【完結】よういふっ!   作:麿は星

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 合宿編終了&今度こそ『よういふっ!』終了。



歴代最高

 

 合宿6日目は、学と南雲に呼ばれて少し話したくらいで特筆すべき部分なく過ぎ去った。しいて言えば、何故か彼らの勝負内容を聞かされたのと、直後に龍園・橋本・清隆の順に遭遇してそれぞれ軽い言葉を交わした程度か。

 なにやら動いたりしてるみたいなのはわかるけど、考えることが多い奴は大変だと改めて思った。

 

 そして合宿の最終日は、『禅』『筆記試験』『駅伝』『スピーチ』の4つの試験が行われる。僕達1年は『禅』、南雲達2年は『駅伝』、学達3年は『スピーチ』から順次やっていくようだ。

 グループ内の不安要素としては、学力関係に戸塚と石崎、体力関係に僕と戸塚と浜口、道徳・マナー関係に石崎と三宅が少しあるかな、って感じだ。とはいえ、空き時間にそれぞれの対策は打ってあったし、龍園が責任者である以上はCクラスの奴らは手を抜かない。

 僕も含めた他のクラスの奴に押し付けすぎなければ、あえて必要以上に手を抜く奴はいないだろう。

 

 最初の『禅』の試験では、いつもと違う面子で呼ばれたので戸惑う奴こそ出たものの、誰かが冷静にさせ滞りなく進行した。

 特に四方と高円寺は見事なもので、僕が点数を付けるとしたら満点の所作。他も落ち着きの無さげな数人が微妙なくらいで、だいたいは基準をクリアしたはずだ。

 

 次の『筆記試験』でも、戸塚には僕と橋本、時々鬼頭が。石崎とアルベルトには栄一郎と四方。三宅には清隆と浜口が付いて一夜漬けしたから最低限の点数は取れるだろう。

 高円寺や龍園? この2人にそんな対策を打つのは無駄でしかない。実際、本番でも全く問題なく解答を書き終えると、さっさと試験が行われている部屋から退室して行った。

 

 少し大変だったのはこの後の『駅伝』で、走行距離はグループ総計で18㎞。1人あたり最低1.2㎞。そして1人だけ長く3.6㎞を走ることになる。2人なら2.4㎞を走破してたすきを繋がなくてはならない。1.2㎞刻みにチェックポイントがあるからである。

 僕達は四方と浜口の提案で、第2とラスト直前の走者へ2.4㎞を頼むこととなった。ちなみに第2走者は四方で、ラスト直前は龍園という構成だ。

 

 前半の平坦な道と、後半のアップダウンが激しい道。この地形にそれぞれの能力を考慮して走者は割り振られている。

 なので、走る順番は高円寺、四方、戸塚、浜口、鬼頭、清隆が前半を。三宅、橋本、アルベルト、栄一郎、石崎、龍園……そして何故か僕がキツめの後半だ。

 

 しかも誰が(もしかしたら複数?)ぶっちぎったのか、圧倒的トップで龍園からアンカーの僕にたすきが渡された。おかげで一緒に待っていた柴田と須藤など運動系エースに追い上げられるという焦燥感を味わうことに。万が一これで負けたら、戦犯どころじゃなくなるからだ。

 自然を気持ちよく堪能しながら走るつもりだったのに、どうしてこんなことに……どうして。

 

 ヒーコラ言いつつも、それまでの差があったので無難に走りきり、青息吐息になりながらもなんとか1位は死守できた。

 だが、走り終えたグループの奴らが次々に車で合流してきた時、龍園から「クックック。お疲れだなぁ左京。なあ、お前自身が手抜きできない状況に陥るのはどんな気持ちだ? なあなあ、どんな気持ち?」とニチャった笑顔でNDK風に煽られたのは決して忘れん……! 疲労していた僕を煽ってきた報いは、いつか必ずや訪れることだろう!

 やってくれたのぅ。やってくれたのぅ、龍園翔!

 

 ふん、だが、一応試験中でスピーチも残ってた状況だから命拾いしたな。グループ仲間の龍園相手なのに、危うく無駄に喧嘩売りたくなるレベルだった。僕がCOOLでナイスな男でなければ、まず即死か返り討ちだった───僕が。

 冷静に彼我の戦力差を考えれば、ヤツに正面から当たるのは愚行だろう。だから───。

 

……あんの煽りカスゥ……! なるべく近いうちに学内最恐(当社比)の狂人である小五ロリを刺客に誘導するよう仕組んでやるから覚悟しとけ。

 

 と、僕もそのために必要かもしれない“清隆や高円寺”とやり合う覚悟を決めた。

 クラス対抗の試験やシステムを意趣返しに利用するには、クラス対決で他と当たる選択肢を潰しておくのが妥当。うちのクラスの勝敗や損害も不透明になるが、これくらいしなくてはこれから先ので“いくつかの試練”を乗り越える際に手が打ちにくくなるし、龍園を別の押し付け先にしておくのも必要な一手に転用可能なはずだ。

 くっくっく。あの激重感情持ちの女子が接触してくる恐怖に怯えるがいい。

 消去法的に天才どもがいるクラスと当たる不確定要素くらい軽く呑み込んでやるわ。

 

 

 

 龍園については無理矢理さて置き、最後の試験は『スピーチ』だ。

 駅伝で疲れていたのを考慮されたのか僕はトリだったので、あまり他が使わなそうな思想強めで微妙に改変した考え方を採用して準備していた。当然、提示された判断基準の声量・姿勢・内容・伝え方はしっかり計算に入れている。

 このあえていくらか点数を落とすだろう内容で、僕は演技調だった高円寺を見習って堂々とスピーチを始めた。

 ちなみに以下が実際に言い放った内容の改変前である。

 

 敗者ゆえに悪にされてしまう。

 勝った者こそが正義。

 歴史とは勝者の歴史。

 敗者には明日すらもない。

 

 以前の経験を思わせる事が多いせいだろうか。

 この学校ではふとした時に、こうしたことを考えさせられる。

 まさにブラックな価値観。現代社会でも通じる弱肉強食の理。

 道徳だのマナーだのとあの手この手で誤魔化そうとはしていたが、一部を除きこの合宿の講義の大半がこれっぽいモノを根底にしている。

 

 しかし、どんな物事にも表と裏がある。綺麗な一部分しか教えないやり方を、僕は嫌悪している。

 例えば、道徳やスピーチで講師が例題とした『落とし物を届ける是非について』。

 

 これの表は当然、善行だろう。届ければ、失せ物を探していた人が喜ぶこと請け合いだ。

 そして裏は、「ただしイケメンに限る」へ陥る可能性や、嫌がらせに応用される事がままあること。

 そう。以前に早苗や櫛田に助言の形で話したこともある『俺』の嫌がらせ原点である。権力者や人気者にこれをやられると、手の打ちようがなくなるというアレだ。

 

 どういうことか具体的に説明しよう。

 きっかけは『俺』の頃に財布を落として困ってた別部署の同僚にタクシー代を貸して帰した後、『俺』の机付近に落ちていた財布を発見した事だ。特徴は聞き知っていたからすぐにその同僚の物だとわかった。

 翌朝出社して来た時に一言伝えればいいか、と当時の『俺』は、届けといたよとメモった付箋だけ同僚の机に貼り付け、事務の落とし物ボックスに届けておく対応をした。

 今なら理解できるが、あまりに甘すぎる判断だと言わざるをえない。

 

───翌朝出社したら、盗人にされていた。

 

 尤も、中身が減っていたとかではなく、タクシー代を貸して恩を着せたように見られたらしい。その同僚が女という要因があり、しかも悪いことにお偉いさんの息子の婚約者。下心で彼女に手を出そうとした、と見られたのだ。前日に貸した一万円札も、ヒステリックな態度で投げつけられた。

 勿論、弁解?はした。拾った場面の目撃者や証人もいたし、事務へ届ける過程も記録に残っていたが、全く考慮されなかった。せめてタクシー代を貸す行為さえしてなければ多少マシだったかもしれないが、小さな善行のつもりでも変な思い込みで受け取られると簡単に裏返る事例といえよう。

 

 この一件から『俺』が退社するまで、何度も似たような事例が身の回りで起こって『誤報』で通報され続けた。

 二度目は、落とし物を見つけても触らないよう放置したのだが、彼ら曰く、それはそれで『マナー』や『道徳心』が欠けている行為らしい。しかたなく拾ったら、鬼の首を取ったかのように勝ち誇った男の方(別部署だが、一応彼が上役ではあった)に殴られた。

 三度目は、周囲にしつこいくらいに念を押した上で届けたら、盗んでおいて厚顔無恥だと罵られた。

 

 以降も『俺』に対し、似た手口の嫌がらせは繰り返され、場合によっては脅迫状が送られてきたり、わざと達成不可能なタスクを振って失敗させた上で他社の顧客の前で口汚く罵られたり、二度目のような暴力を振るわれることさえあった。

 しかし外部の者に見られてた際、ドン引きされてたのはよかったのだろうか。明らかに『俺』じゃない方が人間性を疑われてたと思うのだが。

 

 ちなみに、これは典型的なガスライティングの洗脳手法だ。

 進めていた計画を直前で全てひっくり返すとか、Aと指導してすぐ後にBに修正し、またAに戻す。それぞれ「前に言っただろ!」という風に混乱させられる時々あるヤツ。

 やられた方は、マジで頭おかしくなりそうな手法が色々あるから、本格的に社会へ出る前に少しでも予防接種しておいた方がいいと忠告しておこう。

 

 正直最初の件からおかしいのはわかっていたが……何度目の嫌がらせの時だったか。

 イケメンの新入社員が落とし物を届けに来て嬉しそうにお礼を言う女(この頃はすでに同僚とも思ってなかった)と、わざわざ『俺』をその場面に連れてきて高圧的に「アイツ(新入社員)は泥棒のお前の代わりだ。部長昇進を辞退して、会社も早く辞めろよ」と醜悪に嗤いながら宣うお偉いさんと追従するその息子。

 まぁ、善行を利用して最初から二人以上で仕組んでたと確信したよね。

 記憶が今でも脳裏にこびりついている。あれは実に醜い笑顔だった。

 

 それで『俺』が本当に辞めて仕事が回らなくなったら、「お前の責任なんだから早く来て働け。給料? 出すわけないだろ。お前みたいな給料泥棒に」って、何度も連絡が来たっけ。今更どうでもいいが、全て『俺』が無能の無責任で道徳心の欠片もない奴だから、って無理矢理すぎるこじつけ付きで。

 結局、無視してたら半年くらい経ち、プロジェクトがポシャって大赤字を出して婚約者の女の方が左遷された、と元同僚が恨み言を長々と留守電に入れてたのが最後だ。

 

 ちなみに僕がお偉いさんや女を前面に出す奴、そして主に電話するのが苦手な理由は、この時の経験が大いに関係している。

 警察や労基、労組とかに怪我の診断書や会話の録音データなどの証拠を持参して相談したら、話をするどころかまともに相手もされず、信じる・信じない以前に被害届けの受理すら面倒くさそうな態度で断られたからだ。

 

 そのために仕事しながら何度も各所へ電話でやり取りする羽目になり、非常に重い負担だった。

 被害妄想も入ってるかもしれないが、警察は仕事をしてくれるなどと到底信用できず、言動や対応から労基や労組が会社と十中八九グルだと確信したこの期間。反社会的な思考なのは理解しているが、電話自体を苦手にさせるのもしかたなかったと今でも思う。

 

 こうした経験がいまだに色濃く残ってるせいなのか、僕はあまり道徳とか善悪とかが気にならない。

 ゆえにこそ、僕のスピーチでするには、この『落とし物を届ける是非についてを学んでいくつもり』というテーマが適切だろう。ただ勿論、そのまま『俺』の経験を言えるわけもないから学生のエピソードに微妙な変換したり、表裏や行政の対応例とかについてをメインの内容とした。

 

 このスピーチは予想通り審査員?試験官?受けはヤバそうだったものの、逆に聴いていた同級生達には意外と受けた。

 僕の出番が『スピーチ』の試験で最後だったからかもしれないが、少数でも心に留め置き役立ててくれる奴が出てきたら幸いである。

 

 

 

 

 

 試験が全て終了してしばらく経ち、初めて見る初老の男がねぎらいと合宿の結果を発表している。

 

「先に結果に触れることになりますが、全校生徒・全グループは学校側が用意したボーダーラインを越えており、退学者は0というこれ以上ない締めくくりとなりました」

 

 退学者なし、という結果にあちこちから安堵の声が聞こえてきた。まぁ“悪用”しなければこんなものだろう。最初から基準はかなり甘めの設定だった。

 

「3年Bクラス───石倉君が責任者を務めるグループが総合1位です」

 

 その後も個人的にはそう大番狂わせもなく、淡々とグループの順位が発表されていく。3年生の責任者名だけが名前を呼ばれ、報酬のポイントは後日振り込まれるらしい。

 ともあれ、この結果は一応喜ばしい。石倉のグループは僕も所属するグループだ。龍園や……南雲もいるが。

 

「やったな南雲。この面子で流石だ!」

 

 桐山が南雲をわざとらしく称えている。聞こえてくる話からすると、どうも南雲は主力の面子じゃないグループを組んでいたみたいで、2年生の小グループで目立つのも南雲と桐山くらい。

 おそらく桐山はこのグループが勝つと思っていなかったのだろう。演技が甘い。

 

「俺の勝ちですね堀北先輩」

「ああ。見事だった南雲」

 

 そんな桐山をさり気なく流し、学に話しかける南雲。

 ちなみに学のグループの責任者は二宮という生徒で、2位の成績を収めていた。同グループだったのか藤巻さんも悔しげに南雲を見つめている。

 女子達も合流し、あらかたの発表が終わると学と南雲が対峙していた。昨夜に僕も聞かされた勝負の話だろう。

 

「それでお前は俺に何を望む?」

 

 学の短い問いに、南雲は一見意味がわからない答えを返す。

 

「ふっ───堀北学。あなたに『遊びの』命名決闘を申し込む」

 

 それって、夏にプールや体育祭でやった決闘ごっこ、か? 予行演習的な意味合いもあるとは察していたものの、ここでそのカードを“本番の学相手に”使うのは少し驚く。

 ああ。昨夜、彼らの正式な命名決闘は学年末ということで今回はお試しの二戦仕立てとは聞いていたが、僕は内容までは聞いていない。一応、合宿のグループ順位の方は合宿初日におおっぴらにやってたから知っていたけども。

 

「ゆめゆめ逃げるなんて言わないでくださいよ? もう俺が堀北先輩に挑める機会はそうありませんから、小さなことでも逃したくないんですよ」

「…………なに? この合宿がそうではなかったのか?」

 

 おや? 何か考え違いが起きていたのか? 盛り上げる演出の演技? そもそも盛り上げる必要性もあまりないし、学がそういうことする印象はないんだが。

 

「堀北先輩もすでにご存知の通り、元々はその為の下準備のつもりでしたけどね。どこかの奇人変人にことごとく邪魔されまして」

「奇人変人……」

 

……なんだよ? 南雲も学もこんな会話の途中で僕の方を見るなよ。なんか僕がそうみたいに聞こえるだろ。少し動いて立ち位置をズラしたのに、わざとらしく目線を追尾させてきやがって。

 

「で、前哨戦で思い付いたんですが、自分以外に2人を選んで短時間で決着する───『そういうお前はどうなんだ』というゲームはどうです? 先輩が知ってるかわかりませんが、必要な道具は用意してあります。といっても、適当なカードだけですが」

「む、以前に橘や夢月、東風谷とやったことはある。状況証拠だけで犯人をでっち上げるボードゲームのことだろう?」

「おっ、知ってましたか。そうです。どちらかの陣営に犯人を押し付けた方の勝ちです。数分程度で終わりますし、俺達が本格的な勝負をするのに今は時間的余裕がありませんからね」

「変則的なチーム戦か、なるほど……。いいだろう。自分以外の2人とカードを配る役はどうする?」

「俺達自身をアピールして味方に付いてもらうんですよ。むしろここがこの勝負の肝かもしれませんね。カード配りは……ゲームを知っているなら、橘先輩が適任じゃないでしょうか?」

 

 この「そういうお前はどうなんだ」ってゲーム。

 3~6人用のボードゲームで、設定上の自分の部屋から出てくる怪しい証拠の言いわけをしつつ、他人の怪しい証拠を好き勝手に追求し、滅茶苦茶な推理動線を作り上げて口撃する口が回る奴ほど有利なゲームだ。

 ただし、学へ『遊び』で仕掛けるには適当と思われる。

 

 なぜならこのゲームは、不思議と真面目で善人であるほど犯人を押し付けられる場合が多かったりする。

 秋の終わりに学達とやった時は、最も狙いやすそうな愛里がカード配り役だったのもあって、不運にもヤバいカードばかり引いてた橘さんを涙目にしてしまい、途中から学が本気になって僕と早苗が犯人に仕立て上げようとしてきた。ついでに愛里にも批難するような視線を送られた。

 最終的な勝率も半々くらいに着陸させられたので、南雲の思惑次第では返り討ちになる可能性も結構ある。

 

 しかし学が得意ではなさそうとはいえ、多数の人前でやるには向かないこれ系のゲームを南雲がチョイスするのは少し意外だ。新旧2人の生徒会長が、ゲームといっても犯人を押し付け合うのは印象が変なことになりそうだが……ま、本人達がいいならいいか。

 それにしても、橘さんをカード配りに推薦したのも不正はしないって意思表示代わりだろうし、ホントになんか変な物でも食った?

 

 てか、南雲……コイツ、合宿の勝負の方は一応勝ってるし、勝負にかこつけて学を慌てふためかせたいだけなのでは? う~む、そうだとすれば性格わっる。

 そんな事を考えながら眺めていると、そろそろ始まりそうな雰囲気。まぁ、あとはそれぞれのバスに乗り込んで学校に帰るだけだから、時間を無駄にできないからだろうが。

 

「流石の俺も人望では堀北先輩に及びませんからね。良い人材を勧誘しないと」

「現生徒会長に満場一致で選ばれておいてよく言う。総合で判断しても五分五分といったところだろう」

 

 そう言いながら学があまり見ない不敵な笑みを浮かべれば……。

 

「実際どうでしょうね? ただ俺も自信はある、とだけ返しておきましょうか」

 

 南雲も負けじとニヤリとした口元でその実力を覗かせる。すでに2人ともやる気だ。

 静かに牙を研ぎ、虎視眈々と噛み付く機会を狙っているかのよう。自信の源を見せる瞬間までは計りようのない天才達の頭脳戦。彼ら2人からは、これまでの実績に裏付けられた雰囲気があった。

 と、ところで、さ……。なんか2人が僕の方へ歩いてきてるんだけども。僕って関係ないし、場違いだよね?

 

「さて、残る問題はお前だ、左京。やってみれば……案外楽しいかもしれないぜ」

「そうだな、夢月。お前との勝負機会は南雲以上にない。混ざるというのも悪くはないんじゃないか」

 

 あの……それは誘ってるのか。それともどっちかに来い、または行けって意味なのか。ただ、どっちかには加われや、っていう無言の圧力は感じる。

 僕は常識的な凡人だから真意がわからん……のだけども。ちょっと気になることがあるし、これはある意味で僕にとっても好機か。

 

「悪いけど……南雲───」

「ん? おお、堀北先輩と仲良いのは知ってるし、気にするな左京。お前も俺が認める奴の1人だからな。対決するのも悪くはな……」

 

 それにはこれが必要。

 遊びついでに何のリスクもなくやるなら、これが一番早く済む。

 

「───今回、僕は南雲に付かせてくれ」

 

 学にまとわりつく『歴代最高』という呪い。卒業前に祓っておくのが僕にできる数少ない餞別だろう。

 そんなモノは欲しがってる南雲にでもくれてやればいいのだ。

 

「……………………はぁ?」

 

 勿論、真意が伝わるかどうかは賭けになる。結果として学や橘さんの3年生が、僕を敵として見るようになるかもしれない。

 それでも、おそらくこれは僕のできる学への最後のフォローになる確信があった。

 並び立つ存在もなく、たった1人で立ち続けた孤高な年上の友達に最大限の敬意とせめてもの祝福を───。

 

 

 

 南雲なりにかろうじて敬意を払っているのはわかるが、性格や性根のねじ曲がっている南雲は、頭脳戦で学や僕を屈服させたがってもいる。ならば僕から南雲の駒になりに行けば、目的は一本化されるだろう。自覚無自覚問わず、学の周囲で鬱陶しい学校の洗脳を手伝っている存在をあぶり出すのにも有効だ。

 ついでにどちらからも誘われた()し、単純に学を倒す方が面白そうというのもある。南雲と共闘する以外でこのシチュエーションを作り出せる機会は、おそらく最初で最後だろう。

 

 なるべく負けそうな方に付きたい。なぜなら、そっちの方がひっくり返した時により大きな恩を売れるからだ。なんて、偏見混じりの私見だけど、そんな感じのことを南雲からは思われているかもしれない。なんせ櫛田あるいは坂柳さん級の性格悪さを感じる男だ。話した感じで推測しても、打算や損得を主軸に考えるのが南雲の基本になっている…はず。

……こういう事考えてるから、善人っぽい奴と基本相性が悪いんだろうな、僕。

 

 まぁ、こんな適当な作戦ってよりもお祈りゲーミングな考えだ。読まれる心配はしなくていいだろう。

 人任せ・運任せな部分を強調しつつ、目的達成率を0から徐々に上げていこう。

 『学が』考えれば考えるほど、彼にまとわりつく洗脳は解けていく。少なくとも南雲は学相手に勝ちを狙える天才で、なんの意味もなくただ負けるタマではあるまい。なんとなく、そう思う。

 

「堀北先輩! だったら俺が堀北先輩に付いて、この年上への礼儀を知らない後輩をわからせてやります!」

「桐山……?」

「たしかに『コイツは』口だけは上手いですが、それだけで勝負は決まらないと証明してやりましょう!」

 

 ああ、予想通り風見鶏みたいな桐山がまず食いついてきたか。

 学と客観的に見て学を裏切ったように見える僕を利用して、南雲に一泡吹かせるつもりだな。学も自分を慕う後輩を無碍にできない。

 この立ち回りは、スピーチした時に思い返したお偉いさん親子を思い出す。

 

「お、おい左京。お前、本当にそっちについて大丈夫なのか? 南雲先輩とお前ってそんなに仲良くないんじゃ?」

「ん? ああ、これが適材適所ってやつだ」

「なに言ってんだ? わけわからん」

 

 その中にあって、僕の考えを察して……はなさそうだけど、真っ先に話しかけてきた柴田。

 

「そうか。なら詳しく解説しよう。

 僕はこうしてるのがお似合いだ、って意味な?」

「ネガティブな意味で自分にその四字熟語使う奴、初めて見たぞ」

「俺の地元にいる京都人みたいな言い回しだな。自分を対象にしてるけど」

 

 いつの間にかいた清隆のツッコミ。野球部のOB?である藤巻さんから南雲の注意でもされたのか、微妙に遠回しな聞き方をする四方。

 てか、コイツらは人の背後を取りたがる習性でもあるのか。ビクッっとするから自重して欲しい。

 

「……もしお前に何かアイディアがあるなら、オレも加わってもいいが」

「清隆、お前さぁ。あんまり良い想定もできてないだろうに、それをわかった上で指示くれって言う主体性のない奴に僕が丸投げするわけないだろ。混ぜてほしいんならそう言え。だいたい今回の決定権は、僕じゃなくて南雲あるんだっての」

 

 それと何を思ったのか必要じゃない時に、謎の加勢をしようとする清隆。特にコイツの考えはわかりそうで全くわからん。

 言った通り、南雲がどうしたいか、誰を引き入れたいかで話は変わってくる。今から参加を表明するなら、学の方がまだなんとかなりそうなのはわかってそうなんだが。

 

 

 

 ゲーム自体は、全部で3本先取。

 結局、面子は南雲側が僕と朝比奈さん、学側が桐山と堀北さんに決まった。

 関係ないが、朝比奈さんを引き込む際の南雲の手腕は実に見事なものだ。思わず称賛してしまった。

 

「なんでもない世間話から一気に攻めて女を頂く。やっぱりやるな南雲……! 僕も見習うべき箇所があるかもしれん」

「頂かれてない……でも、うーん。この雅へ異様にフィット感のある評価」

「クズ男じゃねぇか! それで褒めてるつもりかお前!? つーか、なずなも人聞き悪すぎだろ!」

「褒め言葉以外のナニモノでもないが」

「……こんな子はこれまでいなかったなぁ。初めて見るタイプかも」

「こんなの初めて、とかって言う時の女子。だいたいそんなことはない説(処女厨号泣クラスの偏見暴露)」

「左京、お前……やめてやれよ。俺はともかく、何人かすげぇ目してんぞ?」

 

 とまぁ、南雲側は意外と軽口を叩き合えるそう悪くない空気だ。

 だから気楽にやれる僕は、南雲が毎ゲーム狙いに行く学を犯人にする道筋を整える。つまり味方がやり易いよう学と他2人の思考を撹乱しつつ、他が目のやってない攻め場所をやんわり口に出して、南雲と朝比奈さんの補助に徹するのだ。

 

 能力が高い奴らが十全に動けるように人材や策を配置するのが、凡人の戦術における鉄則の一つだ。味方戦力が揃っているなら、出られたとしても自分は前に出ない方がいい。

 最初のゲームで南雲が勝つと、何か納得したような朝比奈さんが一之瀬とバトンタッチしたが、やることは変わらない。押して押して押し倒すのである。

 

 冷静な時は南雲個人がすでに口のよく回る論戦強者だし、相手側の1人は僕も思うところがある桐山だ。

 なにより、なんとなくやってみると南雲と息を合わせるのが可能だったため、学を含む向こうの口撃を封じるのはかなりやりやすかった。あとは南雲が固執してる学を落とせば勝てたので、ある程度は余裕を持って叩き潰すことができた。

 

 きっと桐山と堀北さんは、いつでも自分を仕留められるのに見逃されていたことを悟りながら、守るべき学を落とされることが無念だっただろう。勿論、南雲と僕は手を緩めず『学以外を』景気よく煽り散らした。南雲は知らないが、僕は調子に乗ったり攻撃性のモノを意識して抑えたからか、朝比奈さんや一之瀬は呆れた雰囲気で僕達がやりすぎたと見えた時だけブレーキをかけていた。

 

 そして最後になるだろう3戦目が始まる前に、首尾よく心折られた桐山と堀北さんが離脱したので、交代要因に四方と清隆を参戦させてきたが問題ない。

 他の学年は知らないが、ぶっちゃけうちの学年だと龍園か一之瀬、櫛田がこういう遊びでは3強だ。天才どもは頭脳が高レベルだからこそ、意外と足を掬う余地を作りやすい。

 向こうが呼べるのは良くて櫛田だけなので、南雲が主力のこちらはまず負けないはずである。堀北さんという存在の因縁と、学と櫛田の相性は多分そんなに良くない原因らしきモノがあるからだ。

 

……と、思ってたんだがなぁ。

 幸運の揺り返しでもあったのか、一之瀬にとんでもなく都合の悪い暴露カードが連続で配られ、僕や南雲も反論やフォローすらできず、無理矢理と承知の上で交代した清隆を標的に持っていったりしたが当然3タテはならず。

 そのせいか一之瀬がちょっと動揺してたので、南雲に肘で突かれた僕が何故か鎮静させることに。

 

「一之瀬。お前はいっつもエロいことばかり考えてそうな腐れ畜生系サキュバス聖人だろ? それかいっそ開き直って、あざとくいつものにゃはは笑いでもしてろよ。絶滅危惧種の生物XXらしくな?」

「私の属性が盛られすぎている!? というか、人前でとんでもない毒舌がきた! それに私はあ、あざとくないもん!」

 

 ただ、元気にはなったが、やり方を間違えた気がしてならない。どうも一之瀬とか苦手な奴が相手だと緊張して、変な事を口走ってしまう。

 

「左京……くく、お前。ふはっ、立て直すにしては不器用すぎんだろ。一之瀬がっ、ぶふっ……エ、エロサキュバス……くっはははっ!!」

「南雲先輩まで!!?」

「うむ。南雲といえども、男ならみんな内心そう思っているということだ。そんなエロボディな一之瀬が喪女となるには、年齢的な問題をさて置いても判断が早すぎる。自分が美少女だと確たる自覚を強く持ちたまえよ一之瀬君?」

「美少っ……全方位すぎるでしょ左京君!? 私、味方の上にクラスメイトだからね! 南雲先輩も笑ってないで言ってやってくださいよ!」

「わっ、悪い一之瀬…ふっ、はっ……はぁはぁ。マジで一之瀬相手でも変わらねぇんだなお前……」

 

 いや、変わってると思うが。

 僕がおちょくりに逃げてしまうのなんて、一之瀬の他は担任や南雲、せいぜい朝比奈さんくらいのはず。

 

「ふぅ。ま、一戦くらいかまわないさ。あれは流石に不運すぎたしな。この流れなら次で決めれるだろ」

「そうそう。こっちの大将である南雲がこう言ってんだ。一之瀬も感情ジェットコースターにして騒いでないで、少しは真面目にやれよな。クラスメイトとして恥ずかしいから」

「左京君が……まっ、真面目!? 恥ずかしい!? というか、なんで私がおかしいみたいなことに……!? おかしい! 絶対おかしいよっ!!」

「おかしくないさ。みんな違って、みんな良いんだ。一之瀬のイロモノレベルが限界突破してるのも良い場合はあるって」

「それ、言葉の使い方が違うからね左京君!! あとさりげなく私をイロモノ固定するのやめてくれないかなぁ!!?」

「ふっ……はははっ!」

 

 まぁ、方向性は異なるものの、一之瀬も南雲も元気なのは良いことか。

 しかし最近特に感じるのだが、僕のような精神おっさんは高校生達のノリにもはや付いて行けてない気がする。僕は普通に会話してるだけなのに、周りのテンションがおかしくないだろうか? なんかボタンの掛け違いを連想してしかたないのだ。

 こんな非常識がまかり通る雰囲気の中、なんとか付いていってる風な僕を褒めてほしい。

 

……ところで南雲や一之瀬とともに3人で清隆にヘイトを集めようとしたこの3戦目。本人や学側はともかく、離れた位置から重力魔法を放ってるかのような雰囲気でスッゲー目をしてた坂柳さん。

 これって、あくまで決闘ごっこであって遊びだからね? 学の妹でさえゲームと現実の違いをしっかり認識してたし、君もね? あとついでに、どれだけ一之瀬を凝視しても君の貧乳力は突破できないからね? 大人しくミルクでも飲んどけって。

 くれぐれも後に引きずらないよう伏してお願い申し上げます。

 念入りに祈ったのでもう大丈夫。大丈夫と言って欲しい。

 

 さて、怖い人からは思考を切り替えて。

 先に述べた通り、3戦目は不運にも落としたものの、4戦目でついに学を犯人にした上で勝つ展開に持ち込む結果に落ち着く。

 曲がりなりにも全校生徒の前での勝負ということで、当初の目的は達成しただろう。歴代最高の生徒会長という呪いも少なからず南雲に持っていってもらえたはずだ。そのぶん、学へ降りかかっていたモノが薄まってくれたら幸いである。

 こうして年始早々の合宿は、実質遊びで幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 帰りのバスにそれぞれ乗り込み、走行し始めると担任が年甲斐もなくはしゃぎ出した。

 おそらく担任の上機嫌はこれが要因だろう。冬休み・合宿後(龍園のCクラスはとあるペナルティの差し引き込み)のCPだ。

 

 A(一之瀬)クラス 1026CP(+46)

 B(坂柳)クラス  961CP(+97)

 C(龍園)クラス  533CP(-163)

 D(堀北)クラス  512CP(+92)

 

 差は少し縮まったものの、いまだにAクラスを維持する現状だ。体育祭直後の担任を思い返せば、そりゃあ期限も良くなるかもしれない。

 ただうちのクラスの生徒から見ると気色悪さしかないので、僕はボソボソと友達に話してそれを少しでも発散していた。

 

「僕達は担任の何を見せられてるんだ……? そうか、駄目な大人の生態を見せられてるんだな。なんてこった。

―――これがVR(バーチャンリアリティ)か……!」

「左京君……殺すよ?」

「ふっ、担任。強い言葉を使うなよ、弱く見えるぞ」

 

 地獄耳にも担任に聞こえてたらしく、教師に或るまじき本気っぽい殺意を向けられたので誤魔化すように嘯く。バス内の決められた席順は名字のあいうえお順なため、席が近いクラスの中心人物な一之瀬・網倉・神崎が固まっている。化け物である担任方面の世話は彼女らに任せて放置が妥当だろう。

 

 うんうん頷いて前の席で騒ぐ者達を華麗に忘れ去っていると、今度は隣に座っている早苗に話しかけられた。ちなみに僕の後ろの席は四方と柴田で、そのまた後ろは白波である。

 

「改めて思いますけど、夢月さんって誰を相手にしても大概動じませんねぇ。神様に対してさえ普通に接してますし」

 

 それは日頃のことを言ってるのか、担任に対してか、はたまたさっきの学や南雲に対してか。

 そうでもないと僕自身は思ってるんだが、早苗にはどう映っているのだろう。聞きたい気も少しする。よし、聞こう。

 

「動じてるだろ、しょっちゅう。普通に。てか、逆に早苗は何すれば動じるんだ? そっちのが疑問なんだが」

「圧倒的に、ヤバいオーラを放ちながら笑顔で手招きする諏訪子様を見た時です。正直、私の生涯で一番怖かった……」

「あー、よく生きてたなお前。ほぼ身内みたいなものとはいえ、あんな強大な神様になにしたんだよ? 滅多に怒らなそうな存在の大きさだと思ってたけど」

「いえ……その、昔ちょっと罰ゲームで、諏訪子様の口に練り山葵一本丸ごと突っ込んでしまいまして」

「……仲良いなお前ら。普通、信仰対象にそんなことできんぞ。やっぱパネェな、早苗って」

 

 なんか早苗とこうして話すのもすごく久しぶりに感じる。遭遇しなかったのは、1週間程度なはずなのだが。

 

「…………それにしてもここ最近、心が落ち着かなかったのが嘘みたい。夢月さんと話してたら、なんだか気を張ったりしてたのが馬鹿の所業に思えてきました」

「は? なに言ってんだお前。元々お前って馬鹿じゃん。バカバーカ!」

「夢月さんって……ホント夢月さん。いつでも変わりませんね。

 でも……ふふっ、そうかもしれません。本当に馬鹿になるのが一番かもしれませんねっ」

「えっ……と、いや。ま、まぁお前がそんな馬鹿だったから楽しくやれるわけで……僕は―――」

「夢月さん? どうしました?」

「なんでもない。それよりさっさと帰って思う存分に寝たいよなぁ」

「ふふっ、そうですね。流石に疲れました」

 

 合宿で何かあったのか、疲れてるのか、早苗は微妙に気の抜けたような変な態度で調子を狂わせてくるが、やはりコイツといるのは落ち着く。

 僕の方は、かなりの人数で野郎まみれのむさ苦しい同室生活だったからなぁ……不満ってほどでもないけど、監獄かよ。って言いたくなったこともある。てか、実際に合宿後半では何人かのグループメンバーが似たようなことを言っていた。

 

 だから、欲望に忠実に言えば溜まりに溜まっている今は愛里一択なのだが、会ってしまったら正直止まらなくなりそうで怖くもある。こんな付き合って数ヶ月ほどで欲望をぶつけまくって、嫌われることは避けねばなるまい。

 こういう時だけは別のクラスで良かったと初めて思った。

 

 うん、その点では欲望をぶつけることさえ考え付かない早苗は最高の相方だ。

 あんまり女を感じさせない早苗でも、性別上は女である。性格の相性も悪くはないと思うし、気の合う友達でもある。

 ちょっと常識に囚われてないことが多々あって迂闊な奴だけど、気楽に接する事のできる女子は貴重な存在……。

 

 僕は早苗の真上に浮かんでニヤニヤと話を聞いている洩矢諏訪子様へ意識を向けないよう、学校へ到達するまで主に対人の幸運に感謝して適当な駄弁りを続行した。

 触らぬ神に祟りなしである。

 





 というわけで、お読みくださった方、ありがとうございました。
 『ようキャ』に繋がったので、誤字修正終わったら順にあちらにも投下していきます。

 そういうお前はどうなんだ。
 このゲームの詳しい説明と清隆や四方、堀北学の活躍は長くなりすぎるので割愛。ゲームは、検索すればYouTubeとかで実況されてたりもするし、興味湧いた人は覗いてみるのもいいかも。
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