事務所の中にある一部屋で担当している、兎田ぺこらさんと仕事の打ち合わせをしていると急に質問してきた。
「マネージャーって好きな女とかいるぺこ?」
「え…どうしたんですか?」
すると僕はぺこらさんの額に手を当てて温度を測った。
「なにぺこ?」
「だってぺこらさんが変なことを言いだすから熱でもあるんじゃないかと思って」
「ぺこーら、おかしなこと言った?」
「急に好きな女性がいるのとか聞いて来るので」
今までそんなこと一度も聞かれたことないし。
「別にただ気になっただけぺこ」
「そうですか。でも今までのぺこらさんだったらこんなことを聞いてこなかったですし」
「それで好きな人いるの?」
「いませんよ」
「ほんとに?」
「はい。好きな女性はいませんね。ついでに今、お付き合いしている女性はいません」
「ほんと?」
「そんなことで嘘は付きませんよ」
最近は仕事が忙しくて出会いというものがない。でも今はまだ仕事が忙し過ぎてそこまで気にしていないからいい。だけどいずれ自分も年を取っていった時に『一人』を自覚した時にすごく寂しい気持ちになりそうで今からちょっと怖い。
そんなことを考えていると急にぺこらさんは変なことを言ってきた。
「じゃあさ…ぺこーらがマネージャーの彼女候補に立候補していいぺこ?」
「………」
「ど、どうしたぺこ?」
「いや、こっちのセリフだよ。なに言ってるの?」
「え、ぺこーらはただマネージャーが好きだから彼女になりたいだけぺこ!」
もしかして僕がおかしいのかな。今まで兎田ぺこらという一人のタレントのマネージャーとして仕事してきて、兎田ぺこらのことは分かっているつもりでいた。
でも、それはどうやら間違いだったようだ。僕は兎田ぺこらというタレントを理解できなかったみたい。
「だっていま、彼女いないぺこなんでしょ?」
「いないですよ」
「好きな人もいないぺこ?」
「いないです」
「それならぺこーらがマネージャーの彼女候補になっても問題ないぺこじゃん」
「いやいや、問題ありですよ!」
ぺこらさんは何が問題なのか分かっていない様子だ。
「なんで?」
「いやまずタレントとマネージャーが恋仲になるなんて許されるわけないじゃないですか。特にぺこらさんはもし、バレたら失うものが大きすぎます。自分はぺこらさんのマネージャーとしてそんなことになる、ぺこらさんを見たくないので」
ぺこらさんの目の前には新たなステージがある。これからもっとぺこらさんが光り輝くためにも僕とぺこらさんが恋人同士になるなんてことがあってはならない。それにそういうことを口にするだけでもお互いにとってマズイ。
「じゃあさ、ぺこらがホロライブを辞めたら付き合ってくれるぺこ?」
「…いやいや…そういう話じゃなくて…」
「なにがダメぺこ?」
「だ、だって…」
「ぺこらは別にいいぺこ。マネージャーがぺこらのことをもらってくれるなら」
そう口にした時のぺこらさんは冗談を言っているようにも、嘘を言っているようにも見えなかった。本気そのものでこれを茶化すのは違うように感じる。これは真摯に受け止めてあげるべき…。
「ぺこらさんは本気なんですね…」
「本気ぺこ。冗談でこんなこと言わない。マネージャーのことが好きだから本気で一緒に居たいぺこ」
これだけ臆せずに自分の気持ちを伝えるぺこらさんは強い。こんなことを告白のようなものをされている立場の人間が思うのはおかしいかもしれないけど、もしここで僕が断ればこれからやりにくいと思う。だってお互いに仕事上ではタレントとマネージャーという嫌でも関わっていかなければいけないのに…。
たぶん、ぺこらさんもそこら辺は色々と悩んで………最終的に打ち明けてくれたんだと思う。
「その気持ちは有難いです。ぺこらさんが僕のような人間を好いてくれたのは…」
「ううん。ぺこーらはあんただから好きになった。他の人だったらこんなに好きになれなかったと思う。だからあんたはもっと自分に自信を持っていいの。ぺこーらが太鼓判を押してあげているんだからさ」
僕がどう答えようか悩んでいるとぺこらさんの方がまた口を開いた。
「すぐに答えを聞かないぺこよ。あんただって色々と悩みもあるだろうし、ぺこーらのことを異性として好きじゃないのはぺこーらも分かってるし。もしあんたがどんな答えを用意しても絶対にぺこーらはあんたのことを諦めない。これだけはしっかりと伝えておきたかったぺこ」
真剣な眼差しで僕のことを指差しながら宣言した。
「…わかりました。ほんとうにぺこーらさんはすごいですね」
それから色々と経て……3年後に一生添い遂げることを約束にするのだった。