邪竜幼女 ~村娘に転生した最強ドラゴンは傍若無人に無双する~   作:富士伸太

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暗黒領域 7

 

 

「だから俺たちが戦う! お前は……」

 

 リーダーが槍を持って進み出てきた。だがそれはいかん。

 我はゴブリンたちを手で制した。

 

「よい。喧嘩を売ったのは我。そしてラズリーが買った。今はまだ貴様らの喧嘩ではない」

「だが!」

「だから我とラズリー、勝ち残った方が改めてゴブリンのリーダーと戦う。最後まで立っていられた方がこの領土を取ればよい。そうじゃろう?」

「……………………えっ?」

 

 思いもよらなかった言葉に、ゴブリンのリーダーが、絶句した。

 他のゴブリンたちも動揺している。

 

「おっと、いつまでも役職で呼び続けるのも失礼じゃの。おぬし名前は?」

「お、おう。ジェイクだ」

「我はソル。おぬしの敵の名じゃ。覚えておけ」

「ソル……」

「かかってこい。我に負けたならば我の軍門に下れ。勝ちもせず負けもしないならば去るがよい」

「お前こそ逃げるなよ!」

「もちろんじゃ。今、こやつを片付けておくでな。少々待っているがよい」

「馬鹿にしないでよ……! あなたは私に名乗るが先でしょうが!」

 

 ラズリーの怒号が響き渡った。

 今度はラズリーの根や幹ではなく、葉と枝が剣林弾雨となって襲いかかる。

 

「鋭さに硬さは関係ない。水や紙でさえ鋼鉄を断ち切る。私の枝は名剣魔剣などよりも鋭いぞ……!」

 

 あらゆる角度から襲いかかるそれは、身のこなしで避けられるものではない。

 であれば、防ぐしかない。

 

「竜の麟よ。盾となり我が身を守れ」

 

 我は手を伸ばして魔力を込める。

 するとそこに、半透明の六角形の盾のようなものが複数浮かび上がった。

 

 これは我、ソルフレアの鱗だ。

 

 竜人族の我としてのものではなく、失われた本体の鱗を魔力で再現して盾として使っている。一時的にしか顕現させることはできないが、これを貫けるものはない。多分。

 

「お返しじゃ!」

「ぐっ……!」

 

 翼をはためかせて、盾で防いだ葉をすべてラズリーに送り返した。

 枝が切り刻まれ、ラズリーがたまらず悲鳴を上げた。

 

「名剣と言ったな。剣とはこう扱うものじゃぞ……上手く避けてみよ」

 

 指を揃えて伸ばす。

 

 力を抜いて、体をひねる。

 

 脇を締めて右肘を後ろに引き、指先を貫手の形にして槍に見立てて、たった一瞬に全力を込めて抜き放つ。鋭く、迅く、まっすぐに。我が生まれ変わる前にほんの少しだけ見た、ママの槍捌きように。

 

「食らえッ!」

 

 激しい勢いの刺突が飛んでいき、太い木々を貫通しながらラズリーに襲いかかる。

 その顔が恐怖に染まり、あわや首が絶たれるかと思った瞬間にラズリーは這いつくばって避けた。

 

 一瞬遅れて地震のごとき鳴動が鳴り響いた。

 

 穿たれた木が地面に落下して跳ね、隣の木にぶつかり合い、凄まじい衝撃を響かせ続けている。

 

「ば……ばかな……」

「ラズリー。良い格好だな。心を入れ替え、我に平伏するか?」

「……くそっ、なんなのよぉ……!」

 

 根や幹が暴れ回って土煙を上げる。それがほんの一瞬だけ煙幕のようになって視界が閉ざされた。同時に、枝から一瞬で花が咲いて花粉が噴き出して桃色の霧が土煙を上書きする。

 

「ふふふ……死ぬ前に私のかぐわしい香りに酔いなさい……もったいないけど堪能させてあげるわ!」

「なにっ!?」

 

 そして霧の中から再び、高質化した葉が飛んでくる。

 鱗で難なく弾いたが、この状態で狙い撃ちされてはたまらぬな。

 

 だが甘い。

 

「我を操ろうとしているつもりであろうが、この花粉は魔力を帯びている。つまり催眠魔法じゃ。だが強い魔力の持ち主は催眠などかからぬぞ」

「うるさいわね! ただの目くらましにしかならなくても、今のあなたを相手にするには十分よ! ついでに……風魔法【カーム・フィールド】!」

 

 ラズリーが風を止める魔法を唱えた。

 

「花粉が滞留するように小細工を弄しったか。ならば火の魔法で花粉を燃やせばよいだけのことよ……」

 

 人の身になってから攻撃魔法を使ったことはないが、それでも普通の火魔法程度は使えるはずだ。

 

「【ヘル・ファイア】! えいっ……!」

 

 ぽすん。

 と、間抜けな音が我の掌から出た。

 

 あれ?

 

 呪文とか間違えたかの?

 

 えいっ。えいっ。

 

 と、何度やっても一瞬だけ炎が出るものの、すぐに消えてしまう。

 

「ここじゃ炎の魔法は使えねえ! 松明を使って花粉を燃やせ!」

 

 ゴブリンたちが騒ぎ出したかと思うと、桃色の霧の向こうに明かりが灯った。

 

 そういえば、ここはラズリーが支配する妖樹の森だ。樹木系の魔物は基本的に火が弱点であり、森全体で火魔法を封じておるのであろう。とはいえ火を使わずにはゴブリンたちの生活はままならぬ。魔法を使わぬ火の用意は欠かしておらぬ、ということか。しかしそれはラズリーも承知であろう。

 

「気を付けよ! 灯りが目印になるぞ!」

「だからどうした! お前ばかりに戦わせていられるか! 俺はここにいるぞラズリー! 俺を狙ってみろ!」

 

 ジェイクが折れた木を松明にして高々と掲げた。

 うむ、パパほどではないがよい男ぶりだ。見直したぞ。

 

 だがこの状況ならば霧に紛れてゴブリンを殺しにかかってくるだろう。守ってやらねば……と思ったが、一向に攻撃が来ぬ。

 

「ラズリー! どうしたのじゃ!」

 

 おかしい。

 

 妙に静かじゃ。

 

 ……もしかして。

 

「ラズリー! 貴様っ、逃げおったなぁー!!!!!!??????」

「ばーかばーか! あなたみたいなのと正面からやり合うわけがないでしょう!」

 

 

 

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