すいちゃんはとってもご機嫌。こんなご機嫌な日は最近なかった。そのご機嫌の理由はすいちゃんの手を取って隣を歩いている、ユキくんのお陰。
なんでこんなことになったのかと言えばフブちゃんが昨日スタジオで会った時に話し掛けた時に「急に明日、お仕事が入っちゃってユキくんを映画館に連れていけない」って言ってた。そこですいちゃんはこれはチャンスだと思ってフブちゃんに「私が連れて行ってあげる」って立候補した。
そして今の状況がある。でも、どうやらすいちゃんと同じ考えの人は他にもいたようでユキくんのもう一つの手をピンクコヨーテことこよりが繋いでる。
そんなこよりの隣には…クロヱがいる。
「ねぇねぇ、こよちゃん!」
「まだだよ。クロたんはずっと繋いでたでしょ」
「え~~沙花叉の番だよ」
「や、やめてよ!今はこよりの番なの!」
争う声が聞こえるけどそれは無視してユキくんに話し掛ける。
「あの二人の喧嘩は気にしなくて大丈夫だからね」
「う、うん!わかった!おねえちゃん!」
ユキくんが笑顔で微笑みかけてくれた。これだけでも倒れそうなぐらいに嬉しいし。それにやっぱり『お姉ちゃん』って呼ばれるのはとっても格別な気分。今まで自分がお姉ちゃんと呼ぶことはあってもお姉ちゃんと呼ばれることはなかったから。
そして映画館に着くとチケットを買って…ポップコーンなども色々と買った。ユキくんが何を好きかまだ分からないし、かなり察しの良い子だから「何食べたい?」とか聞くと「大丈夫」って答えちゃうから。
上映されるスクリーンに入って…自分の指定された席に座る。ユキくんを私と沙花叉と挟むような感じでこよりは沙花叉の隣。
「ユキくんって映画館で映画見たりするの?」
「ううん…はじめて」
「え、初めてなの!?」
「うん!だから、とってもたのしみ~」
ユキくんの笑顔を見るだけで…癒される。本当にうちの子にしちゃいたいぐらい、可愛い子。
「そうなんだぁ…今度は沙花叉と二人きりでこようね」
「沙花叉ぁ~抜け駆けは許さないよ」
「そうだよ、ユキくんと今度、一緒に行くのはこよりだしね」
「…こよりも抜け駆けをしようとしたら…許さないよ」
「で、でも…もうユキくんと約束しちゃってますし」
「え、本当なの?ユキくん」
「うん!!こよりおねえちゃんがもっとおおきい、えいがかんにつれていってくれるんだって!」
「こ~よ~りぃ~~」
「こ~よ~ちゃん~」
「二人共、そんな怖い顔しないでくださいよ。そんな顔してるとユキくんに嫌われちゃいますよ」
映画が始まるまでそんなやり取りをしていた。
そして映画はとても切ないもので…ユキくんぐらいの年の子が見るような映画じゃない。最初からこれで良かったのかなぁと思っていたんだけど、隣を見るとユキくんは集中してみていた。その横顔はいつもよりも大人っぽく見えた。
いつもよりも時間が経つのは早くてあっという間に映画は終わりを向けた。
「それじゃあ…そろそろ出ようか」
「うん!」
出口の通路を歩いているとユキくんが後ろから押されて転んでしまった。
「だ、だいじょうぶ!?」
「うん…だいじょうぶ」
その瞬間、私の中で何かが切れた。ユキくんは「大丈夫」と言っているけど、私が許せない。私はユキくんにぶつかった奴の肩を掴んだ。
「おい…謝れよ」
「は?」
「ユキくんがお前に押された所為で転んだんだよ。ぶつかって転ばせたら謝れよ」
「…なんだよ?」
「だ、か、ら…お前の所為で私の大好きなユキくんが怪我しそうになったって言ってるの!大人なのに子供にぶつかっておいて謝れないの?」
「…ごめんなさい」
ユキくんへの謝罪を聞けたので私の気が収まった。
「す、すいせい先輩、さすがに…」
ユキくんは私を見てちょっと怯えているように感じた。
「ごめんねぇ。お姉ちゃんは怖かったよね?」
「…う、うん。こわかった」
「そうだよねぇ…お姉ちゃんのこと嫌いになっちゃった?」
「ううん。おねえちゃんのことはだいすきだよ!」
「そ、そっかぁ。それは良かった」
ここで「嫌い」って言われたらすいちゃんの心が壊れるところだった。だけど…さすがにちょっと反省しないと。いつもの調子で言っちゃったけど、今はユキくんもいるわけだし、あまり怖がらせるようなことは避けないと。
「…たのしかった」
「ほんとに?」
「うん!おねえちゃんたちとすごせてたのしかった」
その時の…ユキくんの笑顔は天使のようだった。