強欲少女のヒーローアカデミア   作:pastel

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16話『優勝と地獄と強欲と』

 ───これは……夢だ。彼らがここにいるはずがない、いていいはずがない

 

『剣聖の家系ラインハルト・ヴァン・アストレア』

 

 お前らが全ての元凶だ

 

『魔女教大罪司教「強欲」担当レグルス・コルニアス』

 

 全部お前らのせいだ

 

 世界に愛された剣聖と小さな王……ただ1人の英雄と惨めな虫。私の人生を歪めた男と私の存在を穢した男。あぁ本当にどこまでも忌々しい奴らだ、お前らはいつか絶対に私の手で殺す! そうしなきゃ割に合わないこの世界に生まれた時から私の権利を侵害してる。許されるわけが無いだろうそんな事。他の何よりも罪深い、私という存在を完全に無視してる。お前がこの世界に居ないからわざわざお前と同じやり方でお前を超えてやろうと私が最大限の譲歩をしてやってるのになんなんだよ! 巫山戯るなよ! 剣聖だけじゃない強欲担当もそうだ私が権能をわざわざ制限してやってるのはお前みたいに伴侶に裏切られて惨めな思いをしたくないからだ。人は簡単に裏切る、今に満足できない愚かな生物なんだ。どこまでも強欲でどこまでも怠惰でどこまでも傲慢でどこまでも虚飾に塗れてる気色悪いクズばかりなんだから、私の慈悲と余裕があるお陰で権能の不完全さは保たれてる。そうに決まってる、そうじゃなきゃ権能がいつまでも不完全な事に理由がつかない。使えないんじゃない使わないんだ、私は夫と自分だけの小さな王国なんて作る気は無い。英雄がそんなちっぽけで惨めな生活を送る訳ないだろ、私と同じ名前をした下等生物と一緒にされるのだけは御免だ。私は私でレグルス・コルニアスなんだ! あいつとは違うあいつとは違うあいつとは違うあいつとは違うあいつとは───

 

 

「……私が心地よく眠る事すら許さないっていうのかあのクズ共は!! いくら慈悲深い私にも限度があるんだぞ余裕があるからって全てが許される訳ないだろ私だって人間だ権利があるんだ誰にも侵されていいはずのない権利が!!」

 

 剣聖を超えたい、でも完全になる為に強欲担当の真似事はしたくない。そんな思いを抱えて生きてきたレグルスだが、そもそもこの世界に彼らは居なければ、彼らを知る人間もレグルス以外にはいない。それでも彼女の高すぎるプライドと生まれた時から積もり積もった劣等感がそれを良しとしなかった

 

『小さな王』は未だ彼女の中に眠っている。

 

 ───今はまだ目覚める事は無い

 

 ー

 

《雄英体育祭もいよいよラストバトル! 決勝戦だ!! 

 レグルス・コルニアスVS爆豪勝己!!》

 

「本気で来いや……その上で勝つ、それが完膚なきまでの1位だ」

 

「私は今少し気分が悪くてさぁ、そういうのに付き合ってられる程暇じゃないんだよね。いや勘違いしないでくれよ? 余裕が無い訳じゃない、私はいつだって心に余裕を持って生きている。君とは違ってね、だから八つ当たり何かしないさ。無関係な人間に自分の憤怒をぶつけるなんてそんなの子供のする事だからね、私は違う。でも───君は対戦相手で私に倒される存在だ。争い事が嫌いとはいえこの場に立ってる以上はやらなくちゃならない、だから為す術なく敗北しても自分のせいだと思ってくれよ? 私は悪くない」

 

 ───試合開始

 

「死ねぇぇえええ!!!」

 

 開幕許容上限を越えない程度の大爆破を起こす事で目眩しとあわよくばの速攻を狙いに行った爆豪だが当たった気配はない、爆破を受けた時の情けない声も聞こえてこない。背後を警戒するがレグルスは現れない

 

 ───5秒経過

 

 先程の爆発以上の威力を秘めた衝撃波が爆豪に襲いかかり容赦なく吹き飛ばされる。空中で爆破を起こす事で場外は避けられたがそれ以上に、相手の攻撃方法について爆豪は焦っていた

 

「んなっ……クソがぁ! あの女……俺の爆破を反射しやがった!!」

 

 レグルスのした事は単純で、爆風に時間停止を付与し前に押し出しただけ。停止した爆風に動作を加え衝撃波の方向を集中させる事で先程の爆発よりも拡散を抑え、焦点を絞る。爆破が生み出した衝撃波は停止から解除の反動で急加速し、結果元の爆発よりも威力の高い衝撃波を生み出した

 

 心操戦、轟戦でも使用した衝撃波はレグルス自身の動作によって作られたもので、彼女の筋力だけで運動エネルギーを作り出してる以上限度がある。だが既にある衝撃波を増幅させれば話は別だ

 

 爆豪が出力を上げれば上げる程、跳ね返る衝撃波の威力も高まる。その事をたったの1回で気づいた爆豪は戦法を切り替える

 

「ふぅ……毎度こんな痛みを感じるのは勘弁だね。ハンデは別にいいさ、私と君達の前ではあまりにも力の差がありすぎるからそれくらい許容してやるよ。でもそのハンデが私の肉体に苦痛を与えて良いなんて誰が言ったのかな? 誰が許したのかな? そいつには何の権利があるっていうのかな、この私という存在に対して代償を背負わせれる程の奴がいたとして、それでも私にこんな事していい権利なんてある訳ないよね? だってそれは私の権利だ、私の権利の侵害とかそういう問題じゃない、もうそれは私の権利を奪ってるって事だ。それはいくら寛容な私でも許せる事じゃない!」

 

「ぺちゃくちゃぺちゃくちゃ……自分に酔いながら喋ってんじゃねえぞクソがァ!!」

 

「そんな馬鹿正直に突っ込んできて君は馬鹿なのか? それとも私を馬鹿にしてるのか!? そんなスピードじゃ遅すぎるんだよ!! ──────ふごぁああ!?」

 

 爆速ターボによる急接近に対して手を伸ばした彼女の上を爆破による方向転換で通り抜けた爆豪は背後から0距離の爆破を食らわせたが彼女は情けない声を上げながら吹っ飛ぶだけでダメージを食らった様子は無い

 

(効かねえのは想定内だ……重要なのはあいつの無敵には時間制限と数秒のインターバルがあるっつー事!!! 攻撃を畳み掛けりゃあいつはジリ貧だ)

 

 即追撃を狙う爆豪。空中での方向転換を器用に行いレグルスの反撃を簡単に避け同じように攻撃を繰り返していく。レグルスも対応しようとしているが彼女の身体能力が爆豪の動きについていけてなかった

 

 全部はカバーできず爆破と心臓の痛みに苦しむレグルスに構うことなく接近してくる爆豪を睨みつけながら彼女も対策を行う。こうやって何度も何度も背後を取り続けてくる相手との戦闘は既に経験している

 

「馬鹿の一つ覚えみたいに何度も何度も同じ事して私がその程度で根負けするとでも思ったわけ!? その暴力的な性格と個性でどれだけの人を不幸に陥れてきたのか知らないけどさ、あたかも自分が世界で1番ですみたいな顔するのは辞めろよみっともないからさぁ!!」

 

「世界で1番になんだよ俺はァ!! お前超えてオールマイト超えて何もかも凌駕して勝利する世界で1番のヒーローによォ!! それに……何度も背後を攻撃すりゃあ対策を取られるのは当たり前……誘導されてるのに気づけよバ──カ!!」

 

 また背後からの攻撃……ではなくその場で爆破を起こす事でのフェイント。背後にいくと思わせて正面に着地した爆豪に対しレグルスは焦らない。

 

 ───『相手の動きを予測すれば、それは既に相手に予測されていると思った方がいい。裏の裏をかいてくる相手の裏をかくんだ!』

 

 通形ミリオからの教えを頭の片隅に置き冷静に、冷静に……

 

「君みたいな自分を賢いと思ってる奴見ると笑っちゃうんだよねえ何処までも馬鹿らしくてさあ!! 予測されてる事を予測してるならそれすらも予測されてるとは考えないのかなあ!? その足りない頭で私に勝とうと思った事自体が失策なんだよバ──ーカ!!!」

 

 冷静に対応する事が彼女に出来るはずは無いが不利なのは爆豪の方だった。彼は侮っていた、レグルスが舐めプしている以上頭を使っては来ないだろうと。強個性故の慢心、身体能力が下の下な女に自分が遅れをとるわけがないと

 

 時間停止中のレグルスに掴まれる爆豪。脳裏によぎるのは轟焦凍がただ投げられただけで止まること無く場外まで飛ばされたあの瞬間

 

 ───この女に負ける

 

「クソがァ……死ねぇぇぇえええ!!!」

 

 焦った爆豪は0距離で許容上限を超えた爆破を行いその衝撃で彼女の手は離れたが爆破を行った手の痛みが動きを鈍らせる。

 

 分かっていても、避けられない

 

「……死ぬのは……お前だよ!!!!!!」

 

 ───5秒間停止された爆風は更に威力を増し爆豪に迫る。

 

 セメントスの壁が間に生まれるがそれすら粉々にし爆豪は吹き飛ばされる

 

 

 雄英体育祭優勝の座は───強欲な少女の手に渡った

 

 爆豪は気絶しレグルスも心臓の負担が限界を超え気絶。少々締まらない最後となったが無事雄英体育祭は死者0名で終わる事が出来たのであった

 

 ー

 

 振替休日の夜、外出許可を貰った彼女は───

 

「まぁ! 貴女がレグルスさんね! 来てくれて嬉しいわ! 体育祭優勝おめでとうございます! 私、焦凍の姉の冬美です。よろしくお願いします! どうぞ入ってください!」

 

「あぁ自己紹介どうもありがとう。君のような礼儀を弁えて相手の事を尊重できる心優しい人間が私達の他にもっと増えて欲しいものだよね? 私の名前は既に知っているようだけど改めて名乗らせてもらおう、私はレグルス・コルニアス。私は誰とでも友好的に接して行きたいし誰であろうと配慮と心遣いを忘れないからいつも初めは自己紹介からするんだ。君もそうなんだろ? 素晴らしい事だよ、そうやって謙虚に生きるのが満たされた存在への第一歩だ」

 

 轟家に来ていた。焦凍がレグルスの事を姉に話した結果会ってみたいと言われ今に至る

 

 弟にそこまで言わせるレグルスという少女と話してみたいという想いは確かにあったのだが、それ以上にこれをきっかけに家族としての仲を取り戻せないかと考えていた。話を聞いたエンデヴァーは悩みながらも焦凍を救う為帰宅し、夏雄も焦凍が気になっている女子がどんなものか見てみたくなった結果この場に母親の冷以外が揃い、+でレグルスを投入するという真の地獄が誕生した

 

 地獄の轟くん家withレグルスである

 

「さぁさぁ冷めない内に食べちゃってください! 嫌いな物あったら食べなくていいからね? 気にしないで! それより、2人の話沢山聞かせて欲しいなっ?」

 

「君は本当に人への配慮が出来ている人間だね、素晴らしいよ。そんな君ですら満たされないこの世の中の何と嘆かわしい事か……いや、この場合は世の中と言うよりもっと狭い範囲の問題なのかな? 今ここにいるだけで君が満たされていない原因の一端を垣間見た気がするよ……あのさぁ、私は君達に向かって皮肉を言ってるんだけどまさか察してすら無いの? じゃあもう君達の頭でも理解出来るようにありのまま言わせてもらうけどさ、ここの家庭では顰めっ面で食を嗜むのが常識なわけ? それとも、客人に対してそんな態度を取ってもいいって教育をしてるわけ? どっちにしろ最悪なんですけど? 私を招いておいて一体どんな神経してる訳? ほんと信じらんないよ、食っていうのは食自体の味だけが大事な訳じゃないんだよ? 周りの環境だって味に影響するんだ、分かる? 君達がそんな顰めっ面で居るせいでせっかくのご馳走が台無しになってるんだよ、絶品の料理に人の髪の毛が混じってたみたいなさ、そういう感覚なわけ。自分がどれだけ酷い事してるかその足りない頭でも理解出来た? こんな状況を楽しみながら料理を食べられるのは暴食くらいだろうね! つまり君達はさぁ私が食を楽しむという当然の権利を奪ってるって訳だよそれってさぁ私の権利の侵害だよね!?」

 

 案の定気まずい空気になる中容赦なく切り込んでいくレグルスに冬美は驚き焦凍は関心していた。もはや轟焦凍はこの程度では動じない、これがレグルスの在り方だと思っているからだ

 

 因みに夏雄とエンデヴァーはドン引きである

 

「あ、あぁ……ごめんな。せっかく来てくれたのに嫌な気持ちにさせちゃって。俺も君と焦凍の話聞きたいからさ、話して「貴様は焦凍のなんだ?!」はぁ……? 水差すなよエンデヴァー。つーかどの面下げてここにいんだよ?!」

 

「貴様は焦凍のなんなんだと聞いている!」

 

「あのさぁ、現在進行形で私に無礼を働いてる事を棚に上げて質問って意味分からないんだけど? 人の親でありながら客人に対する礼儀すら知らないのかな君は? それとも分かった上で私にそういう態度を取ってるのかなぁ? それってヒーロー以前に大人として、人としてどうなの? もしかして君はその暑苦しいだけの炎で築いたNo.2という地位に何か価値があるとでも勘違いしてるんじゃないの? じゃなきゃ家族が招いた客人にそんな横柄な態度取れるわけない。でもその小さなプライドを守る為に私に無礼を働いていい理由なんてある訳ないよね? 私の権利を無視してるって事になるもの。いくら寛容な私でも礼を失する行いをされたら嫌な気持ちになる訳、だって礼を失するって事は相手にその価値を見出してないって事と同義だ。それってさ、私という個人の権利の侵害だよね!? それは寛容な私でも許せない訳だよ! 理解してるのかな!?」

 

「レグルスは……俺の恩人だ。USJと、体育祭。どっちもこいつに救われた。つかなんでここにいんだ親父、夏兄も。今日は3人だけだと思ってた」

 

「ひ、久しぶりに皆でご飯食べたいなって思ってさ! レグルスさんも来てくれたし家族みんなで迎えてあげたいなって思ってさ! あ……あはは……」

 

 ───混沌である。気まずい空気が流れている3人とは逆に通常運転のレグルスと焦凍。その温度差がこのカオスを招いていた

 

「焦凍も隅に置けないな、エンデヴァーにこんな事言える女の子なんて中々居ないんだから大事にしろよ? ……でも、エンデヴァーは認めないかもな。……個性婚するような奴なんだからさ」

 

「ちょっと夏!」

 

「あぁ俺は絶対に認めん……貴様のような小娘に焦凍はやらん!!!!」

 

 ───混沌である。冬美は何とか場を保とうとし、夏雄は憎しみを抑えられず余計な一言を付け足し、エンデヴァーはどうにかレグルスを息子から引き剥がそうと必死だった。別に結婚挨拶に来た訳では無い、だが焦凍の様子を見るにそれは時間の問題であると察したエンデヴァーは必死だった

 

 そもそもレグルスは───

 

「私が夫を作るのに何で君の許可を貰わないといけないのかな? 私が誰を夫にしようがそれは私の権利だ。だから彼を夫にしたってそれは私の持っていて当然の権利だ。いつまでも子離れ出来ない親って惨めだからあんまり人前で出さない方がいいと思うよ、だって子供が居なくなったら自分の存在価値が無くなっちゃいますって言ってるようなものだもの。空っぽで寂しい人間だって言ってるようなものだよね? まぁ安心しなよ、彼を夫にする気は今はない。私の財産を託すにしても、私の横に立つにしても、彼は若すぎて役者不足さ。良かったね? 何も無い空っぽな自分が守られて、私が”強欲”だったらこうはいかないよ? 慈悲深い私に、最大限の感謝をしてその態度を矯正する事だね」

 

「言語道断だ!! 子離れ出来ていないのではない、俺はどんな女であろうとそれが焦凍の覚悟なら受け入れる。だが貴様は例外だ! ……こうして顔を合わせて分かった、やはり貴様は異常だレグルス・コルニアス……!」

 

「お父さんそんな言い方……!」

 

「いいんだよ、満たされていない人間が満たされてる私に嫉妬するのは仕方ない事だからさ、私はそれをとっくのとうに受け入れてる。でも受け入れてるからと言って何でもかんでも許容する訳じゃない、そこを履き違えた人間が多すぎるんだよねえこの世界は」

 

「俺が今まで捕まえてきた凶悪なヴィラン達と同じ目をしているんだお前は! ただ悪戯に力を振りまいて、自分が全て正しいと思い込んで、他者の権利を蔑ろにするような連中と同じ目を!! 「あのさぁ!! 君から見た私の印象とかどうでもいいんですけど!? そうやって無罪の一般人に悪印象を擦り付けて合法的に人を貶めるのがNo.2のやり方って事でいいわけ!? ほんっと信じらんないんですけど!? さっきからずっと君のせいでこの場の空気が悪くなってる事を自覚しろよ、いいか? 私は英雄なんだよ。君なんか足元にも及ばないんだ、人として、親としての役割1つ果たせないような人間が私を評価するなよ!!!」

 

 ───正しいのはエンデヴァーだ。だが正しいと思われたのはレグルスだった

 

「ほんとどこまでも屑だなエンデヴァー……そんなに焦凍が大事かよ? せっかく来てくれたお客さんに対してそんな態度取って、今更父親面でもする気だったのかよ? 最低だよ、あんた……」

 

 もはや楽しいお食事会なんて雰囲気は無い。

 そもそも最初から無かったが。

 

「……冬姉」

 

 冬美は涙を抑えられなかった。冬美は父親を恨んではいない、ただ家族でありたかっただけなのに、何でこんな風になってしまうのか

 

「辞めてよお父さん……もう辞めて……私が悪かったから、そんな酷いことお客さんに言わないでよ、お母さんが何でああなったのか忘れたの!? 燈矢兄の事だって……!」

 

「……俺は焦凍の事を想って」

 

「俺の事想ってんだったらレグルスにそんな態度取れねえよ、あんたは俺がレグルスに命救われた事知ってんだろ? なのにヴィラン扱いとかどう考えたって正気じゃねえよ。レグルスだけじゃねぇ、俺の権利も侵害してる。夏兄の言う通りだ。今更父親面しようとすんな、あんたは俺の個性に執着してるだけだろ」

 

 不穏な雰囲気になり始める。どう足掻いてもこの家族関係を無視する事は出来ないのだ。だがそんな事はどうでもいい、自分が除け者にされる事を彼女が許すわけが無い

 

「あのさぁ、私を置いてけぼりにして内輪の話するの辞めてくれないかなぁ? どれだけ私を貶めれば気が済むのかなこの家族はさ? っていうか、家族って言ってるけど家族なんて意味の無い関係だよね? 血の繋がりがあるだけで親も兄妹も結局別の存在だもの。そうやって完全に破綻してる人間関係を何とか保とうと必死な所、理解できないよ。そんなの切り捨ててただ自分の事だけを大事にして、必要なもの以外は望まずただ今に満足すれば君達だって満たされるはずだよ? 私がそうなんだからね。その癖君達はやってる事もやりたい事もチグハグでただ互いの寂しさを埋めようとしてるだけの不器用な人間にしか見えないよ。夏雄って言ったっけ? 君とかまさにそうだよねぇ? 家族の中で自分が1番蚊帳の外にいるから寂しくてしょうがないんだろ? 嫉妬してるんだろ? 君は父親の事を憎んでる風に喋ってるけどただ構って欲しいだけなんだろ? 憎む動機もなければ愛す動機もない、本当に蚊帳の外にいるから行き場のない感情を父親にぶつけて何とか自分の価値を保ってるんだ、どこまでも虚飾に塗れた憐れな人間の代表だね君はさ」

 

「は、はぁ!? お前なんかに何が分かるんだよ!? 適当な事言ってんじゃねえぞ! このエンデヴァーとかいう奴はなぁ!!」

 

「君は期待してるんだろ? 父親が自分に関心を向けてくれるんじゃないかって。今日ここに来たのもそんなしょうもない期待を胸に秘めて来たんだろ? 殊勝な事だよね。例え父親が君に関心を向けようが君はそれを受け入れたりしないのにさぁ!! もう完全に破綻してるんだよ君は! 満たされる為に必要なものを満たされる為に受け入れられない、どこまでも憐れな存在だよ。君は全部父親のせいだと思ってるよね? ここまで家族が歪んだのも、自分の価値観が歪んだのも全部全部父親に押し付けてるよね? 違うよ──────君のせいだ。君が悪いんだよ? 他の何者でもない、君自身の劣等感が君を歪めたんだ。その歪みが家族に伝播したんだよ。だからそうやって被害者面してさ、いつまでも周りに、私に迷惑をかけるの辞めてよね。まぁ1つ、そんなどうしようもない君に救いを与えるのだとすれば君がそうやって狂ったふりをした所で誰も君の事なんて見たりしないって事を教えてあげるくらいかな」

 

 夏雄が父親へ拗らせた感情を抱いていたのは事実だ。それを今日初めて出会った女の子に言い当てられ、粉々に壊されてしまった

 

 夏雄の心はぐちゃぐちゃで、何も考えられなくなっていたが目の前にいる女への恐怖だけは紛れることなく感じていた。目の前の存在は本当に人間なのか、人間がこんなにも悪意なく狂気を振りまけるのか。弟と同い歳の少女はとても、まともな存在に見えなかった。それ程までに”異常”な雰囲気を彼女は纏っていた

 

「何なんだよ……何なんだよお前! 何でそんな平気な顔してそんな事言える!? おかしいよ……どう考えたって……! 近寄るな、俺に……俺の家族に近寄るな!!」

 

 これ以上下がる事は無いと思われていた場の雰囲気は更に下がり、もはや修復不可能な状況に陥った。だが1人、『強欲』に相対した青年は初めて、自分の為ではなく家族の為になけなしの勇気を振り絞る事が出来た




これくらい劇薬の方が効くと思いますよ
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