強欲少女のヒーローアカデミア 作:pastel
凶悪なヴィラン達と交戦していたレグルスの体は既に満身創痍だった。体の至る所に火傷と切り傷があり出血も酷い。真っ白な髪は血で染まり、『凝血』によって動かなくなった体はトガヒミコに痛めつけられ、獅子の心臓を使って脱しようと思えばワープゲートを巧みに使われ解除後に必ず『蒼炎』をくらってしまう
心停止による苦痛、体中切りつけられた事による激痛、その傷を炎で炙られるレグルスは言葉にならない悲鳴を叫びながらただ嬲られていた。渋谷に集まったヒーロー達はダミーとして用意した脳無に手を焼き、そもそもレグルスがどこにいるかも分からない
一部の人間はこの大規模な事件の中心に彼女がいる事を察していたがその手が届くことは無い。初めて彼女が発した助けを求める声は目の前のヴィランにしか聞こえていなかった
「おいおい……俺が来るまで殺すなとは言ったけどさ、そのギリギリを狙うなよ。もう死にかけじゃん。まあ最後に答え合わせといこうかレグルス……不思議に思わなかったか? なんで個性発動と解除の瞬間を的確に察知され、弄ばれてたのかさ」
「う……ぐぁ……ふ、ふじゃけ───る……ぐへぁ!?」
「人が喋ってる最中に割り込むなよ。それって俺の喋る権利の侵害だよな? レグルスさーん。それってぇ? 俺という個人のぉ? 権利のぉ? 侵害ですよねぇぇぇぇぇ??」
「弔君ってあんなに表情豊かだったんですね」
「似た者同士の喧嘩だな」
倒れているレグルスの頭を踏みつけながら満面の笑みで煽る死柄木。憎たらしい彼女の口癖を馬鹿にするように模範している。失敗を経験して成長した死柄木と何度も失敗したのにそれを認めず成長を拒んだレグルス。同族嫌悪を互いに抱いている似た者同士の決定的な違いはそこだった
「お前の個性さぁ! パッと見無敵に見えるけどそれは本質じゃない。お前の個性、それは──────ゲームのポーズメニューだ。馬鹿なお前にも分かるように言い換えれば、『一時停止』って事だ。自分と、自分が触れたものを一時停止させる。時間を止めてるからその間は何されても影響がないんだろ? だから無敵に見える。最初はチート過ぎだろって思ったけど、体育祭とかUSJでの事思い出して考えたよ。たまにダメージを負ったりしてるのは何でだろうってな? 個性発動が間に合わないから? 違う。個性発動した後にわざと解除してダメージを貰ってる。制限があるんだよな? 個性にさ。俺も、五本指で触れないと壊せないんだよねえ」
死柄木はペラペラ喋りながらレグルスの頭を指一本離した状態で掴み上げる。言葉にはしない、今のお喋りで既に理解しているはずだ──────あと指一本足せばお前の頭粉々にしてやれるぞ? ってな
「お前の体育祭での活躍は良い資料になったよ。注意深く見てて気づいたんだ。お前の個性は約5秒しか持続させれない。それ以上はキャパオーバーになるってな、5秒固定じゃなく5秒が限界って所だろ? 数えながら見てたら分かったよ。お前はいつもキャパギリギリまで個性を使ったあと胸を抑えてる。──────心臓が止まってるんだろ?」
「やっぱりそれピーキー過ぎませんか?」
「個性に体が適応してない……ってより、個性の性質がそういうものって感じだな。心臓止めながらあんなぺちゃくちゃ喋れんならむしろ適応し過ぎてるか」
「死柄木、もういいだろう。そいつの粛清を終え引き上げるべきだ。これ以上は信念に反する」
「はいはい分かってるよ大先輩。じゃあなレグルス……これでお前は一人ぼっちで誰にも見られずにその人生を終えるんだ。短い間だったけど、お前の事──────大嫌いだったよ!!!」
最後の最後まで死柄木達に遊ばれていたレグルスは指一本動かせない状況でも歯噛みし目の前の存在を睨みつけることを辞めない。私は負けてない、私は悪くない、なんでなんで私ばっかりこんな目にと。死柄木の指が迫り頭がジワジワと崩壊していく中無様に涙を流し、その視界は赤く染っていても尚彼女の思考は世界への恨みに染まっていた──────
***
ありえないありえないありえないありえないよ! 意味がわからない! なんでだよ? なんでこうなった!? 私は何もしてない。ただ今を精一杯生きて、ある程度の理不尽も我慢して、ようやくここまで来たんだ。それなのに全部ぶち壊しやがってふざけるな! いつもそうだ。お前らは満ち足りた存在である私に嫉妬して、自分達は失う物がないのをいい事になりふり構わず奪いに来るんだ、何も欲しない私が持つ数少ない私財を自我を権利を奪いに来るんだ。何様のつもりなんだよ、誰の許しがあってそんな事できる!? お前らに何の権利があるっていうんだ!? 私を誰だと思ってる! 私はレグルス・コルニアスだぞ! お前らなんか足元にも及ばない程上にいて、見上げる事すら罪である程崇高で! 誰よりも満ち足りてるこの世でもっとも完成された心身共に揺らぐ余地のない完璧な存在なんだ! この世界には自分を特別とか完璧とか思い込んでるバカが多すぎるんだよ! お前らがまさにそうだ、自分の事を特別とか勘違いしちゃってるからこんな事できるんだ。そうやって自分の主張を一方的に押し付けて、人を無差別に踏みにじって、権利を侵害して!! 私は慈悲深いからそういう自分勝手で自己中心的でどこまでも矮小なお前らの行動をある程度は許容してやれる。お前らと違って心に余裕を持ってるからだ、器が小さいお前らとは違うんだ。でもそんな私にだって限度はある、だっておかしいだろこんなの! なんでなんでなんでお前らみたいな人を犠牲にした上でしか幸せを感じられない破綻者のクズ共に私財を奪われて、権利を侵害されて、なんで私が我慢しなきゃならない!? 理不尽だ、不条理だ。正直者が馬鹿を見るこの世界が悪いんだ! 私は悪くない、悪いのは世界だ。私は散々奪われて、それで泣き寝入りしろとでもいうのかよ!? やられたらやり返すのは当然だ。それは誰しもが持っていて当然の復讐の権利だ。だから私だけがその権利を侵害されて、罪だと糾弾されるのはちゃんちゃらおかしいんだよ! それは復讐を行った不特定多数じゃなく、私個人を貶めてやりたいってことだろ!? 意味が分からないよ、1人殺した程度で騒ぐな煩わしいんだよ。何の力も無い癖して守られるのが当然だと思ってる小市民共が、自分が無知で無力な矮小な存在だって事から目を逸らして好き勝手言いやがって! クズの命と私の権利は同価値じゃないんだ! 誰にも侵されていいはずがないんだよ、誰にも! 一人ぼっちになりたくないから似た者同士で集まって気色悪い親近感抱いて仲間なんてしょうもない繋がりに価値を感じてるクズなヴィラン共も、一生かけても手に入らないものを望んで必死に無駄な努力してる現実から目を背けた理想主義の雄英生も、プロヒーローなんて安い肩書きだけが存在価値の恩着せがましいゴミクズ共も! 誰一人、私の権利を侵害する事は許されないんだよお! 前からそうだ、この世界に生まれる前も後も! 私の周りにいた人間はいつだって私から一方的に奪っていくんだ。近寄るな、こっちに来るな、私に優しくするな、可哀想なんて思うな、私の事を分かった気になるな! 独りは寂しいよって、泣かないでって、そうやってお前らみたいな他者に偽善を振りまいて優越感に浸りたいだけのクズ共は死ね! 全員死ね! 独りでいる事の何が悪い!? 独りでいいんだ、私は独りでいい。独りでも充分幸せで、独りでも充分満たされてるんだ。だから私に近寄るな、一緒にいようって笑うな。お前らの物差しで私を測るな、対等だと勘違いするな、下だと勘違いするな! 私はお前らより上なんだ。独りじゃ生きていけない弱いお前らとは違う。孤独に耐えられない寂しい人間とは違う。だから辞めろ、優しくするな、憐れむな! 勝手に同情して、勝手に理解した気になって、一方的に思いやりを押し付けてさ。それは私の権利の侵害だろ、私の事を弱い人間だと思ったって事だろ!? だから慈悲深い私はその認識を矯正する為に行動で示してやった、殺してやったんだ。そしたら罪だって? ふざけるな私は被害者だ、私は悪くない! 先に手を出した方が悪いに決まってるだろ!? 何が常識だよお前らみたいな破綻者が人様の常識を理解したように語るな。何が法律だよそんなの満たされてないお前らが勝手に決めただけだろ。それを私にも適用するって私の存在を軽視してる。どいつもこいつもバカしかいない! 正しいのはいつだって私なんだ。この権能も、この存在も、この世界に生まれ変わった事も全部全部全部私が正しいから授かったんだ。私が間違っていたのなら、矛盾してる。私は世界に愛された! そうだ、私は正しい。だから辞めろ! 嗤うな、私を嗤うな! なんで消えない!? なんで生まれ変わっても独りぼっちだなって笑うんだ! 違う、私は独りでいい。独りでいるのは寂しい事じゃない! 私は慈悲深いから、優しいから、余裕があるから、独りにされてもそれを受け入れてやったんだ。無欲で、平和主義で、争いなんて無縁の人生を送りたかっただけなんだ。友達なんて要らない、仲間なんて要らない、家族も恋人も要らない。寂しくなんかない、お前らとは違うんだから。完璧で完成された満ち足りた存在なんだ。私は私という一個人の事を大切にするだけで精一杯なんだ。なのに…… なのになんで剣聖なんて剣を振ることしか脳のない木偶の棒と、孤独に耐えられず妻を娶って挙句の果てに裏切られたクズに私という存在を汚されなきゃならない!?!! 私の頭の中から出ていけ、なんでなんでなんで違う世界にいて尚私の権利を侵害するんだよ! 剣聖なんて所詮弱虫だ、絶対的な力を持っておいて国に従い、自分より下の人間に従い、仲間に囲まれて笑顔になって! 所詮その程度なんだよ。私だって世界に愛された、お前と違って孤独にも耐えれる。英雄なんて安い肩書きだ。英雄なんて他の人間からの評価あって初めて成立する称号だ。他者の力なしじゃその存在にはなり得ない、自分の力だけじゃなり得ない。そんな安い立ち位置に収まってるお前より、私の方がいくらか上等だ。私はこの世界に愛されて、この世界に君臨する為の権能を、権利を得た。王なんだよ! こんな満ち足りてない者達で溢れかえった小さな世界の王なんだ、誰よりも崇高な私には全てを手に入れる権利がある、力がある。そうさ、お前とは違うんだよレグルス・コルニアス! お前みたいな自分を特別だと勘違いして、一人に耐えられない寂しい人間だから妻を娶って、誰も矮小なお前なんか見ないのに美人と処女を揃えて見栄を張って、それに手を出す度胸もなくて! 何もかも欠けてる事に気づかず這いずり回って自称英雄の口だけは回る一般人に足元を掬われた馬鹿で愚図で出来損ないで『強欲』なお前とは決定的に違う! 自分と妻だけの小さな小さな王国で虚栄心を満たすだけのお前とは違うんだよ! 私は世界に愛された。全てを手に入れる為の権能を授かった。私は全てを手に入れる、この世界は私一人の為に用意されたものだ。私は強欲じゃない、欲しいものを手に入れるのは当然の権利だ。そうだ、あぁ今更だ。今更気づけた。使えないんじゃなくて使ってなかっただけなんだ本来最初から完全だったはずなんだ。それを妨害された、剣聖と、強欲担当に。15年、私の時間は動き続けた。それも終わりだ。もう奪われない、誰にも奪わせない、お前らはただ王である私の手足となってその一生を捧げるだけでいい──────あぁ、良い気分だ。私は今満たされている、これだ。これでいい、人は無欲でいい、争いなんてしなくていい、一人でいい。そうすれば誰もが満たされる事が出来る。誰もが私のようになれるんだ、なんて素晴らしい。私の────────
頭の崩壊が終わり塵となって消えていく。今この瞬間、レグルス・コルニアスは二度目の死を迎えた。残ったのは頭部のないレグルスの死体とそれを見て何とも思わず撤収作業に入る敵連合だけだった
一つ、彼らも知りえない知識がある。魔女因子に適合した者が授かる事のできる『権能』はその本質は変わらずとも性質は適合者の性格によって大きく変化する。この世界のレグルスは強欲担当のレグルスとは似て異なるもの。だが魔女因子は彼女を『レグルス・コルニアス』だと認識した為その権能の性質は変わらなかった
だがその魔女因子はこの世界に則り個性因子として彼女の体内に残り続けた。するとどうなるか、時間が経つにつれ彼女の魂の形が『レグルス・コルニアス』であり『レグルス・コルニアス』ではないと認識し始める。そして彼女の精神に強い影響が起きた時、その想いに共鳴し──────個性因子が突然変異を起こす。それは本来あるべき形だったものへ
──────この世界の小さな王が誕生する