強欲少女のヒーローアカデミア   作:pastel

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15話『強欲VS半冷半熱』

 轟焦凍はレグルスから自分の在り方というものを教わった。大事なのは自分自身。自分が授かった力は他の誰のものでもなく自分の力であり、それを人にどうこう言われるのは権利の侵害であると───

 

「焦凍、ようやくお前が左を使うようになって嬉しく思う。まだまだ使い方は粗いがそこはこれから磨いていけばいい、大事なのは今ではなく未来。お前は俺を超え、オールマイトを越え、No.1にならなければいけないんだからな。職場体験は俺の所に来い、それから───」

 

「お前の野望なんてどうでもいい、俺が左を使うようになった事についてお前は全く関係ねえんだよクソ親父。右も左も、これは俺の力で俺の個性なんだ。それをどう使うか決めるのはお前じゃない、俺だ。それは俺が持っていて当然の権利だ。確かに俺はNo.1になりてえがそれもお前の為じゃない、俺の為。俺がどう生きるかもどう個性を使うかもそれは俺が選ぶ……俺は俺がなりたいもんになる。もしそれについてとやかく言ってくるんならそれは俺という個人の権利の侵害だ」

 

 轟焦凍は───彼女の影響を受け過ぎてしまったかもしれない。レグルスに命を救われ、レグルスに在り方を教わり……彼女の事を信頼しきっている轟は彼女の在り方を”おかしい”とは思えなかった

 

「し、焦凍? いきなりどうした、それはまるであの小娘みたいな口調じゃないか。まさか彼女の影響か!? 彼女がお前に左を使わせたのか!? 焦凍! 説明しろ! 俺は今! 冷静さを欠こうとしている!!」

 

「もう既に欠いてんだろ……まぁ俺がレグルスに色んなもん貰ったのは事実だ。俺に足りないもん持ってるあいつが、何を思ってそれを分けてくれたのか何て俺なんかには分からねえ、分かるはずもねえ。だってあいつは俺よりもずっと上にいる。障害物競走も騎馬戦も、あいつは本気を出せばぶっちぎりの1位になれたはずだ。確かにあいつは神経質で、人に誤解されやすい人間かもしれねえ、でも本当は優しくて、それでいて強い奴なんだ。自己紹介の最中に攻撃されても許してくれるし、俺より自分の方が強いの知ってて俺に護衛を任せてくれた。それなのにその護衛すら完遂出来なかった俺を救ってくれて、オールマイトみたいに余裕そうな表情でヴィラン倒しちまって……どこまでも、すげぇ奴なんだ。自分の事を完璧で完成された人間だって自称するのも分かるくらいな……俺はあいつから貰ったもんを大事にしたい、その上であいつに並べるようになりたい。こんな事、あいつに知られれば「それこそ満たされてない人間の強欲な思考回路だ」とか言われちまいそうだけどな……」

 

「し、しっ……しょ……焦凍ォォォォォ!!!」

 

 エンデヴァーの嘆きの声が通路に響き渡る。レグルスの事を雄英襲撃事件に乱入した小娘程度に認識していた彼はこの体育祭で彼女の仕上がりっぷりをこの目で確かめた。そしてよりにもよって自分の息子が彼女の毒牙にかかっているなんて……彼の脳内は絶望の二文字で埋め尽くされていた

 

 ー

 

《第2回戦第1試合!! レグルス・コルニアスVS轟焦凍が始まるぞぉ!!!》

 

 あまりにも過大すぎる評価と重い想いを貰った強欲少女レグルスさんはそんな事露知らず。いつも通り煽る事から始める

 

「さっさと投降するのを薦めるよ。私は優しいし人を甚振る趣味は無いからさ、今ここで君に選択のチャンスを与えてやってるわけ。私としては君だけじゃなく誰とも争いたくなんてない。だってこれ程無意味な事ってないだろ? 力の差は歴然、どうやったって敵わない相手と戦うってそれ即ちただの思考放棄さ。それこそさっき君と戦ってた緑髪、あいつなんかその筆頭だ。勝てるわけが無いのに自分の体を壊しながら必死に立ち向かう、あんなのはただの蛮勇、というかただの馬鹿だね。理想と現実の乖離を理解できない典型的な弱者。君はそうじゃないだろ? 君は自分の頭で理解出来ているはずだ。私に勝てるはずがないってね、もしそれを理解した上で諦めないなら君は彼以下の大馬鹿者になるけど大丈夫かい? 満たされている私は君に選ばせてやるよ。敗者を思いやる余裕が私にはあるんだ」

 

「あぁ、お前と俺にはまだまだ差がある。それでもトップを目指す以上、お前みたいになりたい以上はここで少しでも近づかなきゃいけねえんだ。あと緑谷はああ見えて結構賢い奴だぞ、あれは個性的に仕方ない戦い方だと思う」

 

《レディースタート!!!!》

 

 開始の合図と共に氷結で速攻を狙いに行く轟だが、レグルスは動く事無く獅子の心臓を使用し防御と同時に氷を破壊する

 

「はいはいそーかよ、このわからず屋が。っていうか君の事情とかどうでもいいんですけど? 大事なのはそこじゃなくて私の慈悲を拒んだ事だろ!? 人の思いやりを踏みにじっといて心が痛まないわけ? 何て酷い奴なんだ君は! 私は争い事はしたくないって言ったんだよ、なら私の気持ちを尊重してその慈悲を有難く受け取るべきだろ? それが両者共に幸せになれる最良な形だよね? それをしないって事はつまり意図的に相手を不幸に陥れたいって事だろ!? 言い換えれば私を不幸にしてやりたいって事だ! 一体君に何の権利があってそんな事をするのかなぁ!?」

 

(やっぱ効かねえか……USJの時もそうだったが、あいつは周りが凍ってる中1人平然としていたし攻撃された時も吹っ飛びはしてたがダメージ自体は食らってなかった……脳無に殴られた時もそう。でも吹っ飛んだ後ぶつかった時は傷を負ってたし無敵って訳でもねえ……そもそもあの挙動がおかしい高速移動とか、脳無戦で見せたあの攻撃力も、本当に1つの個性で成せる技なのか……? 時間制限がある代わりに色んな事ができるとか、漠然としたもんしか思い浮かばねえ……”絶対不変”って何だ?)

 

 グチグチ言ってるレグルスを見ながら冷静に彼女の個性について考えていた。個性発動中はあらゆる攻撃を無効化できる防御力、周りの影響を遮断した高速移動、物理法則を無視した攻撃。全てが特化し過ぎて逆に分からない状況になっていた

 

 そもそも騎馬戦の時彼女から個性の事について聞いた時の返答が

 

「”絶対不変の存在”……?」

 

「あぁ、彼女は確かにそう言っていた。自分は個性発動中絶対不変の存在になれると。それがどういったものなのかまでは教えてくれなかったがな」

 

「うーんよく分からんねえ、絶対に変わらないのがあのスピードとか無敵に繋がってるって事?」

 

「それだ麗日さん! 絶対不変の存在……つまりレグルスさんは個性発動中何をしても変わる事が無いって事だ、殴られても凍らされても変わらないからダメージを受けない。待てよなら何であんな高速移動が出来るんだ? 僕の予想では個性発動前の状態を保存する個性だと思ったけどそれなら高速移動の説明がつかない、いや考え方が違うのか? 絶対に変わらないから攻撃を受けないのは本質じゃない? もっと別の何かがあってその結果攻撃を食らわないって事何じゃないのか? そういえばレグルスさんは水を掴んでたんだ、つまり物体にも個性を使用できるのは確定。絶対に変わらない水絶対に変わらない水……重力の無視……? そうだレグルスさんは個性把握テストの時ボール投げで無限を出してた麗日さんと同じボールが重力に逆らって無限に飛んで行った。絶対不変っていうのは重力の影響すら受けない事を言うのか? その理論で行けばあの高速移動も普通人間が移動する際に発生する摩擦や空気抵抗の影響すら受けてないから出来ていると考えればしっくり来る、絶対不変って本当に何があっても性質が変動しないって意味か……! いや待てなら何で個性の使用場面が限定的なんだ? 何か制限があるのか確かにUSJの時も───ブツブツブツブツ」

 

「デクくんほんと凄いね……」

 

 緑谷出久の分析はかなり的を得ていた。自身と物体の時間を止める事によりあらゆる法則や影響を遮断する事が出来る獅子の心臓、そのデメリットまでは気づくことが出来なかったが───

 

 ー

 

 轟が氷結と炎を交互に放ち、レグルスが防ぐ。その繰り返しだったが着実に追い詰められていたのはレグルスの方だった。そもそも轟の個性は氷炎が体温に影響する程度だが彼女は個性使用の度心臓を止めている。長期戦になればどっちの方が不利かは明白だ

 

「はぁ……さっきからずっと同じ事やってるけど、どれだけやっても意味は無いって気づかない訳? 君程度の攻撃なんて痛くも痒くもないんだよ、私は心身共に揺らぐ余地のない完璧な存在だ。君の氷も炎も私に影響を与える事は出来ないんだよ、そんな権利はないからね。やり続ければいつかは実るかもなんて思うのは子供までだよ? 現実を見て、私を見て、理解出来たなら、後は参ったと言うだけでいいんだ」

 

 心臓の痛みは彼女も認識している。それを理解して尚舐めプを辞めず、煽りも辞めず、いつまで経ってもレグルスが学ぶ事はない。

 

(左も右も効果なし、遠距離がダメなら次は近距離で攻めるか。あいつの個性が分からない以上は1つずつ検証していくしかない)

 

《遠距離から攻めていた轟が距離を詰め出したー! 氷結で移動しながら相手を囲うなんて器用な奴だなぁ!》

 

 氷結で囲うことで逃げ場をなくし、その上から炎で攻撃を行う轟だったが、その炎も彼女の息1つで消散した。だがその炎は本命ではなくただの視界妨害、炎が消えた瞬間レグルスの目の前に拳を構えた轟がいた

 

「うぐぅう!?」

 

《モロに入ったー!!》

 

「……手加減してやってるだけ……なのにさ……自分が強いとか勘違いするなよ!!!」

 

 炎を消した瞬間に獅子の心臓を解除したレグルスは腹に重い一撃を貰ってしまった。床に転がった彼女は追撃を行おうとしてる轟に対して反撃する為地面を全力で叩く事で揺れと衝撃波を発生させ轟の接近を妨害する事に成功した

 

「もうこんなくだらない茶番は終わらせよう、最初も言ったけど私は争いとか嫌いだし人を甚振る趣味もない。君のせいだよ? 君が諦めないから私が直接君を倒さなきゃ行けなくなった。酷い話だよね、望まない暴力を強制させられたんだよ私はさ。それってつまり私の権利の侵害だって事だよね? 君はどう責任を取ってくれるのかな? 仮にもNo.2の力を利用して無抵抗の女性に暴力を振るった親不孝者の君にそんな責任能力があるなんて期待してないんだけどさ、期待してるされてる関係なく君にはその責任を取る義務ってのがあるよね?」

 

(決まりだ……レグルスは個性を使い終えた後、再度使用するのに数秒程度だが時間がかかってる。その隙をついていくしかない)

 

「挙句の果てには無視かよ? いるんだよねそうやって都合の悪い事言われたら黙りする奴。どんな教育受けてきたらそんな人間になれる訳? ほんと信じらんないよ。私には低俗すぎて理解できないな」

 

 

 氷結で視界を塞ぎ、炎で攻撃する事で個性を使わせ、終了のタイミングで打撃を入れる戦法に切り替えた轟にレグルスは焦りながら尚煽る事を辞めない。そして轟は1つ思い込みをしていた。レグルスの高速移動、あれは障害物競走の時が最高速度……ではない

 

「ほんと笑っちゃうよねぇ? ちょっと遊んでやっただけでどいつもこいつも私に勝てるかもなんて思っちゃうんだからさぁ! 満たされてない人間ほど幻想を抱いちゃうんだよ、手に入らないものを諦められないその強欲さが身を滅ぼすって事を理解できたかい? 相手が私だった事に感謝して、次からはもっと謙虚に生きるんだよ? 君に”次”を与えてやるのが私が君に贈る最大の慈悲さ」

 

「さっきまでそこに立ってたはずなのにいつの間に!? クソっ!」

 

 急に背後に現れたレグルスに対して焦りながら氷結で対応する轟。奇しくもUSJで初めて会った時と同じ状況に陥った。明確に違うのはその氷結を彼女が予測していた事───

 

「無意味だって事が未だに理解できてないのかよ? そうやって諦めないで立ち向かう姿が立派だとか思ってるのかもしれないけどさ、私からしてみればただのバカだよ!」

 

 氷結を破壊し轟を掴みあげ場外に投げ飛ばす。彼女にはこれが最初から出来た、出来た上で最後の最後までやらない。追い詰められればやる、そんなどこまでも小物なレグルスに轟焦凍は敗北した

 

 飯田が準決勝前に早退したことによりレグルスは決勝進出が確定、正直これ以上獅子の心臓を使用してわざわざ見世物にされながら戦うのはどう考えても割に合わないと思ったが辞退だけはする訳に行かなかった。逃げたなんて思われるのは絶対に嫌だから

 

 ー

 

 決勝前控え室にて───

 

「さっきからクソみたいな舐めプして気持ちいいかよ? 白髪女ァ……俺にも舐めプしてきやがったら殺すぞ……後なんでここにいやがる半分野郎」

 

「あのさぁ、急に入ってきたと思ったら開口一番それかよ? いるんだよね君みたいな自分は他とは違うって勘違いしちゃってる哀れな人。私が手加減してやってるのは相手を貶めたいからじゃなくて、私の思いやりと余裕によるものだ。満たされてる私は常に満たされていない君達に選択の権利を与えてるんだよ、だってそれすら奪ってしまったら君達にはもう何も残らないからねぇ? 空虚で哀れな存在に成り下がるのを防いであげてるんだよ?」

 

「レグルス、今度家来ないか? 姉さんが会いたいらしい。一緒に飯でもどうかって」

 

 誰に対してだろうと平常運転のレグルスと何故か彼女の控え室にいる轟。ただ控え室を間違えてしまっただけの爆豪は後に退けなくなり宣戦布告を行うが2人共爆豪は眼中に無い

 

「人の話聞けや殺すぞ!! どうでもいいんだよ飯の話は!! お前の相手は俺だ! 俺を見ろ! 本気でかかって来いよ、それを上からねじ伏せてやるからよォ?」

 

「あーやだやだ、殺すだのクソだの汚い言葉遣いして自分を取り繕ってる君みたいな余裕がなくて器の小さい人間を見ると憐れで仕方ないよ。でも、そうやって自分が私より弱いと自覚してる所は評価できるね。相手との実力差を理解できる賢い人間は思いの外少ないものだ、私程誰よりも上にいる完璧な存在も少ないから、それも仕方ないといえば仕方ないのだけどね。ほら、宇宙の外側を人が想像できないのと同じさ。次元が違うっていうのはそういう事だよ、あまりにも遠すぎる。なのに近い場所にあるから手が届くんじゃないかと勘違いしちゃうんだよ笑っちゃうよねぇあまりにも憐れでさぁ!」

 

「いや、レグルスが殺される訳ないだろ? レグルスはヴィランを前にしても一切恐怖せずに立ち向かったんだ。お前はあの時レグルスの事見てなかったから仕方ねえけど、あんまそういう事言うなよ」

 

「だから人の話聞けやクソがァッ!!!!!」

 

 やはり彼はレグルスの影響を受け過ぎてしまったかもしれない。別に彼女が意図して轟焦凍をこういう風にしようとした訳ではない、彼の天然性と彼女の自己中心性が奇跡的に噛み合わさりすれ違いを何度も引き起こした結果である。轟焦凍はレグルスを信頼し、レグルスはその想いに気づく事はない。彼女は常に自分の事しか考えていないのだから




轟君→→→レグルス→→→→→→何も知らないラインハルト
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