やあ皆。
私はシャーレの先生だよ。
………突然だが、私には「趣味」がある。「趣味」というのは人生を豊かにするものだし、概ねどの人間でも持っているものだと解釈している。それは例えばスポーツであったり、音楽であったり、多くの者にとって共感の得られるものであるかもしれない。
だが、仮にそれが多くの人間にとって共感が得られなかったとしたら?君ならどうするかね?
私は………そうだな。私の「趣味」はとても人に言えるようなものではない。だが、こうして私は誰かにこの「趣味」を告白しようとしている。人間というのは隠し事を人に打ち明ける瞬間、堪らない快楽を、愉悦を、その身に宿すというもの。その意味で、これもある種の「趣味」であると言えるかもしれないね。
………少し話が逸れたな。私の「趣味」の話だったね。
私の「趣味」。それは「女性同士のギスギスを眺めること」、これに尽きる。
何故このような「趣味」を持って生まれたか、だって?そう問われれば難しい。それはどうして私が男として生まれてきたのか、という問いに答えることに等しいからだ。「そういうものとして生まれてしまった」と答えるほか無いだろう。幼い頃から、周囲の女子たちが(主に私を巡って)険悪なムードを醸し出している様を見ると、不思議と口角が釣り上がったというものだ。
さっきも言ったように、こんなことは人に大っぴらに言えるものではない。誰かと誰かが険悪な仲となっている瞬間を眺めることに愉悦を感じる。そう突然告げられれば、普通は引くのではないかね?それは正常だし、否定する気は無いよ。
だが、そういう「性」を持って生まれてしまったなら。その人間はどう生きるべきなのか?それでしか楽しめないというのなら、自らの快楽を封じて日々を耐え忍ぶように過ごせというのか。
それは違うだろう。たとえ何れ程の「悪」であろうとも、生きている以上は自分を満たす権利がある。私はそう考えているよ。もっとも………こんなことは純粋無垢な「生徒」たちには口が裂けねば教えられないがね。
さて、このキヴォトスという世界は私にとってはまさしく理想郷。何故ならば生徒たちには女子しかいないからだ。
そして幸いにも、私には自らを偽って善く見せる才能が備わっていた。この禍々しく忌むべき「性」を人には見せずに、ただ「先生」として日々「生徒」たちを導く者として奮闘してきた。
その甲斐もあって、今では私と接してきた生徒たちの全員が、私に対して浅からぬ好意を抱いている。
そう………食べ頃だ。
そろそろ、私は私の「趣味」の時間を始めることにする。
◆◆◆◆◆
私はアビドス高校2年生、砂狼シロコ。
今日は久しぶりに先生がアビドスに来る。対策委員会は先生のおかげで連邦生徒会公認の委員会になった。先生は委員会の顧問だから、定期的に私たちの活動内容を観察しに来る。
先生
うん、やっぱりその響きで私の胸の鼓動は速くなる。
まだ誰にも話してないけど………私は多分、いや、絶対に先生のことが好きだ。
大人って、皆信用できないって思ってた。アビドスから寄って集ってお金を毟り取って、私たちの居場所を奪っていこうとした。
だから大人のことが嫌いだった。
でも…………
先生だけは違う。
先生だけは特別。
他のどんな大人たちにも無かった優しさをくれた。
私たち………ううん、私のことをちゃんと見てくれた。
運動だって付き合ってくれたし、自転車のことだって勉強してくれた。私が周りにあんまり話せる人がいないから、自分が話し相手になるためにって。
そうやって一緒に過ごしている内に………先生といる間だけ、胸の中がポカポカするようになった。
私には昔の記憶が無いけど、多分初めてのことなんだと思う。身体がそう言ってる。
先生………
「あ………」
まだ電気がついてる。
1人で職員室に籠もって、こんな夜遅くまで。
「…………………」
今なら、先生と2人きりになれる。
私と先生だけの時間に出来る。
「おや、シロコ。まだ学校に残ってたんだ」
職員室に入ったら、すぐに先生が反応した。
「……………!!」
先生の笑顔。
凄く眩しい………夜なのに、太陽みたいに輝いていて………
ああ、ダメ。心臓が速く鳴りすぎて、爆発しそう………
「先生、まだお仕事残ってるの?」
「ああ、うん。ここ最近の対策委員会の活動を全部書類に纏めてるんだ。皆が頑張ってるんだから、私も頑張らないとね」
「……………………」
私は先生の横まで歩いて行った。どうしてか、足音を立てないようにして。
先生の横顔。とても綺麗。男の人なのに、どこか女の人みたいにも見える、中性的でアンニュイな顔立ち。
力は弱そう。というか、あんまり強くない。キヴォトスの外から来たから、私たちと比べたら全然力は無い。
なのに、私たちのために悪い大人たちと立ち向かう時は、この世界の誰よりも強く見えた。誰よりも……頼もしかった。
ああ……もしこの場で押し倒しても、私なら………
「シロコ」
「!!」
そんなイケナイ事を考えていた時、突然先生に名前を呼ばれた。心臓をぎゅっと絞られたみたいに、驚きで身体がビクンと跳ね上がる。
「私はね、シロコ。皆は一足先に大人の世界を覗いてるんだって思ってるんだ」
「大人の……世界?」
「うん。大人になると、どうにも上手くいかないことばっかりだ。それこそアビドスの皆みたいに、理不尽なことに晒されるなんて珍しくもない。小さい頃は思い通りにいった世界が、段々と自分の思うようにいかなくなる。子供だからで許されたことが、大人になると許されなくなる」
「………………………」
「皆、大人になってそれを思い知るんだ。それで段々と、人によっては疲れていってしまう」
疲れる…………
それって、「嫌」だってこと……?
「先生も……そうなの?」
「ん?」
「お仕事、疲れる?」
私たちの相手をするのも、もしかしたら先生にとっては疲れること……なのかな。
「ははは、書類仕事はまぁ、疲れるってことも多いね。私なんて皆に比べたら体力も無いし、1人で出来ることにも限度があるからね」
「じゃ、じゃあ……」
「でも……そうだな。シロコといる時を『疲れる』なんて思ったことは無いよ」
「……!!」
先生の瞳が私を捉えた。
黒くて、綺麗な瞳。吸い寄せられそうな濃い黒色に、私は金縛りに遭う。
「むしろ逆さ。生徒の成長を見届けたいから、私はこの仕事を選んだんだ。君がどんどん逞しくなっていくことが、私が『先生』をやってる理由でもあるんだからね」
「あ……………」
先生の優しい言葉が。私を褒めてくれる、その温かい言葉が。脳みその中に直接注ぎ込まれる。お湯が沸騰するみたいに、身体の内側が熱くなってくる。
「シロコ………こうして見ると、初めて出会った時から成長したね。前よりも一段と凛々しく見えるよ」
先生………
先生………………
そんなことを言われたら…………
ダメだ。抑えないと。
それは、先生の気持ちを踏みにじる。そんなこと、先生は望んでない。
先生に………嫌われたくはない。
「本当………これからが楽しみだ。私のシロコがどう育っていくか、楽しみで仕方が無い」
「っ………!!」
ダメ……ダメ………!
ダメだって……分かってるのに…………身体が言うことを聞いてくれない。
もう私は、私を止めることが出来ない。
「……………? シロコ?」
「………先生」
ごめんなさい。
私は、悪い子。
「うおっ……!?」
私の両手は、先生の肩を掴んで床に押し倒していた。
驚いた顔をしている先生。その目は、私に釘付けになっている。
そう………私だけを見てくれている。
「シロコ………? どうしたの……?」
「先生………ずっと言えなかったことがあるの」
「言えなかったこと………?」
恥ずかしくて、面と向かって言うことなんて出来なかったこと。
なのに今は、何の躊躇いもなく言える。むしろそれを言いたくて堪らない。言わずにはいられない。
「私は……先生のことが好き」
「…………!!」
驚いてる。
そうだよね。いきなり、すぎるよね。
でも、私は止まれない。
「先生のことが好きで、好きで、仕方が無い。先生のことを考えない日は無い」
「シロコ…………」
「ごめんなさい、先生。こんなの間違ってる。でも私は、もう私のことを止められないの」
私は先生の上に四つん這いになって、ワイシャツのボタンに手をかけた。
1つ、1つ外していく。先生の生暖かい体温が指先を通して伝わってきて、息が段々と荒くなる。
先生の生肌が見える。1つボタンを外す毎に、私の中で鎖が千切れていく。私たちは今、同時に丸裸になろうとしている。
「…………シロコ」
「ん……」
先生は目を閉じた。
もしかして、私に失望したかな。
そうだよね。こんなことをする生徒だなんて、思ってなかったんだよね。
先生の期待、裏切っちゃったな。
もう後には戻れないな。
「先生………私」
すると突然、先生が目を開いて………
「はっ………」
私の首裏に両手を回して、私の顔をぐっと自分に近付けた。
「んぐっ………!!?」
えっ………?
何、この感触…………柔らかい………温かい………
「ん………んんっ………!!?」
先生の顔が物凄く近くにある。
違う
先生の唇と私の唇がくっついてるんだ。
「んん!!!」
ああっ………!
凄い………凄いこれ………
全身が溶けそうな熱が一気に身体に入ってくる。
ただ唇を合わせただけなのに。本当にそれだけなのに、ここまで熱いなんて………
これがキス………
初めてのキス……ファーストキス………!
「ぷはっ!!」
ずっと息を止めてたから、苦しくなった。それを察してか、先生は一度私から唇を離してくれた。
「先……んんぐっ……!!?」
一瞬息をしたら、また唇を塞がれた。
さっきよりも激しい熱が、また身体に入り込んでくる。
「!!?」
や……何……これ………
唇が……こじ開けられる………!
舌……!?
先生が舌を、私の唇をこじ開けてねじ込んできた。
熱い………
熱すぎて火傷しそう…………!
「んーーーっ!!」
お互いの熱が交換される。先生にもきっと、私の熱が入っていってる。
今私はこの世界の誰よりも先生の近くにいる。
この世界の、どんな
頭の中に嬉しさと興奮の電磁パルスが迸って、全身が震えだしてきた。
「ぷはぁっ………!!」
そんなちょうど良い所で、先生は私から唇を離した。
蒸発寸前の脳みそが、辛うじて固形を保っている。私から漏れる荒い息が、身体中の快感をこの世界に表現する。
「先………生………………」
「ごめんねシロコ」
「何で………先生が謝るの………」
「シロコを落ち着けるには、ああするしかなかったんだ」
「………………………」
先生に落ち度は無い。
私が先生を襲った。先生のことを無理やり押し倒して、私は自分の快楽に浸ろうとした。
「シロコは悩んでいたんでしょ?自分の気持ちと、それがどうにもならないっていう現実の間で、ずっと1人で悩んでた」
「……………………」
それは………間違いじゃない。
私は先生が好き。でも……多分、皆も先生のことが好き。
私がその話をしたら、皆が困ることになる。それが怖かった。
でも……もう手遅れ。私は自分をコントロール出来ずに、皆の気持ちも一緒に汚した。
急に頭が冷えてきた。自分がやってしまったことに、自分の罪が目の前に現れて、私を掴んで離さない。
「先生……私…………」
どうしよう。
もうさっきまでの関係には戻れない。
これから私は先生を見る度に、今日の出来事を思い出す。あの熱さを、あの快感を、あの罪悪感を、先生と結びつけて考えてしまう。
「シロコの悩み、伝わってきたよ。もう後には戻れないって思ってるんだね?」
「っ…………」
そんな私の心の震えを、先生は見透かしていた。
「それぐらい悩んでたのに、私はそれに気付けなかった。先生として、自分の鈍さが不甲斐ないよ」
「そんな……先生は悪くない」
「ううん………私はもっと早く気付くべきだった。そうすれば、シロコのことを止められたかもしれない。これは私の責任だよ………だから、今回で終わりにしよう」
「え…………」
今回で……終わり…………?
「もう戻れないのなら、中途半端にするとかえって逆効果だ。シロコは今後、ずっとモヤモヤとした気持ちのままになってしまう」
「……………………」
「だから、今回だけ。今回だけ、私はシロコのモノになる」
「……………!! え………!?」
先生…………?
「今までの悩みも、私への気持ちも、全部1回に込めるんだ。シロコのやりきれない気持ちを、それで綺麗さっぱり無くすんだ」
「先生………でもそれは………」
それじゃ結局、私が初めにやろうとしていたことと同じ。先生は私に汚されちゃう。
「シロコ。君は大人の世界を覗いている。でも君はまだ、大人じゃないんだ」
「あ………」
先生がワイシャツのボタンの残りを外していく。
1個、1個。ゆっくりと、私をそそるように外していく。
「まだ子供のうちに……我慢癖はつけない方が良い」
ワイシャツを脱いで、下着を脱いで………先生の上半身が、何も纏ってない状態で露わになる。
…………………あぁ
思っていたよりガッチリしてる………細身に見えるけど、筋肉はちゃんとついてる。先生、私のトレーニングに付き合うために、本当に身体を鍛えてたんだ。
男の人の裸って……初めて見た。
思わず唾を飲み込んだ。緊張のせいで手が湿ってくる。私の鼻息と、心拍の音だけが、ひどく頭に鳴り響く。
「先生………」
口から漏れた息は、驚くほどに湿っていて、そして熱かった。
私の今の心が、そのまま漏れているような、そんな感覚。もう先生には全部が見えている。私の気持ちも、私の熱さも。さっきのキスで、全部伝わってしまった。
偽ることも、押し込むことももう出来ない。出来そうにない………
「大丈夫………シロコは何も考えなくて良い。今はただ、自分の気持ちとだけ向き合って」
先生は私に寄ってきて……そっと抱き寄せてくれた。
「ん………」
温かい………
先生……
私……まだ子供だから
甘えても……良いんだよね
「さぁ、シロコ………」
◆◆◆◆◆
やあ皆。
私かい? 私はシャーレの先生だよ。見れば分かる通りにね。
今は……そうだな。あまり口に出すのは憚られるのだが、
だがね、私が言ったことを覚えているかな。私は全ての人間には平等に、己を満たす権利があると考えている。シロコにとって、自分を満たすにはこれしか方法が無かったというだけのこと。そうだな、例えば野球一筋の少年がいたとしよう。私のかつての同級生にもいたからね。彼がホームランの快感だけが自分の人生を満たすと言ったとして、それは非難されることか?多少やんちゃに見えても、微笑ましいと思われることだろう。
彼とシロコの間に、何の差があるのだろうか。彼女は彼女のホームランをかっ飛ばしただけなのだ。全ての人間にはそれぞれ、ハイライトを彩る瞬間というものがあって然るべきなのだ。人生はたった一度きりなのだから。
勿論、この私にもね。
「あっ………先生………先生ぇ…………」
シロコが顔を真っ赤に染めながら、私の名を呼ぶ。
「好き………大好き………」
さて、私の今回の目的だが、何もシロコとの同衾ではない。女体への興味は男である以上皆無だとは言わないが、私はそれを目的に動いていない。
私とシロコの結びつき。それはこのアビドスの皆にとって、どのように映るだろうか。想像しただけで、楽しくならないか?
ほら………窓の外から視線を感じるよ。シロコはそれどころではないだろうがね。
こんなものを見せられて、気が気では無いんじゃないかな?
そうだろう?──────ホシノ
活動報告にて、曇らせについての持論を語っています。
もし宜しければ、足を運んでいただけると幸いです。
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