強欲少女のヒーローアカデミア 作:pastel
敵連合による『強欲攻略戦』開幕から僅か短時間で渋谷は壊滅した。大都会に佇むその街は他の地域よりもヴィランが活発に動き、それに対し数多くのプロヒーローが事務所を置き活動していたが──────その悉くが破壊される形となる
敵連合による殺戮、破壊、その痕跡をかき消すように災害を引き起こしたレグルスにより──────未来で起こる神野区での大災害と同等の被害を及ぼしていた
ヒーローの応援が到着した時には何もかもが手遅れな状態で、この事件の首謀者である敵連合は逃走。残ったのは捕縛された敵、建物の瓦礫、多くの犠牲
『強欲』討伐には至らずともこの社会は敵連合の影響を強く受けてしまった。ヒーロー飽和社会とまで言われる程の世の中で誰一人この災害を止められなかった現実はヒーローの信頼を地に落とすには充分過ぎたのだ。もはや暴露されたレグルスの罪なんて大衆にとっては些細な事、むしろそれはヒーローや雄英への誹謗中傷に使う一つの材料でしかなかった
***
──────事が終わる少し前
先程渋谷へ辿り着いたグラントリノと緑谷出久はこの惨状を目の当たりにし言葉を失っていた。到着したのは渋谷での事件発生を知ってからすぐの事だ、それなのにあまりにも被害が出すぎている
間に合わなかったと後悔しそうになるが、立ち止まる訳にはいかない。今この瞬間にも苦しんで、助けを求めてる人がいるのだから
「この! 弱気になるな僕! どんな状況でも今僕にできる事をやるんだ!」
「あぁ、この様子だとヴィランは殆ど拘束されてるみたいだな。救助に向かうぞ小僧、道中にヴィランがいても俺の許可無しに飛び出すなよ」
ネガティブ思考に対して頬を叩いて発破をかける事で意識を切り替える緑谷。数々のヒーローが救助活動に当たっている中緑谷達も手を貸しに向かうが、緑谷の頭の中にはまだ不安が残っていた
──────レグルスは無事なのかどうか
新幹線の中で見た衝撃の映像、その直後に彼女の職場体験先で発生する事件。偶然とは、思えない。ヴィランの目的がもし無差別な殺戮や破壊じゃなくて、彼女一人を狙ったものだったとしたら? ここまでの事を起こせる力を持っていて、拘束されている脳みそおっぴろげのヴィラン……そして彼女と因縁を持つ相手は──────敵連合しかいない
確実に渋谷のどこかにレグルスはいる、そしてダミーとして用意された脳無達の裏で一人敵連合と戦っているはずだと確信していた。だが探すにしても見当がつかない。虱潰しに路地裏を探し回ろうか考えていた時、夜空が白く光りだし……轟音が鳴り響いた
もはや全てが遅かった事に気が付いたのはこの事件が終わってからだった
***
一足遅く現着したプロヒーロー達も救助活動に勤しんでいる。その中にはエンデヴァーやベストジーニスト達も見える。ただ1人ミルコだけはレグルスを探し跳び回っていた。あの遠くで起こった爆発、あそこに居ると直感が囁き向かったが、いない。そこには何も無かった
文字通り、何も。他とは違い瓦礫なんかもない、まっ更な地面。嫌でも想像してしまう最悪の結末──────レグルスの死
……いや、もしかしたら入れ違っただけかもしれない。
一度戻って──────
「おや、ミルコじゃないか。さっき別れたばかりだというのに、何だか凄く久しぶりの再会に感じるね。それもこれも私が漸く完全なる存在へと昇華した影響だろうね。私が世界から授かった権能、その本質を知覚した時まるで天地と同等の歳月を過ごしたかのようだった。これでもう私を否定するものは何も無い。こんな事でどうしようもなく喜んじゃう程、私は今まで私財を奪われて権利を侵害されて自我を否定されて……そんな散々な人生を歩ませられたんだ。悲しい事だよねこれは。あぁ違うよ? 悲しいっていうのは私の人生の話じゃない、逆だよ。私を否定してきた奴の人生が悲しいって話だ。だって、さ……ふっ……くく……こんな! こんな笑い話ってあるのかなぁ!? 空っぽな心を嫉妬心で埋めてさ、必死に私という存在に縋りついて、自分は私と対等だとか思い上がって良い気になってた奴らの人生全部!! 否定されたんだよ他でもない私という存在によって! 憐れで無様で低俗で愚かで劣悪で決定的に最低最悪なあいつらの存在は今! 私と私を認めた世界によって完全否定されちゃったんだよ! もうこんなの嗤うしかないよね、道化として嗤ってやるくらいしかもう価値なんてないんだから。ふっ……はは! あっははははは!」
彼女の声が上から聞こえる。夜空を見上げると宙に浮いたまま顔を抑え、堪えられない嘲笑に身を震わせているレグルスがいた。この災害の中心地に佇んでおいて一切の汚れない白髪は夜風が吹いても全く靡いていない
そのこれ見よがしの態度、自分から話しかけ自分だけで話を完結させる凶人にミルコは動じたりしない。普通の人から見ればおかしすぎる光景も、今のミルコからすれば不安を取り除く材料だ。それくらい彼女を心配し、無事だった事に安心していた
「お前やられちまったんじゃねえかって心配してたけど、元気そうでなによりだよ! つーか飛べたのなお前! まぁとりあえず行くぞ! 後始末は偉い奴らに任せておこう!」
「なるほどなるほど、君は私の事を心配してくれてた訳だ。現時点で保護者という立場だから、君にはその責務を果たす義務があるって訳だね。うんうん、健気で勤勉で良い事じゃないか。そのくらいの心持ちでないとヒーローなんてとても務まらないよね。でもさぁ、その心配の対象が私って事は……それってつまり私を弱者として見てたって事に他ならないんじゃないの? この場合弱者っていうのは争い事において強い弱いの話じゃなくて、本質的に私は誰かの助けが無ければ生きていけない程矮小な人間だと評価してたって訳だ。”一人”じゃ生きていけないから自分が助けてあげないと……そう思った訳だろ? 確かに、そういう弱者がこの世に五万と居るのは私も分かってる。だからその考え方を否定するつもりは無い、だけどその枠組みに私を入れた君の感性は否定させてもらうよ。だってそれは私という存在を軽視してるのと同意義だ! それは許せないよ? いくら寛大な私でも看過できない程度し難い行いだ。そうやって要らぬ善意を押し付けて他者を無自覚に貶めるって人としてどうなのかなぁ?」
いつもの調子でミルコが軽口を言い、レグルスがグチグチ言いながら渋々ミルコに着いていく。そんな少しだけ歪で、でもほんの少しの僅かな絆が芽生えていた2人の関係はたった今無に帰した。小さな王は自分の世界に閉じ篭り、その世界には自分しか居ない。もはやレグルスからしてみればミルコは一泡吹かせたいムカつく相手ではなくただの有象無象に成り下がった
永久的な『獅子の心臓』の使用……それは物理的にも精神的にも他者から切り離されてしまう事を意味する
「はぁ? グチグチ言ってないでとっとと降りて来いって! それとも降ろして欲しいのかー?」
彼女からは悪意を感じない、だから気づけない。尚も煽るような笑みを浮かべて軽口を叩くミルコだがレグルスには届かない。だが今まで権利を侵害され続けた事だけは根に持つ彼女は宙に浮いたままゆっくりと腕を横に振るい──────全てを貫く不可視の刃がミルコに迫り来る
「──ッ!? っぶねぇ!! レグルス! 今は辞めろって! 今度いくらでも付き合うから!」
当然のようにミルコも回避する。ここに来てようやく何かがおかしい事に気づく。職場体験中ミルコと生活を共にしていた彼女はグチグチ言う事はいくらでもあったが殺す気で攻撃を放ってくる事は訓練の時以外なかった。一応時と場は理解していたはずだが……
そもそも不可解だ、この更地と無傷のレグルス。そして今も尚浮遊しているその状況が。難しい事を考えるのは辞めた。何があったとしても、とりあえず蹴っ飛ばして話をつける。それがミルコのやり方だ。空に佇むレグルスにすらその脚を使えば容易に届く
「よっこら──────せ──い!!」
「そんなに死にたいわけ? ──────ごっ、ふぉお!」
空中すらミルコのテリトリーだ。学ぶ事を知らずいつまでも真空波を飛ばし続けるレグルスの攻撃を余裕を持って回避しその背中に蹴りを叩き込む。地面に叩き落とされるレグルスと何事もなく着地するミルコ。力関係だけは何も変わっていないみたいだ
「お……お前ぇぇえ……!」
レグルスは無傷、汚れすらついていない。だがその顔は地に伏せられた事による怒りと、完全になって尚この兎に蹴られっぱなしの恥辱により真っ赤に染まっていた。もはや先程のような全能感に酔いしれながらペラペラと中身のない事を並べていた彼女はいない。最初からレグルスの心に余裕なんて存在しないのだ
「お前が今まで何してきたかとか、この場で何があったとか、聞きたい事は沢山ある。でも今じゃない、私はお前の保護者としてお前を無事に連れて帰らなきゃいけない。それに……例えお前がやっちゃいけない事してても、それでも私はお前の味方でいるよ。過ごした時間は短いけど、私は結構お前の事気に入ってんだぜ?」
ミルコはおちゃらけた雰囲気を変え真面目な顔で話を始める。彼女は暴露されたレグルスの罪の話を少しだけ聞いていた、そしてこの場の状況、戦闘許可すら出さずにレグルスを戦わせてしまった責任。色々言いたい事や聞きたい事は沢山あった。でもそれは今じゃない
今はただ──────彼女を1人にしてはいけない。そう思った
「はぁ? 何だよ急に気色悪いんですけど? 何1人で喋って気持ち良くなっちゃってる訳? 別にお前が何言おうが基本的にはどうだっていいんだけど、私を話題に出しておいて私との会話を成立させないってそれ人としてどうなんだよ? 私はお前の優越感を満たす為の道具じゃないんですけど? そもそも物事に対する認識がさぁ、根本的にズレてるんだよねえ君達って。やっちゃいけない事ってなんだよ? 私のやる事にやっちゃいけない事なんてない。そんな事を決める権利は無いし許す人間も居ないからだ。私じゃなく君達がズレた常識持ってる事に気づけよ。正しいのはいつだって私だ、世界がそう証明してるんだよ」
レグルス自身、これ以上あまり時間をかける訳にも行かない。ここは特別周辺の被害が大きい、直にヒーローや警察が駆け付けてくる。別にその程度取るに足らないが今は自身の喜悦を邪魔されたくなかった。人と関わってもストレスが溜まるだけだ、非生産的な行いだ
「うーん……来てくれたとこ悪いんだけど、そろそろ時間なんだよね。12時を過ぎると魔法が解けるお姫様じゃないけど、舞踏会を抜け出す権利は誰にだってあるものだ。この場にいたってつまらない余興に参加させられるだけだからね。それじゃ、運命が私達を再び巡り合わせるその時までお別れだねミルコ。あっ忘れてた、そういえば────────『私に一発入れるくらいしてみろよ』だったっけ?」
──────ただ爪先で地面に軽く触れた瞬間ミルコへ無法すぎる絶対不変の力が一切の躊躇なく迫る、それは彼女の優れた危機察知能力があったとしても完全回避は不可能……だが今まで何度も死線を潜り抜けてきた経験、その都度研ぎ澄まされてきた直感が身体を無意識に動かしていた
「これでおあいこだね、それじゃ」
音もなく一瞬で消えたレグルス……彼女も彼女なりにミルコを心のどこかで認めていたのかもしれない。人の心にズカズカ入り込んできて、思いやりの欠片もなく蹴ってくる自由奔放な兎と過ごす時間は何故か……一人の時より悪くなかった──────
「──────ッ……がッ……あぁ!? ちっ……くしょう、やれば……できんじゃねえかよッたくよぉ……あぁ、いっ……たいな……!」
脚を失う事だけは何とか避けられたが、それでも大部分が削られ激痛に悶えるミルコ。明らかな敵対行動を取られた、もはやこの社会は彼女をヴィランとして扱う他ない。それでもミルコはもう一度彼女と共に道を歩みたいと思った。他者からの優しさを受け入れられない一人ぼっちの少女をヒーローとして救ってみせると心に決めて────いやそんな事よりまずは……
「次会ったらマジで蹴る!!!!」
次ヒーロー(雄英)サイドの話になりそうです。
強欲攻略戦時系列→動画投稿の直後レグルス達を襲撃→レグルス死亡→ミルコによりマスキュラー撃破→緑谷現着→敵連合撤退→轟焦凍爆豪勝己現着→レグルスとミルコの別れ←今ココ!
原作との相違点→保須が無事。ステインも無事。飯田君と渋谷が無事じゃない。マスキュラーがこの時点で逮捕。敵連合がコンプレス、マグネ、スピナーを除いてメンバーが揃っている
小さな王が目覚めた後にオールマイトが来てたら場合によってはもっと被害出てたと思います