邪竜幼女 ~村娘に転生した最強ドラゴンは傍若無人に無双する~   作:富士伸太

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暗黒領域 8

 

 遠くから負け惜しみと罵倒の言葉が響いた。

 すでにかなりの距離を取っている。

 あれだけ啖呵を切っておいて何という奴じゃ。

 いや、そのみっともなさを瞬時に選べるからこそ強いのではあるが。

 

「ええい……太陽魔法【シャイン・フレア】!」

 

 炎以外の属性の魔法で花粉を焼くしかあるまい。

 炎ではなく熱そのものを直接放つ太陽魔法であれば封じられておらぬはずじゃ。

 おりゃっ!

 

「視界が晴れてきたぞ……てか熱っ!」

 

 我の体から太陽の熱を放つ。

 太陽属性であれば効果は出るようじゃな。だが範囲が広すぎてゴブリンにもちょっとダメージがいってしまったようだ。

 

「おっと、すまん。少し範囲を絞るか」

 

 自分の周囲の花粉だけを焼くように熱量を絞り、すると思い通りに花粉だけが燃えていく。

 

 ようやく視界が晴れた先には、玉座のように鎮座していた巨大な木の幹や、沼地に張り巡らされた花がきれいさっぱりなくなっている。

 

 ラズリーが逃げた証拠だ。

 

「まったく……まあ逃げ足の速さは美徳ではあるが」

 

 周囲の魔物たちは、それを呆然として見ていた。

 何が起きたか把握できてない者さえいる。

 

「あれ、ここは……?」

「しっかりしろ、ラズリーの庭園だ。お前はここでずっと働かされてたんだよ」

 

 恐らくはラズリーの花粉による催眠によって、意識が曖昧であったのだろう。

 ラズリー本体が離れたことで、催眠が急激に弱まりつつある。

 状況を理解し始めた魔物たちが、我を畏敬のまなざしで見つめていた。

 ふふん、いいぞ。もっとそういう目で見るがよい。

 

「まさかラズリーを倒しちまうだなんてな……」

「倒してはおらぬ。逃がしてしまったからの。あやつのことじゃ。いずれ報復しに来る。あやつしつこいからの」

「そうか……それもそうだな」

 

 ジェイクが厳しい表情で頷いた。

 

「あ、あのぅ……まずいかもしれません」

 

 そこに、可愛らしい顔をしたゴブリンの女性が心配そうに会話に混ざった。

 

「キリカ! 無事だったか……!」

 

 ジェイクが嬉しそうな顔をして、ゴブリンの女性を抱擁する。

 見たところ夫婦のようだ。

 パパとママもだが、仲睦まじい夫婦とはよいものである。

 

「あ、あなた……会えたのは嬉しいけど、それどころじゃないのよ!」

 

 だがキリカと呼ばれたゴブリンの女性は、必死の形相で訴えた。

 

「なんぞ心配事でもあるのか?」

「ええ……ラズリーは太陽の化身、ソルフレアを蘇らせて己の奴隷にさせようとしてたの!」

「な、なんだってぇ!?」

 

 周囲にいたゴブリンたちが驚愕する。

 心の底から恐怖する者もいれば、半信半疑の者もいる。

 

「いや……無理じゃろ」

 

 当然、我は信じていなかった。

 ないない、それはないと手を横に振る。

 

「本当よ! 皆から奪った魔力を生贄にして、大きな魂の込められた宝玉に祈りを捧げていたの! あれはきっと、ソルフレアに違いないわ!」

「……えっ?」

 

 

 

 

 太陽が陰り、うっすらと月が輝き始める。

 森の奥にぽっかりと空が見える空間には夕暮れの光と薄い月光が同時に降り注ぐ。

 

 そこに、一粒の宝玉があった。

 

 宝玉には魂が宿る。内包される魂が大きければ大きいほど宝玉は大きい。だからこの卵大の石には、大いなる何かが眠っている。ともすれば太陽の邪竜ソルフレアがいるのではともラズリーは期待していた。

 

 大いなる魂といえども、この世に生を受けるときはまっさらな状態となり、人や獣のように親を慕うことがある。ラズリーは己の安寧をより盤石にするため、宝玉に魔力を与えて密かに育ててきた。

 

 宝玉は空から降る光を浴び続けて力をため込み、更にラズリーが奴隷から収奪した魔力と自分の生み出した花粉を与えられ、いまや孵化寸前だ。鳴動が聞こえるほどである。

 

「……あの小娘がソルフレア様なの……? いや、そんなまさか……」

 

 追い詰められた恐怖にかられ、ラズリーは宝玉をすがるように抱きしめた。

 死にたくない。

 千年経って得られた悦楽が奪われるのは嫌だ。

 なんとかしてくれと祈りながらラズリーは魔力を込める。

 

「ラズリー! 往生際が悪いぞ!」

「ひっ!?」

 

 ラズリーは遠くから響く声に恐れおののき、必死の形相で魔力を集め始めた。

 

「この期に及んでは悪しき者だろうが善なる者だろうがなんでもいいわ! 私の魔力を捧げよう……さあ、この世に生まれ落ちて!」

 

 薄く柔らかな月光が、宝玉に向けて燦々と輝き始めた。

 

 

 

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