邪竜幼女 ~村娘に転生した最強ドラゴンは傍若無人に無双する~   作:富士伸太

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暗黒領域 1

 

◆暗黒領域

 

 

「いかん、このままではまずいのう……」

 

 記憶を取り戻してから何度か「我はソルフレアである」と訴えたものの、その度にパパとママにスルーされてしまう。

 

 とはいえパパとママも、冗談と受け取るそれなりの根拠があった。

 

 我を拾ってきたときに神官や占い師に体調や健康状態を診てもらい、「肉体そのものはまったくの健康体」、「生まれが不思議なだけで、魔物や邪神の眷属などではない」というお墨付きをもらっていた。

 

 しかも神官と占い師の連名で「この子は竜の血がかなり強めの竜人です」という証明書まであった。

 

「くっ、我の転生が完璧過ぎたのじゃ……。うーむ……」

 

 我が本気を出して人間に転生をしてしまったのじゃ。

 それに我の肉体の痕跡は完璧に消えておる。

 普通の人間に見破れるはずもなかった。

 なかったが、これではまずい。

 

 農園の隅っこに設置されたブランコを揺らしながら、我はどうすべきか悩んだ。

 何かパパとママを説得する方法はないじゃろうか。

 

「どしたんソル。パパとママと喧嘩した? 犬欲しいなら来年まで待ちなよ。牧場で飼ってる牧羊犬が大きくなるから、子供作るんじゃないかなー。人気あるからまた抽選になっちゃうけど」

 

 そのとき我の隣に、にょきっと金色の髪の明るい娘が現れた。

 我より五つ上の幼馴染、エイミーお姉ちゃんである。

 

「父上と母上に不満があるわけではないのじゃ」

 

「いきなり精神年齢上がっててウケる。中二病になったってマジだったんだ」

 

「エイミーお姉ちゃん! 我は大真面目なのじゃ!」

 

「うんうん。なんだか様子が変だって聞いてたけどあんまり変わってないね。安心安心」

 

「めっちゃ変わったんじゃが? 我、邪竜なのじゃが?」

 

「ウケる」

 

 エイミーお姉ちゃんは大らかで優しく、そして明るく楽しい村の子供たちのアイドルではあるが、ちょっとガサツなのが玉に瑕である。

 

 というわけで、そのおすまし顔を歪ませてやるのじゃ……。

 

「ふふふ……我の真なる姿を見て笑っていられるか見物じゃな……【竜身顕現】!」

 

 我は魔力を高めて背中に集中させ、竜の翼を生み出した。

 ただし、おててと足はそのままじゃ。爪が鋭くて危ないからの。

 

「うわっ、なにそれすっごぉ!? 飛べるやつ!? いいなーいいなー!」

 

 エイミーお姉ちゃんは、我の翼を見て目を輝かせた。

 それはもうキラキラを超えてギラギラってくらい興奮して喜んでおる。

 

「お姉ちゃん図太いのう」

 

「あー、傷付くぅー! 太ってないし!」

 

「でも……なんで恐がったり驚いたりせぬのじゃ?」

 

「だって、みんな知ってるってば。ゴルドさんとヨナさんが自慢してたし。うちの子天才だって。あと邪竜ソルフレアの生まれ変わりだと思い込んでたとか」

 

「うにゃー!?」

 

 ウッソじゃろ?

 我の……我の渾身の訴えが……ご近所にも「あらあら、お年頃なのね」みたいに思われておる、じゃと……?

 

「あのね、ソルちゃん。うちらが住んでるところ田舎だもん。ご家庭トラブルの秘密にするの無理なんよ。ちょっと前は牧羊犬を飼いたくてわんわん泣いてたことも知ってるし」

 

「ほあああーっ!?」

 

「ソルちゃんの魔力とか邪竜ソルフレアの名前に驚くとしたら村の外の人か……あとは暗黒領域の魔物くらいじゃないかなぁ。あ、でも勝手に村の外に行っちゃだめだよ」

 

「む? ……暗黒領域?」

 

 エイミーお姉ちゃんの口から、珍しい言葉が出てきた。

 この村で育った我としてではなく、前世としての懐かしさを覚える。

 実家のような安心感というやつじゃ。

 

「暗黒領域とは……あれじゃろ? 魔物たちがいるところじゃろ?」

 

「そうだね。結界で隔てられてて破られたことはないし近くまで行っても安心だけど……正門の方には行っちゃダメだよ。魔物を殺しに来た冒険者とかゴロツキとか、暗黒領域の中に行こうとする危ない人がたくさんいるから」

 

「うん。見るのは結界だけにしておくのじゃ」

 

「よい子よい子」

 

 暗黒領域を見るため、我は翼を羽ばたかせて飛び上がった。

 

「うおっと、高い高いされる側になっちゃった」

 

 一人で飛び上がるつもりが、気付けば我の腰にエイミーお姉ちゃんが抱きついておる。

 

「これ、危ないのじゃ!」

 

「いやー、絶景絶景……。あ、ほら、あっちが暗黒領域だよ」

 

 エイミーお姉ちゃんが指を指した方向には、鬱蒼とした森や峻厳な山々がある。

 だがその場所とこちらの境目に、何か薄く煌めく膜のようなものがあった。

 

「確かに、結界があるのう」

 

「なんでか知らないけどあの結界は昔からあって、空を飛んでも土を掘っても向こうには行けないんだって。正式な門から入らないといけないんだとか」

 

「うむ。それは魔物たちの決め事……(じゅう)の律が生きておるからじゃのう。諍いが起きたときは獣のように、決闘で正々堂々と決着を付けねばならぬ。戦わねばならぬ者が降参せずに逃げたり、戦う意志の無き者を無理強いして勝負に引き込んだりしてはならぬのじゃ」

 

「へえー」

 

「もしあそこを自由に通行できる者がいるとするなら、暗黒領域の主と認められた者のみ……って」

 

「どしたん? お悩み? 話聞こかー?」

 

 沈黙してしまった我を心配したのか、エイミーお姉ちゃんが冗談交じりに尋ねた。

 

「大丈夫だから降りるのじゃ」

 

 ふよふよと降下してエイミーお姉ちゃんが怪我をしないように地面に降ろした。

 

「ちょっと出かけてくるのじゃ!」

 

「わかったー! 暗くなる前に帰るんだよー!」

 

 お姉ちゃんの声を聞きながら、我は暗黒領域の結界に空から近付いていった。

 

 

 

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