強欲少女のヒーローアカデミア   作:pastel

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26話『強欲と剛翼』

 指定ヴィラン団体を単身で壊滅させたレグルスはとある男に与えられた部屋で子育てに励んで───いや別に励んではいない。ただ同じ時間を過ごし気に障る事があれば愚痴愚痴言いながら一応改善させるという事を繰り返していた。人としての生活など『獅子の心臓』を永久的に使用している彼女には必要ないのだが、何故か彼女は壊理から離れなかった

 

 例え小さな子供でもレグルスはそこに価値を感じない。老若男女誰であろうと等しく無価値、有象無象、それはある意味平等な扱いではある。では何故、擬似心臓すらない壊理を捨てずにいるのか……女性としての母性? ありえない……人としての良心? ありえない……独りの少女に同情した? それが最もありえない──────ただ、空っぽな心を満たす為に過ぎない

 

『私は例え無償であろうと身寄りのない子供を甲斐甲斐しく世話してあげれる程の余裕がある人間なんだ。心が広くて、思い遣りに溢れてる。自分の事で手一杯の中でも子供を優先する慈悲深さを持っている』なんて誰が見ている訳でもないのにアピールして、その虚栄心を満たしていた

 

「お姉さん、リンゴ美味しい……!」

 

「そうかそれは良かったよ。でもね、君はその幸せを当然とするんじゃなく、しっかりと周りへの感謝を忘れてはいけないよ? 君が食べてるリンゴを育てた人、そのリンゴを君に届けたあの男、そのリンゴを君に届けるよう頼んだ私への感謝を忘れてはいけない。でも私は恩着せがましい連中とは違うから感謝や謝礼を求めるなんて事はしない、だからこそ無償の慈悲として成り立つんだ。でも相手が求めてるかどうかは関係なく、恩を受けたら感謝の一言は最低限送る。それが人として一番大切な礼儀であり常識だ。『ありがとう』その一言さえあれば良い」

 

「うん……ありがとう!」

 

 ──────だから、独りでいようとするな。私を独りにしようとするな。お前は私を否定した、私を独りにしようとした。そうやって独りの私を嗤おうとしたんだろ! そんなの許すと思ったのか? 許されるとでも思ったのかよ悪童が……まぁ、いいよ、そうさ、あのペストマスクの男に唆されたみたいだし情状酌量の余地はある。過去は消えない、だけど未来はある。その財産を守る為に私は独りじゃない事を許容してやろう

 

『小さな王』その性質は元と比べ相当な変化を遂げている。未だ彼女しか全貌を理解していないそれの一部分を語るのであれば──────心臓は一度消えれば二度とその対象は宿主にならないという事

 

 彼女にとって一度自分を否定した人間はそこにどんな理由があろうと再び私財を分け与える価値なんてないのだ。そんな事は当たり前、王に背いた人間に救いなど与えられるはずもない。それでも壊理から離れないのは……過去に心臓を付与できなかったパックを捨てなかったのは──────私を独りにする事が何よりも許せないから

 

「そろそろ鳥さん来る時間だよ」

 

「はぁ、憂鬱だよ。施しを受けてるのは君なのに、なんで私があの男の相手をしないといけないのかな? 全く、こんなくだらない事が保護者としての責任ってやつなのか? まぁ安心してくれよ、私はこの程度の事で文句を垂れたり、その責任を君に押し付ける程器の小さな人間じゃない」

 

 彼女達が度々言葉にする「あの男」「鳥さん」

 その正体は──────

 

「やっほ〜レグルスちゃん、壊理ちゃん、元気してる?」

 

 ベランダに現れた翼を生やした男……

 No.3ヒーロー『ホークス』

 

 彼とレグルス達が出会ったのは今から一週間程前、死穢八斎會を壊滅させた後行く宛てもなく彷徨っていた彼女達を発見したホークスは誰よりも早く手を回し、彼女達を監視下へ置くことに成功した

 

 公安の訓練で身に付けた交渉術など使うまでもなくレグルスの逆鱗に触れないよう甘い言葉と適度な距離感で接し、今に至る。先日の事件から指名手配されている彼女を監視下に置いたはいいが、拘束している訳では無い。獅子の尾を踏めば最後、今度はこちらへ敵意が向くことになる。それ故ホークスは何よりもレグルス達を優先する事が義務付けられていた

 

 今の所は上手くやっているようだが、いつ地雷を踏んでもおかしくない状況でも仮面を崩さないホークスは流石の一言

 

「げ、元気……だよ! リンゴ、沢山ありがとう……!」

 

「あのさあ、人の家に上がる以上は玄関から来るべきでしょ、しかも許可も無し。君も一応大人で、プロヒーロー名乗るなら子供への手本になるよう礼儀ってものを見せるべきなんじゃないの? 初心忘るべからずなんて古臭い事言う訳じゃないけどさ、そういう人として最低限の礼儀というか常識ってどんな立場でも無視していいものじゃないと思うんだけど? 君の軽率な行動のせいで壊理がベランダから人の家に入るようになったらどう責任取ってくれるわけ? いや責任の取りようがないよね、そうなったら人として終わりだもの。それってある意味壊理の権利の侵害だよね?」

 

「ははっごめんごめん! でも大丈夫でしょ壊理ちゃんは。俺なんかよりずっとしっかりしてるもんね〜」

 

(こうして見ると、少し口煩いだけで年頃の女の子って感じなんだけどな……人として誰しもが持ってる自己顕示欲を抱えすぎている。そしてその欲を満たす為に全てを捩じ伏せられる個性を持ってしまった……でも、肥大化した自己顕示欲と自己愛の裏には他者への劣等感が見え隠れしてる)

 

 ホークスがここ最近レグルスと関わって理解したのは、彼女が子供……いや、有り体に言えば悲しい人間であるという事

 

 誰よりも自己愛が強いのに自尊心が脆く、表面上だけ取り繕ってるせいで他者と対等な関係が築けず孤独でいる。そんな精神的に未熟な彼女に全てを思い通りに動かせる個性が備わってしまったせいで理想と現実の乖離に苦しむ事無く自己中心的な言動がまかり通り、周りは誰も彼女を理解して傍にいてやれない

 

(いや、傍に居ようとしても彼女自身がそれを拒絶してしまう。自己肯定感が低いのにプライドが高いせいで相手からの善意に劣等感を抱いてしまう──────なんて悲しい娘なんだろうか)

 

 親がいなかった影響か、根元からそうなっているのかは分からない。ただ彼女を理解した後では──────助けたい、そう思ってしまった。だが……

 

(そんなヒーローとして、人としての想いすら彼女からすれば自分を見下しているとしか思えないんだろう。今、この状況が彼女達にとっては1番幸せなのかもしれない──────でも、社会がそれを許さない)

 

 この生活も彼女達を保護する為ではなく、あくまで計画への準備段階でしかない。可能な限り情報を引き出し、尚且つ手綱を握る。それがホークスに与えられた任務──────

 

「あのさぁ、何辛気臭い顔して黄昏てるの? いくら自分に自信があるとはいえ時と場を考えずに酔うのは辞めてくれない? 見てて恥ずかしいし、周りの事を考えちゃいないよね? 人といるんだからもう少し楽しそうに振る舞うとかそういう気遣いをしろよ、協調性が無いにも程がある。そういう何か悩みがあるんだけど察して〜みたいな雰囲気出す奴嫌いなんだよ私は。そういう他者の意見で簡単に解決する悩み程度に時間を割かれるってどう考えても他者の権利の侵害だよね?」

 

「ん、ごめんね! いや〜仕事柄時間があればつい考え込んじゃうタチでね、悩みなんてないよ。それよりもさ──────」

 

そんな悲しい性質の彼女だが、それでも癇癪で人を傷つけるその攻撃性や倫理観の無さは無視できない。それでも本当に、大衆の為に彼女と戦う必要はあるのか……その疑問は、しまっておくしか無かった

 

 ***

 

「相澤先生、仮免受けさせてください」

 

「轟……お前どうした? まさか……」

 

 放課後の職員室、轟と相澤は顔を合わせていた

 

「親父が言ってました『強欲の魔女を捕らえる』って……レグルスの事ですよね? 俺も──────」

 

「駄目だ。何を言い出すかと思えば……少し落ち着け、彼奴に関してはお偉いさん達で話を進めてる。それに、もしお前を参加させれるとして、まだお前は仮免に受かれる程の実力を備えちゃいない」

 

 轟焦凍は焦っていた。自分を救ってくれた彼女が世間にヴィランとして非難され、彼女自身もそれを肯定するかのように被害を出していってる事実に

 

 言葉には常に行動が伴う。あの時レグルスに命を救われヒーローとしての在り方を知ったからこそ、レグルスの言葉に救われた。もし、それが全部虚飾だったとしたら、今の自分は一体何なのか……

 

 先輩達と心の内を話し合ってもまだ整理はつかず、ただ彼女に会って話したかった、確かめたかった、その気持ちが少々先走ってしまいこうして行動に出ている

 

「でも、俺はあいつに……! 何も、してやれ……なかったんです。USJで救われた事も、左を使うきっかけを貰った事も、あの日以来親父が少し丸くなって、兄も親父に少し心を許すようになって、色んなもの貰ったのに、俺は何もしてやれてない……!!」

 

 本当にすべき事は何なのか、ただ帰りを待つ事なのか……彼女を助けに行くべきなのか……本当に彼女は助けを求めているのか、そんな考えばかりで気持ちがいっぱいいっぱいな轟に、相澤は冷静な態度で対応する

 

「お前の気持ちは分かるよ。その上で、今仮免を取りに行かせるのは賛成できない。レグルスが目的なら尚更だ───俺の責任なんだよ、彼奴が今あんな事になってるのは。確かに彼奴の中にはヴィランになりうるような攻撃性や危険な部分があったのかもしれない。だがそれをどうにかする為に教育するのが俺の役目だった」

 

 レグルスがヴィランになった事で真っ先に責任を追求されたのは相澤だった。ヒーロー科の担任でありながら生徒がヴィランになるなど、監督不行き届け所ではない。だが辞める訳には行かなかった……レグルスの事に対する責任と、残った生徒達を見捨てる事はイコールではない

 

「合理主義を語っておいて、楽観的な思考で職場体験に送り出した俺の判断のせいだ……いや、それ以前に俺はあいつの力や精神を見誤ってた。だが、たらればの話をするのは非合理的だ。俺には俺の、お前にはお前の出来る事をやるんだ。中間試験を終え、次は期末、そして林間合宿だ。そこで各々個性を鍛え仮免に挑む。大丈夫だ、レグルスは必ず連れ戻してみせる」

 

とは言うものの、彼女がヒーロー科として再び返り咲くというのは不可能だろう。だが敵連合の悪意が彼女に向いてる以上は、ヒーロー側の保護下に置かなければならない

 

 ***

 

「───治崎廻の容態は?」

 

「眠っているだけです。あの状態からよく……」

 

「流石は、俺の生徒だな───物間」

 

「ご期待に添えて何よりです、ブラド先生」

 

 B組担任ブラドキング、担当医、ヒーロー科B組物間寧人……そして、ベッドで眠っている五体満足の治崎。物間の個性『コピー』により『オーバーホール』をコピーし再構築を行った結果無事治療に成功していた

 

 治崎の個性を利用するのが決まった日から医療や人体の知識を隅から隅まで叩き込まされた物間は過労で死にそうになっていたのだが、それでも人を救った事でその努力は報われ、嬉しさを隠しきれていない

 

 実は治崎はレグルスが去った後、腹部に刺さった瓦礫と傷だけ辛うじて分解・再構築する事で一命を取り留めていた。だが手足が無く出血も酷かった為本当に一命を取り留めていただけ。一度分解する必要があるオーバーホールをいきなり人に使う訳にも行かない為、段階を踏み今日治療を試みていた

 

「物間、このままミルコの足も治療してもらう。そして……いや、今日はそれで終わりにしよう。続きは治崎が目覚めてからで遅くはない。奴が……こちらに協力するかどうかは未知数だがな」





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