強欲少女のヒーローアカデミア 作:pastel
強欲の権能『小さな王』は他者に擬似心臓を寄生させる事で『獅子の心臓』のデメリットである心停止を無視する事が出来る。宿主の条件は『自分の王国に入れた』と判定した者
『強欲』担当の『レグルス』は自らが見定めた花嫁を宿主とし、自分と妻達だけの小さな王国で空っぽの虚栄心を満たしていた────ではこちらのレグルスは? 彼女も同じ権能を授かった。
本来『権能』というのは『個性』なんかとは比にならない程、自分自身と一体化する。『個性』は身体に宿り、『権能』は魂に宿る。同じ大罪の魔女因子に適合したとして、その権能の性質は適合者の性格によってまるで違うだろう
つまりどう足掻いても”全く同じ”権能を授かる事はできない。彼女は例外中の例外、『強欲』の器を満たす者であり『レグルス』の器を満たす者でもあった。故に強欲の魔女因子は彼女を『レグルス』だと認識し同じ権能を授けた。本来であればそのまま魂に定着しその性質が変わる事は有り得ない。『レグルス』は何よりも変化を嫌うから。
だが権能とも加護とも違う異能───『個性』が存在する異世界に生まれた彼女と共に権能の在り方も変化し、魂ではなく身体に宿る事で後天的にその性質を変化させる事ができた。『レグルス』ではなくレグルスが授かるはずだったものへと
権能の特異性、個性としての覚醒。1人の人間が持つにしては大きすぎるその力を彼女は自分の体の1部であるかのように受け入れた。人が息をするように、心臓を動かすように、その権能を行使するのは彼女にとってはごく普通の事だ。平穏な日常、その一コマにすらならない程普通で、当たり前の事
────── 『私はこの世界に愛されて、この世界に君臨する為の権能を、権利を得た!! 王なんだよ! こんな満ち足りてない者達で溢れかえった小さな世界の王なんだ』
──────『お前らはただ王である私の手足となってその一生を捧げるだけでいい』
──────『誰もが私のようになれるんだ』
レグルス・コルニアスにとっての王国はこの世界
そこに存在する者全て『私』の物だ
***
レグルスの死亡と同時刻──────
渋谷は戦場と化しビル街の面影は消え残っているのは瓦礫と巻き込まれた人間の死体、標的を探して徘徊する脳無
マスキュラーと交戦していたミルコは渋谷の惨状を目の当たりにして意識を切り替える。まだまだひ弱なレグルスを1人にしてしまった事に焦っていたが今するべき事はそれじゃない。目の前の敵を倒し少しでも多くを救わなければならない
「最っ高の気分だぜ!! 思いっきり個性使って強い奴と殺り合う!! 俺が求めてたのはこれなんだよ! なぁミルコ!! 楽しいなぁ!?」
「しつけえんだよ筋肉ダルマ!!」
マスキュラーの筋肉増強はパワーを底上げするだけではなく筋繊維を重ねる事でダメージを抑える事も出来る。だがミルコの脚力は並の物じゃない、本気で打てばそれこそ一撃で撃破できる……本体に当たれば。何重にも重なった筋繊維と渾身の蹴りが相殺され、正面からの撃破に手を焼いていた───────やり方を変える必要がある
「俺の拳と!! お前の脚!! どっちが強えと思う!? なぁ!! なぁ!! このまま永遠に殺り合うのもいいが俺はそろそろ……血が見たいんだよなあ!!!」
両腕、そして両足に筋繊維を集中させ爆発的なスピードでミルコに迫る血狂い。ミルコもその脚力をフルに利用しマスキュラーに接近する。真正面からのぶつかり合い。どこまでも最高な戦い、最高な相手に口角を上げ右腕を引き最大威力の拳を叩き入れようとしたマスキュラーだが
──────目の前の兎が急に視界から外れた
(消えた……? いや、上! 踵落としか!!)
渾身の踵落とし、『
彼女はマスキュラーの股下に滑り込み背後へ回っていた。無防備な頭部に本気の旋風脚が叩き込まれる
「悪いな、今お前と遊んでやる時間はねえんだ
──────『
***
ミルコに撃破されたマスキュラーを遠くから眺めていた死柄木達。血狂いは対ミルコ用のカードとして用意した訳で、倒されればもう価値はない。そもそもアレの手網を握り続けるのは無理があると察していた死柄木は特に助けようとする訳でもなく平然としている
「あーあ、マスキュラーがやられた。流石No.5、倒すのは無理だよなーでもまあ、1人でよくやった方か」
「助けに行きますか? 死柄木弔」
「いや、アレはいいよ。ミルコまだピンピンしてるし気絶してるアレ助けれる程隙は作れない。それに、合わないんだよなーああいう自分勝手な奴」
「弔君と似てますもんね! でも弔君と違ってあの人は好きじゃないです、だってうるさいんですもん。それにしても、かあいかったねえレグルスちゃん。血に染ってボロボロになって泣き叫んで、とっても素敵でした! ああいう人を愛したい! ああいう人に愛されたい! 殺したい!」
「うるせえな自重しろ破綻JK」
出会って間もない敵連合の面々だがその相性は悪くなかった。元々様々な事情を抱えた結果ヴィランという立場になっただけで、レグルスのような元から破綻しているのとは訳が違うのだ。悪人であっても狂人ではない
「あー思ったより早く終わったせいで物足りないぜ。でもクエストはクリア出来た! レグルスは壊したしオールマイトが来なかった事で更に雄英の信頼、ヒーローの信頼は落ちた。後手に回った時点でお前ら負けてんだよなぁ!」
────── 本当に笑っちゃうほど不遜で
「とっとと退くぞ死柄木。これ以上は無意味だ、信念に反すると言ったろう」
──────どうしようもなく低俗で
「エンデヴァーは来てないか……? No.2がこんな大惨事に現れないなんて何してんだか……ハッそんなんだからいつまでもNo.1になれないんだ」
──────呆れるぐらい無能で
「帰っちゃうんですか? もう少し遊んでいたいけど殺されるのは嫌なので私も一緒に帰ります! ね! ステ様!」
──────信じられないぐらい厚顔で
「脳無は捕縛されているもの以外回収しておきましょう。皆様はこちらのゲートへ、一度アジトへ戻りましょう」
彼らにゆっくりと歩み寄るのは白の凶人
強欲をその身に宿しこの世の全てを奪わんとする暴虐
そしてそれを悪意なく行うこの世の厄災
「──────救いようのないくらい劣等だね。君達は譲り受けた1回こっきりの勝利に酔って、自分達が偉いとか強いとか正しいとか勘違いしてそのあっさい器を満たしてたのかもしれないけど、そろそろ現実見たら? 私は精神の話じゃなくて現実の話をしたいんだよね」
皮肉にも、誰よりも彼女を壊そうとした死柄木の悪意によってレグルス・コルニアスという殻は破られた。より完全となり、『強欲』担当を超え、世界が、人間が、命が、彼女の為だけに存在しているかのように
こんな異能世界ですら有り得ない超条を引き起こした彼女にこの場の誰も言葉を発せない。分からない、何故? 分からない、意味が分からない。一体どうやって?
──────恐怖の感情がやってきたのはすぐだった。目の前の存在に、たった15年しか生きていない少女に、恐怖を感じていた
「──なっ、ん……でっ? お前は……俺……が、壊した……はずだろお……?」
「壊した……君が? 君如きが? それは、幻想だよ。君の小さい器と空っぽの心を満たした私への嫉妬心が見せた幻想。満ち足りていない人間はそうやって絶対に叶わない理想を抱いて、現実から目を背ける。でも心の底では理解してるんだ、理解してるからこそ目を背けようとする。一度現実に向き合えば自分がどれだけ浅はかで、低俗で、無能で、無知で、存在価値など何一つ無い事実から逃げられないからだ。その事実から必死に逃げる為に足掻いて、人の権利を侵害して、自分の欲望を満たす事に重きを置く。悲しい人間だよね? ──────でも大丈夫。私がいる、空虚で無意味な君の人生にもこれである程度の価値が生まれたんだよ。誇りに思っていい、喜んでいい、もう何も望まなくていい、嫉妬なんてしなくていい、君は既に私を愛した結果寵愛を授かった。これからの君はただ来るべき時に備えて勤勉に生きればいい。何も欲しなくていいんだよ? その強欲は私が埋めてあげるから。ね? だから、これからはその強欲さを捨てて平々凡々でちっぽけな暮らしをしよう。あ、でもさこのまま罪を帳消しに出来るなんて思わないでね? いや君がそこまで愚かで俗悪な人間とは流石の私も思ったりしないけど一応ね? ほら確認って大事じゃない? 例え罪人に罰を執行するとしても、その罪を認識してるかどうか確認するっていうのはとても大事な事だと私は思うわけ。だってもし罪を認識してない程純粋な悪だったら罰を与えたとして更生なんてさせれないもんね。闇に光を当てても光で一時的に上書きするだけで闇自体はまた現れるよね? それと同じでさ、一方的な私刑は行う方にも行われる方にも利益のない無意味な行いだと思うわけ、こういう倫理観って人として生きる上でとても大切な事だと思わない? だってそういう感性とか常識を持ってないとこんな社会で生きていくなんて到底不可能だもんね! というかその社会の枠組みから外れてたとしても、ある程度の一般常識は兼ね備えてないとそれもう人としてどうなのって感じなんだよね。人として生まれておいて恥ずかしくないの? って私は思うわけ。でも私は今まで生きてきてそれなりに君達みたいな破綻者の在り方に理解を示してやれるようになった、どこまでも慈悲深くて、どこまでも思いやりに溢れていて、どこまでも器が大きくて、他者への理解を示す為に歩み寄れる余裕を持った私だからこそ、君らみたいな頭のおかしい下劣な人間にも配慮と譲歩を忘れないでいてやってる訳。そんな私の優しさを、愛を、踏みにじった君達に私自ら罰を与えてやろうとしてる、言わば更生の機会を与えてやるんだ。どんな大罪人にも”次”を与えてやるのが私が君達に送る最後の慈悲さ。あ、でも私は今気分が良いしもう1つだけ正真正銘最後の慈悲を与えようと思う。だからその為に質問に答えて欲しいんだ、君達は何色の花が好みかな? 赤かな? 青かな? 黄色もあるね、私は白が好きだ。うん、白がいい。最後に私が君達に救いを与えた証明として──────墓の前に添えてやろう!」
彼女の機嫌は過去最高調だった。さっきまで散々痛ぶられ、挙句の果てに頭部を崩壊された事に激高する事もなくただ只管穏やかに、優しい笑みを浮かべて死柄木達に語りかける彼女は以前よりも様子がおかしかった
子供のように癇癪を起こしていた頃とは何か違う、この短時間で彼女の身に何かが起こった事だけは把握できた。人の見た目をして、人とは思えない雰囲気を纏ったおかしな存在。言葉に悪意など一欠片もなく、心の底からそうである事が当然かのように話す純粋悪
彼女への恐怖を押さえつけ、リーダーとして仲間の前に立つ死柄木にレグルスは何も言わない。ただ拍手をする。ただただ拍手をし続ける。繰り返す、何を話す訳でもなくただ繰り返す。ただ顔に穏やかな笑みを浮かべて
──────パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ……
不気味、それ以外の何物でもない。ただ拍手をしているだけの少女を目にしてどうしようもない恐怖と危機感を抱いている、このままここにいれば確実に死ぬ、逃げないと、逃げなきゃ──────
最初に行動を起こしたのは──────荼毘
「────ッ! 逃げるぞ死柄木!」
数千℃に渡る熱量のヘルフレイムによりレグルスを焼き少しでも時間を稼ごうと自身の身を省みず出力を上げたそれが──────致命的なミス
圧縮され続けた空気圧に数千℃の温度を保ち続けた熱が混ざる
圧縮、圧縮、圧縮、圧縮、圧縮、圧縮
────────────解除
「────ッッ!! 黒霧ィィィィィイイイ!!!」
大気を圧縮し、時間停止で固定された高温の空気塊がうなりを上げる。解除の瞬間、轟音とともに白熱した
参考資料:学園都市の第一位