強欲少女のヒーローアカデミア   作:pastel

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24話『その強欲止まる事なく』

 ──────『強欲の魔女レグルス』

 

 誰が最初に呼び出したか、輝かしいヒーロー志望の少女という印象はもはや完全に引き剥がされヴィランとして世間に扱われているレグルスを人はそう呼び、その名はどんどん浸透していった

 

 ヒーローや雄英への誹謗中傷もそこそこに、ヒーロー殺しに賛同する者、ヒーロー殺しとは真反対のレグルスを非難する者が増えた。とはいえネット上で云々言われる程度に収まっているのはヒーロー殺しも強欲の魔女も渋谷事件を最後に姿を見せていない事が大きい

 

 裏側の人間も一夜にして大規模な事件を引き起こした敵連合に賛同する者が増えつつある。敵連合の自由さ、今の社会を壊しに行くその姿勢。その影響は着々とヒーロー社会を蝕みつつあった

 

 緑谷出久は飯田天哉の事が気がかりだった。ヒーロー殺しに兄を傷つけられ、その上世間ではヒーロー殺しを支持する声が増えつつある。彼が職場体験でヒーロー殺しの目撃があった保須へ行ったのもその不安を加速させる──────もし飯田君すら、レグルスさんのようになってしまったら……

 

 失礼で、不謹慎な事を考えている自覚はある。それでも緑谷にとって飯田は友達で、彼が苦しみを抱え込んで仕舞わないよう友達として何とかしてあげたかった。あの場にいたのに何も出来ず、クラスメイトがヴィランになってしまったのを知った時のあの気持ちを、もう二度と味わってなるものかと──────勇気を出し、席に座って熱心に本を読んでいる飯田へ話しかけに行く緑谷

 

「飯田君、その……その本何?」

 

 ひよってしまった……! 職場体験前にも「何かあったら頼ってくれ」なんて言ったのにまた言ったら流石にしつこいと思われるよな……でも弱音は簡単に吐けるものじゃない、それはよく分かってる。余計なお世話はヒーローの本質……! 会話の流れで自然に切り出そう! 

 

「緑谷君、この本を見た事ないのか? これは今世間で話題のベストセラー作家『災いの箱』先生の新作! 『白き鯨と剣の鬼』だ! 簡単なあらすじとしては主人公が妻を亡くし、その仇討ちとして剣を振り腕を磨き続け数十年越しにその復讐を果たそうとする……という物でな。童話のようなストーリーなんだが、これが中々どうして面白い! 主人公の執念、剣鬼とまで呼ばれる迄に剣を振り続け復讐の為に生きるその姿の勇ましさ! そして、妻の仇討ちとして復讐に身を焦がし続けた代償……残った家族を蔑ろにしてしまう主人公の悲哀。今の僕には、とても他人事とは思えなかった」

 

「もしかして……飯田君はヒーロー殺しに……」

 

「あぁ、保須へ向かったのはそんな邪な考えからだ。だが結局何の成果も得られず、戻ってきてみればクラスメイトがヴィランとして扱われ、ヒーロー殺しに賛同する者は増えた。この物語を読んで気づいたんだ、復讐は結局他の何でもなく自分の為に行う物だと。それは……ヒーローとして程遠い行いだという事。完全に割り切れたわけではないが、それでも俺は他の為にヒーローになる。でなければ兄の名を継ぐ資格はない」

 

 物語といえど復讐に身を焦がし続けた者を俯瞰して見る事ができた飯田は自らが犯そうとした過ちに気づけたらしい。もしヒーロー殺しが目の前に現れたとしてその想いを維持できるのか、恨みに呑まれてしまうのかは分からないが。職場体験前とは幾分か雰囲気が柔らかくなっていた事に緑谷は安堵した

 

「そっか、飯田君が平気そうで安心したよ」

 

「あぁ……職場体験前、緑谷君も麗日君も俺を心配してくれていたんだろう? もう大丈夫さ! 心機一転ヒーローとしての道をこれからも歩んでいくとも! それよりも緑谷君、君も『災いの箱』先生の作品を読んでみるといい! 興味のあるものがあれば俺が貸し出し──────」

 

 もはや僕から見ても『オタク』になってしまった飯田君のマシンガントークに相槌を打つので精一杯だ。傍から見た僕の分析ってこんな感じなのか……!? 

 

「そういえば緑谷君は職場体験、どんな事をしたんだ?」

 

「あ、僕は個性の使い方を勉強して只管実践訓練って感じかな。まだ完全に慣れたわけじゃないけど、前みたいな自傷のリスクは解消できた! 最終日は渋谷に行って──────」

 

 ハッとなり口を閉じる緑谷。思わず口を滑らせてしまった。今最もA組内でデリケートな話題、それは渋谷事件についてだ。クラスメイトが渦中にいてヴィランにまでなってしまったのだから当たり前だが……

 

「緑谷、渋谷いたのか!?」

 

「あぁいや救助活動に少し手を貸した程度で……」

 

「マジ? 大変だっただろ、人の量えぐかったぞ!」

 

 今思えば、A組の人間はレグルスを知っているようで、何も知らない。突然現れたと思えばヒーロー科に入り体育祭優勝をもぎ取った謎の少女。それが蓋を開けてみれば人を殺し、その事に罪悪感など覚えず悦に浸る凶人だったのだから

 

 それでも話題に出さないよう配慮しているのはこのクラスにも彼女と親しかった人が居たから。それを無視して野次馬のように話をする程彼らはデリカシーに欠けていない

 

 彼女を救えなかったと嘆く者、彼女の帰りを待ち続ける者、彼女に勝ち逃げされたと怒る者。三者三様だがその想いは結局少数で、世間……そしてこのクラスの大多数は既に「クラスメイトに人殺しが居たなんて気持ち悪い」という想いが心のどこかに生まれていた

 

 ***

 

 死穢八斎會若頭「治崎廻」個性:オーバーホール

 

 対象の分解・再構築が可能……『強欲の魔女捕縛作戦』に欠かせないピース。塚内は出来る限り早く死穢八斎會と取引を結びたかったが相手は指定ヴィラン団体……所謂ヴィラン予備軍。表では大人しくしているが裏では黒い噂が沢山流れているような連中だ

 

 戦闘も視野に入れながら準備を進め、同時に擬似心臓の付与範囲についての資料を目に通していく。毎日記録を更新していく擬似心臓の数に頭を抱えたくなるが時間を無駄には出来ない

 

 彼女がいつどこで何をするか、こちらは全く予測できない。だが時間をかければかける程取り返しのつかない事態になる事は予測できる。未来ある彼女にこれ以上罪を重ねさせない為にも、守るべき市民達の為にも今すぐに彼女を捕まえる必要が──────

 

「塚内警部!」

 

「急になんだ? 礼儀を忘れる程重要な案件か?」

 

 皮肉を重ねながらノックもせずに入ってきた警官に要件を問う塚内。その内容は徹夜した彼の脳を覚醒させるには充分すぎる話で──────

 

「死穢八斎會が──────」

 

「──────何!?」

 

 あまりにもタイムリー過ぎる絶望の知らせ。渋谷事件からまだ一週間も経っていないのに、こんなにも早く行動を起こされるとは思ってもいなかった。だがそれは根拠があった訳ではなくただの希望論。時間をかければ終わる、だが時間が必要だった、それなのに……! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔女……!! お前は世界の癌だ……!」

 

「よくそんな身体で喋れるね。そんなに生への執着があるの? それとも負け犬の遠吠えってやつかな? 敗者の鳴き声は勝者の耳に残るような心地良い物じゃないとダメって習わなかった? 憎しみや恨みを抱いたって意味がない、敗けて尚相手に煩わしい想いをさせる権利は敗者にはないんだからね。病人だの癌だの散々言ってくれたけど、そうやって他者との違いを『病気』と称して自分の正当性を主張する君の姿勢、あまりに憐れで笑っちゃうよ。病気なのは君だ、だから社会から弾かれてこんな所にいる。で、こ〜んな容易く粉々にされちゃうくらい小さな世界で自分は正しいとか思い込んじゃってる憐れな憐れな下等生物だよねえ? 君は何もかも勘違いして自分は正しいとか思い込んで生きてきたみたいだけど、いい加減現実見ろよ。結局君は他者を貶めて自我を奪って自分の欲望を満たす為に行動した結果その欲深さが身を滅ぼしたんだ。今に満足すればいいものを満ち足りていない人間は理解できない、教えたって学ばない奴らしかいない。そうして盛大な犠牲を残した末何一つ成し遂げられなかった愚図が……君なんだよ!」

 

 死穢八斎會──────『強欲の魔女』により壊滅




次回この話の裏側、死穢八斎會VSレグルス
何故死穢八斎會と争う事になったのか、そこから書いていきます

『災いの箱』今話題の人気作家。その姿を見た者は
一人としていない
もし見たとしてそれは『見間違え』ですから
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