強欲少女のヒーローアカデミア   作:pastel

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17話『ゼロから始めるんだ』

 轟家の修羅場はもはや部外者のレグルスを中心に回っていた

 

「近寄るなだぁ? お前みたいな奴にそんな事言われる筋合いないんだよ! 大体何様のつもりなわけ? そっちが私を招待して来たんだろ、なのに不躾な態度取られたから君達の為を想って色々言ってあげてるのにさぁ人の思いやりを踏みにじった上で私を悪者扱いかよ!? 自分がいつも正しいとか思ってる訳? ありえないよ、ありえない。どう考えたって悪いのはそっちだ、私だってこんな事言いたくて言ってるわけじゃない。私の権利を侵害してくるからだ、本来なら許されない行為を許した上で矯正の意味を込めて助言してあげてるんだよ? それなのに近寄るなーって酷い話だよね、まぁそれも仕方ない事なのかもね。英雄っていうのは元来人に理解されにくいものなんだからさ」

 

 あまりにも酷い物言いをした後何事もなかったかのように自分に酔いながら話し始める彼女に周りは全くついていけなかった。

 エンデヴァーだけは自分が引き金となって起こしてしまったこの場を収めようと行動する

 

「……もういい、こんな空気じゃ飯も食えないだろう。お開きだ、俺が彼女を送ろう。焦凍、お前はここに残っていろ。着いてくるんじゃないぞ」

 

「あのさぁ、私の貴重な休日の貴重な時間をこんな事に浪費させた責任をどう取ってくれるわけ? もしかしてこのまま有耶無耶にしてやろうとか思ってる訳じゃないよね? そんな事人の親がする訳ないよね? ていうかさ───」

 

 ***

 

 エンデヴァーとレグルスというあまりにも奇妙な組み合わせが夜道を歩いている。彼の赤髪も彼女の白髪も暗闇の中ではよく目立つ

 

「貴様は……何故ヒーローを目指す? 俺から見てお前が異常であるという印象は嘘偽りない事実だ。貴様が焦凍を救った事や体育祭を優勝したことも加味して尚その印象は消えない。焦凍が貴様の影響を受けた事も、今はいい。貴様は何故そうまでして……英雄を目指せる?」

 

 かつてNo.1の座を目指し、挫折した男の純粋な疑問。レグルスの異常性に気づいた人間は誰しもがそう疑問に思う。彼女の英雄願望の原点は何なのか

 

 エンデヴァーのレグルスに対する印象はとても正確だった。別に悪事を働いた所を見た訳では無い、だが今後そうなる可能性は高いと感じていた。それ程までに彼女の精神性は異常で、それが何故抑えられているのか疑問でしか無かった。既に彼女が殺人を犯している事など知る由もない

 

「なんで皆、人が英雄を志す理由がそんなに気になるのかな。それを聞いて何を得れる? 親近感でも抱いて私と自分の差から現実逃避でもしたいのかな? どうだっていいけど、そうズケズケと人の深い所に土足で入り込んで来るのは許容できないよ。それともオールマイトに憧れたとか誰かを救いたいとか言えば納得するわけ? どうせ何言ったって納得しないんだろ。私は無意味な問答に時間を浪費する気はない、私の時間は常に動いているんだから。睡眠も食事も本来必要なんてないのに私の時間は常に動いてる。忌々しい、忌々しいんだよ。私の権利を侵害してくるクズ共も私に宿っておいていつまでも不完全な権能も……!」

 

(やはり、異常だ……15の少女が纏っていい雰囲気では無い。何故雄英はこんな奴を置いている? そもそも本当に彼女は一般人だったのか? 雄英襲撃に現れた小娘……焦凍が関係していた以上報告はされていたが……しっかり目を通すべきだった)

 

「それにしても君達の関係ってあまりにも歪だよね、家族なんてくだらない関係に固執してる癖にそれを得ようと努力はせず、壊れかけているものをただ必死に繋ぎ止めるだけ。要はさ、怠惰なんだよね君は。あれだろ? 理想を諦められない強欲さを秘めているくせして、諦める努力をせず次の世代に押し付けて必死に目を逸らしてるだけなんだろ君は。いい加減その欲を捨てて諦める事をすべきだ。君の子供のことも、自分のこともね。そうすれば君でも私のように満たされる可能性が生まれる。何も望まなくていいんだ、何も欲する必要はないんだ。欲深い事は罪だ、今に満足すればいい。完璧で完成された存在には至らなくてもそれだけで満たされる事は出来るかもしれないんだからね」

 

「諦める……だと?」

 

 レグルスは常に自分の事しか考えていない割に人の事をよく見ていた。共感能力が欠如していても人を理解できない訳では無い。事実彼女の薄っぺらい教えはエンデヴァーに刺さっていた

 

 彼が歪むことになった主な原因は長男の死。長男の燈矢は体が個性に適応しない形で生まれた結果ヒーローになる事を認めてやれなかった。なのに父親である彼は息子と同じ夢を目指す幸せを諦められず。子供達への愛は持っている、だが自分の夢も諦め切ることが出来なかった事と持ち前の不器用さも合わさって家族全体が歪んでいってしまった

 

「そうそう、もう全部諦めちまえよ。自分の夢も息子への想いも何もかも諦めてただ今ある幸せを享受しよう。無欲でいいんだ、人は無欲でいい。誰もが無欲でいれば誰も奪われる事はないんだ、権利を侵害される事もない。それが私の幸せだ、私の求める幸せの形。でも、どいつもこいつも強欲でほんっとどうしようもない奴ばっかなんだよね。度し難い事だよこれは、本当に愚かな生物さ人っていうのは。君は、どっちかな? 怠惰な君は勤勉であろうとするのかな? それとも罪を自覚しながら開き直って怠惰であろうとするのかな? あぁ別に答えなくていいよ興味ないから。君がどう生きるかとかどうでもいいんだけどさ、気に食わないんだよね君みたいな奴。私は愛とかいう世界一くだらないものに興味はない、だけど……愛を与え、愛を与えられたなら勤勉を持って応えなくちゃならない……あぁやだやだ。これじゃまるでペテルギウスじゃないか勘弁してくれ大罪司教なんかと一緒にされちゃ敵わないよ」

 

 勝手に教えを説いて勝手に話を完結させる彼女を横目にエンデヴァーは思い悩んでいた。柄にもない、こんな頭のおかしい女の言う事を真に受けるなんて

 

「全てを諦める事なんて……出来るわけが無い、オールマイトを超えるという俺の野望は……」

 

 ────「俺は俺がなりたいもんになる」

 

(そうか……焦凍はとっくに俺とは違う形のヒーローになろうとしている。諦めるというのは俺の背中を見せる必要は無いということなのか……? 自分の叶うはずのない野望も、息子達への愛も……俺は……諦めて、どうなる? 俺が諦めれば俺の背中に憧れてくれた燈矢の想いは……どうなる。蔑ろにしてきた夏雄は、冬美は……冷は……)

 

「君みたいに自分の権利を侵害された上で全部抱えて只管強い自分を取り繕ってる人間もそういない、満たされてなさすぎて逆に珍しい存在だ。君の家族は皆、君が悪いと思い込む事で自分を救ってるんだよ。バカな奴らだよねえ? 矮小な人間そのものだ。なのに君はそのくだらない憎しみの捌け口となる事を良しとしてる。当然のように、受け入れてる。”父親”だから? くだらないプライドだね。そうやって他者から見て都合のいい考え方してるから家族なんて薄っぺらい関係を利用されてるんだよ。君が死んだ所で家族は誰1人涙を流さないだろうね。ただ感情の行先を失って、自分の罪を自覚しゆっくりと壊れてくだけだろう。大事なのは自分なんだよ、家族とか恋人とか友人とかそういうのはどうだっていいんだ。自分が死ねばそこで終わり、大事なのは死んだ時自分が満たされた人生を歩めたかどうかだ。今ここで君を殺したとして……君の人生は満たされていたと言えるのかな? 満たされている私は満たされていない人間の気持ちが分からない。でも理解しようとしてやってるんだ、寛大だろう? 君はさぁ、自分が強くあるべきって思い込んでるだけの弱虫に過ぎないんだよ。自分が抱えてた弱音とかそういうの一切出さず、ヒーローとして父親として完璧であろうとしてる。それが普通だと思ってる。周りも、君も。私はそういうの全部諦めちまえって言ってるんだよ。もし君があの家族と仲睦ましく過ごしたいなら、一旦全部壊して、諦めて──────ゼロから始めるんだ」

 

 自信に満ちた笑みで他人の全てを理解したように語るレグルスの言葉はきっかけに過ぎない。轟家の闇は深い、他人にどうこう言われた所で簡単に変わる訳が無い。だがそれでも、彼女の言葉に心を動かされたのは事実だった。焦凍も、夏雄も、炎司も彼女の言葉をきっかけに少しずつ自身の在り方を変えていく事だろう。死んだはずの長男の途方も無い愛憎に直面するまで、家族としての在り方が変わる事はないが──────

 

 

「焦凍……あの娘と関わるのは辞めた方がいい、父さんの言う事は正しかった。あの娘はおかしい、異常だ……どうかしてる。あんなのまるで物語に出てくるような──────魔女だ」

 

 ***

 

 彼女だけが住む学生寮で相澤とレグルスは顔を合わせていた

 

「おめでとう、晴れて正式にヒーロー科だ。質問あるか?」

 

「あのさぁ、毎度思うけど急に来て単刀直入に要件を話すの相手の事を気遣ってやろうという気持ちが微塵も感じないんだよね。それって私に対する態度としてどうなのかな? いつも言ってるよね礼を失するって事は相手にその価値を見出してないって事と同義だって。この学園のトップを負かして、体育祭も優勝。もはやこの場に私の完璧さを疑うものは居ないわけだよ。分かる? 無意味なんだよ、無意味。無意味な事はしたくない。いやしたくないって話じゃないよね、しないんだよ。それを選ぶのは私の権利だからね!」

 

「英雄、なりたいんだろ? この生きにくい社会では免許がなきゃヒーロー活動はおろか公共での個性使用すら許されない。うちは知っての通り最新鋭のヒーロー育成機関。そして俺のクラスは仮免を今年の段階で取りに行くつもりだ、これはお前次第だが職場体験を経て充分な実力と判断されたら今の時点で仮免を取りに行くのもアリだ。雄英にいれば他よりもずっと近道できる」

 

 レグルスも相澤の言葉を聞き考える。規則に則り英雄として生きるのが剣聖のやり方。それにこの社会で規則を無視して力を振りまけばそれは悪として罰を受ける、権能に制限がかかっている状況でヴィジランテみたいな活動をすれば即逮捕だ。彼女が犯した殺人とUSJ乱入は運が良かっただけに過ぎない

 

「仕方ないな、慈悲深い私は君の我儘を許そう。勘違いしないで欲しいんだけど私は権利を侵害される事は良しとしてない。職場体験とか正気の沙汰じゃないよ、プロヒーローなんて肩書きぶら下げて市民にデカい顔見せてるだけの奴らから学ぶ事なんて1つも無いんだからね。むしろ彼らが私から学ぶべきだよ、そう思うだろう?」

 

「そうだな、これお前のコスチュームな。サイズ確認しとけ。あとスカウトしてきた事務所並べた資料な。決まったら俺に言え。じゃあな」

 

「一方的に話して終わったらはい解散っておかしいでしょどう考えても!! 私の事はどうでもいいって言うわけ!? 本当に狂ってるんじゃないの? 人への共感能力が欠如してなきゃそんな態度とても取れないよ。合理的な思考を優先するのは勝手だけどさ、それが他者の権利を蔑ろにしていい理由にはならないんだよ! おい帰るなよ聞けよ!! そもそもコスチュームって何だよ? そんなの頼んだ覚えないんだけど? もしかして私に身に覚えのないもの押し付けて後で取り立てに来るつもりじゃないだろうな? そうだとしたら最低だよ君は! 私の事を私の権利を……軽視してる!! 私の権利の侵害だ!!」

 

 相澤が去った寮内で声を荒らげる変人が1人。眠りについている猫が1匹。コスチューム、ヒーローとして活動する際に着用する衣服であり装備。彼女は身に覚えがないと言ったが前に聞かれた事がある、その時彼女は「英雄に相応しい栄光の証」等と意味の分からない事を宣った結果独断と偏見で作られたのが

 

「これは……騎士服?」

 

 彼女が纏ったのは剣聖が着ていたような騎士服だった

 

 騎士服は純粋な白を基調としている。無垢なその色は、本来ならば正義と希望を象徴するものだった。しかしレグルスの身に纏われることでそれは彼女の歪んだ自尊心と傲慢さを映し出す鏡と化していた。肩に輝く獅子の紋章は自らの権利を誇示する装飾でしかない。光を受けて輝く刺繍は彼女の虚栄心を満足させるためだけにそこにあるかのようだった

 

 同じ騎士服でも剣聖と強欲では全く違う意味を帯びている。彼が宿した希望や優しさとは対極に、彼女の強欲と支配欲を象徴している。彼女は他者の犠牲の上に成り立つ権利を当然とみなしその白い装束を纏うことで自らの正当性を主張していた

 

 ***

 

 A組は先日の体育祭について話していた。具体的にいえば体育祭に出た事による影響について

 

「レグルスちゃんは優勝者だしもうすっごい声かけられたでしょ?」

 

「私は寮に住んでいるから街の人間から声をかけられる事はないよ。でもだからといって私の名声がない訳じゃない、私の完璧さは既に全国へ知れ渡ってる。わざわざ確認するまでも無いんだよ」

 

「レグルスちゃん、青山君に負けず劣らずだね……でもほらネットの反応とかさ! どこもレグルスちゃんが話題になってるよ、ほらこれとか!」

 

《レグルスちゃん強くて可愛いのに口悪いとこ最高》

 

《めんどくさい女過ぎて好き》

 

《なるほど〜これはこれは確かに興味深いデスね〜この方、もしや強欲ではありませんデスかね?》

 

《攻撃食らった時の情けない声が癖になる》

 

《器極小のメス肉でしかねーってんですよ! キャハハハ》

 

《あれで運動音痴なの解釈一致過ぎる》

 

《R・M・T!!》

 

《何それ?》

 

《レグルスたんマジ天使》

 

「あのさぁ、これ全く褒め言葉じゃないよね? 話題になるっていうのはそういう意味じゃないでしょ、普通分かるよね? もうこの社会でこういった立場になった以上はこういう有象無象の自分勝手な発言もある程度許容するよ? 私は慈悲深いし器の大きい人間だから。でもさ、私がこういうバカみたいな評価を見て喜ぶ人間だと思われるのは許容できないんだよ、つまり私とこいつらが釣り合ってるとかそういう風に見てるわけだろ? それってどうなんだよ? 私の存在を軽く見てるって事に他ならないんじゃないの?」

 

「ごめんごめん! でもこうやって話題になるの何か嬉しくない? 私とか全然話題になってなくてさ〜行きの電車で少しだけ話しかけられた程度だよ」

 

「君の事情が私の存在を軽視した事への言い訳になると思うなよ。まあ悪意ある行動じゃない事が分かったから優しい私は許してやるとも。君も、もっとデリカシーを持って他者を尊重する事だね」

 

 言いたい放題のSNSから目を逸らすレグルス。魑魅魍魎が渦巻くこの深淵に足を踏み入れる勇気は彼女にはない。

 

「席に着け。今日のヒーロー情報学、特別だぞ。──────コードネーム、ヒーロー名の考案だ」

 

 ***

 

 ヒーロー名を発表していく流れが数名の生徒により大喜利のような空気と化した中レグルスは自信に満ち足りた表情で前に出る

 

「まぁ私という完璧で完成された存在を表す名前なんて元々のレグルスでいいんだけどそれじゃ私が捻りのない奴だと思われる可能性がある。それは良くない、イメージを押し付けられるのは権利の侵害だ。それにコードネームという形式上本名使う訳に行かないしねそこら辺理解した上で考えてる訳だよ私は」

 

『コル・レオニス』

 

 ラテン語で────獅子の心臓

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