邪竜幼女 ~村娘に転生した最強ドラゴンは傍若無人に無双する~   作:富士伸太

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暗黒領域 9

 

「月が震えておる……これは……」

 

 ソルがなにかに気づいたときには、すでに遅かった。

 

 宝玉から何かが生まれ落ちようとしている。我が人として生まれ落ちたときと同じだ。恐らく我と同じように、願いや祈りを利用して生まれてくる。逆に言えば、願いや祈りに逆らうことは難しい。ラズリーが自分の忠実な下僕を望めば、そうなってしまうだろう。

 

「くっ……まずいの……! 我のような存在が完璧な形で生まれたらどうなるかわからぬぞ……!」

 

 あのように恐れおののくラズリーが超自然存在を呼び出せば、この周囲一帯がどうなるかわからぬ。

 それに、我の友かもしれない超自然存在が、ラズリーの下僕になるのは忍びない。

 

『俺を呼び出した者は誰だ……何を願う……?』

「やったぁ! ソルフレアではないけど、この気配は大自然の化身ね……!」

 

 まずい、このままでは遅きに失する。

 魔法で妨害するか、いや、間に合わぬ。

 何か……鞄にあるのは……おやつに持ってきたりんごだ。

 雨や曇りが多かった割に、赤々として瑞々しい、立派なりんごである。。

 

 ていうか、なんじゃこれ?

 こんな神聖な魔力に満ちたりんごなんてあったっけ?

 

 いや……犯人は我であろう。無自覚に太陽魔法の力を込めて覚醒させてしまったようだ。だがこれは、供物としては完璧である。我は振りかぶって、宝玉にめがけてりんごを思い切り投げつけた。

 

「ラズリー!  ここは割り込ませてもらうぞ! 御前に供物を捧げる! 我の願いを叶えたまえ!」

「なっ……!?」

『願いとはなんだ』

「うちの羊の面倒を見る牧羊犬がほしいのじゃ!」

『承った。牧羊犬に……えっ、牧羊犬? マジで?』

 

 宝玉が月の光を強く光を放ち、りんごを吸収した。

 

 今ここに、超自然の存在が地上に顕現する。昼間であるはずなのに周囲が暗闇に満ちて三日月が煌々と煌めく。その輝きは宝玉を照らしたかと思うと、宝玉自身が月そのもののように金色の光を放ち始めた。

 

「くっ……この光は……月……? ということはまさか……!」

 

 我もラズリーと同じことを思っていた。

 この輝きには見覚えがある。

 だが金色の光を放つ宝玉は我らの困惑などお構いなしに具体的な形を取り、その姿を見せた。

 

「わん」

 

 ふかふかとした質感と暖かみを備えながらも艶やかで美しい、真っ白い体毛。

 シャキっとしながらも柔和さや人懐っこさが隠し切れない顔つき。

 我と同程度の背丈がありつつ、威圧感を感じさせない大らかな気配。

 そんな姿でおりこうな雰囲気でお座りしているところがもう最高である。

 

「かっ……可愛いのじゃ……!」

 

 まさに我の思い描いた牧羊犬である。

 確か「さもえど」とかいう犬種と思ったが、種や血筋などどうでもよい。

 今ここにカワイイの極致がある。

 

「お手!」

「わん」

「おかわり!」

「わん」

「偉いぞ! おーよしよしよし! おぬし、名は何という?」

 

 犬をわしゃわしゃと撫でる。

 

「……わん」

「む? じゃから何という?」

「わん! わん!」

「……もしかして、喋れぬのか?」

「わん! わんわん! わぉん!」

 

 大いなる自然の化身ともなれば言葉を放ったり、念で思いを伝えることもできるはずなのだが……いや、待てよ。我と同様に転生したならば転生先の肉体に縛られておるのか。

 

 であれば我の方から歩み寄らねばならぬ。というわけで、額をごっつんこしてこやつの真意を読み取る。

 

「犬だから当たり前じゃねえか、お前の願い通りなんだからそこに文句付けんじゃねえよ……という感じか?」

 

 む、こやつちょっと口が悪いぞ。

 だが額を話して様子を見ると、首を縦にぶんぶんと振っておる。

 ほぼ正解のようだ。

 まあ、我を主人として見ていることには違いないし、コミュニケーションが取れたことも喜ばしい。

 良かった良かった。

 

「よくも私の宝物を横取りしたわね……!」

「おぬしが魔力を注いで育てたのであろうが、所有物ではあるまい。こやつはこやつのものじゃ。なにより暗黒領域の法を破っているのは貴様じゃ」

「減らず口を……!」

「さあ! 我が領土を荒らす者を撃退せよ!」

「わぉーーーーーーん!」

 

 額が三日月の形にハゲているサモエド犬は、可愛さだけではない。

 我に匹敵するほどの凄まじい力を秘めている。

 さぞ勇名を馳せた存在であろう……が、今ここより我の牧羊犬である。

 

「げふっ!?」

 

 気付けば、サモエド犬は凄まじい勢いで突進してラズリーを突き飛ばしていた。

 

 

 

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