強欲少女のヒーローアカデミア   作:pastel

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13話『強欲VS洗脳』

 第2種目が騎馬戦に決定し各々がチームを決めていく中レグルスの周りには誰1人寄ってこない。まあ当たり前だろう、障害物競走で4位を取ったとはいえその言動から協調性を欠片も感じないのだから、団体競技で彼女と組みたい人間はまず居なかった

 

 そもそも彼女は変な見栄をはって個性の詳細を明かしてなかった為戦略にも組み込みずらい存在。このままではチームを決められず失格になってしまうが、そんな事に焦る様子もない彼女に1人の生徒が近寄ってきた

 

「レグルス、俺と組んでくれないか? 俺の氷結をものともしないその防御性能とスピードがありゃ1000万を狙える。USJでの借りをまだ返せてねえのに、またお前を頼るなんて権利の侵害とか言われちまいそうだけど。それでも1位を目指す以上、ここはお前と組みたい」

 

「なるほど、君は存外賢い人間みたいだね。良いだろう、その提案を受け入れてやる。安心しなよ、この競技既に勝ったも同然さ」

 

 ー

 

 結果から言えば1位になれた。最後の最後まで私はお前の馬ではないと愚痴愚痴言っていたレグルスに周りは呆れていたが、冷静な轟の判断と飯田の隠し技により予定通り1000万を奪取する事に成功

 

 レグルスはこの競技中特に何もしていない。獅子の心臓がなくとも八百万の創造と轟の氷結で防御面は事足りていたし、そもそも協力というのは満たされていない者がやる事であって個として完結している自分が手を貸してやる道理はないと思っていた。

 

 ー以下騎馬戦の記録から抜粋

 

「───君がどれだけ傲慢で強欲な人間かなんて知りたいとも思わないけどさ、そうやって人を踏み台にして上にいる事に何の抵抗も持たないって人としてどうなの? 君達が元より犠牲の上でしか自分の価値を示せない愚かな生物っていうのは私も理解して配慮してやってるつもりだけどさ、その温情を靴で踏みつけるって一体どれだけ歪んでるんだよ。恩を受けたらその人には恩を返さないとならないよね? それが人として当たり前の感性だ。私が欲しいのは謝罪じゃなく感謝なんだよ、察せるよね普通は? それか、そういった常識や秩序がない世界で君は育ってきたのかな? 奪うのが当たり前、奪われた者は一生奪われたまま。そんな世紀末な環境に生まれた訳でもないよね君は、ごく普通の生活を送って今の君があるならもう破綻者だね。君みたいな破綻者が1番タチが悪いんだよ、やる事なす事滅茶苦茶で、その実自分は何も悪いことしてませんよーって顔してお咎めなし。過去にも未来にもその行いのせいで何もしていない善良な人間が損をしてるんだよ、その損をした人間から生まれてくる命も損をしてるよね? もうそれは大罪だよ、到底許される事じゃない。君はこの先沢山の人を救うつもりでいるのかもしれないけどさ、どれだけの人を救おうが過去に君のせいで損をした人間はいつまでも救われる事はないんだよ。沢山良い事をして過去の罪を帳消しにします、なんてどう考えてもおかしい理屈だよね? それは過去の罪からの現実逃避でしかない。つまり君は今私の事を踏みつけにしている事から目を逸らして、必死に私という存在から目を逸らして、その罪を認識しないよう逃げてるって事だ。つまり私という1個人の事なんてどうでもいいって思ってるわけだろ? それってさ、私という個人の権利の侵害だと思うんだけど?」

 

「か、彼女は1人で何を喋ってるんだ……?」

 

「あまり真に受けなくていいと思いますわよ、飯田さん。今はこの勝負に集中を」

 

「あぁ、こいつにはこいつの。俺達には俺達の出来ることをやる」

 

「あのさぁ! 君はどれだけ───」

 ー

 こ れ は 酷 い

 

 もしレグルスが騎手をやっていれば彼女の機嫌は少しマシだったかもしれないが、騎馬戦という性質上騎手の身体能力と精神性が最底辺ではどんなに強個性でチームを固めたとしても敗北しか有り得ない為仕方なかったのだ。もし彼女以外に悪い所があるのだとすれば、騎馬戦が選ばれた事くらいだろう。

 

 最終種目のトーナメント参加が決定したレグルスは未だに愚痴愚痴言いながら関係者用通路を歩いていた。

 

「……こんな子供の遊びに付き合うんじゃなかったよ。まるで私が道化みたいじゃないか、趣味の悪い競技に趣味の悪い観客。未来の英雄を見世物にする輩なんて全員死んでしまえよ。何の力も持たないクズ共が私を嘲笑していい理由なんてある訳ないだろ、あってたまるかよ。ここで私が辞退すればどうせ逃げたとか諦めたとか言い出すんだろ、ふざけるなよ。お前ら如きが私の……!」

 

 ……それもこれも権能が不完全なせいだ。私が完璧である証明として世界から授かったはずの権能は獅子の心臓だけなら私という存在を否定するかのような不完全さを秘めている。それがもう1つの権能によって補われるはずなんだ、そうして私は完璧で完成された全てにおいて完全な存在として君臨するはずなのに……何故使えない? 私の何が足りない? 効果は分かる、心臓の代償を消す為の権能だ。なのに何故私はこれを使えない? 私の意思を否定するならそれは権利の侵害だろ……それとも

 

 ───剣聖なら、使えるのか? 

 

 ……っどこまでも私の事を虚仮にしやがってあの男はそうまでして私というちっぽけな存在を否定したいのかよ!? 全てを持っていて尚人から奪おうとするのかよ。それが英雄の所業なのかよ、どこまで強欲なら気が済むんだよ!? 

 

 彼女の持つ個性は周りからは獅子の心臓だけだと思われているが違う。彼女が授かった強欲の権能は2つ……「獅子の心臓」と「小さな王」

 

 本来擬似心臓を誰かに寄生させてしまえばレグルスは永続的に獅子の心臓を使用できる。元のレグルスがそうしていたように、彼女も過去に試してはいた。彼女はこの歳で伴侶を作る事で周りから孤独に耐えられない寂しい女だと憐れまれたくなかった為わざわざ捨て猫を探し、パックと名ずけ彼女なりに愛を注いだが猫は宿主にはならなかった。

 

 元のレグルスの真似事をするなど言語道断な為彼女は探すのではなく待つ事にし、そして今に至る。強欲な少女は信じて疑わないのだ。いずれ運命が私を導き、剣聖すら超えた完全な存在にしてくれると───

 

 ー

 

 トーナメントの対戦相手を決めるくじ引きが行われようとしていた中、まさかの棄権者が現れる

 

「俺の……プライドの問題なんだよ、俺だけ何もしてないのにこのまま本戦に出るなんて、俺が嫌なんだ」

 

「僕も棄権したい。実力以前に、何もしてない者が勝ち上がるのはこの体育祭の趣旨に相反するのではないだろうか?」

 

 スポーツマンシップの権化のような2人に周りが関心し、そして1人の少女に視線が集まる

 

「……なんで私を見てくる訳? あのさ、もしかしてだけど君達は私に何か言いたい事でもあるのかな? いいよ、私はその意志を尊重してやろうとも。ほらはっきり言ったらどうなんだよ? まさか、人に不躾な視線をぶつけておいていざ相手にバレたら黙りする訳じゃないよね? そんな人として恥ずべき行為を仮にもヒーローを志してる君達がする訳ないと信じてやりたいんだけどさ、そうやって気まずそうに視線を逸らされるといくら寛大な私でも……「なぁ、あんた」はぁ? あのさ…………」

 

 ───静寂。この世でレグルスのお喋りを止められるただ1人の少年によってこの場が収まった

 

「あー大丈夫そうかしら? まあとりあえず! 尾白、庄田の棄権を認めます!」

 

 棒立ちで虚ろな目をしたレグルスを放置し話が進んでいく。棄権者が現れたことで他の生徒が繰り上げられ、トーナメントの対戦順が発表される

 

 レグルスVS心操

 

 緑谷VS轟

 

 塩崎VS上鳴

 

 飯田VS発目

 

 芦戸VS瀬呂

 

 常闇VS八百万

 

 鉄哲VS切島

 

 麗日VS爆豪

 

 

「レグルスって……おいおい……運が良いのか悪いのか。まぁ1回戦よろしく……って聞こえちゃいないか」

 

 そのまま歩き出す心操。洗脳されたレグルスは指1本動かせず思考がまとまらない中去っていく心操の背中をジッと見つめていた

 

 ー

 

《さぁ第1回戦! 期待の編入生! ヒーロー科レグルス・コルニアス! そして! ごめん! まだ目立った活躍無し! 心操人使!》

 

《場外に落とすか行動不能、または降参を宣言させる! それが勝利条件だ! だが、命に関わるような攻撃はクソだぜ一発アウト!》

 

「これは心の強さを問われる戦い……強く思う将来があるならなりふり構ってられないんだよ。分かるか?」

 

「はぁ? いきなり何言い出すわけ?」

 

「あの猿はプライドがどうの言ってたけど、せっかくのチャンスをドブに捨てるなんてバカだと思わないか?」

 

《レディースタート!》

 

「一理あるね、そんな……」

 

 まただ……体が……動かない……権能は? ダメだ、思考がまとまらない……

 

「俺の勝ちだな」

 

 心操によって洗脳されたレグルスは脳にモヤのようなものがかかり思考がまとまらず、権能の行使すら難しい状態になってしまう

 

《おいおいあの口うるさいレグルス・コルニアスが完全停止したぞ〜!? 心操ってひょっとしてかなり凄いやつだったのか〜!?》

 

「何だっけ? 完璧で完成された満たされてる存在……だったか? 聞いて呆れるな。良いよな、そっち側の人間はさ……振り向いてそのまま場外まで歩け」

 

 洗脳したものを意のままに操る心操に為す術なく敗北してしまうと誰もが思ったその時……レグルスの思考が1つに纏まりかかっていたモヤが一気に晴れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────こいつ今、私に命令したのか? 

 

 

 

 

 それを回避できたのは奇跡かそれとも彼女の慈悲か。心操に向かって放たれた真空波は真横を通り過ぎた瞬間分散し、観客席にはその風圧だけが届いていた

 

 何が起きたのか周りは把握すら出来ておらず、ただ彼女の殺意を一身に浴びた心操と攻撃を行ったレグルスだけがこの状況を把握していた

 

《おーっとレグルス! てっきり洗脳されたかと思ったが命令には従わず〜!? あいつの個性って洗脳すら効かねえのか!?》

 

《いや、洗脳は確実にされていたはずだ……あいつは、方法は知らんが自力でその洗脳を解きやがった》

 

「っ……! お前、それで本当にヒーロー目指してんのかよ!? 何でお前みたいな奴がヒーローになろうとしてるんだよ!? 恵まれた個性を持ったからかよ……その個性をヴィラン向きって貶された事はねえのかよ!?」

 

「あのさぁ、君が私にどんな小細工したかなんてどうでもいいんだけど、いくら何でも命令は頂けないなぁ? それは私の許容範囲を超えてる。人を操る個性、別にそれは許してやるよ。この私に対してその個性を2度も使って私の権利を侵害した事も今は許してやる。でもさ、その思いやりを、その慈悲を、その優しさを君が利用していいという事にはならないと思うんだけど? そうやって人の優しさにつけ込んで自分の都合が良い方に物事を運ぼうとするなんて君はもうヴィランと遜色ないよ。個性がヴィラン向きとかヒーロー向きとかさ、そんな些細な評価、他者の戯言に真剣に耳貸して生きてるようじゃいつまで経っても君が満たされる事はないって理解した上で私に質問を投げかけてるわけ? ていうかさ、君は私に質問を行える立場じゃないよね? 自分のした事棚に上げて私を貶めるって一体どういう教育受けてきたわけ? ヴィラン向きなのは個性じゃなくてその精神だろ、履き違えるなよこのヴィランが。ほら、早く敗北宣言をしろよ。まさか、この期に及んで私に立ち向かおうとする程君は愚かじゃないよね?」

 

「俺は……お前が怖い、そんな平然とした態度で簡単にこんな事できるお前が怖いよ。でもさ……それでもさ、夢見ちまったんだよ。こんな個性でも誰かを助けれるんじゃないかって、ヒーローに憧れちまった俺は……もう充分すぎる程愚かな人間だ!」

 

 自分自身に発破をかけ折れることなく立ち向かう心操。遠距離攻撃が可能な彼女の土俵で戦う訳には行かない為、距離を詰めようと走り出す

 

「はぁ……そんなに死にたいわけ? どこまでも人の話を聞かないんだよな満たされてない人間ってのはさぁ! そうやって希望論だけ唱えてれば生きていけるとでも思ってる君みたいな人間が私は1番嫌いなんだよ! 君は私に勝てると思ってる訳じゃない、ただ願望と蛮勇で体を動かしてるだけに過ぎないただの愚者だ、一生かけても手に入らないものを望んで身を滅ぼす典型的な「俺はお前に勝つぞレグルス」はぁ!? 君はどれだ…………ぐぁ!?」

 

 心操に殴られ洗脳が解ける

 レグルスは先程自力で洗脳を解いたが、洗脳自体には効果がある事を心操は理解していた。故に洗脳を解かれる前にこちらからアクションを起こす。洗脳し、動きを封じて確実にダメージを与えていく戦法を選んだ

 

 自力で洗脳を解くことができる以上命令は無し、場外まで運ぶのも時間がかかりその間に意識を戻されれば敗北。となれば彼に取れる選択肢は彼女を行動不能にする事しか無かった

 

「ほらどうした! 負け惜しみの1つくらい吐いてみろよ! 俺は慈悲深いから聞いてやるぞ!?」

 

「お前ぇ……そんな事を…………っがぁ……!」

 

 顎を殴られ脳を揺らされたレグルスに心操が追撃を行い、ジリジリと追い詰ていく。レグルスも心操の個性を理解していない訳では無い、理解した上で尚相手の挑発に乗ってしまう彼女の悲しい習性が自らの首を絞めていた。文字通り、天敵。

 

「……あのさぁ、調子に乗るのも大概にしてくれない? 君みたいな自分が特別だと勘違いしちゃってる痛い奴ってこの世にいっぱいいるけどさ、そんな中でも君は群を抜いて恥ずかしいよ! ほら共感性羞恥ってやつ? 見てるこっちが恥ずかしいみたいなさ、あるじゃない? そうやって君が思い上がった行動をする事になんで私が羞恥心を覚えないといけないわけ? 「あのさぁ、お前今俺に負けそうになってるのに気づいてないのか?」……っ一体何度私の権利を侵害すれば気が済むのかなぁ君は!?」

 

 レグルスに洗脳が通用する、それは間違っていない。通常なら洗脳は絶対に効果を発動する。だが絶対不変の存在になった彼女に常識は、この世の法則は通用しない

 

「はっ!? なんで効いてねえ!? 何だよ、何した!? 洗脳自体は効くはずだろ!?」

 

「お前如きが私に勝てると本気で思っちゃったわけ? 有り得ないんだよそんな幻想はさぁ!? 思い上がるのも大概にしろよ、格下がぁ!!」

 

 レグルスが手を鳴らし、時間停止が付与された空気を圧縮していく。それは解除後、抑えられた運動エネルギーが一気に解放され人を簡単に吹き飛ばす衝撃波を発生させる。結果───

 

《心操人使! 場外ー!! 

 勝者レグルス・コルニアス!》

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