして人を『操る事』に拘泥し、人を『率いた』龍園君に最後の最後で隙を突かれてひっくり返された『Bクラス』。都合を付けたくなるのはどちらか明白じゃないですか。一応ここは『学校』なのですから」

 

 やめて! とんでもない切れ味の皮肉が、坂柳さんを経由して僕も切り裂きそうになってるから!

 

「まったく。最初から坂柳さんが素直に動いていれば、左京君を巻き込むことなく綾小路君が退学になっていたというのに。まぁ、面白い人材との接点ができたという『過程』のみで切り替えますか」

 

 その場合でも月城さんの言葉の裏を読む限り、清隆なら大丈夫だったろうけども。

 てか、月城さん。こんな意趣返しするほど坂柳さんにイラッとくる対応されたのか? 彼女の暴走の条件に清隆が大きく関係してはいても、交渉などでは基本感情的なタイプじゃないと見ていたんだが……。

 

「気づいたなら、なぜ進言しなかったのですか綾小路君」

「横から失礼するが、それは無理というものだよ坂柳さん。しかも」

「はい、左京君の言う通りです。坂柳さんは詳しく知らないでしょうが、彼自身が指し手でもなく、男子であることも手伝って綾小路君は何処へも指摘できない状況にありました」

「自分が退学にならない保険まで用意しといて、そんな些細なことで無駄に目立つような奴じゃないだろ、清隆は」

「ああ、確かにあれは見事でした。あそこまで整えられては、私といえど簡単には手を出せません。流石、ホワイトルームの最高傑作ですね」

「……っ! 理事長代行も挑発がお上手なことで───ですが、この度の代償はきっちりと払ってもらいますよ」

 

 月城さんに言わせるままでは僕にも飛び火しそうだったので交互に口を出して被害を減らそうとしたら、坂柳さんは驚きと怒りを含む笑顔を浮かべた。それに対し、月城さんは嘲りで返す。

 清隆の裏事情まで争点にするとは、どっちもどっちである。

 

「高校生の子供が随分大きく出ますね。天才などと持て囃されて天狗になりましたか?」

 

 月城さんにとってはそうだろうな。こんな誘導をそう返す坂柳さんには、きっと本当に子供扱いしかできないと思われる。僕には無理だが。

 

「代償を払わせるというなら、今すぐ取り立てたらどうです? さあ、早く」

 

 非常に楽しげに坂柳さんの穴を突く月城理事長代理である。

 イイ性格を如実に表すおっさんだった。

 

「お、大人気ない……」

 

 ここまで全く口出しできていない清隆が冷や汗を流しながら、率直な感想を述べる。

 ただまぁ、仕事を増やした上、十中八九各種の面倒事のせいで残業続きになった月城さんの気持ちもわかるので、この件に関しては僕はなんにも言えねぇ。

 何故か再び黙った僕に視線を送る月城さんは、わざわざ坂柳さんと清隆の間を陣取り、一応言っておくか、みたいな雰囲気でこう宣った。

 

「綾小路君、できれば早い内に自主退学を選んでください。『好奇心は猫を殺しますよ』」

 

 そして僕と高円寺の試験中の会話を引き合いに出して、清隆にもわかるように裏を匂わせ去っていった。その後姿を坂柳さんは睨みつけていた。

 また僕も睨まれていたので、お若い2人を邪魔しないよう清隆に掴まれていた腕を外して去ることにする。遅まきながら、清隆の用事とやらが坂柳さん関係だと察したからだ。

 餅は餅屋、天才相手には天才である。

 坂柳さんのガス抜きは、清隆に任せるのが最適解だろう。

 

 

 

 

 

 ところで、高校生という時期における性欲という欲望を侮ってはならない。

 無人島や合宿で充分にわかっていたが、制御が非常に困難な欲求と言えよう。愛里もそうだが僕も禁欲明けはどうしても激しくなる。

 この学校では定期的なクラス対決があるので、少なくとも直近のイベント期間はお互いの部屋に泊まらないようにしてるからでもあるのだろう。

 

 つまり少し未来の話をするなら、春休みを合わせて愛里に…いや、自分自身に3連敗した。

 なんというかペーパーシャッフルや合宿の後もそうだったのだが……うん、正直堪りませんでしたよ! あの愛里がぎこちなくも誘っているのがわかると、僕のタガは外れてしまいますね!

 溜め込んでいたとはいえ、朝になるまでヤってしまう自分に高校生の精力やべぇ、となった。普段ならもう少し抑えられるのだが、2週間以上の禁欲生活はもはや『それ』以外の思考を容易く吹き飛ばす。

 

 しかし、僕はいまだ恋愛と呼ばれている精神状態への理解には届いていないのかもしれない。

 なぜなら、僕と愛里ではお互い同じ『好き』のはずなのに、明らかな差異が認められるからだ。それも性別や精神年齢、経験ではなく、ちょっとした言動から読み取れる。

 例えば、『チェス』試験が終わり、春休みに入ったある日のバイト帰りに一緒になった愛里だ。

 

「夢月君! よかったらこれどうぞ!」

「おお、ありがとう。たまに飲みたく……って冷たい方かよ。まださみぃよ」

 

 まだ寒さの強い日の夕方だったというのに、愛里は何故か冷たい方の缶コーヒーを買ってきたのだ。

 当然文句を言ったのだが、愛里は恥じらいを見せながらも普通に実行に移してきた。

 

「えー? じゃ、じゃあ───わたしと夢月君でくっつけば寒くない?」

 

 そう言って腕を組んでくるのである。

 これが男に対してとんでもない破壊力を持つ言動だと、愛里は気づいているのだろうか?

 外で思わず襲いそうになり、ハグすることでギリギリ衝動を抑えた。そして、不覚にも16歳の少女のたった一言とハグで『まともに立てなくなった』のを誤魔化すため、僕は愛里の顔に視線を固定してぶっきらぼう気味に返した。

 

「……こうしたいがために、わざと冷たいの買ってきただろ」

「あ、やっぱりバレた」

「策士すぎて愛里には似合わん。マンネリになってもいいから、普通にやりたいことをやってくれ」

「くっついてもいいの?」

 

 しかし、あえて身体を見ないように防衛戦を張っても攻め込まれると一瞬で陥落する僕である。

 クッソ、相変わらずいちいち可愛いな、コンチクショウ。って感じに。

 

「むしろ夏のクソ暑い時期以外なら、いつでもくっついてほしいから。僕が」

「……えへへ」

 

 笑みを浮かべて僕にくっついてきた後は当然、上記と同じように愛里を自室に連れ込んで翌朝まで直行ルートとなったわけだが、そもそも愛里が策を使ってまでこうした点に妙な意図がある気がする。

 以前のストーカーの教訓からか付き合いだしてからも、あまり外では目立ったり、イチャつかないようにしてるのに、時々外でも意外なほど積極的なのだ。そう、繰り返すが稀に外でもこうなるのである。

 それこそ僕にマーキングしてるかのようで、我慢するのに苦労する。中腰にさせられたことも一度や二度ではない。

 本気を出した愛里は、まさにアイドル顔負けの魅力を活用して目的達成に突き進む…って、本職のグラビアアイドルだったわ。なんか身近なせいか不思議と定期的にその事実を忘れてしまう。てか、普通に駄弁ってるだけで幸せな気持ちになれるんだから、彼女というのは不思議な存在である。

 

 と、ともかく、これは僕が誰かとコミュニケーションしてるのを、愛里が見ていた後に発生する事が多い。今回も心当たりらしきモノはある。総合して考えるに、おそらく風の噂で聞こえてくる嫉妬という感情由来の言動ではなかろうか。

 こうした愛里側からは存在する付き合いだしてから顕著になった言動があるのだが、何気に愛里から来ないと僕からはお互いの自室か確実に2人きりの場合でしか求める気にならない。どうしても愛里の風評や避妊など様々なリスクが頭に浮かんでしまうのだ。

 でも、愛里はそこについてあまり考えていないようにも見える時があって、それが恋愛という分野における強弱や方向性を決定づけているように思える。

 自惚れは自覚しているが、要は熱中度合いだ。

 

 安全日とかコンドームなどの避妊具を僕が用意しないと持ってない事例(いや、愛里みたいな女子に避妊具を買わせるのはアレだが)すらあって、最近は危機感が生まれている。駄目だと思いながらも流されて、何度かそのままヤッてしまったからだ。特に禁欲明けがヤバい。

 ちなみに、その瞬間も横で寝てる愛里を抱いてる時も最高の気分だったが、それとこれとは別問題である。万が一があってからでは遅い。これは精神だけとはいえ、大人である僕が対処するべき問題だろう。

 

 だが、彼女ができるのを諦めていた女日照りだった僕よりも、愛里に熱中度合いで負けている? いまだに尽きない彼女にして欲しい夢の数々を叶えている最中のこの僕が? 性格は好き嫌いが別れそうでも、あれだけの可愛さを持つ愛里なら容易く次を見つけられるのに?

 そんな不可思議があるか?

 

 そこで僕は閃いた。

 恋愛感情の大小で負けているっぽいならば、物理的な物質も含ませて貢ぎまくればトントンになれるんじゃないか、と。そうすればもっと落ち着いた対応になるのでは、と。

 なので早速、学や高円寺、栄一郎に教えを請い、友達に根回ししてみた。

 卒業式が終了した春休みの空いた数日を使って、この学校の敷地内でできる最大限のエスコートや愛里が喜びそうなプレゼントなどを贈り、恋愛系のポイントを稼ぐために全面攻勢をかけたのだ。愛里のクラスメイトである山内が退学したことで、どこかにあるかもしれない影響を吹き飛ばす意味合い付きでだ。

 

 だからこの時ばかりは徹底的に性欲も封印し、ポイントも惜しまず愛里に貢ぎ尽くし、手を尽くして笑わせまくった。僕の方がより愛里を求めている証明の代わりだった。

 また違うある日にいくつかの恋愛の基準点を作成して指数を割り出し、思いの強さを数値化して愛里の数値を上回ったと確認。そのまま勝ち誇る気分でネタバレしたら、何故かスッゲー怒られた後―――その夜はこれまでになく燃え上がった。

 

 そんなつもりは……実は途中から少しあったが、奮発して敷地内のレストラン付き高級ホテルを予約してなかったら、色々筒抜けになったんじゃと思えるほどだった。怒っていたはずなのに、突然の豹変はわけわからなかったが。

 それほど予想以上の反応を見せた愛里は正直ヤバかった。

 だが、恋愛に関しての勝ち負けが所在不明になった以外は、上々の結果である。

 

 

 

 とまぁ、初心を忘れたものの、とても良い思いのできた僕は3月31日の午前9時。

 その要因の1つとなった助言をくれた学の見送り……の前にちょっとした話をしに、ほぼ引き払われて空っぽな3年生の学生寮に来ていた。宅配か引っ越し、清掃などの業者が通り過ぎたりしているが、生徒がいないせいかどこか閑散としている。

 愛里? 橘さんの時に学とも別れを済ませていたから本日は僕一人である。

 

 ついでに言うと、明日が登校日ということで頑張りすぎてダウンさせてしまい、部屋に送り届けてからきたから彼女はまだ寝てるはず。背負った感触はやっぱり最高で、彼女の部屋の合鍵という存在と合わせるといまだに浮足立ちそうになる。

 ちなみに橘さんはいち早く外に出て新生活の準備すると言っていたので、少し前に寮を出ている。勿論、橘さんもきちんと愛里や早苗など友達連中総出で見送った。天文部創設期においての数々の恩は忘れない。

 早苗に最高品質のお守りも選別で渡してくれるよう頼んでおき、真剣にお礼を告げる一時の別れとなった。

 

「やあ学。おはよ」

「ふっ、お前はいつでも変わらないな」

「む、橘さんの時みたく真剣になった方がいいか?」

「ならなくていい。こちらから呼んだことだしな」

 

 閑散と感じるロビーの椅子に腰掛け、僕と学はいつものように挨拶を交わす。

 

「学が最後になったんだっけ?」

「ああ、もうこの寮に卒業生はいない。明日から続々と新入生は入ってくるだろうがな」

 

 今年の入学式は4月4日の月曜日だ。一応は明日のエイプリルフールから入寮は可能なようで、例年でも気が早い者は入学式前に生活基盤を整える準備期間になるのだという。支払い用のカードが支給される前だけは特例で円も使えたらしい。

 ま、パンフレット通り入学式当日に来た僕や葛城達とかが大半なので、一概に言えないらしいが。

 

「まず聞いておきたいんだが、正午に出発だよな? 妹は呼んであるか?」

「声はかけてあるが……はは、クラスの違う夢月にも気遣われるか。鈴音は本当に最後まで……」

「最後なんて言ってやるなよ。堀北さんにはしばらく苦境が続くはずだから、兄貴のカッコイイ背中だけ見せてやれ」

「経験談か?」

「おう、僕の兄貴はそうしてくれた。きっと堀北さんにも効果があるさ」

「どう、だろうな。体育祭以降、話すことは増えた。そこで見せられるものは見せた。あとは鈴音次第だ」

 

 突き放すような言い方だが、そこには前にはなかった妹への信頼をたしかに感じられた。自意識過剰かもだが、その珍しい学の柔らかな表情には僕にも少しは混じっている何かも……。

 その何かを手繰り寄せる前に、学は話を既定路線に戻した。

 

「そうだ、忘れる前に俺も聞いておこう」

「ん、何でも聞いてくれ。特に隠してたこととかないけど」

 

 元々、学の出発前に話がしたいと呼ばれたのだ。今は何でも答えるつもりだった。

 

「来年度から学校制度が一新される件も絡めて───夢月は南雲に手を貸すつもりか?」

 

 南雲の話題か。旅立ちの日にはあんまりふさわしくないけど表情は真剣だし、心残りがあるならできることはしようか。

 だから僕は真面目に答えた。

 

「え、いや? そんな気はない。だって僕と方向性こそ似てても別方向の改革なんだろ?」

「上はどこまでも上へ、下はどこまでも下へ落ちる仕組みを作るらしい。夢月の提唱した純評価ポイントシステムと命名決闘法案も、おそらく新制度に組み込まれるだろう」

「何か問題が?」

「ないと考えているのか?」

 

 そう聞こえないかもしれないが。

 てか、これ言っちゃってもいいのかな。いいか。どうせ学は今日旅立つんだし、土産というか餞別代わりだ。

 

「う~ん、前から言おうと思って…というか遠回りに何度か言ったんだけどさ。学年・クラス・能力関係なく生徒を敵と見るんじゃない」

「なんだと? 俺もそこまでは」

「───あえて言おう。学、お前も南雲も敵を見誤っている」

「なに? 見誤る……だと?」

「僕のまだ知らない仕組みがあると仮定した上で断言する。そもそも南雲と次の3年生、いや新入生含む全校生徒を合わせてもその改革、真の意味では達成不可能だ」

「不可能……? 南雲を侮っているのだとすれば」

「違う。南雲がどうとかじゃなく、これだけ大きく閉鎖的な学校を相手にするには手札が足りてないって意味。生徒が変えられる一定程度なら実現できると思うが、確実にどこかでストップがかかる」

「……それは理事会の事を言っているのか? 基本的に生徒に手は出してこないが」

「あくまで基本的に、だ。動く必要があったら動く。一度学校の幹部陣と相対した僕が言うが、良くて6割、悪くて4割ってところに最終達成率は落ち着くだろう。全校生徒の協力を得られた上でもだ」

 

 南雲のスペックは非常に高いし、僕のような凡人は侮ることもできないが、高円寺や鬼龍院先輩レベルの『地盤』を持たないただの天才である。大人の世界を自由に泳ぐには必要なモノがいくつか足りていない。

 

「つまり学校のお偉いさんに都合の良い部分だけ改革は通る。敵を見誤ってるってのは、いち個人の実力や影響力を過信してるってこと」

「……っ」

「いかに南雲が天才とはいえ。色々特殊で生徒会の権力も強い学校とはいえ。

 その力の源を考えれば答えは明白だ。言い換えると、力の源から変える改革を1人の天才な生徒が中心になったくらいで、きっかけさえあれば国の介入ありの学校に齎す? どう考えても不可能だ」

「しかし夢月は……お前はやってのけた」

 

 僕も当然足りてなかったが、そこを埋めてくれる仲間と理の外側が運良く加わってくれたからなんとかなったのだ。

 

「僕には運良く2つの財閥と交渉する機会とコネクションがあったからな。でもおそらくそっちはもう対策されてる。体育祭に現役の総理大臣が来てた。僕『達』がやったような政府方面からのアプローチは、まずできないと考えて間違いない」

 

 あるはずの僕への接触が遅くなったのも、この対策が整うまで変に刺激したくなかったと考えるのが妥当だろう。月城さんの存在が暗に示しているように、僕への対処がしばらく何もなかった理由はこれしか思いつかない。青娥さんという理の外側が認知されていないなら、僕を相当危険視していたようだ。

……あれ? 月城さん関連のことも考慮すると、僕って尋常じゃなくヤバい状況にいるのでは? 冷静に振り返ってみると高跳び一択なのでは?

 

「……忘れろビーム。忘れろビーム!」

「おい夢月! いきなりどうした!?」

「あ、ああいや。ちょっと最悪の展開を予想しちゃっただけだ、問題ない」

 

 思い至った推測につい話をぶった切って、自分を記憶喪失にしようと自分の頭に向けて特殊ビームを放ち始めたら、学に身体ごとガックンガックン揺すられた。

 お陰で少し冷静に戻れた。

 

「そ、そうか? とても問題ないようには見えなかったが」

「大丈夫だ。真剣に高跳びの方法や経路を用意しておく必要性に駆られただけでな。愛里や友達連中もいるのに、そんなことは滅多にしないさ」

 

 必要、ないよな? 誰かにないって言って欲しい!

 

「何故そんな必要が……。学生にはまったくもって必要のない用意だろう。夢月の思考は最後…いや、『いつも』謎だらけだな」

「サンキュー学! お前ならそう言ってくれると思ってた! ありがとう!!」

 

 戸惑う学とガシッと握手をし、僕は心からの礼を言った。

 うん。客観的に見ると、僕も同じような反応する自信があるわ。

 これはもうズッ友だろう。

 

「情緒不安定なのか夢月」

「時々な!」

 

 伝わってないのはわかってるが、気休めが欲しい場合というのは往々にしてあるものだ。そして気休めに理解などどうでもいい。必要なのはタイミングとノリだけだ。

 ただ最後というワードを言い換えた学に気づいたので、その後は気兼ねなくこの学校で最後の雑談をして昼前までともに過ごし、元3年生の学生寮の前から学の旅立ちを見送った。

 

「またな夢月」

「学も。またどこかで」

 

 学は新たな進路へ旅立ち───僕は2度寝に向かって───。

 そう、僕達の戦いはこれからだッ!!

 って感じなら、綺麗に締められるかな? 駄目?

 





 学年末試験結果による各クラスポイントの変動。

 試験前。
 A(一之瀬)クラス 1026CP
 B(坂柳)クラス  961CP
 C(龍園)クラス  533CP
 D(堀北)クラス  512CP

 試験後。
 A(一之瀬)クラス 1126CP(勝ち+100CP)
 B(坂柳)クラス  861CP(負け)
 C(龍園)クラス  633CP(勝ち+100CP)
 D(堀北)クラス  412CP(負け)



 ホテルの独自設定について。
 こうした基本外部と閉鎖した環境にある学校で、付き合ってもお互いの自室しか『ヤる』ところがない場所を私は楽園だと認めません。なので声や音を気にせず、色々汚しても後片付けしなくていい高級ホテルと普通のホテルはあって然るべきだという考えで、勝手に追加してました。奮発すれば誰でも楽しめる系のご褒美になる施設って、それこそ風俗とか明らかに高校生にアウトなの以外は必須級だと思ってます。
 原作でもしサラッと存在に触れられてたらすいません。



 改革について。

 今話ラストの学との会話は、11・5巻の堀北鈴音と綾小路の会話より前の時系列になります。
 そして作中新年度の4月1日からプライベートポイント=PPがOAA…つまり個人成績に置き換わり、「円」が学内通貨へ変更になります。クラスポイント=CPは据え置きです。
 こうなると、端末も新たに支給・交換するのがスマートですかね。
 ついでに、改革の大雑把な内容は『ようキャ』の4・5章あたりに書いてあるので気になる人がいたらどうぞ。

 あと『チェス』試験の退学者は読んだ方の大半が予想通りでしょうが、実はOAAの査定試験でもあり、その前段階で貢献度合いによるマイナスのマスクデータ・退学ポイント(仮称)を積み上げた生徒が退学になる、という裏設定があったり。なので展開が違ってたら、もの凄い低確率ですが綾小路や高円寺、愛里など……または夢月も退学者候補になっていたという。
 尤も、夢月は『仲間内なら』自分以外の誰が退学候補になっても阻止に動いたでしょうが。一応、それ用の伏線もあります。ちなみにAクラスの退学者候補が夢月のみなのは裏技と意図に気づいていた上、有言実行で責任を取って被害を広げないためです。
 冒頭からの月城混じりの会話は、ここを踏まえて読むと微妙に意味が変わって見える……かもしれません。

 もし続きを書くようなら、もう少し詳しく変更点や設定を考えてから書こうと思います。
 お読みくださりありがとうございました。
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