邪竜幼女 ~村娘に転生した最強ドラゴンは傍若無人に無双する~   作:富士伸太

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暗黒領域 6

 

 我は迫りくる拳を見て、ようやく思い出した。

 

 しっかり記憶を取り戻したように見えて、ちょいちょい忘れてることも多いから困る。

 いや無自覚なだけでちょいちょいどころではない気がするが、いずれ思い出していくであろう。

 

「ドリアードの祖。悠久を生きながら悟らず、死を恐れ、未だ刹那を生きる者。美しき貌に宿りし童心の暴力。誰もがお前の稚気を侮り、お前に敗れ去るであろう。妖樹ラズリー」

 

 樹木の拳が我に届いた瞬間、爆発のごとき衝撃が周囲を襲った。

 暴風に吹き飛ばされぬようにゴブリンや魔物たちは地面に伏せるか木にしがみついている。

 

「お、おい……なんだあれ……」

「うそだろ……」

 

 我がラズリーの拳を受け止めたのを見て、誰もが驚愕している。

 それも無理からぬことだ。我よりも拳一つの方が遥かに重く大きいのだから。

 

「竜身顕現だが……普通じゃねえ」

「竜の血が濃い。濃すぎる。翼や角が生えてるだけじゃねえ」

 

 竜身顕現は空を飛ぶ翼、頑健な爪と鱗、そして強力な竜魔法の触媒となる角を生やす。だが我の肉体にはそれ以上の変化が訪れていた。

 

「ふーむ……今更気付いたが、前世の力を完全に取り戻したとも違うの……。人の体としての強さと竜の力が混ざったようじゃな。ま、これはこれでよい」

 

 我の体からは、ルビー色の光が体の表面から迸っていた。

 

 それは竜の血と呼ばれる現象であり、竜身顕現を高度に追求した者だけが使えるものだと後でママから教えてもらった。

 

 そして血が与えるものは、純粋な力だ。

 

「こ……のぉ……!」

 

 苦悶の表情でラズリーが呻いた。

 我は憐憫を抱きつつ、ラズリーの拳を受け止めた。

 

「それが全力かの」

「だったらぁ……こうよ!」

 

 沼地が鳴動し始めた。

 

 地震、ではない。沼地に沈んでいたラズリーの根が浮かび上がって何本もの巨大な拳となった。そのどれもが軋むような音を立てて握り拳を作る。合計十二の巨大な拳が、我に向かって放たれた。

 

「うおっと! 流石にこれは受け止められぬな……!」

 

 樹木の拳の間を縫うように避ける。

 どれもが必殺の威力を秘めており、一撃を防いだところで二撃、三撃と食らえばただでは済まぬ。だからステップを踏むように避ける。

 

「なんで当たらない……なんであんたは死なないのよ……!」

「それはな、ラズリー。我がソルフレアだからじゃ」

「そんなわけがないわ! あの御方は死んだ……この紛い物め……!」

 

 ラズリーが悲鳴を上げながら十二の拳を引いた。

 

 戦意が喪失したかと思いきや、そうではない。拳以外の根を、我の後ろに静かに張り巡らせていた。細い根や枝が我の手と足を縛り上げる。そしてその上から太い幹が絡みついてきた。

 

「なにっ!?」

「潰れなさい!」

 

 縛り上げるという優しいものではない。

 石臼のごとく執拗な密度で押し潰し、すべての骨を砕かんとしている。

 だがそれも、我の憐憫の心を強めただけだ。

 

「待て待て。服が破けるであろうが。このすけべ。女を愛でるなら女に優しくせぬか」

「優しくされたいなら命乞いをしなさい!」

「嫌じゃ。まったく、正面から殴り合った方がまだ良かったぞ」

 

 爪を振るい、根を切り落とす。

 植物系の魔物の体は強靭ではあるが、末端部位の感覚が鈍く、硬さもまちまちだ。

 絶つべき場所を見極めればこの程度は造作もない。

 

「きれいな……太刀筋だな」

「ああ……ただの小娘の腕なのに……昔見た、剣聖みてえだ」

 

 ゴブリンたちが惚れ惚れした様子で呟いた。

 だが、それは我の本質とも違う。

 まあ動きを肉眼で見えるならば鍛えようがあろう。

 本質に気付いたのは、長老のみであった。

 

「あれは……あの瞳はまるで……竜のようです」

 

 魔力の流れや力の流れを読み取り、小さき身に宿った恐るべき剛力を余すことなく伝え、すべてを切断する技の源は、すべてを見通す我が竜の目にある。

 その我が瞳によってラズリーの肉体は千々に乱れ、幹と枝を無残に落とされていく。

 

「ちょ、ちょっとやめなさいよ! あなた、女の体に乱暴して恥ずかしくないわけ!? このすけべ!」

「何言ってるちょっとわからぬ。自分を棚に上げるでないわ」

「やめなさいって言ってるのよ! このっ! 私は! 私自身と! 私に従うみんなを幸せにして守ってやってるんじゃないの! ちょっとくらい魔力や生命力をもらったからって何だって言うの!」

「意思をくじき力を奪い、それを庇護と呼ぶ。それはダメじゃよ」

「全然わかんないわ! それに私に勝ったところでどうせ誰かに負けるのよ! そういう負け犬を愛してあげられるのは暗黒領域でも外の世界でも私だけ! 誰も私なしで生きられやしないわ!」

「敗者が次も負けるとは限らん。おぬしは我に勝とうと思っているであろう。万が一はありえる。同じようにゴブリンもおぬしに勝ちうる。そうじゃろう」

 

 と言って、我はゴブリンを見た。

 ゴブリンは驚き、だが威勢よく拳を突き上げる。

 

「……そうだ! 俺たちは逃げずに戦う!」

「まあ……出番とか全部かっさらわれちまったが……」

「それでもだ! そのために俺たちはここに来たんだ! 死ぬことになっても、お前に屈したままではいれないんだ!」

 

 ゴブリンたちが叫んだ。

 それは、誰がどう見てもやせ我慢だ。

 ラズリーに魔力を搾り取られており弱り切って、元気なのは声だけにすぎない。

 たとえ万全なコンディションだったとしてもゴブリンに勝ち目はない。

 だが最後の一瞬まで誇り高くあろうとする者を愛しておる。

 

「よくぞ言った! あっぱれじゃ!」

 

 

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