強欲少女のヒーローアカデミア   作:pastel

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23話『未来へ、足掻け』

『強欲攻略戦』から数日後──────雄英教師、警察、プロヒーローが一堂に会していた。話題は他でもない渋谷事件、そしてその中心に存在し現在行方不明となっているレグルスについて

 

「レグルス・コルニアス……15歳、雄英に編入し職場体験先でヴィランから襲撃を受ける。これだけ聞けば被害者ですが、そうもいかない。彼女は今年雄英に受験し不合格、その約1ヶ月後雄英襲撃事件に姿を現した。当時彼女は散歩中敵連合に攫われた、そう供述していましたがそれを証明する証拠も、否定する証拠もありません」

 

 塚内が資料を配りながらレグルスについて1から振り返っていく。そもそも彼女は結果的にUSJでヒーローになっただけで、過程は完全にヴィラン側なのだ。勿論当時それについて雄英側も調査していた。だが彼女がヴィラン側の人間である証拠は出てこなかった

 

 捕まえたチンピラ共も同じくレグルスについては語らない。状況証拠、そして彼女がヒーロー志望だった事実、それを持って雄英に招き入れる判断をした。もし連合が送ってきた内通者だったとして、人選があまりにお粗末すぎる……真剣に考えれば、USJで襲撃を受けた時点で既に内通者が潜んでいる可能性の方が高い

 

 わざわざ大規模な事件を起こしてまでレグルスを内通者として潜ませるというのはリスクとリターンが釣り合って無さすぎると考えた

 

「この件の真相……あの娘は攫われたんじゃなくて一度勧誘され、それを承諾したあと、あの場で裏切るって事をしたんだろうな。あの動画の中でご丁寧に記されてた日付がそれを証明してる」

 

「概ね正しいだろうね。彼女の殺人が発端だろう、それを見た連合が彼女を勧誘、承諾、襲撃本番で反逆。恐らく損得を考えない所を見るに連合の意思関係なく彼女が自由にやったって感じだね。そしてそれすら連合のブレーンにとっては想定の範囲内だった」

 

 レグルスをいつでも社会的に殺せる手段を持っていながら、今の今まで泳がせていた。彼女が犯した罪の痕跡を消し、被害者、そしてヒーロー志望として雄英に潜らせる。その後彼女が世に出始めたタイミングで……雄英諸共地に落とす。その陰湿で邪悪なやり方にオールマイトは心当たりがあった

 

 ────彼女がヴィランとして協力してもしなくても良し。ヒーローを目指していた15の少女が非情な現実に打ちのめされヴィランとなってしまう。ありきたりだがヒーローは絶対に心を痛めてしまうストーリーだ。あいつはその筆頭。彼女を見た憎たらしい宿敵の顔を想像するだけでたまらない……! 

 

 そんな考え方をする巨悪に、心当たりが……

 

「よもや……生きていたとでもいうのか……!」

 

 もし、彼女が奴の術中に今も尚嵌っているならそれは大問題だ。これからも渋谷事件のような大規模災害が彼女のいる所で起こるとするならば我々はまた後手に回る事になるだろう。もはや私を狙って行動してくれた方が何倍も動きやすかったものを……! 

 

「彼女が殺害したと思われる人間は既に判明しています。動画に記された日付から丁度行方不明になっている小悪党。正当防衛……にしてはやりすぎですが、会話の内容を見るに彼女は一応被害者だったんでしょう。一旦この事は置いておきます。本題はここから……」

 

「ヴィランとして去った彼女をどうするか……ですね」

 

 小悪党が先に手を出した結果の殺害。これは彼らの立場上許せる事ではないが人としては理解できる範囲だ。何ならその場にいてやれなかった我々ヒーローの責任でもある、そう彼らは考えた

 

 敵連合に襲撃され止むを得ず交戦、これもミルコがその場に居なかった為もはや仕方ない。問題ではあるが一旦割り切らなければいけない。本当に問題なのは彼女が交戦の末大規模災害を引き起こし一般人とミルコにも直接危害を加えたという点

 

「判明してるだけでも一般人数名、そしてこの場にいるミルコにも危害を加えた。この点はヒーローとしても警察としても人間としても無視していい事じゃありません」

 

「癇癪を起こした末個性を使い脚を切断……酷いな」

 

 もはやここだけは擁護のしようがない。悪いのは10割レグルスだ、もうここだけは何をやっても覆せない。──────そもそも何故彼女を雄英に匿っておいて職場体験に行かせたのか? なんて過ぎたことを話す人間はこの場にはいない。そんな質問先程の会見で散々やったのだ

 

「もはや我々は彼女をヴィランとして扱うしかない、その上で未成年の……未来ある彼女をどうするか。救うにせよ捕まえるにせよ、戦闘は避けられないでしょう」

 

「個性『獅子の心臓』時間を止める……その間心臓が止まる? 珍しい個性なんてもんじゃないなこれは、でも戦闘にすらならないんじゃないか? あまりにもピーキー過ぎて数で囲えば何も出来ないだろう。抹消もあるしな」

 

「いや……俺の抹消は個性因子を一時的に止めるだけ、あいつが個性使って時間止めてたら個性因子すら影響を受けなくなる。あれはそういう個性だ」

 

 彼らは『小さな王』を知らない。だが『獅子の心臓』の情報は持っている……そして、『獅子の心臓』だけなら不可解すぎる事がいくつもある事を知っている。彼女と最後に会ったミルコが話を進めていく

 

「確かに心臓が止まればオールマイトくらい心臓強くても10秒とかが限界だろうよ、でもあいつは何分も個性使って飛んでた。おかしいだろ?」

 

「あの事件の最中彼女の身に何かが起きた、その結果個性の制限が消えたんです。そう考えるのが自然、じゃあ何が起きたのか? その答えがこれです」

 

 言葉と共にボードへ貼られたのは──────胸部のレントゲン写真。貼られたものだけでも10人以上の心臓に……”ナニカ”が纏わりついていた

 

「これは、渋谷事件被害者達のレントゲン写真です。医者曰くこれは病気でも何でもない、本当に何なのか分からないらしい。ただ心臓の鼓動に合わせて動いてるだけの得体の知れない物体……それが渋谷事件終了後レントゲン検査を受けた全員に纏わりついていた。偶然とは思えない、ラグドールのサーチで確認した所これはレグルス・コルニアスの心臓である事が判明しています」

 

「おいおい突拍子もない話になってきたなこれは、つまりあれか? 個性使うと心臓止まるから他の人に自分の心臓くっつけてデメリット無視しますって? 発想がクレイジー過ぎだろ!?」

 

 ご最もである

 

「待て……言いたい事諸々飲み込んで話を進めるが、マイクの言う通りだとして、それはつまり個性2つ持ちって事になるのか?」

 

「元から持っていて隠していたか、あの事件の最中に発現……もしくは、”与えられた”」

 

 偶然とは思えない事象に疑惑が生まれ、それは殆ど確信に変わる。やはり……敵連合、そしてレグルス。この2つの裏で糸を引いている者が……オール・フォー・ワンが……いる

 

「分かった、OK冷静になろう。レグルスが個性2つ持ちで、他人の心臓に自分の心臓くっつけてる。てことはだ、その心臓全部どうにかしないと『獅子の心臓』を永遠に使ってるレグルスは倒せないって事になる。対策はあるのか?」

 

「正直、この……擬似心臓と表しましょう。これがどの範囲まで及んでるかまだ分かっていません、その条件も。ですが、時間をかける訳にはいきません。このまま彼女を放置すれば放置する程、取り返しのつかない事になる。対策はいくつか考えていますがまずは──────死穢八斎會へ協力を申し込みます。そしてサーチで擬似心臓の付与範囲を特定、もしそれが最悪の結果を出せば切り札として──────アメリカへ交渉を行います」

 

 ***

 

 轟焦凍、そしてビッグ3は彼女の住んでいた……というか彼女だけが住んでいた学生寮に足を運んでいた。焦凍が既に警察の捜査が終わっていた寮に入る許可を相澤から貰った所、ミリオ達も同じ事を考えていたらしい。

 

 初めてヒーロー科の先輩と話すのがこんな状況になったからだなんて、複雑な顔をしている焦凍と不安の表情を一切見せないミリオ達。天喰だけは頭を抱えて後ろを歩いているが

 

「いやぁ! 轟君、レグルスさんと仲良かったんだね! 彼女学校では殆ど俺達といたからクラスに仲良い人がいて安心したんだよね!」

 

「先輩……凄いですね、こんな状況でもそんなに明るくなれて。俺は、あの日からずっと頭の中ぐちゃぐちゃで……何したらいいかも分からなくなって、それで……」

 

「ちょいちょい! その気持ちは俺達も同じだ。でもね、そんな気持ちだからこそ明るく笑わないといけないんだ! ほら、彼女が帰ってきた時そんな顔してたらいつも以上にグチグチ言われちゃうぜ?」

 

「そうそう! それは私の権利の侵害だよー! って言われちゃうよ? いつもみたいに過ごして、帰ってきたら出迎えてあげるの。そしたらいっぱいお話聞かせてもらうんだ! ミルコとの職場体験何したのー? って」

 

「ちょっとデリカシーが欠けすぎてるかもしれないよ波動さん……!」

 

 ヒーローとしての経験値が違う先輩達の余裕に少しだけ心が楽になる焦凍。彼はレグルスの事について相談できる人間がいなかった。家族はあの日からレグルスの名はタブーになったし、クラスメイトもレグルスと特別仲の良い人間はいなかった為相談するにしてもハードルが高かった

 

 ***

 

 学生寮の中に入った一行が目にしたのは、ふてぶてしい顔でソファーを独占している猫──────彼女の愛猫「パック」

 

 かつて心臓の寄生先が欲しい、でも伴侶は『レグルス』と同じ事になるから絶対に嫌。そうして探した末見つかったのが捨て猫だった……どこかの世界で終焉の獣として存在する精霊……に似ているだけの捨て猫に何故か目を惹かれてしまった結果、唯一彼女の心の拠り所として一緒に暮らしていく事になる

 

 独りの捨て猫に同情したのか、それとも「わざわざ捨て猫を拾って世話してあげる程私は慈悲深くて思いやりに溢れてて余裕がある」と誰が見ている訳でもないのにアピールする為かは分からないが。そこには本当に、少しだけ、それでも確かな良心があったのかもしれない

 

 それくらい、彼女は心を許していた。1人を望み、他者からの思いやりを見下しと判断し拒絶する彼女は誰よりも1人で居る事に耐えられなかった。いっそあのままパックと2人でダラダラと生きていた方が何倍も幸せだっただろう

 

「猫だ! もしかしてこの子がレグルスさんが話してた飼い猫かな? 確か名前はパック! そうだよね!」

 

「前に長々と聞かされた事がある……確かエキドナがどうだとか精霊がどうだとか話してた覚えが……セクメトとかミネルヴァとかサテ……うっ、頭が……!」

 

「精霊? この猫、精霊だったのか?」

 

「天然かよ轟君! ここまでピュアなのも珍しいんだよね!」

 

 寝ているパックに話しかけるミリオ、彼女の戯言を所々覚えてる天喰。彼は律儀にレグルスの話をちゃんと聞いていた。そして無言で撫でる波動と天然な轟。愛護動物の力は凄いものだ

 

「テレビでもつけようか! 自室には入るなって言われてるし。それに……今彼女が世間でどう思われてるのか、俺達はちゃんと知らないといけないからね」

 

 ニュース番組がやっている時間帯だ、どこの局も話題は渋谷事件の事で持ち切り。そして当然レグルスや雄英に関しての報道も──────もはや顔も名前も流出している彼女に遠慮などマスコミはしなかった。丁度アナウンサーの街頭インタビューが始まる

 

 インタビューを受けているのは2人の男女

 

 

 

 

《Q.レグルス・コルニアスについてどう思いますか?》

 

《彼女は……強欲の名に相応しい乙女────デス!! 愛を! 愛を与えられ! 愛を与え! 愛を拒み愛を欲すその姿!! まさに強欲! 尽きぬ欲望がその身に与えられた愛! 素晴らしい! 素晴らしいのデス! 実に実に実にぃぃいいい!!! あぁああぁあ!! 強欲とは! 尽きぬ欲望! そして尽きることのない愛! それを持って寵愛に応えるのデス!! もはや試練など彼女には不要! 勤勉に生きるのは愛へ背かない為の行動!! 私はァ!! 彼女を心より憐れみ、そして尊敬するのデス!! 愛! 愛愛愛愛愛愛愛愛!! あぁああぁあ私もより勤勉に生きなければぁ愛にぃ報いなければぁあぁああぁあ!! ──────脳が、震える》

 

《素晴らしい! 素晴らしいわ貴方! そう愛! 何よりも大事なのは愛! 愛があれば幸せになれる。愛し愛される。私と貴方のように! 人と人は分かり合える、思い合い、通じ合うことができるのです。優しさに優しさを、慈しみに慈しみを、愛には愛を以て! そうすることにこそ、幸せがあるのです。ていうか何なんですか貴女? 急に人の夫に話しかけて何様なんだよこの泥棒猫が!! 焼くぞお前ぇ! あぁごめんなさい汚い言葉遣いしてごめんなさい、でもそのくらい私はこの人を愛してるの。ありがとう、ごめんね?》

 

「……チャンネル間違えちゃったみたいなんだよね!」

 

 別のニュース番組に切り替える。そこに映っていたのは先日レグルスに危害を加えられた一般人だった

 

《あの女はヤバいんだよ! 話が通じない、人の形をしたバケモノだ!! 見ろよこの足を!! あいつの癇癪1つでこんなになっちまったんだよ! あいつを捕まえてくれヒーロー! あの魔女を!!》

 

「……魔女か。夏兄もそう言ってた、レグルスは魔女だって」

 

「もう世間は彼女をヴィランとしか見てない。正直今まで彼女と関わりがあった俺達ですら最初は複雑な気持ちになったよ。でも俺達には彼女を信じることができる理由がある、だから帰りを待つ」

 

「いつになく饒舌だね天喰君。でも言う通りかも、あの娘すっごくお喋りだし怒りっぽいけど……きっと寂しいんだと思う。だって昼休みとかいつもレグルスさんから来てくれるんだよ!」

 

「彼女が居ると賑やかでいいんだよね! 俺のギャグで笑ってくれた事ないけど!!」

 

 強欲な少女は自分の心の奥底にある本当に欲しいものから目を逸らした結果、それは手を伸ばせばいつでも掴める位置にあると気づけなかった。その伸ばした手を彼らが取ってくれるかどうか、言うまでもない。

 

 

 

 

《──────強欲の魔女を捕まえてくれ!!》

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