強欲少女のヒーローアカデミア 作:pastel
「壊理の個性? 角見たら分かるだろ、ただの異形系だ。そんな言葉にしなくても理解できるような事すらわざわざ言わないと理解できないの? 残念な頭してるんだね君。羽だけじゃなくて脳まで鳥なのかな? 別に君の知能が鳥並しかない事についてはどうでもいいんだけど、そのせいで私が自分の時間を割かなきゃいけないのはおかしいよね? 果たして君の疑問にそれ程の価値があるのか、それとも私の時間に価値が無いのか。今度は分かるだろ? 二択だ。いや二つに一つだ、正解は君の疑問には毛ほどの価値も無ければ私の時間は何よりも重宝すべき貴重な物。だからこれ以上、君の相手してる時間ないんだよね。前も言ったでしょ? 私は被害者なんだよ、あの敵連合とかいうだっさい名前の連中に復讐する権利がある被害者なんだ。他の為に行う復讐なんて無意味さ、ただ自分が勝手したいだけなのを立派な理由つけて正当性を主張してるだけ、虚飾に塗れてるよね? でも自分の為に行う復讐は意味がある。だって自分の権利を侵害されて泣き寝入りなんて馬鹿な話だもの。誰しもが持つ復讐の権利は、自分の為に振るうことのみ許される。えーっと、何だっけ? 頬を殴られたなら片方の頬を差し出して……みたいな戯言ほざいてる奴もいるみたいだけど、どう考えたっておかしい話だ。例えば君達ヒーローは他者の代わりに権利を行使してヴィランと戦ってるわけだけど、それこそが一番の罪だとは思わないの? 別に君達が代わりを務めた所で被害者が報われる訳じゃない、過去に権利を侵害された事実は残り続け、復讐の機会すら君達によって奪われてる。被害者にとっては何よりも憎いヴィランも、ヒーローにとっては自分の功績を光らせる一つの道具でしかないよね。ほんと笑わせてくれるよ、それでいて真の意味で闇を払える訳じゃない。オールマイトとか代表例さ、彼奴は平和の象徴として君臨してるけどそれは表向きに安心を与えてるだけでその光の裏にある闇には一切触れてない。彼奴はただ乱暴に力を振りかざして取るに足らないクズ共を粛清していった末、市民に『ヒーローが来てくれるから大丈夫』なんて何の根拠もない希望を抱かせた一番の罪人だよ。彼奴が暴れる度、裏で抑圧されたクズ共が力を蓄えてる。だから敵連合なんてクズの権化が出来上がったんだ。で、その被害が蚊帳の外にいた私に来たんだよ、これで私に復讐を許さないというのなら一週間経てば日本列島は海に沈んでると思ってくれ。そもそも敵連合だけじゃなくこの社会全体に復讐する権利が私にはある事を理解した上で話してくれない? 知能の差があり過ぎて君との会話は神経を使うから嫌なんだ、建設的な話なんて何一つ出来やしない。そもそも認識がズレてる事に気づいてくれない? 私は何も悪くないんだよ。悪いのは私の権利を侵害した敵連合と、私を否定したヤクザと、市民へ虚飾に塗れた希望を与えるだけ与えて何もしないお前らのせいだろ? 私は何も望んじゃいないし争いだって好まない。いつも周りが奪いに来るんだ、なのにやり返せば罪だって? そんな事を決める権利はお前らには無い。市民への被害が出た? 知るかよ危機感の足りてない市民とお前らの怠慢が招いた結果だろ、そうやって何でもかんでも罪を擦り付けるなんて人としてどうかしてるよ! 私という存在を、私の権利を、私っていう人間そのものを無視した行いだよね? それはいくら無欲で平和主義で誰よりも慈悲深い私だろうと許せないなぁ、権利の侵害だ」
端的に纏めれば『この生活に飽きたからそろそろ敵連合を潰しに行く』といったところか。ホークスはただ壊理の個性について聞いただけなのに何故か地雷を踏みその話は二転三転、結局権利の侵害に行き着くレグルスの癇癪に頭を悩ませていた
だが冗談と受け流す訳にも行かない。『日本を海に沈める』これは比喩で言ってるわけでも何でもなく、本当にやろうと思えばいつでもやれる。彼女の個性はそれを可能にするだけの力を秘めている
今の敵連合とレグルス、どちらの方が危険で面倒か……何て考えなくても分かる。彼女の厄介な所は子供の癇癪で人を殺しておいてそこに悪意が無いこと……彼女は無自覚な悪意で人を傷つけている。関わってみれば分かるが、彼女はどこまでも人間らしい性格をしている。自分にも通ずる部分があるからこそ、どこか憎めない……ヒーローとして、公安の一員としてこんな感情は捨てるべきだが───
「ちょ、ちょっと待ってくれない? ほら敵連合が今どこにいるかも分かってないしさ、判明したら俺から伝えるから今はまだ壊理ちゃんの傍に居て───」
彼女の優先順位は壊理>自分ではない。自分>その他だ
「あのさぁ、話聞いてなかったの? 私の時間は貴重なものだって言ったよね? そうやって私を自分の言いなりにして悦に浸ろうとしてるんだろ冗談じゃない!! この期に及んで、君達が私に対して何か制限をかけれる程の力や価値があるとでも思ってるの? 勘違いするな、私が今までここに居てやったのは他者を優先できる程の慈悲と、余裕が、あるから、だ! でもそれは私の意志ありきのもので、君達が利用できるものではないんだよ! 本当に人の話を聞かない馬鹿が……私は一番嫌いなんだよ!!」
「───っぶな!!」
癇癪を抑える気など微塵もなく、感情のままに中指を弾き壁を粉砕する。勿論当たっていれば死んでいるだろう、デコピン一つで人の命なんて簡単に奪えてしまうその力の一番面倒な所は対処のしようがない所だ。物理法則を無視した攻撃は止めようがない
「おっと……うっかり手が滑った。悪いね、避けてくれて本当に助かったよ。君のせいで要らぬ罪を背負う所だった───この権能……個性は制御が難しくてさ、自分の事となればある程度は勝手が効くんだけど周りになるとそうもいかない。でもこれが罪になるかどうかで言ったらハッキリとは言えないよね? 私が手を滑らせた先に君がいたって事は殺したとして避けなかった君の罪になる。じゃあ私が全て悪いって訳でもないよね? まぁそれでも謝罪はするよ。私は自分の罪を認めれない下賎な人間とは違うからさ」
気分次第で誰にでも矛を向ける躾のなっていない子供に誰も抵抗できない無法の力が備わった怪物。それがレグルスである
極端な自己中心性を秘めているレグルスは自分が既に完成された個であると信じて疑わない
だからこそ他者と対等な関係を築けないし、努力や成長も否定する。自分の中だけで完結してくれるならそれでもいいのだが、それに加えて全てを思い通りにしないと気が済まない支配欲も秘めているのが本当にどうしようも無い。彼女の強欲が物欲だったならどれ程マシだったか───
彼女を一時的に保護下へ置いたとして、こうしてまた爆発する事は目に見えてる。とはいえ捕まえたとして彼女を拘束なんて出来るはずもない。最悪の場合───殺すとして、その手段も……いや、三択なら恐らく殺害が最も難易度は低いだろう。最悪なドングリの背比べだが
「おっきい音した……大丈夫?」
「いやいや全然大丈夫! 何でもないよ壊理ちゃん」
どちらにせよ、敵連合が本格的に動き出す前にヒーロー陣営はレグルスを何とかするしかない。もしオール・フォー・ワンも含んだ敵連合がレグルスと戦った場合、漁夫の利なんてする暇もなく都市が日本地図から消え、場合によっては日本が世界地図から消えるだろう
そして……問題はレグルスだけでなく、壊理の事もある。死穢八斎會組長の娘である彼女は所々で闇が見える。手足に巻かれていた包帯、個性や死穢八斎會の事を聞くと精神が不安定になるなど……
治崎は頑なに詳しい事を話そうとしないが
ある程度の事は察せる。
───『あれはこの世の理を壊す個性だ』
(ただの異形系なわけ……ないよな)
「何でもないって何だよ、君の言葉が発端だろ? 子供を利用して有耶無耶にしようとするってそれ人としてどうなんだよ、一体全体どんな教育受けて育ってきたわけ? 私がここまで譲歩して君の話に付き合ってやってるのにその思いやりを軽んじるってさ、流石にダメでしょ。人として大切な部分が欠けてるとしか思えないよ。さっきからずっと言ってるだろ? 君みたいな奴に付き合ってられる程私は暇じゃないんだってば……そもそもこんな生活も馬鹿らしいよ。これじゃ夫婦ごっこならぬ親子ごっこだ。私が1番嫌いなあの男と、まるで同じじゃないか! 反吐が出るよ! 今すぐここを出ていく! やってられるかこんな事!!」
ネチネチとホークスに喋り続けてると思ったら急に自己嫌悪と共に首を締め出し悶絶している。こんな変人、人間が制御できるものでは無い
何もかも空っぽな彼女が生まれた時から今の今まで持っている強い想い───『レグルス・コルニアス』のようにはなりたくない。これだけは何があっても譲れないのだ。だから伴侶は作りたくないし、独りでいたい。レグルスの名を授かり、強欲の権能を授かり、彼に似た容姿も授かった。だが私は私で彼じゃない、故に受け入れる
彼女は『レグルス』である事に誇りを持ち『レグルス』である事に劣等感を抱き続けた。『剣聖』を超えたと豪語していても、ここだけは依然として変わらない。そして変わるはずもない、人の本質なんて変わる訳がない───永久的に時間を止めてしまえば、身体だけでなく精神も成長を止める。『小さな王』を発動させた時点で彼女はその器を満たした
「出ていっちゃうの……? 私も、私も一緒に───」
「はぁ? あのさぁ、私は親子ごっこは御免だって言ったんだよ聞こえなかったのかなぁ!? それとも、聞いた上で私の邪魔をしてやろうって腹積もりじゃないだろうな!? 私を否定して、それでいて否定した私から無償の慈悲を受け取っておいてやる事がそれなのか!? 人としてどうかしてんじゃないのかよ! えぇ!?」
───だから子供だろうと権利の侵害は許さない
「───壊理ちゃん危ないッッ!!」
明確に壊理を狙って中指を弾いたレグルスに対してホークスは剛翼の正確な操作技術により壊理を救い自分の元へ寄せる。ただ信頼できる人から離れたくない壊理の想いすらレグルスからすれば好意とは受け取れない。被害妄想を勝手に膨らませ癇癪を起こす、もはや彼女の器もホークスの我慢も限界である
正直このまま子供に絆されてくれれば、そんな打算的な思いもあった。生活の様子を見るに壊理もレグルスも互いを受け入れてるように思えたが……違った。
レグルスの世界には、レグルスしかいない
もはや───手段は選べない
「分かった、敵連合の目撃が最後に会った所へ案内する。だから壊理ちゃんに手は出さないでくれないか」
「そう、それでいいんだよ。それが謙虚な態度ってやつだよね? 君も、私と時間を共に過ごす事でいくらか成長出来たらしい。喜ばしい事だね、最も……それは君が満ち足りていない何よりの証拠だけどさ。ていうか壊理に手を出すなって言ったの? それは心外だな、私が子供に手を上げるような人間だと思ったってことだろ? それはちょっとさぁ、人に対して失礼過ぎるんじゃないの? 私と、壊理と、それなりに過ごしてきたんだったらある程度の人物像というかさ、どんな人間かーくらいは分かるでしょ。人を見る目が良くないと正義なんて振りかざせないもの。つまり君にはその資格がないって事になるよね?」
もう、未成年の少女という立場は理由にならない。彼女が『魔女』と呼ばれる所以が、相対して初めて分かった。人間らしい性格? そんな可愛いもんじゃない……人格破綻者……人の皮を被った悪魔……なのにどこまでも、悲しい人間だ──────
「ご、めんな───さい……ごめん、なさい……私の、せいで、皆……嫌な気持ちに……!」
「大丈夫だよ、壊理ちゃんは悪くない。俺がちょっと無神経な事言っちゃったせいだから! 大丈夫だよ、泣かないで───(角が、大きくなってる? 感情で何かが増幅してるのか……?)」
「あのさぁ、そうやって周りの事考えずに泣くの辞めてくれない? ハッキリ言って迷惑なんだよね。子供の涙って何故か知らないけど人の感情を動かす程価値のあるものって認識が世間ではあるんだよ。でさぁ、それの忌むべき所は子供が泣いてる状況をどうにかするんじゃなく泣いた原因をどうにかする文化にある。今に当て嵌めてみればまるで私が君を泣かせたみたいな状況になるよね? となると私が悪人扱いされるんだよ、こーんな腐った世界じゃさ。そんな事実ありはしないのにね? そこの鳥も認めてるみたいだけど、悪いのは全部その男だ。私は悪くない、突然泣き出した君もどうかと思うけど大元を辿るのであればその鳥が全部悪いんだ。ほんと最低だよ君、子供泣かせておいて何ヒーロー面してる訳? そんなにもプロヒーローって肩書きが大事なの? その感性は私には理解不能だね。あまりにも惨めすぎて、理解したいとすら思えないよ」
会議は何度も行われた。彼女をどうするのか……救うのか、捕まえるのか───殺すのか
常識が通用する相手じゃないんだ、彼女は───
「───準備を、お願い……します」
「準備? あー要らないよ。私は無欲故、持ち物が少なくてね。残った私財も分け与えてしまったから手ぶらなんだよ。あるとすれば君に取り寄せてもらったこの服くらいかな。何だか凄く身体に馴染むんだよねこれ。あんまりこういったものに価値を感じた事は無いんだけどさ……何処かあの男が着ていたものに似ている気がしないでもないけど、まぁ服に罪はないからね、あの騎士服といい男物ばかりなのは気に食わないけどさ」
***
「共闘なんて何年ぶりだろうね……
改めて、我々に力を貸してくれてありがとう」
「よしてくれよ。
『絶対不変』の存在に、大勢で立ち向かったとて勝ち目は無い。やるなら少数精鋭、そして最強と最強を重ね、ぶつける
───国の最高戦力を持って悪の芽を摘む
『強欲の魔女討伐作戦』──────開始